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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
182/706

182 リスティアがこだわる理由

 便箋に綴られたウォルトの綺麗な文字を目にする。


 微かに香る花の香りに、読む前から目に涙が浮かぶ。手紙を読むのが怖い。『君とは親友でもなんでもない』と書かれていたらきっと立ち直れない。なんてバカなことをしたんだろう…とずっと悔やみ続ける。


 でも、読まなきゃ…。目を擦って少しずつ読み進めていく。




 読み終えて大粒の涙が流れた。


「うっ…うぅ~!うぅ~っ!」


 ウォルトは…了承してくれた。『ボクの魔法でよければ喜んで』と書かれていた。

『無理しなくていい。ボクはどんな形でも構わないし、いつどこでだっていい。その時にボクなりの祝福をさせてもらう。だから気にしなくていいんだ』と私を気遣う言葉まで…。

 

「うぅ~…!うぅ~!ううぅ~…!」


 涙が溢れて止まらない。我が儘を軽蔑するどころか気遣う言葉をくれた。きっとウォルトは困ったはず。誰でもわかる簡単なことなのに…。


 私は手紙を握りしめてしばらく泣き続けた。





「あぁ~!スッキリしたぁ!…よしっ!気合い入れなきゃ!」


 泣くだけ泣いて心機一転。次の行動に出る。とりあえず真っ赤に腫れた自分の瞼に精霊の加護を使う。こんなとき便利だね。

 

「偉そうなこと言っといて見損なったと思われたくないから!」


 自分に言い聞かせるよう口に出して部屋を飛び出した。真っ先に訪れたのは騎士団の控室。


「たのもぉ~!」


 ちょうど休憩中みたいで、騎士達は汗を拭ったり着替えたりとゆったりしている。まさかの訪問にザワつく騎士達。面倒事だと感じたのか警戒している空気。私は何度も騎士団に迷惑かけてるから仕方ないけど!


「休憩中にゴメンね!ボバンはいるかな?」

「しょ、少々お待ちくださいっ!!」


 呼びに向かってくれて、しばらくしてボバンが現れた。


「王女様。急用でしょうか?」

「急にゴメンね!ちょっと協力してほしいの!アイリスとテラ……あとダナンも!」

「なんなりと申し付け下さい」


 ボバンに内容を伝えると笑みを浮かべた。他の騎士達は話してる内容が気になってるっぽいけど、面倒事だと思っているのか見事にスルーしてる。やきもきさせてゴメンね。


「事情は理解致しました」

「協力してくれる?」

「異存などあろうはずがありません。他の者には私から伝えておきますのでご安心下さい」


 さすがボバン!


「お願いね!嫌なら気にせず断っていいって言っておいて!じゃあね!」

「承知しました」


 パタパタと音を響かせて次の場所へ向かう。私なりに走るよぉ~!!

