161 姉妹水入らず その2
それぞれにいい汗をかきながら修練を続けた4人。
ウォルトは風が涼しさを増して陽が落ちてきたことに気付く。お腹も空いてきた頃。
「今日はこのくらいにして、そろそろ夕食にしよう。住み家に戻ろうか」
「そうしましょう!晩ご飯はなにかなぁ~?!」
アニカを見て呆れたようにオーレンが呟く。
「お前は食いしん坊すぎだろ」
「…あっそう。ウォルトさん!オーレンは晩ご飯いらないそうです!」
「えっ!?そうなのか…。残念だなぁ…」
料理作りたい獣人のボクはガッカリしてしまう。1人分減るのか…。
「なんでそうなるんだよ!そんなこと一言も言ってないだろ!嘘ですから!めちゃくちゃ食べます!いい加減にしろよ、アニカ!」
「フン!」と、アニカはそっぽを向く。
「仲良くしようよ。オーレンもアニカもウォルトさんを困らせちゃダメだよ。ケンカするならあとで…ね」
ニコリと笑ってウイカさんが諫める。
「うっ…。ごめんなさい…」
「俺も…騒いですいません…」
「気にしてないよ。さぁ、戻ろう」
3人の関係性を目にして、ウイカさんはやっぱり姉なんだと実感する。兄弟がいないボクは、優しい姉がいることを少しだけ羨ましく思えた。
「ごちそうさまでした。すっごく美味しかったです。動けません…」
「私もです!ごちそうさまでした!」
「だから、俺の分……」
満足そうな姉妹と不完全燃焼の幼馴染み。でも、今回は大丈夫。
「オーレンの分は残してあるから心配しなくていいよ」
さっきの食事で姉妹の胃袋の許容範囲をつかんだ。ウイカさんがボクの予想を上回る食べっぷりだったから、オーレンには悪いことをしてしまった。ちゃんと予測できるよう反省しなきゃ。前回を教訓として今回はオーレンのお代わり分を残すことに成功した。
「ありがとうございます!」
「沢山食べてくれると嬉しいよ」
お腹をさすりながらアニカがニヤリと笑う。
「ウォルトさん…。オーレン…」
「なんだい?」
「なんだよ?」
「私の胃袋はまだまだ成長期ですよ…」
「私もアニカと同じです」
「「なっ…!?」」
…コレからも油断できないな。
★
のんびりお茶を飲みながら会話して、お腹を落ち着かせたアニカ。
食後にお姉ちゃんと一緒となればアレしかない!
「お姉ちゃん!そろそろお風呂に行こう!ウォルトさん、いいですか!?」
「もちろん。準備するからちょっと待ってて」
お風呂の準備に向かうウォルトさんを見送って、入浴の準備をするタメに姉妹で部屋へと向かう。
「ねぇ、アニカ」
「なに?」
「ウォルトさんにお世話になりっぱなしだけど、いいのかな…?至れり尽くせりで申し訳なくて…」
お姉ちゃんの気持ちはわかる。
「私も最初はそう思ってた!けど、遠慮しちゃダメだよ!無類のもてなし好きだから堂々とお願いしたほうが喜んでくれる!ご飯も「食べるより作る方が嬉しい」って本人が言ってるから、喜んでもらえる方を選んでる!」
「そうなんだね。凄いなぁ」
「普通の感覚だったら有り得ないけど、実際そうなの!」
準備を終えてお風呂へと向かう。ちょうどウォルトさんが出てきたところだった。
「お湯沸いたよ。ごゆっくり」
「ありがとうございます!」
脱衣所に入ったお姉ちゃんは、中の明るさに驚いてるみたい。わかるよぉ~。
「夜なのに凄く明るい…。コレも魔法?」
「ウォルトさんが『発光』の魔法で明るくしてくれてる!すっごく便利なんだけど、結構難しくて修練しても長時間持続しないんだよね~!」
「そっかぁ。…あっ、内鍵もあるんだ。かけとく?」
「大丈夫!ウォルトさんは絶対覗いたりしないし、オーレンも覗いたりできないから!」
「ウォルトさんがいなかったら?」
「間違いなく覗きに来る!アイツはそのタメに生きてると言っても過言じゃない!」
「さすがに過言でしょ」
私は次々服を脱いであっという間に裸になった。お姉ちゃんもいそいそと脱ぎ終えて仲良く浴室へ向かう。
「木の香りがして、凄くいいお風呂…」
「だよね!ココのお風呂大好きなんだ♪」
疲れを流すように身体は洗い終えて、浴槽に浸かる。私達の住居より大きな浴槽は、2人でも余裕で浸かれる広さ。ウォルトさんの師匠のこだわりらしい。
「ねぇ。お姉ちゃんはウォルトさんの魔法を見てどう思った?」
「びっくりした。クローセで『幻視』を見たときは気付かなかったけど、ウォルトさんはもの凄い魔法使いだね。あんな詠唱できる気がしない」
今のお姉ちゃんならわかるよね。ウォルトさんの魔法の本当の凄さは、同じ魔法使いにしかわからないと思う。
「アレで軽くだからね!ウォルトさんに魔法を教えてもらえる私達はホントに幸運なんだよ!教えるのもめちゃくちゃ上手いし、あんな凄い魔法を使える人は他にいない!少なくとも、私が冒険者になってからは出会ったことない!」
「ホーマおじさんもウォルトさんは別格だって言ってた。カネルラで並ぶ者はいない魔導師なのに人格も素晴らしいって。普通あり得ないんだって」
そうなんだよね。魔導師が惜しみなく魔法を教えてくれること自体あり得ないらしい。教えてもらうタメには、弟子になって奉仕したりお金を払うのも普通だって聞く。
「さすが大魔導師ホーマ師匠はわかってるよね~!今度帰ったら畑仕事を手伝わなきゃ!」
「そうだね。今日の『治癒』も凄かったなぁ…。ウォルトさんって天才なのかな?」
「それがねぇ~、魔法の適性は私やオーレンより下みたい!信じられないけどウォルトさんが言うから本当だよ!」
「えっ!?そうなんだ…。信じ難いけど、そうだとしたら尚更すごいね」
笑コクリと頷く。
「ウォルトさんはきっと努力の天才なんだよ!!普通の人には絶対できないくらいの努力をしてるはず!!だからめちゃくちゃ尊敬してる!!」
「ホントだね。私もそう思う」
★
居間に残ってオーレンとお茶を飲むウォルトは困っていた。
参ったな…。オーレンには聞こえてないみたいだけど、所々大きくなるアニカの声がボクの耳に届いてしまった。努力をストレートに褒められて、嬉しいやら恥ずかしいやら。
今は話を聞かないように聴覚を鈍くしたけど、お茶をすすりながら平静を装う。
「ウォルトさん。なんかいいコトありました?」
顔に出てたのか…。
「いいコトというか…こういうのに慣れてなくて」
「こういうのって?」
「なんでもないよ」
「耳がピコピコ動いてますよ」
「…ついね」
耳が動いているのは無意識。褒められるとどう反応していいのかわからなくて困ってしまうんだよなぁ…。ボクは両親やサマラとか数人しか褒められたことがなかったから。