163 寝床を巡る攻防
オーレンとウォルトも入浴を終えて、どっぷり夜も更けた頃。あとは寝るだけという状況でウォルトが確認する。
「皆は一緒に寝るの?ウイカが来るって聞いたからベッドを作っておいたけど」
「私のタメにわざわざベッドを作ってくれたんですか?!」
「そうだけど、驚くようなことかな?見てみる?」
「「「見たいです!」」」
「そんなに立派なモノじゃないよ?」
本当に大したモノじゃない。皆をボクの部屋に案内する。
「こっちがウォルトさんが使ってるベッドですか?」
「そうだよ。古いけど愛着があるんだ」
「…ということは、隣の重厚感のあるベッドが作ったほうですよね?」
「しっかりした造りです!」
「寄せ集めの木材を魔法で接着して作ったから、カラフルな色合いなんだけどね。脚に模様だけ彫ってみたんだ。どうかな?」
「売り物みたいです!」
「味があっていい感じです。家具屋顔負けで俺なら買いますよ」
「ウォルトさんは器用ですね。こんな大きなモノを作れるなんて」
「楽しかったよ」
モノづくりが大好きなので満足できた。…とオーレンから疑問が。
「初めからあっちの部屋で作ったほうが楽だったんじゃ?」
「オーレンはボクの部屋で寝るかもと思って。持っていくのは簡単だから心配いらないよ」
「かなり重そうですけど、どうやるんですか?」
「こうやると…『無重力』」
ベッドに付与して、ウイカとアニカにお願いする。
「アニカとウイカで持ってみて。軽いよ」
「ホントですか?お姉ちゃん、反対側持って!」
「うん。せ~のっ…はいっ!」
かけ声とともにベッドを軽々持ち上げた。
「軽っ!」
「ビックリしたぁ!これなら私達でも運べるね!」
「持っていって構わないよ」
ベッドをそっと置き直した姉妹は、目で合図をして互いに頷いた。
「あの…アニカと一緒にあっちの部屋からベッドを1つ持ってきてもいいですか?」
「別に構わないけど」
「なんでウォルトさんを向こうの部屋で寝せようとしてるんだよ!おかしいだろ!」
オーレンは声を荒げてるけど、ボクとしては別にどっちの部屋で寝ても構わない。アニカが呆れたように言い放つ。
「なに言ってんの?」
「あん?」
「私達はウォルトさんと寝る!アンタが向こうに1人で寝るんだよ!」
「なっ…なに言ってんだよ!ダメに決まってるだろ!なぁ、ウイカ!」
ウイカは全く信用のないジト目でオーレンを見つめてる…。とりあえずよくないな。
「アニカ。ボクらが一緒に寝るのはさすがにダメだよ」
「ほら!ウォルトさんも困ってるだろ!だいたいなんでウォルトさんと寝るんだよ?」
「オーレンは信用できない!ウォルトさんは信用できる!以上!」
「はぁ~!?」
長く一緒に暮らしてるオーレンより、ボクが信用できるなんておかしい。ワケがわからないけど引き続きアニカが訴える。
「ウォルトさん!オーレンは昨日私達のお風呂を覗いたんです!ちゃんと覗かないよう釘を刺したのに!信用できない輩と同じ部屋で寝たくないです!」
「ぐっ…!それはっ…!」
実際は覗く前に鉄拳制裁を受けたので、正確な事実ではない。けれど、嘘ではないだけにオーレンも言葉に詰まる。
「オーレン。女性のお風呂を覗くのはよくないよ」
「はい…」
「そういうことなら、アニカ達はこの部屋で寝ていいよ」
「ホントですか!」
姉妹はパッ!と表情を輝かせる。
「ボクは向こうで寝るから」
「「えっ!?」」
「覗きを許してほしいとは言えないけど、魔が差したのかもしれない。オーレンは男だからね。今日はボクが一緒に寝る」
「師匠…。さすがです。覗きは男のロマンですよね」
「ボクにとってはロマンじゃないよ」
ボクにとってのロマンは、世界の解明されてない事象や謎について考察すること。憧れの獣人フィガロの一生のように。
なぜかウイカ達は引き下がらない。
「絶対ダメです!オーレンと寝るのはやめた方がいいです!」
「えっ?なんで?」
「ウォルトさんの身が危険です!オーレンは相手は誰でもいい雑食で、男も女も関係ないド変態ですから!」
「ふざけんな!とんでもない嘘つくなよ!」
変態扱いされて憤慨するオーレン。
「じゃあこうしよう。ウイカとアニカは客人用の部屋で寝る。オーレンはボクの部屋で。ボクは居間で寝るよ」
「そんな…!俺のせいで申し訳ないです!せめて一緒に寝ましょう!」
「大丈夫だよ。ベッドも簡単に動かせるからね。それに、アニカやウイカもボクと同じ部屋で寝るのは気を使うだろうし、こうすればアニカの言う心配もなくなるから一石二鳥だ」
「ウォルトさん…。もしかして…俺がド変態っていうのをちょっと信じてますか…?」
「…そんなことないよ」
「違いますからねっ!俺は女の子が好きなんです!」
ボクもそう思ってる……よ。
「私達は気にしません!」
「ウォルトさんと同じ部屋がいいです」
姉妹は笑顔で訴えるけどボクも引けない。
「それでもダメだよ。アーネスさん達はボクを信じてくれてると思う。信用を裏切るようなことをしたくないんだ」
さっきウイカから聞いたばかり。アーネスさんとウィーさんは、「魔法の修練でウイカを預けるならウォルトがいい」と言ってくれたと。万が一にも誤解を招くようなことをしたくないんだ。
「わかりました…」
「諦めます…」
ガックリと項垂れる姉妹に近づいて優しく頭を撫でる。
「信用してくれるのは嬉しいけど、ボクだって男なんだ。魔が差さないとは言い切れない。2人は魅力的な女性だから」
ボクから見ても美人だし可愛い。口には出さないけど、ドキッとさせられることもある。
「「ホントですか?!」」
顔を上げて目を輝かせた。ズイッ!ズズイッ!と詰め寄ってくる。
「う、うん。ボクはお世辞は言わない」
「お姉ちゃん!ウォルトさんに迷惑かけちゃいけない!向こうで寝よう♪」
「そうだね♪」
姉妹はウキウキした様子で部屋に向かう。
「なんで急にご機嫌になったんだろう…?」
「ウォルトさんは噓を吐かないからですよ」
「え?どういう意味?」
「そのままの意味です」
「よくわからないけど、とりあえずホッとしたよ。オーレンはどうする?」
「一緒に寝てもいいですか?」
「もちろん」
ボクとオーレンは出会ってから初めて男同士で寝ることになった。