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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
172/706

172 マードックの土産

 ギルドで待機しているハルトは焦っていた。


 回復薬などの物資は手配されて既に準備完了。あとは応援の冒険者を待つばかりだが、今日は上位冒険者が出払っていて、必要な頭数を揃えられないでいる。


 ランクの低い冒険者に【悪魔の鉄槌】は危険すぎる。猫の手も借りたいが、他人の命を危険にさらすわけにはいかない。


「もっと早くなんとかならないのかよ?」


 視界で動き回るシュラは、ウロウロして落ち着かない様子。回復薬を飲み、マルソーに魔法で回復してもらって体調は万全。


「シュラ。気持ちはわかるが今は落ち着いて待つしかない」

「マルソーの言う通りだ。それまで身体を休めて集中しておこう」

「そうだけどよぉ」


 シュラは、サマラちゃんのことも気にかけているんだろう。俺も彼女が無事でいてくれることを願っているが、今はどうしようもない。はやる気持ちを抑えて、静かに待つ俺達の元にクウジさんが歩み寄る。


「すまんな。人集めが難航してる」


 ギルドを訪れてから既に3時間は過ぎた。だが、忙しく動いて対応してくれているのは理解している。


「仕方ないでしょう。都合よく予定がないはずがない」

「お前達はギルドの依頼で動いてくれている。協力は惜しまないが今日は日が悪かった」


 クウジさんは、無理な依頼をしてしまったと悔やんでいるように見える。だが…。


「今日の事故は俺の判断が間違ってた。依頼のせいじゃない」


 判断を誤ったと後悔している。冷静にかつ深く考えずにマードックの意見に乗って罠にかかってしまった。


「違うだろ!俺が…あの程度で疲れちまったから、マードックが代わりになっちまった!…俺のせいだ!」


 シュラは、自分が疲労で斥候を代わっていなければ防げたはずだと悔やんでいる。


「違うぞ。アイツが取り残されたのは、俺を先に脱出させたからだ。俺が日頃から鍛えていればもっと速く走れていた…」


 マルソーは、己の怠慢で鍛練が足りなかったことを後悔している。


「お前達の気持ちはわかるが、自分を責めるな。冒険はなにが起こるかわからない。マードックも覚悟しているはず。お前達もだろう。まだダメだと決まったわけじゃない。アイツは簡単に死ぬような男じゃないからな」

「クウジさんの言う通りだ。反省は後にして、今はアイツを助けることだけを考えよう」


 各々が想いを馳せていたところで、ギィ…とギルドのドアが開いた。集まった者、全員の視線が入口に集まる。


 開いたドアの向こうに立っているのは…。


「よぉ…。待たせたな」


 汗だくで息を切らしてはいるが、傷1つない姿のマードック。


「マードック!!」

「お前…!どうやって!?」


 素早く駆け寄る。


「悪ぃな。全力で駆けてきたからよ…ちっとだけ休ませてくれ…。話はその後でいいか?」

「もちろんだ!誰か!水をくれ!」


 とにかく無事でよかった。


 

