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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
165/706

165 新たな事実

「…うっ。眩しい…」


 部屋に差し込む朝日で目を覚ましたオーレン。


 隣のベッドに目をやると、ウォルトさんの姿はなかった。欠伸をしながら起き上がって、居間に移動しても姿はない。台所を覗いても見当たらない。

 働かない頭でどこへ行ったのかと思案していると、家の外から微かに話し声が聞こえる。

 外に出て目にしたのは、魔法の修練をするウイカと見守るウォルトさんの姿。どうやら昨日の復習をしているようだった。



「もう完全に『治癒』は覚えてる。あとはひたすら修練すれば大丈夫だよ」

「ありがとうございます!」


 何時から修練してるのか知らないけど2人とも凄いな。俺は朝弱いからなぁ…なんて言い訳しながら歩み寄って声をかけた。


「おはようございます。早いですね」

「おはよう。ウイカと同じくらいに起きて、修練するって言うから手伝いたいと思ってね」

「早起きして修練するのが日課なの。この森はクローセと同じくらい空気が澄んでて気持ちいい」


 ウイカは目を閉じて、大きく息を吸い込んだ。


「修練するのはいいけど、クローセと違って柵もないし魔物や獣が出るからな。なにかあったらすぐ家に入らなきゃダメだぞ」


 ウォルトさんとの修練中にも何度か出くわしたことがある。まぁ、ウォルトさんがいれば心配することはないけど、一応言っておかないとな。


「ありがと。多少なら大丈夫だよ」


 ウイカがフクーベに着いたばかりのときにも聞いた台詞だ。さすがに大丈夫じゃないと思う。


「ウイカの魔法じゃまだ魔物を倒すのは厳しいと思うぞ」

「そうじゃなくてね…」


 ウォルトさんが口を開く。


「オーレン。寝起きに悪いんだけど、よかったらウイカと軽く手合わせしてみてくれないか?」

「俺が…ですか?ウイカと?」


 言いたいことが理解できない。なんでいきなり…?


「それでわかってもらえるんじゃないかな。きっと見た方が早い。組手でお願いできる?」

「別にいいですけど…」

「ウイカもいいかな?」

「もちろんです!」


 どういう意図があるか知らないけど、ウォルトさんは冗談でそんな提案をする人じゃない。意味があるはずだから言われた通り準備する。


 5、6歩離れて笑顔のウイカと向かい合う。身構えることもなくニコニコして自然に立ったままだし、俺も拳を構えたりしない。

 ウイカと手合わせなんて考えたこともなかったけど、一体ウォルトさんはなにを考えてるんだ?


「じゃあ、お互い準備はいいかい?」

「はい!」

「俺も大丈夫です」

「では、手合わせ始め」


 声がかかるや否やウイカが接近してくる。驚く暇もなくあっという間に懐に入り込まれた。拳を握り締めているのが目に入る。


 ヤバいっ…!


