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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
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179 カリーと話そう

 ボクの部屋に入り、ドアを閉めるとカリーに向かって詠唱した。


『念話』


 ご機嫌な様子だったカリーは驚いた表情を見せる。やっぱり予想通りなのかな?


『カリー。聞こえるかい?』


 反応を見ていると、目を瞑ってブルル…と息を吐いた。


『…やっぱり貴方は凄いわ』


 カリーは『念話』を返してくれた。


『初めて話せたね。もしかして魔力が戻ったのかい?』

『そうよ。貴方のかけてくれた『可視化』や『念話』を使えるくらいにはね』

『凄いね』


 カリーが魔力を使って『可視化』の効果を引き延ばしてるんじゃないかと思ったけど、実際は『可視化』の魔法を使ってるなんて凄い。


『それならそうと言ってくれたらよかったのに』

『そうは言っても、普通『念話』を使えるなんて思わないわ』

『ボクの師匠は魔法使いなら誰でもできると言ってたよ』


 だからカリーも使えるんじゃないかと思ったワケで。


『貴方の師匠が非常識なのよ。騎馬の私が言うのもなんだけど、『念話』は結構高度な魔法よ。それより…私が魔法を使ったり話したりするのに驚かないのね?』

『いろんな馬種がいるよね。普通なんじゃないか?ボクの友達には人語を話す銀狼もいるし』


 ボクは「いろんな獣人がいるんですよね?」というアニカの言葉に救われてから、どんなことでも『いろんな〇〇がいるから』と不思議に思わなくなった。カリーは呆れたような表情。


『貴方ってホントに常識外れね。銀狼の友人なんて普通いないわよ』

『騎馬なのに人語を解して、銀狼も知ってるカリーのほうが常識外れな気がするけど』

『ふふっ。そんなことは断じてないわ』


 あと、カリーの話し方はボクの想像と違った。もっと軽い感じの喋りだと勘違いしてた。実は落ち着いたお姉さん風。


『とりあえず理由がわかってよかった。ダナンさんになんて説明しようかな?』

『ダナンには「よく見ると効果が薄まってたからまた薬を使った」って言っておいて。それで信じるから』

『やっぱり知られたくないんだね』

『ダナンは理解してくれると思うけど、まだ教えたくないの』

『わかった。言わないよ』

『ありがとう!貴方ってやっぱりいい男!』

『大袈裟だよ』


 カリーは頬擦りしてくる。ふわふわしてて気持ちいい。ゆっくり顔を撫でてあげた。なぜ魔法を使えることを隠したがるのか知らないけれど、カリーの意志を尊重しよう。ボクも魔法を使えることを隠してるし、他人をとやかく言える立場じゃない。


