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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
178/706

178 お久しぶりです

 朝から畑仕事や狩りをこなして、充実した1日を過ごした夜。夕食を終え、まったりお茶を飲んでいたところで耳がピクリと反応する。


 久しぶりに聞く音がした。音の主を迎えようと玄関へ向かう。徐々に大きくなる音は軽快に鳴り響く。元気そうだ。


 そして…。


「コラッ!いい加減にせいっ!言うことをきかんか!また同じことを繰り返す気か!バカも~ん!」


 ドッカ~ン!バキバキッ!


 懐かしい声とともに住み家の玄関ドアはぶち破られた。久しぶりに顔を突き合わせるのはもちろんダナンさんとカリー。


「ヒヒーン!☆♡♪」

「久しぶりだね。カリー」


 背に跨がるダナンさんを振り落とすと、駆け寄って顔を擦りつけてくる。


「ヒヒーン!ヒヒヒ~ン!ヒ~ン!!」

「あはは!くすぐったいよ。元気そうで良かった」


 モフモフの背中を撫でてあげると、気持ちよさそうに震えて尻尾を振ってくれる。カリーは可愛いな。

 背後からガチャガチャと音を立ててダナンさんが歩み寄る。甲冑だから表情はないけど、動きからして怒っているような…。


「フンッ!」


 ダナンさんは、おもむろに槍の穂先でカリーの尻をプスッ!と突いた。


「ヒッヒン!?」


 バッと身を翻して向き直るカリー。ダナンさんは『闘気』を纏っている。


「お前という奴はっ…!出発前にあれほどウォルト殿に迷惑をかけるなと言ったろう!この…バカ娘がっ…!!」

「ヒヒ~ン!」

「ここまで聞き分けがないとは…。私の教育が間違っていたようだ」

「ヒヒ~ン?ブルルルッ!!」


 両者の間に一触即発の空気が流れる。闘気を纏うダナンさんと、歯を剥き出しにして威嚇するカリー。


「お久しぶりです、ダナンさん。そう怒らないであげて下さい」

「お久しぶりです。…いや!今は止めないでくだされ!さすがに今回ばかりは此奴にお灸を据えねば気がすみません!」

「ヒヒ~ン!」


 2人が互いに間合いを詰めようとしたところで、素早く間に入る。


『拘束』


 同時に魔力の縄で拘束した。


「落ち着いて下さい。遠路はるばる来てくれたのにケンカはやめましょう」


 身動きできなくなったからか、互いに戦闘態勢を解いてくれた。直ぐに『拘束』を解除する。


「いやはや頭に血が上りすぎました。お恥ずかしい限りです…」

「ヒヒン…」


 項垂れて反省してる。こういうところはそっくりだ。やっぱり長年の相棒は仕草や性格が似てくるのかな。


「居間へどうぞ。王都の土産話を聞かせて下さい」

「失礼しますぞ」

「ヒヒン!」


 虫が入らぬよう、玄関に隙間なく『強化盾』を張って居間に移動する。淹れたお茶をすするダナンと、桶に入れた水をガブガブ飲むカリー。この空間にツッコミは不在。


「落ち着きますな…」

「ヒヒン!」

「そう言ってもらえると嬉しいです」

「王都で別れてから中々顔も出さず申し訳ありません」

「気にしないで下さい。元気にされているならなによりです。忙しいのでは?」

「充実しております。騎士団にお世話になってからの教官業務もどうにかこなしております。ボバン殿やアイリス殿は、ウォルト殿との再戦を心待ちにして修行しておられますぞ」

「それは…怖いですね」


 ボバンさんやアイリスさんと再び闘うようなことがあるかな?ないと思いたい。


「カリーも騎馬戦の講義で大活躍でして、今や王都でも人気者なのです」


 人の言葉を解するような反応をするカリーは、王都の子供達に大人気らしい。基本的に人に懐かないけれど子供にだけは優しいという。


「さすがカリーですね。ボクも活躍を見てみたいです」

「ヒヒン♬」


 褒められたカリーは、鼻息荒く尻尾を振っている。誇らしげな表情だ。


「テラさんも息災ですか?」

「それはもう。テラは……宣言通り騎士になりまして」

「有言実行ですね」


 騎士になると口にするのは簡単だ。でも、実現したのは凄いの一言。テラさんは身体を鍛えたこともなかったんじゃないだろうか。


「…身内贔屓と言われるかもしれませんが、テラには強くなる素質があると思っております。全てに楽観的過ぎるのが玉に瑕なのですが」

「なおさら凄いです。アイリスさんもですし、女性騎士が活躍する時代が来たのかもしれませんね」


 数は少なそうだけど。


「アイリス殿の活躍のおかげか、女性も数名入団しました。今はもっと強くなってウォルト殿に手合わせしてもらおうと張り切っておりましてな」

「その時は喜んで相手をさせてもらいます。約束しましたから」


 それぞれに頑張っているんだ。そういえば…と尋ねてみる。


「今日訪ねてきたのは、カリーの薬の件ですか?」


 魔力でできたカリーの顔が周囲の者に視認できるように、『可視化』の魔法を付与した粉をかけてる。

 効果が薄れたら訪ねてほしいと伝えておいたけど、もしそうなら初めて来てくれたことになる。


「そうなのですが…効果が切れたのではなくむしろ逆でして」

「逆というと?」

「時間が経つと薬の効果が薄まるというお話でしたが、一向に気配がないので来れずにいたのです。特に問題はないのですが、気になりましてな」

「薬の効果が消えない…。少し気になりますね」


 カリーをチラ見しても澄まし顔。いくら『可視化』に『保存』を重ねがけしているとはいえ限界はくるはず。師匠なら年単位でも保存可能だと思うけどボクの拙い魔法では厳しい。

 思い返せば、王都で別れてから既に3カ月は経過してる。ずっと魔法の効果が続いているとは思えないな。魔法をかけたボク自身が信じられない。


 チラリとカリーに視線を送ると、少し微笑んでくれた気がした。


「ヒヒン」

「思い当たることはあります。あくまで推測ですが」

「どういった理由でしょう?」

「今から確認してみます。カリー、ちょっと来てくれるかい?」

「ヒヒン♪」


 予想通りなら2人きりのほうがいいだろう。連れ立ってボクの部屋に向かう。

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