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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
169/706

169 狼の危機

暇潰しに読んでみて下さい。


( ^-^)_旦~

 フクーベギルドで最も勢いのあるAランク冒険者パーティーホライズンは、今日も高難度クエストに挑んでいた。


 クエストの内容は稀少な素材を採取して持ち帰るという単純な依頼。ホライズンが選択したクエストではなく、ギルドから逆指名された。正確には、採取を直接依頼されたのである。


 そうしてカネルラでも有数の難関ダンジョン【悪魔の鉄槌(セロニアス)】に潜ることになったホライズンは順調に攻略を進めていた。


 ダンジョン攻略を中断しての休憩中にメンバーの会話を聞いているのはホライズンの魔導師のマルソー。



「ところで、採って帰る素材ってのはなんだ?」


 休憩中にマードックが尋ねると、盗賊(シーフ)のシュラが呆れたように言う。


「ガルヴォルンって鋼だよ。何回も言わせんなっての。毎度とぼけやがって、人の話を聞けよ!」


 マードックはクエストに向かうとき依頼の内容を確認しない。そういったことは他のメンバーに任せて自分は戦闘に専念するためだと言い張るが、単に面倒くさがっているだけだ。


「偉そうな名前だな!ガハハッ!マルソー、お前は知ってんのか?」

「詳しく知らないがエルフが好んで使う素材らしいな」

「お前が知らねぇってことは珍しいんだろ。奥の階層にあんのか?」

「それもよくわからん。どうにも情報が少なくてな」


 事前に入手方法を調べてみたが、魔物を倒して入手するのか採掘するモノなのかすら不明。


「ギルドで確認したら依頼主から20階層付近にあると聞いたらしい。…が、それ以外の情報はない」

「ちょっと待てや。なんで採り方もわかってねぇのに俺らを指名してきたんだ?」


 マードックは深く物事を考えない脳筋だが、こういうとこは鋭い。


「テメェ…。なにか失礼なこと…」

「ギルドが言うには、この件は『断れない筋』から頼まれたらしい。俺達にやってもらいたいというギルマスの判断だ」

「断れない筋ってのはなんだ?」

「ギルドの財政支援者(パトロン)ってとこだろう」

「金持ちの道楽ってことか。まぁ、金さえちゃんと寄越せば俺には関係ねぇ」


 そう言いながらも、マードックの表情には不満が見てとれる。


「この件でソイツらに実力を見せれば、俺達のSランクへの道も開けるかも…ってことだよな?」

「シュラの言う通りだ」


 シュラの言葉にハルトも頷く。


「Sランクになるタメには、実力以外にも必要なモノがあるみたいだからな。クウジさんが気を使ってくれたんだろう」

「あん?他になにがいるってんだ?」

「簡単に言うとコネだ。Sランクになるには権力者に認められないと絶対上がれないらしい。『ギルドだけでは決められない仕組み』だとクウジさんが言っていた」

「ちっ…!くっだらねぇ。ソイツらを全員ぶん殴って認めさせるか」

「その考えは俺も嫌いじゃない。けど、今は悠長に話してる場合でもないな」


 休んでいた俺達の周囲に魔物が出現し始めた。


「さぁ、行くか」

「「「おぅ!」」」


 ハルトの号令で俺達は動き始める。




 その後も順調にダンジョンを攻略して、19階層に到達した。


 俺達が悪魔の鉄槌に来たのは初めてじゃないが、過去これほど深く潜ったことはなかった。既に未知の領域へと足を踏み入れている。