 ★



 ギルドに到着して一息ついたマードックと俺達はギルドマスターの部屋に移動した。集合してくれた冒険者達には、全員で丁寧に礼を告げて帰ってもらった。

「無事でよかった!気にすんな!」と言ってくれて、同じ冒険者として本気で心配してくれたことが本当に有り難い。


「迷惑かけて悪ぃな」


 マードックが落ち着いた口調で話し始める。


「礼を言わせてくれや。ありがとよ」

「気にするな。俺達はパーティーだろ」

「なにもできてねぇよ!」


 マルソーもシュラもホッとしているな。俺もだ。


「お前が無事ならそれでいい。そんなことより…」

「俺がどうやって壁抜けたか気になってんだろ?」


 全員が頷いて、マードックはボリボリと頭を掻く。


「お前らには悪ぃと思うけどよ…話せねぇこともある。それでもいいか?」

「話せない?なぜだ?」


 俺の問いには答えずシュラを見る。


「シュラがサマラに教えたんだろ?」

「なんで知ってんだ?」

「サマラが応援呼んでな。ソイツのお陰で助かった」

「なにっ!?応援が来たのか?」


 やはり、万が一に備えてサマラちゃんに頼んでいたのか。


「おぅ。ソイツが壁をぶち壊して脱出した」

「あの壁を破壊したって!?どうやったんだよ?!」


 シュラじゃなくても気になる。俺達がなにをやっても壊れなかった壁を、一体どうやって破壊したというんだ。


「ソイツは何者なんだよ!?お前の話しぶりだと1人だろ?!」


 マードックは『ソイツら』ではなく、『ソイツ』と言っている。シュラの推測は当たっているのか。全員で食い入るように見つめると、溜息をついた。


「教えられねぇ」

「なんでだ!お前だけじゃなくて、俺達にとっても恩人だ!教えろよ!黙ってろって言うなら、誰にも言ったりしないぜ!」

「シュラの言う通りだ。俺もハルトも口は固い」

「そうだ。ココだけの話にする」

「口止めされてっから言えねぇんだよ」

 

 唯我独尊のマードックが申し訳なさそうにしている。どうやら教えてもらえそうにないと理解した。ふぅ…と息を吐いて口を開く。


「なぜかはわからないが、その人にも理由があるんだろう?無理に言わなくていいが、コレだけは覚えておいてくれ」

「なんだよ?」

「その人が困ったり、助けを求めることがあったら教えてくれ。その時は力になりたい。どんな些細なことでもいい」


 シュラとマルソーが続く。


「俺もだ!できれば金以外でな!」

「もちろん俺もだ。俺は金でもいい。使わないからそこそこ持ってるぞ」

「…ククッ。ソイツに言っとくわ」


 大きな疑問は残るが、マードックは問い詰めても答えるとは思えない。とりあえず納得した。

 

 …が、話には続きがあった。


「そういや、今回の依頼は終わりだぜ」

「どういう意味だよ?」

「ガル…なんとかを採ってきた。量が足りるかは知らねぇ」

「ガルヴォルンを!?」

「本当か!?」


 俺達だけでなく、クウジさんも驚いている。マードックは背負っていたリュックに手を突っ込んで、なにかを探す素振りを見せる。引き抜かれた手には漆黒の鋼が握られていた。


「ガルなんとかっつうのは、コレで合ってるか?」


 受け取ったクウジさんの掌がズン!と下がった。見た目に反してかなり重い素材なのだろう。


「調べないと断言できないが、間違いなさそうだ…」


 全員で鋼を見つめていたが、シュラが素材の正体に気付く。


「コレって……あの壁の一部だろ?」


 言われてもそうは見えない。色からして違う。だがシュラの目は確かだ。


「表面は違ぇ色だったかんな。叩き割ったら中はこんなんだ」

「欠片ってことか」

「20階層辺りにあるっつうのは、そういう意味だったみてぇだな。採りに行った素材が目の前にあるとは思わなかったぜ」

「破壊したのか…。俺の魔法も通用しなかったあの壁を、どうやれば壊せる?それに、よくガルヴォルンだとわかったな」

「ソイツが知ってやがった」


 あの壁を破壊しマードックを救出してくれたのは、高位の冒険者ということで間違いなさそうだな。

 


 ★



 マードックは、救出されて直ぐにウォルトに言われた。


「壁を魔法で砕くから、欠片を持って帰ればいい」

「はぁ?なに言ってやがる」

「この壁はガルヴォルンでできてる。クエストでいるんだろ?お前が言ったんだぞ」


 アイツは壁がガル…なんとかでできてんのを知ってた。


「ウォルト!マードックごと壁を吹き飛ばしていいよ♪」

「いいワケねぇだろが!ふざけんじゃねぇ、ボケ!」

「2人は仲良いなぁ」


 よくねぇよ!コイツ、目は節穴過ぎるくせに無駄に賢いからタチが悪ぃぜ!


