166 仕事をするなら
暇なら読んでみて下さい。
( ^-^)_旦~
手合わせを終えると、ウォルトは全員に朝食を作った。
「修練のあとの朝食は格別だよね。美味し過ぎる」
「だよね!美味し過ぎ!いくらでも食べれそう♪」
「アニカはなにもしてないだろ?髪の毛爆発させたまま見てただけのくせに」
「うっさいな!へなちょこオーレン!」
「なんだとぉ~!」
みんな朝から元気でいいことだ。食事を終えて、花茶を飲みながらまったりしているウイカに訊いてみよう。
「ウイカ、ちょっと訊いてもいいかな?」
しんと静まって視線がボクに集まる。
「身構えなくていいよ。しばらくフクーベで働くの?」
「はい。アニカ達の家でお世話になる間の家賃とか食費を働いて稼ぎたいと思ってます」
「気にしなくていいのに!」
「1人増えても大して変わらないって」
アニカとオーレンは口を揃えた。
「私なりに考えた結論なの。なにもできなかった頃とは違うんだから甘やかしちゃダメだよ」
「別に甘やかしてないよ?」
「そうだぞ。アニカの食い扶持を減らせば余裕だ」
「うるさい!雑魚オーレンが出ていけばいいんだ!」
「誰が雑魚だ!…って、ウォルトさん…?」
なるほど…。街に住むのは初めてなのに、ちゃんと働くことを考えてて偉いな…。
「『そうだニャ…』って顔で思案してるな」
「真剣だね」
「なにを言うつもりなんだろ?」
…よし。言っておこう。
「仕事が見つからなかったら、ココにしばらく住んで構わないよ」
「甘えるからダメですって!皆お金を稼ぎながら頑張ってます。私もやらなきゃいけないんです。とても魅力的なお誘いですけど」
やっぱり余計なお世話だったか。
「クローセでも別に遊んでたワケじゃないだろ。村の皆が知ってるぞ」
「そうだよ!気にしすぎだよ!」
「ありがと。でも仕事をしたいの。稼いだお金でお父さん達にプレゼントをあげたいと思ってて。今まで心配かけたから」
「気にしなくていいと思うな~」
「いい考えかもな。アニカからは一言も聞いたことないけど」
「やかましい!」
そこまでウイカが考えているなら止める理由はない。
「よし!お姉ちゃんの仕事探しは私も手伝うからね!」
「もちろん俺もな!」
「ありがとう。私になにができそうか意見を聞きたかったの」
アニカとオーレンは顎に手を当てながら考えてる。
「お姉ちゃんは、優しいし美人だから接客とか向いて……いや、変な虫がまとわりつくからダメだ!」
「そんなことないよ」
「いや!俺も反対だ!…となると力仕事…は難しいな。受付の仕事なんかいいかもな」
「私にできるかな?」
「あと服屋さんのモデルとか…!いや、それだと変な虫が…」
「付かないってば」
意見を交わすもののどれもピンときてないっぽい。2人はウイカに過保護な気がするけど違うのかな。ちょっと意見させてもらおう。
「急いで探さなくていいんじゃないかな。ボクは一度しか仕事に就いたことないから偉そうに言えないけど」
「ウォルトさんはどんな仕事をしてたんですか?」
「力仕事だよ。獣人に求められる仕事量をこなせなくてすぐクビになったけど」
「それはどこの店ですか…?店の名前を教えて下さい…」
アニカが光のない漆黒の瞳で呟く。店を燃やしにいきそうな雰囲気だ。
「昔の話だからね。なにが言いたいかというと、自分に合ってない仕事は辛くて長く続かない。決めるのは急がなくいいと思うんだ」
「焦らず決めたいと思います。ちなみに、ウォルトさんはこんな仕事をしてみたいとかありますか?」
「そうだね…。もしなれるなら農家かモノづくりの職人…それか料理人だね」
「どれもウォルトさんなら余裕でなれます!むしろ、気付かない内になってる可能性すらありますね!」
「知らずにはさすがにないよ。それと、もう1つあるよ」
「なんですか?」
「皆にはちょっと言い辛いけど…冒険者になってみたい」
「「「えっ!?」」」
「驚くよね。マードックみたいにゴツい獣人ならともかく、ボクみたいな獣人じゃ無理だってわかってるんだけどね」
ある程度は自由でクエストもやり甲斐がありそうだ。マードックと行った『獣の楽園』や、オーレン達と行ったダンジョンで充実感を味わったのも理由の1つ。
★
ウイカは驚いた。
ウォルトさんが冒険者になりたいと思ってたなんてもちろん知らなかった。アニカとオーレンも驚いてくるくらいだから、きっと心に秘めてたんだ。
『恥ずかしいニャ~』って顔して、照れを隠すようにお茶をすすってるけど、動揺してるのか上手くすすれてないのが可愛い。
「ウォルトさん!!」
アニカが急に大きな声をあげた。ウォルトさんはすすっていたお茶を「ごふっ…!」と吹き出して耳がパタンと閉じる。耳伏せ猫、可愛い。