 このダンジョンは獣の楽園と違って、遙か昔に一度だけ踏破された記録が残されていて、記録によれば50階層が最下層とされる。

 ただし、その時は複数のパーティーが合同で踏破を達成したうえに、ちゃんとした攻略記録が残されていないため、記録自体が眉唾ではないかという噂もある。


「そろそろじゃねぇのか?おいシュラ。なんかありそうか?」

「隈なく調べてる…けどなにもない」


 まだ先なのか?それすら見当がつかない。だが、情報によると近付いているはずだ。


「仕方ないさ。俺達にとって初めての階層だ。ところで残りの体力と魔力はどうだ?」

「俺は全然イケるぜ」

「体力だけはあるからな!体力だけ!」

「うるせぇ!マルソーの魔力次第か」

「魔力に余裕はない。皆のおかげで温存できてるが、大きな怪我でもされると一気に厳しくなる」


 可能な限り魔法を使わずに来たが、往復で考えると残量は心許ない。魔力回復薬も残り少ない状況だ。


「…よし。今日は撤退しよう」


 ハルトは即決した。


「いいのかよ?期限とかは?」

「出来る限り早い方がいいとは言われてる。けど、無理なモノは無理だ。もっと準備を整えてまた来ればいいさ」


 ハルトは優秀なリーダー。頭の回転も速くて判断が的確。皆も全幅の信頼を置いている。だが、マードックが提案する。


「ハルト。あと1階層だけ進んでみねぇか」

「どうした?気になることでもあるのか?」

「ダンジョンは5階層区切りで大きく変わんだろ」


 多くのダンジョンは5階層毎に様相を変える。突然魔物が強力になったり、熱帯から寒冷へと変化したりすることもある。


「…そうだな。20階層まで行けば大きな変化があるかもしれない…か」

「無理にとは言わねぇ」


 唯我独尊のマードックも決断を待つ。しばらく思案したハルトが口を開く。


「わかった。20階層まで行こう。なにもなくてもそこで戻る。シュラとマルソーもいいか?」

「別にいいぜ」

「構わない」


 19階層の魔物を掃討した俺達は20階層へ続くと思われる通路を進む。


「シュラ。先頭変われや」

「はぁ?なんでだよ」

「疲れてんだろうが。見りゃわかる」

「くっ…。…頼んだ」


 この階層に到達するまでずっと斥候や索敵を行っているシュラは疲労の色が濃い。未知の階層を進むのだから当然だ。

 マードックも獣人ゆえに五感に優れているので、シュラほどではないが斥候能力は高い。



 ★



 シュラを後方の警戒に回らせて、先頭を歩くマードック。



 クソ長ぇ通路をしばらく進んで立ち止まる。


「どうしたんだよ?」

「音がするぜ…」


 ドドドドド!と地面が揺れるような音がする…。コイツらには聞こえねぇか。徐々に…音がデカくなってやがる。


「なんかヤベえ!走って戻れ!」


 俺の声に素早く反応した3人は、身を翻して駆け出す。俺は最後尾を駆ける。

 

 振り返ると、ドン!ドン!と分厚い壁がせり上がって通路を塞いでやがる。せり上がるっつうか、地面から壁が飛び出してんな。塞がれるのも一瞬。飛び出す壁は俺らの直ぐ後ろまできやがった。


 ちっ…!このままじゃ壁の間に閉じ込められちまう!


 気合い入れてスピードを上げる。シュラとハルトは先に通路から脱出してやがんな。あとはマルソーだけ。『身体強化』を使って駆けてっけど、足おっせぇなコイツ。


「マルソー!もっと速く走れや!」

「無茶言うな…!コレが限界だっ…!」


 出口は目の前だ。けど、壁も直ぐ後ろだ。全力で駆けりゃ俺は間に合う。けど、マルソーはぜってぇ間に合わねぇ。

 ちっ…!マルソーを抱えて駆けっか?そうなると、最悪2人とも閉じ込められちまうかもしれねぇ。…しゃあねぇな!


