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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
17/705

17 獣人の戦い

暇なら読んでみて下さい。


( ^-^)_旦~

 連れ立って家の外に出たボクらは、互いに目を合わせることもしない。ボクが前を歩き、少し遅れてマードックが続く。

 マードックの足音が止まっても振り向かない。10歩ほど先に進んだところで振り返った。


()るからには本気だよな?」

「当たり前だ!大体お前にそんなこと考える余裕があんのか?」

「酔ってたから負けた…っていうのはなしだ」

「言うじゃねぇか!酔ってねぇから心配すんな!ガハハハ!」

「わかった。…マードック」

「なんだよ」

「ボクはやっぱり獣人だ」

「意味がわかんねぇ。ハッキリ言えや」

「闘いたくないのに、やるからには絶対負けたくない」

「おもしれぇ!!行くぞ、オラァ!!」


 幼馴染みとケンカ。しかもそこら辺の獣人とは違う。気合いを入れろ…。


「シャァァッ!!」

「ウォォォ!!」


 獣の顔になって雄叫びを上げ、互いに駆け出す。


「ウラァ!」


 先に攻撃を繰り出す。顔面狙いの右パンチをマードックは軽々と掌で受け止めた。


「お前よぉ、ちゃんと飯食ってんのか?」


 片眉を上げ、馬鹿にするような視線を浴びせてくる。


「オーガみたいな奴だ」


 剛力で知られる魔物のようにビクともしない。知ってはいたけど、さすがとしか言いようがない。


「失礼なことを…言うんじゃねぇ!」

「くっ…!」


 摑んだ拳を離さず頭突きを繰り出してきた。間一髪で躱し、牙を晒して首に噛み付くと、マードックは拳を離して距離をとった。


「へぇ。ちったぁ鍛えてるみてぇだな」

「自分なりに鍛えてる」

「そうかよ。次は…俺の番だぜ!」


 一瞬で間合いを詰めてくる。右拳で躱しにくい胴体狙いだ。辛うじて躱したものの、逆の手で着てるローブを掴まれた。


「しまっ…!」

「ガハハハッ!逃げ回ってんじゃねぇ!オラァ!!」


 片手で軽々と持ち上げられて、背中から地面に叩きつけられた。受け身もとれずまともに衝撃を食らう。


「ガハッ…!!」

「獣人のくせに、そんな服着てりゃこうなるだろ!」


 跳び上がるように起き上がって、すかさず距離をとる。ローブを脱いでモノクルも外した。


「相変わらず貧相な身体だな」


 貧相…か…。何百何千回と浴びせられた言葉。


 ボクの体躯は普通の獣人に比べて痩せている。鍛えているから、引き締まって腹筋が割れていても、獣人にとって重要なことじゃない。太く大きな筋肉こそ獣人のステータス。俊敏性なんて二の次だ。

 きっと、マードックには一生理解できないだろう。鍛えても鍛えても強くならない身体で生きることの辛さは。


 だけど…この身体だったからこそ手に入れたモノがある。自分自身に絶望して、死ぬために森に入ってから出会った。


「お前にはわからないだろうな。獣人は貧相だと苦労する」

「知らねぇよ。だからなんだっつうんだ」

「けど……この身体に生まれたからこそ手に入れたモノがある…」


 身体が淡く光り、マードックに向かって駆け出す。


「ちっ…!『身体強化(ドープ)』か!やっと魔法使いやがったな!」


『身体強化』は、その名の通り身体能力を上昇させる。大幅に上昇させることも可能。ただし、反動で身体に大きな負担がかかる諸刃の剣。元来の能力に応じて上昇値に限界はある。