「やぁっ!」

「くっ…!」


 懐から顎を狙ってきた拳を辛うじて躱す。拳の風切る音が耳に届く。飛び退いて距離をとった。体勢を立て直してウイカを見ると、変わらず笑顔で拳を構えている。


「やっぱり冒険者には通用しないよね。オーレンは強いなぁ」

「そりゃあ…な…」


 内心驚きで言葉が見つからない。なんだ今の速さは…?軽く混乱していると、ウイカは笑顔で驚くべき言葉を発した。


「じゃあ次は全力でいくね」


 さっきより速く間合いを詰めてくる。今度は、躱しにくいボディーブローを繰り出してきた。完全にガードが遅れてしまう。


「やぁっ!」

「ぐふぅっ!」


 鳩尾を殴られて身体がくの字に折れ曲がる。


「やったぁ!オーレンに当たった!」


 ウイカは喜ぶ。


「かはっ…!かっ…!」


 急所への見事な一撃で声が出ない。可愛い掛け声とは真逆の強力な打撃。いくら身体を鍛えてるといってもこれほどの威力とは想像もしてなかった。


 苦しんでいると、ウォルトさんが歩み寄ってゆっくり背中をさすってくれる。


「大丈夫かい?」

「…なんとか大丈夫です」

「わかってもらえたと思うけど、ウイカはそこらの魔物より強い。ボクもさっき手合わせして気付いたんだ」


 遠くから大きな声が耳に飛び込んできた。


「あぁ~!私抜きで楽しそうなことしてる!ずるいっ!」


 しっかり寝癖をこさえたままのアニカが走ってきた。逆立ちして寝てたのかと疑うくらい、怒髪天を衝いてる。


「アニカ、聞いて!オーレンが手合わせしてくれて私の攻撃が当たったんだよ!」

「えぇ~!?お姉ちゃん、凄いねっ!」


 手を取り合って喜ぶ姉妹を見ながら、やっと痛みが落ち着いてきた。


「ウォルトさん…。ウイカの力って…もしかして」

「『身体強化』だね。アニカにクローセで教わったことを覚えてて、ホーマさんと一緒に試行錯誤して習得したらしい。クローセでは外での鍛練ついでに遭遇した魔物を内緒で倒してたみたいだ」

「ホーマおじさんと…。2人とも使えなかったはずなのに、手探りで魔法を…」


 アニカから聞いたといっても、あの時のウイカはまともに魔法を操れなかった。それなのに覚えていた知識だけで…。そんなことできるのか…?


「ホーマさんもウイカも凄い魔法使いだ。ボクは心から尊敬する」


 男に絡まれていたときに、ウイカが言っていた「ちょっとくらいなら大丈夫」の意味が理解できた。確かに普通の男では太刀打ちできない。けど、普通の男なら…だ。


「ウイカ。もう少しだけ俺と手合わせしないか?」

「いいの?私からお願いしたいくらいだけど、大丈夫?」

「さっきくらいの打撃ならいつも冒険で受けてるから心配いらない。それに『身体強化』の修練になるだろ?」

「ありがとう。お願いします」

「…よし!どんとこい!」



 油断なしの状態で手合わせは始まった。


「なんのっ!おらぁ!」

「ふぅっ!てぃっ!」

「そこだっ!お姉ちゃん、イケるよ!」


 再び組手で手合わせする。アニカはウイカの応援。俺も格闘は得意じゃないけど、剣を使えない非常事態に陥った場合も考えて多少の修行は積んでる。


 それでも『身体強化』を操るウイカは強い。格闘術とは無縁で、ただのケンカ殺法なのに動きが速くて打撃が重い。


「おらぁぁっ!」

「はっ!おりゃ!」


 俺の攻撃は、躱されたり当たっても魔法の効果なのかさほど効いてない。本気で殴れないという理由もあるけど。

 一緒に走ったときに思った通り、体力もあるから中々バテそうにないし、格闘技術より体力の差で少しずつ劣勢になって押し込まれる。疲れて俺の動きが鈍ったのをウイカは見逃さなかった。


「うりゃっ!」

「ぐふっ…!かはっ…!」

「コレで決まりかも~!」


 ウイカの拳が再び鳩尾を捉えて今度は立っていられず膝をついた。


「そこまで!」


 ウォルトさんの声が上がって、ウイカとの手合わせは終わった。立ち上がれないでいる俺に向かってウイカが微笑んだ。


「私を本気で殴れないんだよね?手加減してくれてありがとう。凄く勉強になったよ。魔法も上達できたと思う」

「どういたしまして…」


 返答するのが精一杯だ。いってぇ…。


「ちょっと待ってね」


 ウイカは俺の胸の辺りに手を翳して、覚えたての『治癒』を使ってくれた。ほんの少しだけど身体の痛みが和らぐ。昨日覚えたばかりの魔法を難なく発動させるウイカの凄さになにも言えない。


「鍛え方が足りないぞ!格闘は素人のお姉ちゃんに負けて悔しくないのか!」


 アニカが揶揄うように声をかけてきた。揶揄うというより、パーティーメンバーとして俺の不甲斐なさに腹が立ってるように聞こえる。


「…言われなくてもわかってるよ」


 静かに決意する。


 もっと、死に物狂いで修練して強くなる。男なら…アニカやウイカを守れるようにならなきゃダメだ。

 魔法の力は確かに凄い。溜息が出るほどに。けど、冒険者には魔法を使えなくとも凄まじい強さを誇る者がいる。いずれ、そんな人達と肩を並べる存在に俺はなりたい。

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