 横に並んでマルソーのほっせぇ腕を掴む。


「オラァァッ!!ハルト、受け取れやっ!」

「うわぁぁぁっ!」


 マルソーを出口に向かってぶん投げたら、勢いよく飛び出したマルソーをハルトが受け止めた。


「…ちっ」


 投げるのに一瞬止まっちまった。直ぐそこまで迫ってやがる。


「「「マードック!」」」


 さすがに間に合わねぇな。コレだけ言っとくか。


「壁を壊すのが無理だと思ったら、すぐサマラに伝えろ!いいなっ!」


 直後、俺の目の前を壁が塞いだ。



 ★



 いつも冷静沈着なマルソーは久しぶりに焦っている。


 出口を目前にしながら、マードックが俺を助けて通路に閉じ込められてしまった。すぐさま3人で壁を壊そうと試みる。

 衝撃を与えても魔法を放ってもビクともしない。しかも、マードックが閉じ込められたのは壁2枚で隔てられた向こう側。呼びかけても聞こえるはずもない。


「くそっ!硬すぎる!ただの壁じゃないのかっ!?」

「『破砕』でも傷も付かない!」

「待ってろ!解除できないか仕掛けを探す!」


 その後もあらゆる手を尽くすが、策が見つからない。ハルトが決断する。


「このままじゃ埒があかない。一旦ダンジョンを脱出するぞ」

「見捨てんのかよ!」

「違う。ギルドに応援を呼びに行く。この壁を壊す方法も探らなきゃならない。時間が経つほど空気も薄くなってマードックの命も危ない」

「賢明な判断だ。急ぐぞ!」


 俺達は駆け出した。迫り来る魔物達を文字通り蹴散らしながら戻っていく。来るときとは違い魔力も体力も全開で飛ばす。息を切らし、傷を負いながらもダンジョンを脱出した。荒くなった呼吸を整える。


「俺とマルソーはギルドに戻って応援を呼ぶ。シュラはフクーベに着いたら直ぐにサマラちゃんのところへ向かってくれ」

「なんでだよ!?俺も行く!」

「冷静になれ。マードックの言葉を思い出すんだ。「無理なら直ぐにサマラに伝えろ」と言ってた。非常時に備えてなにか伝えてあるのかもしれない」

「俺もそう思う。なんの意味もなくあんなことを言う奴じゃない。サマラちゃんのところに行くならシュラが一番速い。そのあとギルドで合流だ」

「…わかった!」


 俺達はフクーベに向かって駆け出した。




 フクーベに着いて直ぐ二手に分かれてそれぞれの目的地を目指す。俺とハルトはギルドへ、シュラはサマラちゃんに会うためマードックの家に向かった。


「クウジさんはいないか!?至急伝えたいことがある!」


 ギルドに駆け込んで息を切らしたハルトが受付嬢に尋ねると、ただ事ではないと察したのか素早く対応してくれた。直ぐにギルドマスターのクウジさんが姿を現す。


「ハルト!どうした!?」

「ダンジョンでマードックが閉じ込められた!すまないが応援を頼む!それと、あのダンジョンの罠について記録を調べたい!」

「わかった!ちょっと待ってろ!」


 クウジさんは即座に受付嬢に指示を出す。頷いた受付嬢は急いで奥に向かった。


「すぐ行けそうな冒険者を探すからしばらく待て。回復薬その他諸々も準備させる。あと罠と言ったな。マルソー、過去の攻略記録を見せるから付いてこい」

「ありがとうございます」


 クウジさんの後を追って資料室へ向かう。



 ★



 ハルトは息を整える。


 罠の解除についてはマルソーに任せよう。シュラは…直ぐに辿り着くはずだ。


 気が緩んで倒れそうになる。ギルドにいた冒険者達が駆け寄って支えてくれた。


「ハルトさん!大丈夫ですか!?」

「『治癒』」

「俺も!『治癒』」

「私も!『治癒』」


 皆が回復魔法をかけてくれて、少しずつ疲労が回復していく。


「すまない。恩に着るよ」

「いつもお世話になってるんですから、気にしないでください!」

「そうですよ!これくらいで大袈裟です。たまには恩返しさせてください!」

「ありがとう。かなり楽になった。もう大丈夫だ」

「俺達じゃ、これくらいしかできないけど」

「マードックさんの無事を祈ってます」


 後輩冒険者の声援に奮い立つ。だが、はやる気持ちを抑えて心を落ち着かせた。冷静に…だ。

 罠の解除方法を探ったり、援護してもらえる人員を確保するのも重要だが、サマラちゃんに会うのが最優先。なぜかそう思える。


 マードックが念押しするように伝えた言葉だ。なにかしら意味があるはず。アイツの性格からして別れの言葉という意味では絶対にない。


 シュラ、頼んだぞ。

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