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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
177/705

177 白猫同盟

 フクーベの【森の白猫】の住居にて。


 クエストを終えて、部屋で着替えを終えたアニカがウイカに声をかける。


「お姉ちゃん!遂に初顔合わせだね!」

「うん。緊張するなぁ…」

「普段通りにしてれば大丈夫だよ!私は楽しみ過ぎる~!」


 最近は女子力を上げようと、たまに服や装飾品を買うようになった。私なりのオシャレをして外出だ!

 今日は、ウォルトさんを大好きな女性で結成された【白猫同盟】にお姉ちゃんが初参加する記念すべき日。このあと【注文の多い料理店】でサマラさんと食事をする約束。お姉ちゃんも軽装に着替えて準備を整えてる。サマラさんと初対面のお姉ちゃんはちょっと緊張気味。


「よし!準備できたね!行こう!」

「うん」


 部屋を出て、一応オーレンに声をかけようと居間に向かうが姿が見えない。


「オーレン、いないね」


 お姉ちゃんは首を傾げる。


「……まさか!?」


 忍び足でオーレンの部屋に向かい、音を立てないように扉を開ける。ゆっくり部屋の中を覗き込むと…。


 やっぱりか…。


 目に飛び込んできたのは、よそ行きの服装に着替えている最中のオーレンの姿。陽気に鼻歌を奏でてる。

 理由は不明だけど、オーレンは私がサマラさんと会う日を敏感に察知してる。食事会に付いてくるつもりだと一目でわかった。なぜなら、顔面が緩みに緩みきって殴り倒したい顔をしてるから。

 サマラさんはウォルトさんのことが好きだってハッキリ伝えたのに、未だ一緒に食事したいという願望は消えてないみたいだ。


 コイツは…一体どういうつもりなんだろう。異名を【愚弟】から【横恋慕】を変えてやろうか。


 オーレンに気付かれぬよう静かに扉を閉めると、ノブに向かって小声で詠唱する。


拘束(レストリ)


 魔力の縄が発現してノブに巻き付く。幾重にも重ねがけして絶対ノブが回らないように固定した。そのままお姉ちゃんに手で合図を送って、忍び足で家を後にする。トイレにも行けず苦しむがいい。




 待ち合わせの時間ピッタリで店に辿り着いた。店に入ると相変わらずの満員状態。そんな中でもサマラさんを探すのは簡単作業!


「あの人だよ!」

「うん。私にもわかった」


 男達の視線の先にサマラさんはいた。相変わらずつまらなそうな表情を浮かべて窓の外を眺めてる。けど、店に入るとお姉ちゃんも注目を浴びる。男達の視線が二分された。納得だね!

 やがて、その視線は1つにまとまり私達に気付いたサマラさんは笑顔で迎えてくれた。


「アニカ、久しぶりだね!」

「お久しぶりです!サマラさんも元気そうで!」

「今日も楽しみにしてたよ~」


 サマラさんはお姉ちゃんを見て微笑む。


「初めまして。私はウォルトの幼馴染みのサマラだよ。ウイカよね?」

「初めまして。姉のウイカです」


 サマラさんは少しだけ黙り込んだあと、パッと表情を明るくした。


「アニカ……でかした!」

「やっぱりそう思います!?」

「こんな美人が同盟に加わってくれるなんて…ウォルトは幸せ者だね!」

「ですよね♪私もそう思うんですよ!」


 一緒にニシシ!と笑う。やっぱりサマラさんは強敵だ!お姉ちゃんを見てそんな風に言える人はいない!