 待ち構えるマードックはニヤリと嗤った。余裕の笑みだな。


 闘うのはもちろん今日が初めて。ボクが魔法を使えることを知っていても、どんな魔法を使うのかは知らないはず。コイツには訊かれたことすらない。


 それでも、冒険者のマードックは魔法への対処に自信があるんだろう。


「ウラァ!」


 跳躍して回し蹴りを繰り出す。踏ん張って両手でガードされた。


「クッ…!思ったより重いじゃねぇか!」


 驚いたぜ!…って表情。まだだ。


「ウラァァァッ!!」

「…ちっ!」


 着地してから絶え間なく魔法で強化した打撃を浴びせる。威力が弱い分は連打の回転で補うしかない。

 反撃する暇を与えちゃダメだ。上下に打撃を散らして可能な限り急所を的確に打つ。とにかく連打。


「くっ…!がぁっ…!クソがっ…!」


 マードックはガードに徹している。肥大した筋肉は壁のように硬い。でも殴るのはやめない。この攻撃で決める。




 何分続けたろう。さすがに…限界だ…。


「…ぶはっ!」


 無呼吸で打撃を打ち込んでいたけど、息を吸うために一瞬だけ殴るのを止めた。


「…やっとか。待ったぜこの野郎!!オラァァァァ!」

「グゥァッ…!!」


 その瞬間を見逃さず、握り固めた特大の拳を繰り出してきた。腕を交差してガードしたのに吹き飛ばされる。ミシッ…と骨から嫌な音が響いた。


「…ペッ!好き放題やってくれたなぁ!貧弱のくせによっ!!」


 血の混じったツバを吐きながら嗤う。


「化け物だな…。頑丈すぎる…」


 とんでもない耐久力だ。魔法で強化して急所を殴り続けたのに平然としている。コレが冒険者。強者の獣人か。


「人を化け物扱いすんじゃねぇ」

「褒めてる」

「ガハハッ!なら、俺も褒めてやらぁ。虚弱体質の獣人が、Aランクの俺相手にここまでやるとは思わなかったぜ!」

「お前が戦士だから、パーティーはAランク止まりかもな」

「んだと…?嫌味で返しやがって…もう許さねぇ!ぶっ殺してやらぁ!」


 目にも留まらぬ速さで間合いを詰められ、徹底的に殴られて防戦一方に追い込まれる。完全に攻守交代。


「グゥッ…!ガァッ…!」

「『身体強化』の効果か!粘りやがる!」


 口から血が飛び、全身痣だらけになっていく。


「ガハハッ!楽しいぜ!こんなに殴り合える奴は魔物にもそういねぇぞ!!オラオラオラァ!」

「グウゥゥゥッ…!」


 嗤いながら更に攻撃の速度を上げて重い打撃を浴びせてくる。亀のように身体を丸めて頭と急所を守るのが精一杯。


 腕と鋭い痛みがなければ気を失ってるだろう。耐えるのをやめれば、楽になるのはわかってる。それでも……コイツに負けたくない。



 ★



 ちっ…!思ったよりしぶてぇな…。


 殴り続けていたマードックも無呼吸が限界に近づく。


 一気に仕留められると思ったがしゃあねぇ。仕切り直しだ。今のコイツになにかできるとは思わねぇが、二の舞は勘弁だ。念には念をってな。離れりゃなんてことはねぇ。


 後方へ跳んで距離をとった瞬間、虫の息で攻撃に耐えていたウォルトが顔を上げて睨みやがる。


 生意気な野郎だ………と、目を見た瞬間に背筋が凍った。右手を翳してくる。


『火炎』


 一瞬で放たれたデケぇ炎が迫る。


「なんだと?!クソッ!」


 炎と獣人の相性は最悪。毛皮に火が着けば、消えるまで地獄の苦しみを味わう。体勢なんぞ気にしている暇はねぇ。辛うじて横に跳んで躱した。

 大分離れてたおかげでギリギリだ。ウォルトに目を向けると肩で息してやがる。


 あっぶねぇな、クソッタレが。熱くなって完全に魔法のこと忘れてたぜ。コイツ、戦闘魔法も使えんのかよ。手を翳しただけだったろ。詠唱がバカみてぇに速ぇ。


 俺も詳しかねぇが、魔法を詠唱するには精神集中ってのがいる。それが魔導師って奴の最大の弱点だ。

 威力が低い魔法ほど詠唱は短ぇらしいが、熟練の奴でも数秒かかる。高威力の魔法を操る奴でも集中している間は無防備だ。