「ビックリするだろ!いきなりデカい声出すなよ!鼓膜が破れるかと思った…。耳鳴りがする…」
「黙れ!ウォルトさんは冒険者になってみたいんですか!?」
鬼気迫る勢いのアニカに、ウォルトさんは吹き出してしまったお茶を拭き取りながら答える。
「なってみたいというか……皆と一緒にクローセのダンジョンに行ったときも楽しかったからで、理由が不純なんだ」
「理由なんてなんでもいいです!…ということは、いつか私達とパーティーを組む可能性がなきにしもあらずってことですよね!?」
「冒険者になったとして、誰もパーティーなんか組んでくれないだろうし、単独でやると思うよ。薬草採取とか鉱石集めとかばかりやるんじゃないかな」
もっと凄いことができそうなのに、謙虚な人だなぁ。
「ウォルトさん!約束してもらいたいんです!」
「なにを?」
「もしウォルトさんが本気で冒険者になりたいと思ったら、その時は私達の【森の白猫】に加入して下さい!お願いします!」
アニカは頭を下げる。オーレンも立ち上がって同じように頭を下げた。
「俺からもお願いします!なってもいいと思ったらで構いません!その時は…約束した通り俺達がウォルトさんに楽しい冒険をプレゼントします!」
腰を折って頭を下げたまま動かない。ウォルトさんは驚いた表情を崩して微笑んだ。
「ありがとう。その時は2人のパーティーに入れてもらうよ」
「やったぁ~!!!」
「よぉぉっし!!アニカ、よかったな!」
抱き合って喜ぶオーレンとアニカを見て、ウォルトさんは苦笑い。気になるから訊いてみよう。
「反応に困ってますか?」
「少しだけ。誘ってもらえると思ってなかったんだ。でも、自分を認めてもらえた気がして嬉しいね。2人は社交辞令で言っているワケじゃないこともわかるから」
「私にもわかる気がします」
「その時は全力で頑張るから、すぐにクビにしないでくれると助かるよ」
「しませんから!オーレンはクビにしてもウォルトさんはあり得ません!」
「俺もです!アニカをクビにします!」
「なんだとぉ!?」
「なんだよ!」
口調は怒ってるけど顔はだらしないくらい笑ってる。2人とも嬉しくて仕方ないよね。
…………言っちゃえ!
「はい!」
「はい!お姉ちゃん、どうぞ!」
「私も……【森の白猫】に加入したい!」
「「えぇっ!!」」
「ダメかな…?」
「ダメじゃないよ!私は嬉しいけど…危険だよ?」
珍しくアニカが困惑してる。
「そうだぞ。勢いでしょう言ってんじゃないか?俺達もウォルトさんに助けられたから運よく生き残ったけど、この世にいなかったかもしれないんだ。そんな目に遭ってもいいのか?」
オーレンは真剣な表情。私のことを心配して言ってくれてるんだよね。
「もちろん死にたくないよ。でも、治癒師になるなら冒険者のことも知っておいたほうがいいだろうし、色々な経験したほうが実になるよね。それに……体調が悪かった頃から憧れはあったの…。自分には無理だって諦めてたけど………オーレンとアニカが冒険者になるって聞いて羨ましかった…」
カネルラや世界を飛び回る冒険者になれたら、どんなに楽しいだろう…って憧れてた。ベッドの上でそんな自分を想像したりして。あの頃は、叶わない願いでただの妄想だったけど今は違う。
「そうだったんだね…。でも、お父さん達が許してくれるかな?娘が2人とも冒険者って」
「許可はもらってるよ。冒険者でもなんでも好きにやってみろって」
「治癒師になるタメの修行と思えばありかもな。ただし、安全な冒険なんてないから覚悟はいるぞ」
「わかってる…。それでも…私は冒険者になってみたい!」
力強く前を見据えて告げた。
「ウイカの気持ちはわかった。でも、自分が冒険者に向かないと思ったり辛いと思ったら正直に教えてくれ。それと、絶対に無理はしないって約束してくれ」
「約束する。無理と思ったすぐ教える」
「お姉ちゃん!そうと決まれば一緒に冒険しよう!魔物に襲われても足が遅い奴がやられるから大丈夫だからね♪」
「俺かっ?!間違いなく俺のことだな!?」
「他にいないっしょ」
騒ぐオーレン達を横目に、ウォルトさんがそっと呟く。
「ウイカ。外で修練してるときに教えたけど…」
「住み家の裏にある墓地のことですね」
私は起きて直ぐに住み家の近くを散策した。並んでいるお墓について、ウォルトさんから静かに眠る冒険者達のことを教えてもらった。冒険は常に死と隣り合わせだって。
「それだけは忘れないでほしい。後悔しない?」
「しません」
コクリと頷く。
「わかった。ボクはウイカを応援する。なにかあったらいつでもココに来ていいよ」
「はい!よろしくお願いします!」
こうして【森の白猫】は新たなパーティーメンバーを迎え入れた。そして、ギルドで色々な意味で注目されることになる。
読んでいただきありがとうございます。