「とりあえず席について♪」


 促されて食事の注文をする。


「ウイカ。この店の料理はウォルトの料理と同じくらい美味しいからどんどん食べてね!」

「間違いないよ!外れなしだから!シェフがウォルトさんの友達なんだよ!」

「へぇ~。間違いないね」


 お姉ちゃんはホッとした表情。そんな心中を察したのかサマラさんから話しなけてくれた。


「私がどんな獣人か知らないだろうし、こんな同盟なんて普通ありえないから、緊張するかもだけどゆっくり慣れてね!」


 いやはやその通り!あり得なさすぎる集まり。


「恋敵なのに同盟を組むなんて、ウォルトさんの器が大きすぎるからですね!」

「それはどうだろう?器は小っさいと思うよ。でも、負けないからね!」


 負けず嫌いのサマラさんが言えば「私もです!」と笑顔で迎え撃つ。


「わ、私も負けません!」


 お姉ちゃんの言葉にサマラさんと私は顔を見合わせて笑った。



 ★



 美味しい食事に舌鼓を打ちつつ、情報共有を図る。初参加のウイカにとっては、初めて聞く話ばかりで新鮮。


 来てよかったなぁ~。2人が自然に会話を振ってくれるから、凄く話しやすいし訊きやすい。楽しくて仕方ない、恋敵なのに本当に仲良しなのが伝わってくる。


 一通り食事を終えると、その後は少しお酒を飲みながら話す。


「ウイカにも知っててほしいことがあるんだよね」

「なんですか?」


 私は…初めてウォルトさんが獣人の社会で蔑まれていた過去を知る。力が弱いというだけで蔑まれ、酷い扱いを受けていた過去を。殴られたり蹴られたりだけじゃなく、口にできないような仕打ちも受けてたらしい。

 

「ウォルトさんにそんな過去が…」


 いつの間にかアニカは漆黒の瞳に変化してる。こんな姿は初めて。


「私はいずれソイツらに制裁を加えるよ!ウォルトさんにもそう言った!」


 アニカの気持ちはわかる。全然知らなかったし、自分のことじゃないのに怒りが込み上げてくる。でも、サマラさんは興奮するアニカを諭すように告げた。


「ウォルトが心配するからやめたほうがいいよ。間違いない」

「むぅ~…!?だって許せないです!なにもしてないのに、なんで殴られたり蹴られたりしなきゃいけないんですか!想像しただけで腹が立って仕方ないです!」

「私も代わりに殴ってやろうって考えたことはあるけどさ、ウォルトは絶対喜ばないし、むしろ惨めに感じる。アニカに教えたことを後悔してヘコむよ。最悪嫌われるかも。それでもいい?」

「それは嫌です!」


 そうだよね…。代わりに復讐してほしいなんて思うよう人じゃない。


「ウォルトさんは優しいですよね…。人に優しいです…」


 種族関係なくあんなに優しい人を他に知らない。正直で謙虚でいつも笑みを絶やさない。


「ウイカの言ってることもわかる。基本的にはそう言えるかなぁ。でも勘違いしちゃダメ。ウォルトはお人好しに見えるけど違うからね」

「それ気になってたんです!よく言いますよね!「ボクはお人好しじゃない」って!でも、どう考えてもそうじゃないですか?!」

「ううん。ウォルトの言う通りだよ。ウォルトって嘘吐かないよね?」


 私とアニカは頷く。


「だから本当なんだよ。ウォルトは基本的に優しい風な獣人だけど、お人好しじゃないんだな」

「私はお人好しの部分しか見たことないです!」

「私もです」


 お人好しで無欲な獣人だと思う。文句を言ったり怒ってる姿を見たことないし想像できない。


「2人はまだ獣人の部分を見てないんだよ」

「というと?」

「そこら辺に山ほど転がってるアホみたいな獣人と比べると、ウォルトって獣人っぽくないよね?」

「全然違います!紳士です!」


 街に溢れる大多数の獣人に、ウォルトさんのように温厚な男はいない。少なくとも私は会ったことない。

 フクーベに来て感じた獣人の男性のイメージは、チャラくて女好きで乱暴者。そして、声が大きくてうるさい。ほとんどそんな感じ。


「だよね。でも、やっぱり根っこは獣人だから時折顔を出すんだよ。闘うのが好きで、負けず嫌いですっごく怖い部分がさ」

「それって………」


 アニカはプルプル震えだした。もしかして怖がってるのかな…。


「格好よすぎますね♪」

「さすがアニカ。一瞬でも心配した私がバカだった。たとえば、この間こんなことがあったの」


 サマラさんは修練場での出来事を話してくれる。


「思い出してもゾクッとする。初めてウォルトに恐怖を感じたんだよ」

「なるほどぉ!でも、理不尽なことじゃないですし、サマラさんも嬉しかったんじゃないですか?」

「そうだね。でもそれ以上に怖かった。昔は違ったの。だからね、そういう一面もあるってことを知っててほしい。ウォルトと付き合っていく上で避けて通れない。言いたいのはそれだけなんだけど」