 詠唱で魔導師の強さってのはバレる。俺の経験上、腕のいい奴ほど詠唱時間が短ぇし威力が高い魔法を放ちやがる。


 知ったことか…とでも言いそうな速さで魔法を放ちやがったな。この野郎はよ。


「コレも躱すなんて…さすがだな…」

「ちっとだけたまげたぜ」


 もしかすると…コイツの魔法は俺の想像以上かもしれねぇ。油断できねぇか。 


「まだだ…」

「なに?」


 ウォルトは再度掌を向けてくる。


『火炎』


「なんだとっ?!」


 まだ撃てんのかよ!しかも今度はさっきの魔法よかデケぇ!警戒していた分だけ余裕を持って躱した。


『火炎』


「テメェ、マジかよ!」


 動きを予測して躱した先にも連発で魔法をかましてきやがった。しかも、炎が更にデカくなってやがる。このままじゃ直撃は避けられねぇ!今度も体勢を気にしてる余裕はねぇ…!


「クソッタレが!」


 避けるために跳んだ次の瞬間…跳躍して脚をしならせるウォルトの姿が目に映った。


 ちっ…!予測してやがったのか…。魔法は囮。躱せねぇ…。


「ウラァァァッ!!」


 渾身の力を振り絞ったウォルトの回し蹴りを躱すことはできず、頭部に食らって意識を失った。



 ★



 目が覚めたらベッドで横になってた。傷は綺麗になくなってやがる。痛みも全くねぇ。


 目を閉じて溜息をつく。負けた…か。


 俺は決して甘く見たりしてねぇ。アイツが魔法を使えるのは知ってた。ただ、戦闘魔法を使えるのを知らなかっただけだ。

 戦闘魔法が危険なのは冒険で知ってる。ただ、そこらの魔導師相手なら集中してる間に決着がつく。もやしのくせに偉そうな口利きやがる野郎ばっかだ。

 数秒は無防備になっからぶん殴りゃいい。過去に負けたこともねぇし、負けるなんぞ考えたこともねぇ。


 アイツの魔法は…威力も詠唱の速さも段違いだった。あんな威力の魔法を、集中なしで詠唱してくるなんて誰も思わねぇ。


 ハナから魔法を使えば、あっという間に終いだったかもしれねぇのに、生意気に肉弾戦主体で挑んできやがった。『身体強化』を使っても力は俺の方が上だったのに…だ。


 俺の猛攻にも耐えやがった。力で勝ってる獣人に肉弾戦を挑まれて、殴り合いで倒せなかった時点で負け。魔法云々じゃなく、俺の獣人としてのプライド。


 アイツをサマラに会わせてやりたかったぜ。会って話しゃ気が済むかもしれねぇ。余計なお世話だろうが知ったことか。やりてぇようにやる。

 負けたら会いに行けっつって見事に負けちまった。闘いだしたらそんなことも忘れちまって、ただアイツに勝つことしか頭になかった。



「目が覚めたか?」


 いつの間にか部屋に入ってきたウォルトが、ベッドの横に置かれた椅子に座る。


「けっ…!『治癒』なんか使っても金払わねぇぞ!」


 コイツが魔法で治療したに決まってる。信じられねぇが、ぜってぇ口には出さねぇ!


「金なんかいらない。バカだな」


 呆れたように笑って否定もしやがらねぇ。


「お前の魔法は……いや…。なんでもねぇ…」


 危ねぇな。つい褒めそうになった。ぜってぇ言わねぇからな!


「水を置いておく」


 ベッドの横に置かれた小さなテーブルにコップが置かれる。


「ところで、サマラの件だけど…」

「わかってるよ!」


 不貞腐れたように吐き捨てた。負けるとは思ってなかった。けど負けた。


「ボクが会いに行く」


 ガバッ!と起き上がる。

 

「いいのかよ?」

「今日の勝負で『身体強化』以外使うつもりはなかった。それだけで勝つつもりだった。まだまだ修練が足りない。今日はよくて引き分けだ。それに…ボクがサマラに会いたくなったんだ…」


 背を向けるように寝転がって、気持ちを悟られないようデケェ声を出す。


「少し休んだら直ぐ行くぞ!いいな?!」

「あぁ。それでいい」


 …ちっ!世話のやける野郎だぜ…!

読んで頂きありがとうございます。

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