『私に『念話』は極力使わないようにね。あくまで普通の騎馬として扱ってほしいの』

『わかった。どうしても訊きたいことがあるときだけにするよ』


 そして、ふと気付く。


『あっ!カリーもダナンさんと同じで、大先輩だった。話し方が失礼すぎましたか?』


 カリーはジト目になる。


『なに言ってるの…?今までみたいに普通に話して。年寄り扱いは許さないわよ…』

『そんなこと思ってないよ』

『私は貴方を友人だと思ってるからね』

『ボクもだよ。これからもよろしく』


 意思の疎通ができるようになって絆が強まったボクらは、笑顔でダナンさんの元に戻る。



 静かに待っていたダナンさんに、カリーの言った通りに説明すると、「そうでしたか。いやはや助かりました」と納得してくれた。

 さすがは相棒。性格をよく知ってる。カリーは誇らしげで鼻息が荒い。一安心といったところで、ダナンさんが続けた。


「今日ウォルト殿に会いに来たのには、それ以外にも理由があるのです」

「なんでしょう?」

「リスティア様より、ウォルト殿へ宛てた手紙を預かっております」

「リスティアから?」


 ダナンさんは、兜と甲冑の隙間から手紙を取り出す。便利な甲冑だなぁ。


「こちらを」

「はい」


 手紙を受け取ると魔法封蝋がされている。リスティアからの手紙なので、迷いなく『加護の力』を模倣した魔力を流して開封した。



 ★



 様子を見ていたダナンは思わず声を漏らす。


「むぅ…。ウォルト殿は本当に…」

「どうかしましたか?」

「いえ…。なんでもありませぬ」


 事前にリスティア様から告げられていた。「加護の力で魔法封蝋するけど、ウォルトは直ぐ開けると思うよ!」と。

 満面の笑みを浮かべておられたが、さすがに無理だと思っていた。魔法封蝋の仕組みは知っている。王族しか使えないと云われている力を、いかにウォルト殿といえども使えるはずがない。

 だが、あっという間に開封してしまった。信じられないことを軽々とこなす御仁。しかも、なんの疑問も持たず実行したことに呆れにも似た感情を抱く。

 私の気持ちはどこ吹く風で、ウォルト殿はゆっくり手紙に目を通している。時に優しい笑みをこぼしながら。読み終えたウォルト殿は、便箋を丁寧に折り畳んで封筒に戻した。


 そして、しばらく思案している。私は見たことのない表情。頭をグルグルと回して「むぅ~ん…」と考え込んでいる。珍しく尻尾を動かしたり、耳も忙しく動いている。

 この仕草には見覚えがあった。ボバン殿に手合わせを申し込まれたときだ。あのときは悩んでいる様子だったので、おそらく今回もそうなのだろう。黙っていようとも考えたが、やはり気になって尋ねてみる。


「手紙の内容は、お聞きしてもよいことでしたか?」

「構いません」

「王女様は…なんと?」

「王妃ルイーナ様と王太子妃ウィリナ様、レイ様が無事に御出産なされたんですね?」

「その通りです」


 皆様が安産で王城関係者は胸をなで下ろした。


「御披露目の行事を催す予定があると書かれてます」

「近々王都で開催される予定であると伺っております。騎士団も護衛として参加致しますので」


 国民の要望に応える形で、一種のお祭りのように開催される予定だと伺った。生前も王族の誕生祭が盛大に行われていたのは記憶にある。


「その後、王城で王族と国内外の貴賓、そして近しい者だけでの祝宴が開かれるそうです」

「それは初耳ですな」


 ウォルト殿は少し躊躇いながら口を開いた。


「ボクに参加してほしいみたいです」

「は?」


 間の抜けた声を出してしまう。


「手紙には、リスティアの新たな家族に会って魔法で祝福してもらえないかと書かれていました。もし来てくれるのなら自分の力でどうにかして参加できるようにすると…」


 なんと…。


「それは……いかにリスティア様と云えども、無理ではないかと…。国賓もいらっしゃる厳格な場に一般の者を参加させるなど通常考えられないことです」

「ボクもそう思います」

「ただし、リスティア様が普通の王女様であれば…ですが」


 今の王都で暮らし始めてまだ数ヶ月だが、リスティア様という人物について概ね理解しているつもりだ。

 当代の王女リスティア様は、おそらくカネルラの歴史上類を見ない傑物。私の知るクライン王政時代にも、それ以前にもリスティア様に並ぶ才を持つ者は存在しなかったと思料する。

 言動の節々に感じる常人には考えも及ばない知性。時折見せる大人顔負けの気品など数え上げればきりがない。天賦の才と人々を魅了し万人に愛される才能は、カネルラ初の女王にすら成り得ると感じる。


 兄であるストリアル様、アグレオ様も素晴らしい好漢であり、王の器であることは重々承知している。異存などあろうはずもない。

 だが、リスティア様の前では全ての者が等しく霞んでしまう。それほどの器。神に愛され女王に成るべくして誕生された稀有な存在。


 そんなリスティア様であっても、現状で手紙に書いてあることを実行するのは不可能に思える。


「リスティア様ならば…」

「どうにかするかもしれませんね」


 ウォルト殿と顔を見合わせて苦笑した。

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