 サマラさんは…凄いなぁ。


「私は…サマラさんを尊敬します」

「急にどうしたの?」

「だって、ウォルトさんのことを一番理解してて、教える必要がないのに教えてくれて平等な立場にしてくれてます」

「付き合っていけばいずれわかることだから。2人を同盟に引き込んでるのは私の我が儘で平等ではありたいけどね」

「私も尊敬してます!私達がウォルトさんの一面を見たときにお互いショックを受けて傷付かないようにですよね!サマラさんがそんな人だから…絶対に負けたくないです!」


 私とアニカは真っ直ぐサマラさんを見つめる。初めて会ったけど話すだけで理解できた。サマラさんは間違いなくウォルトさんの隣に最も近い存在。

 それでも肩を並べて勝負したいと言ってくれる。その上で「勝つのは私だけどね♪」と笑う。そんな強くて優しいサマラさんの横に並んで競い合いたい。負けたくないから勝つつもりでいく。もちろんアニカにも!


 サマラさんは少しだけ呆れた表情。


「まったく…。姉妹揃ってお人好しなんだから!」

「サマラさんには」

「言われたくないです!」


 声を揃えて笑った。その後、お酒も進んでそれぞれの近況報告に入る。


「アニカ。最近なにかあった?」

「ウォルトさんがお酒飲めるようになってました!今度皆で飲みましょう!」

「えぇっ!?それは知らなかった。最高だね♪」

「私も一緒に飲んでみたいです」

「3人で行こうよ!一緒に泊まりに来ていいって言質とりました!そして…ウォルトさんをドキドキさせるんです!やりますよぉ~!」

「いいね。でも…2人には悪いけど私はちょっと抜け駆けしちゃった」

「「えっ!?」」

「この間、ウォルトのほっぺにキスしちゃった♪」

「な、な、な…」

「えっ!?」


 固まる私達にサマラさんは苦笑い。


「マードックを助けてもらったお礼にね…。感謝の気持ちが抑えられなくてしちゃったんだよね!」

「なるほどぉ~!」

「それはしょうがないですね」


 それは仕方ない。私だってアニカを救ってもらったら好きな気持ちが爆発しちゃうかも。多分というかアニカも同じだと思う。


「半歩だけ先に行ったけど…」

「勝負はこれからですよ!」

「負けません!」


 その後も盛り上がって、初参加した白猫同盟の会同は幕を閉じた。最高に楽しかったなぁ。





 全員が飲み過ぎることもなく帰路につく。サマラさんが私達を家まで送ってくれることに。3人に増えた白猫同盟は今後も楽しみすぎ。


「すみません。気を使ってもらって」

「私達は大丈夫ですよ!」

「2人は可愛いからダメ!特に夜は危ない!酔っ払いに直ぐ絡まれるから!」


 それは貴方ですよね?思ったけど黙っておこう。それでも一応…。


「サマラさんも変な輩に絡まれないように気を付けて下さいね」


 冒険者でもない美人が、夜に1人で出歩くなんて危険極まりないと思う。私もアニカに出歩かないよう釘を刺されてる。…と、早速酔っ払った獣人の集団が絡んできた。


「おい!そこの女ども!俺らに付き合えよ!俺らと遊べば天にも昇る気持ちになれるぜぇ!ギャハハハ!」


 絡んできた男達は4人。牛や馬、それにウォルトさんと同じ猫の獣人もいる。面倒くさいから無視しよう…と思ったけど、酒臭い獣人達にサマラさんが対応する。


「いい気分なんだよね。どっか行ってくんない?」

「つれないこと言うなよ。…いいから黙って付いてこいや!」


 野太い声を上げて猫の獣人がオラオラとサマラさんに近づく。私とアニカが身構えて、『身体強化』を発動しようとしたとき手で制された。


「ありがと。気持ちは嬉しいけど、私は今までそこら辺の男に負けたことないんだよ」

「「えっ?」」


 どういう意味?


「あぁん?なにくっちゃべってんだぁ?!可愛がってやるからさっさとこっちこいやっ!……ぐあぁぁっ…!!」


 気付いたら、サマラさんに触れようとした猫の獣人の腹に拳が深く突き刺さってる。動きが見えなかった私達は呆気にとられる。めちゃくちゃ速かった…。

 男に向けられたサマラさんの大きな瞳は…狼の眼に変化してる。もしかして……サマラさんの獣人の部分…?