 軽々魔法で砕いて欠片を渡しやがったが、使った魔法も大概あり得ねぇ威力だった。今更驚かねぇけどアイツはどうかしてやがる。あと、コイツらに教えとかねぇとな。


「あの罠は時間が経つと勝手に解除される仕組みだとよ」

「時間?半日とか1日ってことかよ?」

「もっと長ぇ。しかも、人を感知して発動するんじゃねぇんだと。周期らしいぜ。俺らはたまたまぶち当たったってこった」


 長ぇと2日はかかるっつってたな。アイツも閉じ込められたことがある口振りだった。


「なんて迷惑なトラップだ。俺が冒険者だった頃からあっただろうに聞いたことがない」

「どんだけ壁をぶち壊しても、次に発動した時は元通りになるんだとよ。ふざけた罠だぜ」

「お前を助けてくれた冒険者はダンジョンに詳しいな。記録を書いてほしいくらいだ」


 クウジは感心してっけど、アイツは書いちゃくれねぇ。つうか「冒険者なら誰でも知ってるだろう?」とかほざく姿が目に浮かぶぜ。ふざけやがって。


「記録に残ってないのは毎回発動しないからか。過去に潜ったパーティーは、罠に遭遇してない可能性もある。俺達は…単に運が悪かっただけ」


 マルソーは神妙なツラしてんな。


「その通りだぜ」

「もし、あのダンジョンを創造し(つくっ)た奴がいるとしたら相当性格悪いな!」

「あと…このクエストを依頼した奴もな」


 ハルトはクウジを見る。


「どういう意味だ?」

「どこの権力者か知らないが、あの壁の存在を知りながら依頼してきたことになる。しかもなんの情報を出さずに。先に進めば他にも採取できる場所があったかもしれないが、そうでなければただの嫌がらせだ」


 ハルトの読みはほぼ当たってやがる。アイツは「この壁以外でガルヴォルンを見かけたことはない」っつってた。「30階層までなら詳しい構造を知ってる」っつってたし、嘘吐くような奴じゃねぇ。

 元々、あの階層らへんにあるって情報だけは寄越してんだから、あの壁のことを言ってんのは間違いねぇだろ。


「ハルトの言い分はわかるが、クエストとはそういうものだ。冒険者は真摯に依頼者の要望に応えるだけ。裏にどんな意図が隠されているかは考えても仕方ない」

「俺もそう思いますよ。だが、冒険者の命が危機に晒されると知ったうえでわざと情報を伝えていないとしたら?ただの悪趣味か……それとも俺達がどう対処するかを知りたかったのか。これが…俺達がSランクになるために必要なことですか?」


 見つめてもクウジは答えねぇ。表情すら変えねぇ。もしかすっと…コイツも知らねぇから答えようがねぇんじゃねぇのか?

 アイツなら「獣人なら心境は匂いでわかるだろ?」とかほざく。とんでもねぇ勘違い野郎だからな。


 まぁ、俺にとっちゃどうでもいい。考えるだけ面倒くせぇ。


「この話は終わりだ。クウジさん。今回の件ギルドの対応には本当に感謝しています。ホライズンとして改めて礼をする」

「いや。依頼したのはギルドだ。結果クエストも達成してる。気にするな」


 ハルトは俺を見て笑う。


「マードック。今から俺の奢りで飲みに行こう。祝い酒だ」

「いいのかよ?」


 俺が驕るんならわかるけどな。


「全員無事に帰って来れたし、クエスト達成はお前の手柄だ。たらふく飲め。あと、サマラちゃんにも礼を言っておけよ」

「…けっ!わかってるよ」


 今回助かったのはアイツのおかげだ。生意気な妹だが、ちゃんと予想通りに動きやがった。アイツがいなきゃヤバかったぜ。今回の報酬でなにか買ってやるか。


 あと、ウォルトにもなにか礼を考えとくか。欲しいもんとか思いつきゃしねぇぜ。

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