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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
170/706

170 応援要請

 ハルト達と別れ、マードックの住み家を目指し疾走するシュラ。



 かなり疲れて身体が重い。けど、そんなこと言ってる暇はない。休むことなくマードックの家に辿り着くと、鼓動も治まらぬ内にドンドン!と玄関の扉を叩く。

 しばらく待ってみたけど中から反応はない。冷静に考えるとまだ陽が高い。そこで気付いた。

 サマラちゃんは仕事中か。再び駆け出して、次にサマラちゃんの職場【アニマーレ】を目指す。



 しばらく駆けて、アニマーレに辿り着いた。呼吸を整えながら店に入る。カランとドアベルが鳴り、直ぐに女性の声が聞こえた。


「いらっしゃいませ~。あれ?シュラさん!」


 顔を見せて対応してくれたのはサマラちゃん。


「や、やぁ。久しぶりだね」

「久しぶり!元気だった?」


 サマラちゃんは満面の笑みを浮かべた。


 ぐぅぅっ…!今はそれどころじゃないのに…意識してしまう。サマラちゃんの笑顔が眩しい…。気を抜くと鼻の下が伸びそうになるぜ。

 サマラちゃんは俺の好みどストライクだ。相変わらずめちゃくちゃ可愛い。兄貴はゴリゴリのゴリラなのに、こんな可愛い妹が存在するのは神の悪戯としか思えない。

 仲良くなりたいのに、マードックが威嚇してくるせいで近づけもしない。厄介な筋肉ダルマがっ!


 邪念を振り払って本題に入る。


「サマラちゃんに話があってきたんだ。直ぐ終わるから少しだけ時間もらっていい?」

「ちょうど休憩に入るところだったから大丈夫!」

「じゃあ外で話そう」


 サマラちゃんは、店長らしい獣人に許可をもらって一緒に店の外に出る。


「凄い汗だね。なにかあったの?」

「君に伝えなきゃならないことがあって…」

「…なに?」

 

 真剣な表情を見せると、サマラちゃんの表情も引き締まる。


「サマラちゃん。ゴメン…」

「なんで謝るの?」

「マードックが…ダンジョンで壁の間に閉じ込められたんだ。俺の代わりに斥候してる最中に罠が発動して……。ゴメン…」


 サマラちゃんの表情が険しくなる。


「死んだの…?」

「いや…。俺達じゃ壁を壊せなくてギルドに応援を頼んでる。このままだと命に関わる。時間との勝負だ」

「わざわざ教えにきてくれたんだね」

「マードックが閉じ込められる寸前に「無理ならすぐサマラに伝えろ」って言ったんだ。非常事態のときサマラちゃんに頼んでることがあるかもしれないと思って来た」


 しばらく真剣な表情で思案していたサマラちゃんは、パッと表情を明るくした。


「わかった!教えてくれてありがとう!」

「役に立てたかな?」

「凄く助かった!マードックの言いたかったこともわかるよ!あとは私に任せて!」



 ★



 シュラが店を訪れて、店内から2人を見守る多数の視線があった。視線の主は店長のチャミライをはじめとしたアニマーレの同僚達。

 突如現れた人間のイケメン細マッチョに「話がある」とサマラちゃんが呼び出された。店員一同で『告白に違いない!』と店の窓から覗き見しつつ、聞き耳を立てていた。


 ウォルトさんという想い人がいることは知ってるけど、それでも人の色恋沙汰は大好物。だって楽しいのだから仕方ない。長い休憩も致し方なし。

 とはいえ、さすがに店内では会話は聞き取れない。同僚達は2人の表情から会話の内容を推測していた。


 急に店内に戻ってきたサマラちゃんが私の前に立つ。


「チャミライさん。急で申し訳ないんですけど、兄がダンジョンで罠に閉じ込められたみたいで。今日は休みをもらって帰っていいですか?」


 てっきりイケメンに告白されてると思ってた。皆が同時に驚く。


「もちろんだよ!早く行ってあげて!」

「ありがとうございます。お先に失礼します!」


 ………悪ふざけはよくないね。



 ★



 サマラちゃんは荷物を持って外へ出てきた。


「シュラさん。マードックのいるダンジョンはどこ?状況も詳しく教えてほしいんだけど」

「サマラちゃんに言ってもわかるかな…?」

「とりあえずお願い!」


 悪魔の鉄槌でのマードックの状況をサマラちゃんに伝える。


「わかった!ありがとう!」


 笑顔のサマラちゃんを見て、不思議に思う。全く心配してないみたいな…。


「今からどうするんだい?」

「マードックを助けに行ってくる!」


 まさかの返答。


「無理だ!」

「大丈夫だよ!シュラさんはどうするの?」

「俺は…とりあえずハルト達がギルドで応援を頼んでるはずだからギルドに行こうかと…」

「ハルトさん達にもよろしく伝えて!ゆっくり待ってていいよって!」


 なにを言ってんだ、この子は…。


「ダンジョンは遊びに行くところじゃないんだ!もの凄く危険なんだぞ!」


 思わず強い口調で注意してしまう。あのダンジョンに冒険者でもない女の子が助けに行くなんて自殺しに行くようなモノだ。好きな子じゃなくてもさすがに見過ごせない。


「心配してくれてありがと!でも1人じゃないから大丈夫!じゃあね!」

「ちょ、ちょっと待った!!」


 サマラちゃんの大きな瞳が狼のような目に変化すると、いきなり全力で駆け出す。無謀な行為を止めるために俺も駆け出した。




「ゼェ…。ゼェ…」


 なんてこった…。全力疾走したあと、前かがみになって両膝に手をついたまま息を整える。

 きっついぜ…!全力であとを追ったものの全く付いていけず、人混みもあってサマラちゃんを見失った。走るスピードがまるでマードックだ。いくら疲れてるとはいえ俺が付いていけないなんて…。