 次に訪れたのは王太子妃であるウィリナさんの部屋。ちょうどレイさんと仲良くお茶してた。


「ウィリナさん!レイさん!お願いがあるの!」

「王女様!?どうされましたか?」

「そんなに息を切らして!なにか急用ですか!?」


 事情を説明して協力を願った。


「そういうことならお任せ下さい。私も微力ながら協力させて頂きます」

「私もです!」

「ありがとう!」


 ウィリナさんの部屋をあとにして最後の場所へと向かう。辿り着いたのは王妃であるお母様の部屋。今は執務中でお父様はいないはず。息を整えて部屋に入る。


「お母様!リスティアです!」

「入っていいわよ」


 部屋に入ると、スヤスヤ眠るジニアスを抱えたお母様の元に歩み寄る。


「急にどうしたの?」

「お母様にお願いしたいことがあるの」


 真剣な表情で告げると、お母様はフッと表情を緩めた。


「言ってみなさい」

「あのね…」


 事情を説明すると、静かに耳を傾けてくれた。


「お母様にも協力してほしいの」

「事情は理解したわ。いくつか訊いてもいいかしら」

「うん」

「素性のしれない者を国賓が集まる場所に招く危険性は理解しているのね?」

「もちろん。でも、絶対に危険なことはしないと言い切れる」

「それは貴女の主観よ。王族なら客観的にモノを見なさい。物事に絶対はない」

「その通りだけど…」


 私の言葉を聞いたお母様は厳しく言い放つ。私に考えがあることは理解してくれている。そんなことできるはずがないとわかっていながら、無理を承知でお願いしていることも。


「その人を表立たせるタメに呼ぶつもりではないのね?売名行為は許されないわ」

「そんなつもりじゃない。本人も嫌がる。ただジニアス達に見てもらいたいの」

「見せるだけなら王族や国賓の前でなくてもいいはず。なぜ誕生祝宴にこだわるの?なにか理由があるんでしょう?」


 言いたくないけど……言わなきゃダメだよね…。


「覚えてるから」

「なにを…?」

「私は……自分の誕生祝宴を鮮明に覚えてる」

「そんなっ…!」


 お母様を真っ直ぐに見つめると、動揺が見てとれた。私は誕生したばかりの赤子だったから、そんなはずはない。赤子の時の記憶なんて残されているはずが……と思ってるよね。


「私の誕生祝宴の年、カネルラは大変だったよね。静かな誕生祝宴だったけど凄く嬉しかったんだよ」


 お母様は驚きながらも静かに聞いてくれる。


「でも…私は祝宴で国賓に言われたことをハッキリ覚えてる。お父様やお母様達を……カネルラを揶揄されたことを!」

「リスティア…」



 ★



 リスティアの告白に、ルイーナは言葉を紡げない。


 遡ること10年前。リスティアが誕生した年のカネルラは、何十年かに一度の飢饉や天災などの重なる不幸に見舞われて混乱していた。

 王族も国民も余裕などなかったのに、ナイデル様は『リスティアの誕生祝宴だけは』と尽力して来賓を呼んで可能な限りもてなした。けれど…数名の国賓から非難のような言葉を浴びせられた。


「ナイデル国王よ。国が大変なときに大層なことだな」

「国も継げぬ娘のためにか。異常ではないのか?」

「世界が滅びる前の宴会のようだ」


 ナイデル様は、先代国王の崩御から数年しか経たない若き国王だったのもあるだろう。完全に揶揄されたのだ。


「娘をダシに援助が欲しくて呼んだのか?」

「金はやらんが嫁にはもらってやるぞ」


 心ない言葉を今も覚えている。そんなつもりは毛頭ないナイデル様や私達は、腸が煮えくりかえる想いだったけれど、どうにか穏便に治めた。

 なんと言われようと祝宴を開いたことに後悔はなかったし、生活が困窮する中でなにより国民が開催を後押ししてくれたから。

 私を含めた当時の出席者は、そのことを他の誰にも告げたことはなく、万が一にもリスティアの耳に入らぬよう箝口令を敷いていた。

 本人には「いい誕生祝宴だった」と言い続けてきたのに…この子は全てを知っていたというの…?



 ★



 言いたくはなかった。口にしたくない嫌な思い出だから。


「誤解しないでほしいの。私の時は仕方なかった。カネルラが大変な中で祝宴を開いてくれたお父様やお母様、国民の気持ちが本当に嬉しかった。御披露目された時に聞こえてた皆の声は全部覚えてる。一生忘れない」


「リスティア様!万歳!」

「おめでとう!元気に育ってくれよ!」

「笑っておくれ!」


 厳しい生活で疲れていたはずなのに、祝福してくれた国民の声は今でも私の中に在る。そして…カネルラを揶揄した国賓の言葉も同じく私の中に在るんだ!


「私は…10歳の私が最も感動したモノをジニアス達に見せてあげたい。絶対記憶に残るから。一生に一度の祝宴に…美しく楽しい記憶を残してあげたいの。私の親友はただ協力してくれるだけ」


 それ以外の邪念なんてない。そのタメに私はお父様と交渉する。しばらく俯いていたお母様が顔を上げた。


「わかったわ。私も協力する」

「お母様、ありがとう。ゴメンね」

「私の台詞よ。こっちに来なさい」


 近寄って寄り添うと頭を優しく撫でてくれる。


「いい祝宴だったなんて…噓を吐いて悪かったわ…」

「謝らないで。精一杯の祝宴を開いてくれて感謝してるし嬉しかった。でもね…」

「なに?」

「初めて口にするけど、私はあの時カネルラを揶揄した国にだけは絶対に嫁がないよ。意地でもね」

「私もナイデル様も認めない。心配いらないわ」


 わかってくれて嬉しい。


「もしそうなっても問題はないんだけどね!」

「なぜ?」

「直ぐに王族を失脚させて私が女王になるから!その時はカネルラの第1友好国だね!」

「冗談に聞こえないわ」

「冗談じゃないからね。お姉ちゃんはやると言ったらやるよぉ~。その時は仲良くしようね!ジニアス♪」

「…ふふっ。怖いお姉ちゃんね」


 安らかに眠るジニアスの顔を見つめた。

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