18 ウォルトの過去
暇なら読んでみて下さい。
( ^-^)_旦~
初めての殴り合いを終え、目を覚ましたマードックと一緒に街へと向かうことに決めた。
「おい!まだか?!さっさと準備しろ!」
イライラしているは。昔から短気でせっかちなのは変わってない。
「急かすな。やることがあるんだ」
いない間にアニカ達が訪れてもいいように書き置きしておく。2人には合い鍵を渡してあるから安心だ。少し前までなら有り得なかった自分の行動に思わず顔が綻ぶ。
「じゃあ、行くか」
「さっきから言ってんだろ!行くぞっ!」
住み家を出て森へ入ると、脇目も振らず街へと向かう。道中でマードックが冗談交じりに言ってきた。
「サマラに会っても泣くんじゃねぇぞ」
「ボクは笑うタメに行くんだ」
★
コイツは昔っから変わらねぇ。人間どもに言わせりゃ『優しい』ってヤツらしい。
サマラの番になって、横に立ってんのはコイツのはずだった。少なくとも俺ん中じゃ。
ガキの頃からサマラはコイツに惚れてた。賢いくせに昔っから鈍い、サマラの気持ちに気付いてなかったかもしれねぇ。
認めたかねぇがサマラは別嬪だ。沢山の野郎共に惚れられて、そっからコイツに嫌がらせだ。獣人らしくねぇ見た目や貧弱さ、性格が気に入らねぇと爪弾いた。俺らの親もだ。
なにも言っちゃいねぇのに、「貧弱な獣人がサマラの恋人になれるか」なんてつまんねぇ嫌がらせや殴って痛めつけた。タダでさえやられてんのに、追い打ちをかけて酷ぇ状態だった。
獣人の世界じゃ強さが正義だ。コイツは獣人として弱過ぎる。あり得ねぇほど優しかろうが、どんだけ賢かろうがそんなもんで自分の身は守れねぇ。
俺が四六時中守ってやれるワケじゃねぇし、家族でもねぇのにそんな義理もねぇ。助けてやったところでプライドが傷付く。獣人の男ってのはそんなもんだ。
俺が冒険者になって忙しくなってきた頃、コイツは突然街から姿を消した。
サマラはしばらく泣き続けて、コイツをぶっ殺すことばっか考えてたな。けど、サマラは「私に関わったせいでウォルトが犠牲になった」とテメェを責めた。
生きてんのがわかったのは、行方を眩まして3年は過ぎてたか。冒険者の新入りが「森で獣人に助けられた。自称魔法使いに。可笑しいだろ?」なんて、突拍子もねぇことほざきやがって。
獣人が魔法を使うなんざ、あり得ねぇホラ話。世界中探してもどこにもいやしねぇ。バカバカしいぜと鼻で笑って……コイツならあり得ると思った。
獣人は複雑なことを覚えらんねぇ。そもそも魔力も持ってねぇが、魔法の術式ってのを覚えるなんてできっこねぇから魔法を使えねぇ。世界中の獣人が知ってる。
ただ、コイツは計算とやらが得意で、人間でもお手上げっつう問題まで解いてやがった。そんなとこも嫌われた理由だ。
騙されたつもりで森に行ってみりゃ、変なローブを着た見覚えのある獣人がいやがった。見つけた瞬間にぶん殴ると決めてたってのに、笑いながら歓迎しやがって拍子抜けしたのを覚えてる。そっから、姿を消した経緯やその後の生活について聞いた。
『ボクは死ぬタメに森に来て、死に損なって今も生きてる。身体も精神も限界だったのが姿を消した理由だ。獣人に生まれた以上、慣例を完全に無視できない。ボクといることでサマラにも迷惑をかけたくなかった』
なにが言いたかったのか未だにわからねぇ。気に入らねぇなら徹底的にぶん殴る。できねぇ奴の気持ちなんぞわかりたくもねぇ。
ただ、サマラのことを口にすんのはやめた。で、たまに顔を見にいくことにした。サマラにゃ内緒でな。
「お前が街に行くのはいつぶりだ?」
「3年ぶりくらいか。最後に行ったのは再会する前だ」
「なにしに来たんだよ」
「調味料を買いに来た。すぐに帰ったけど」
「冷たい野郎だぜ。顔ぐらい見せりゃいいのによ」
「家が変わってないとは限らないし、お前に会いたいと思わなかった。ボクは死んだと思ってたろ?」
「まぁな」
会話しながら森を抜けて、しばらく進むと遠くに街が見えてきた。俺やサマラが住み、コイツも住んだことがある【フクーベ】の街。
ウォルトは目を細めて鼻を動かした。
「懐かしい。フクーベの匂いだ」
「もうわかんのかよ。お前の鼻はどうなってんだ」
見えてる街はまだ相当小せぇ。いくら風下っつっても俺はなにも匂わねぇ。
「色んな匂いでごった返してるだろ。集中して嗅いだらわかる。昔より匂いの種類が増えたな」
「わかるワケねぇだろ」
数年前の匂いを覚えてて、種類まで判別できる獣人なんているワケねぇ。けど、コイツは違う。五感の鋭さでコイツより上の獣人を知らねぇ。ガキだった頃から特に鼻と耳の感覚がぶっ飛んでた。
…っつうか、ヘラヘラ笑ってっけどわかってんのか?死ぬつもりでバックレたフクーベにいい思い出なんぞねぇだろ。
連れて来たことに罪悪感がなくはねぇ。「自分が会いたくなった」っつってっけど、サマラに会って話したところで…。
それでも俺は会わせてぇ。コイツの現状を知ってんのは俺だけだ。コイツがいなくなってから、どっちも嫌な思いしかしてねぇんだろ。
ケジメつけさせてやらぁ。
街の入口に着いてウォルトは門を見上げる。
「今さら言うのもなんだけどよ、後悔すんよ」
「大丈夫だ。ボクがサマラに会いたい。さっきも言ったけど、ボクは笑うタメにフクーベに来たんだ」
元々俺が言い出したこった。男らしくねぇな。
「行くぞ」
「あぁ」
俺達はフクーベの街に足を踏み入れた。
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