 ふと気付けば、ギルドの近くまで移動していた。サマラちゃんのことが気になるけど…一旦ハルト達と合流しよう。



 ★



 サマラは動物の森を疾走する。


 家に戻って必要なモノをリュックに詰め込んできた。辿り着いたのはもちろん…。


「久しぶりに来た!」


 二度目の訪問になるウォルトの住み家。息を整えながら近寄ると、角からウォルトがひょっこり顔を出した。優しい笑顔を浮かべるウォルトに跳びつくと優しく抱き留めてくれる。


「ウォルト、久しぶり!モフモフ~!」

「久しぶりだね。サマラもモフモフだよ。いらっしゃい」


 しばらく微笑み合う。身体を密着させないところが照れ屋のウォルトらしいね!


「おっと、いけない。ウォルトにお願いがあって来たの!」

「お願い?」

「マードックがダンジョンの罠に閉じ込められたんだって!一緒に助けに行ってほしいの!」

「マードックが…」


 ウォルトの表情がクッ!と引き締まる。カッコいい!


「行ってくれる?」

「もちろん。すぐ準備するから状況を教えてくれないか?」

「任せて!」


 素早く住み家の中に移動して、準備を進めるウォルトにシュラさんから聞いた概要を伝える。


「なるほど。悪魔の鉄槌の20階層か…」

「ダンジョンの場所わかる?大体は聞いてきたけど」

「わかるよ。そう遠くない。サマラはお腹空いてる?」

「空いてるけど」

「作っておいた携行食があるから持って行って着いたら食べよう。空腹じゃ闘えない」

「やった!」


 リュックに必要な物を収めたウォルトは、背負って準備完了。


「今から行くのはかなり深いダンジョンだ。サマラも闘うつもりだよね?」

「もちろん!聞いたからには放っておけないし、待ってるだけなんて私には無理だから!手甲も持ってきた!」


 かなり気合いが入ってる。


「わかった。じゃあ出発しよう」

「うん!」


 連れ立って外に出て、私に『身体強化』を使ったウォルトは「先導するよ」と駆け出した。




「そんなに遠くなかったね」

「住み家からは意外に近いんだ」


 あっという間にダンジョンに到着した。30分かかってない。『身体強化』の効果もあるからだろうけど、息も乱さないペースでコレなら確かに近い。


 よし!


「ウォルト、ご飯食べていい?」

「いいよ。ちょっと待ってて」


 リュックから携行食を取り出して手渡される。


「ご飯とはちょっと違うけど、召し上がれ」


 手渡されたのは円形の容器。竹を曲げて作ってあるっぽい。蓋を開けると甘い匂いが漂う。容器の中には、黒っぽい色した大きな団子の様な食べ物が並んでる。


「初めて見る。ナニコレ?」


 マジマジと中身を見つめる。


「味見したけど、甘くて美味しかったよ。サマラは甘味好きだよね?」

「いただきます!」


 警戒しながらも料理への期待感のほうが上回る。ウォルトが作るのはどんな料理でも絶対に美味しいとわかってるから。豪快に頬張って目を見開いた。


「美味し~い!あまぁ~い!」

「口に合ってよかったよ」


 あっという間にお腹に収めてしまった。気分は最高!差し出された花茶も美味しい!


「ごちそうさま。甘いモノ好きな人にはたまらない食べ物だよ。ウォルトが考えたの?」

「東洋のお菓子なんだ。外にまぶしてる黒いのは、餡子と呼ばれる豆を砂糖で甘く煮て潰したモノで、中は(マイ)を蒸して成形してる。試しに作ったら美味しくできた。気に入ったならまた作るよ」

「もっと食べたい!マードックを助けたらまた作ってね!よぉ~し!俄然やる気出た!」

「行こうか」


 罠に嵌まったマードックを助けにきたはずだけど、ウォルトは緊張感がない。私も人のことは言えないけどね。



 ★



 皆がマードック救出に向けて忙しく行動している。閉じ込められた当の本人はというと…。


「やることねぇな…。暇だぜ」


 マードックはさほど危機感を持っていなかった。暗闇の中、地面に胡座をかいて動かずじっとしている。

 とりあえず目が慣れるまで待って壁をぶっ壊そうと殴って試したが相当硬ぇ。コイツは素手で壊せるようなモンじゃねぇな。駆けながら見た壁のぶ厚さからするとやるだけ無駄だ。

 仕掛けも探したが、真っ暗すぎてよく見えねぇしどこにもありゃしねぇ。なんなんだ、このクサレ罠はよ。こうなりゃ大人しく助けが来るのを待つだけだ。


 サマラ。悪ぃけど頼むぜ。試した感じだと、ハルト達でもこの壁を壊すのは無理だな。壊すならかなりの人数と装備がいる。時間もかかる。

 今頃、ギルドに行って応援を呼んでる頃だろうが、あんま時間がかかりすぎっと俺の息が保たねぇ。


 とにかくサマラに言やぁなんとかなる。アイツはウォルトを呼ぶはずだ。住み家にいりゃいいがな。あの野郎はバカみてぇにしょっちゅう森を駆け回ってやがる。アイツならこの硬ぇ壁でもなんとかするだろ。どうやるのかは考えるだけ無駄だ。


 まぁ、色々考えたってしゃあねぇ。助かるにしても助からねぇにしても、どうせ俺は黙って待つしかできねぇ。誰だって死ぬときゃ死ぬだろ。冒険者っつうのはそんなモンだ。


 とりあえず…暇だから寝とくか。

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