「私に触るな…。お前みたいな男が猫の獣人っていうのが腹立つ…」

「てっ…めぇ…!」

「黙れ」

「がぁっ…!!」


 くの字に折れた猫の獣人の顎を膝でかちあげ、身体が起き上がったところを無表情でとにかく殴る。


「や……やめ…ろぉ…」


 あまりの連打に倒れたくとも倒れられないんだ。しばらく殴られ続けた猫の獣人は、やがてボロ雑巾のようになって崩れ落ちた。残りの3人が血相を変えてサマラさんに迫る。


「てめぇ…!クソがっ!女の分際で!」

「黙ってヤラれてりゃ痛い目見ずにすんだのによぉ!」

「お痛が過ぎんぞ!クソアマぁ…!」

「「サマラさん!!」」


 なんたる言い草だ!私達も加勢して殴ってやる!


「ヤレないとわかった途端、人をクソ扱いか…。お前らは……女をなんだと思ってるっ!」


 私達が駆け寄るより速くサマラさんは3人に詰め寄って、あっという間に殴り倒した。ボロボロになるまで痛めつけ、無様に這いつくばる姿をゴミを見るような目で見下ろす。


 握りしめた拳は真っ赤に染まってる。こんな状態のサマラさんを初めて見たけど、言葉が出ない。

 動きだけでわかるけど、めちゃくちゃ強い。私達が魔法を使っても敵わないくらいに。


「てめぇらの…ツラぁ……覚えたぞ…。覚えとけ…。めちゃくちゃにしてやる…」


 地面に這いつくばったまま反抗する牛男。


「あっそ。コレで記憶なくなるかな?」


 サマラさんは無表情で後頭部を思いきり踏みつけた。ゴリゴリと顔を削るように道路に擦りつける。


「がぁぁぁっ…!ごふぅうぁ…!てめっ…!がぁぁ!」

「まだ覚えてんの?おかしいなぁ。大して脳みそないだろうに」

「ぐあぁぁっ…!」


 パキパキ骨が折れるような音と声にならない悲鳴が響く。それでもサマラさんは容赦せず顔を踏みつける。呻き声が途切れた後、髪を掴んで歯が全部折れた血塗れの顔を引っぱり上げた。


「顔を覚えたなら、二度と私達に絡むな…。それとも…目玉を抉って全身の骨をへし折ってやろうか?今すぐ死ぬか?」

「ひぃぃっ…!や、やめろぉっ!」

「ふざけんな。絡んできたのはお前らだ」


 最後に全員の顔面を思い切り蹴り飛ばして、気を失った輩を道に捨て置く。返り血を浴びたサマラさんが私達に向き直って苦笑い。


「これが獣人なんだよ。簡単に怒りを抑えられない。しつこい気性だから、相手が復讐する気が起きなくなるまで徹底的にやるのが獣人流ってね」


 初めて獣人の怖さを知った。さっきまで笑っていたサマラさんが、苛烈なことを平然とやってのける。「ウォルトもこうなんだよ」「付き合うには覚悟がいるよ」と言われている気がした。

 身を以て教えてくれてるんだ。もしかしたら、私達に恐がられて縁が切れてもおかしくないのに。


「獣人と付き合っていくの、怖くなった?」


 サマラさんの問いに私達は首を横に振る。


「獣人にそういう一面があるのはわかりました。でも関係ないです」

「これからも付き合っていきたいです!それに、コイツらは女をバカにしてます!…あっ!もしかして、過去にウォルトさんに至らぬことをした輩じゃ…?もしそうなら今すぐ骨まで燃やしてやろうか…」

「あはっ。多分違うと思うよ。アニカはちょっと過激すぎるんじゃない?」

「サマラさんには言われたくないです!」

「うそっ!?なんで!?」

「自分の胸に聞きましょう♪」

「サマラさん。多分アニカも思ってるんですけど、もの凄く格好よかったです」

「わかる!めっちゃ凜々しかったよね!」


 女性のサマラさんが、自分より大きな獣人の男達を薙ぎ倒す姿に見蕩れた。ただ純粋に強い女性は格好いいと思った。私達が笑うとサマラさんも笑顔になる。


「ありがと。私は2人が大好きだよ」

「「私達もですよ」」

「おかしいなぁ?ウォルトのことが好きな人の同盟のはずなのにね」

「ウォルトさんの人徳じゃないですか?好きな人達が仲良くなるのも!」

「そういうことにしておきましょう」

「そうだね!今度は全員でのドキドキ大作戦で、ウォルトに恩返しかな♪」


 その後も、楽しくウォルトさんのことを語りながら帰路についた。最高に楽しかったなぁ。

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