159 手持ち無沙汰
ウイカの実力に驚いたオーレン。
ウォルトさんは住み家に戻ってウイカの希望を確認してる。
「ウイカさんはどんな魔法を覚えたいですか?」
「私は『治療師』になりたいです。なので、まずは『治癒』を覚えてみたいです」
そうなのか。初めて聞いたな。アニカの『治癒』に感動してたのもそのせいだったのか。
「なるほど。では、あとで教えます。とりあえずいい時間なので昼食にしましょう」
「「私達も手伝います!」」
ウォルトさんの後を追うように、姉妹は台所へ向かう。またも俺は居間に取り残されてしまった。ウォルトさんの住み家に来ると、この時間はいつも手持ち無沙汰だ。
俺も手伝いたいと思う。でも、アニカの気持ちを知ってるから邪魔するようなことはしない。いや、できない。下手すると命に関わる。
そんなことよりも、さっき目にしたばかりのウイカの魔法を思い出す。俺はとにかく成長に驚いた。アニカに魔法の才能があるのは言うに及ばないけど、負けず劣らずの才能なんじゃないか?
アニカも同じ魔法を使える。でも、相当修練して覚えてた。3つ覚えるのに半年くらいかかっていたはず。
まだ子供だったことを差し引いても、ウイカの習得は早い気がする。たった数ヶ月で見事な詠唱だった。
俺自身、付与魔法を教えてもらってからしっかり扱えるようになるまでに1ヶ月かかった。冒険者だから、ずっと付きっきりで教えてもらえるワケでも、魔法の修練だけに集中できる環境でもない。
それでも暇を見つけて修練したけど、なかなか上達しなくて試行錯誤を繰り返してなんとか身に付けた。
でも、時間や行為は無駄じゃなくて、悩みながら苦労して身に付けた魔法は今も冒険で自分を助けてくれるし、苦労したからこそ気付けた部分も多かったと思う。
ただ、アニカやウイカなら遙かに習得が早くて、もっと上手く使いこなすだろう。そう思うと単純にアイツらが羨ましい。…と、疑問が頭をよぎる。
本当に…ウォルトさんには魔法の才能がないのか?今日もそうだけど、前に魔法適性を診てもらったときに言われた。
「ボクは師匠にかなりの魔力を流してもらうまで感じられなかった。だから、オーレンのほうが魔法の適性がある」
さっきも「1番才能がないのはボクだ」と言い切った。でも、俺には魔法の才能があるようにしか見えない。それも稀有な才能が。
その証拠に、未だウォルトさんのような魔導師に出会ったことがないし、噂に聞いたことすらない。おそらくカネルラにはいないと思う。
もし、ウォルトさんに才能がないとしたら、どれだけ修練を重ねればあの域に達するんだ?それこそ、俺の何十倍…いや何百倍もの苦労を味わっているはず。
謙遜と受け取ることもできるけど、謙遜や勘違いすることはあっても嘘を吐くような人じゃない。だから、最初に魔力を感じられなかったのは事実だ。
そう考えると、俺でもウォルトさんのような魔導師になれる可能性が………無理だな。そもそも俺は魔法より剣が好きなんだから。暇なときに過去にどんな修練をしてきたのか聞いてみたい。
とりとめのない考えを巡らせていると、昼食が出来上がって次々に運ばれてくる。
「オーレン、もうちょっと待っててね。まだ食べちゃダメだよ」
「わかってる」
料理を運ぶウイカは新妻のようでとても可愛い。胸の鼓動が速くなる。
入れ替わるようにしてアニカが来た。
「つまみ食いしたら殺すからね」
対照的にアニカは恐妻にしか見えない。別の意味で鼓動が速くなる。長い付き合いで食べ物の恨みが恐ろしいことは重々承知してる。
準備が整ったところで、揃って昼食をとる。
「美味しい!もの凄く美味しいです!」
「でしょ~!胃袋を掴まれすぎてもう私は外食できなくなったよ!」
「アニカは大袈裟だよ。オーレンはそんなことないだろうし」
「実は俺もです」
ウォルトさんの料理は、どちらかというと女性に好まれる味付けだと思う。だから美味しくても俺はアニカほど騒いだりしなかった。
けれど、最近では格段に美味しさが増していて胃袋をガッチリ掴まれてしまっている。俺の予想では、なにかしら成長する出来事があったはず。たとえば、もの凄い料理人と交流を始めた…とか。
「皆が美味しそうに食べてくれるから嬉しいよ。ウイカさん。お代わりはありますから、どんどん食べてくださいね」
「はい。いただきます!」
「私も!」
「俺の分も残しといてくれよ」
……返事がない。
「ごちそうさまでした!うぅ~!もう食べれない!」
「ごちそうさまでした。私ももう無理~」
「だから俺の分…」
アニカとウイカは凄い食欲で食べ進めて、俺のお代わりは残らなかった。走るだけでなく食べるのも速い。
アニカはさておき、ウイカの食欲に驚いた。クローセにいた頃はちょっと食べているとこしか見たことがなかったから。今の感じだとアニカに負けない食欲…。
「オーレンは足りなかったんじゃ?違う料理を作るよ」
「大丈夫です。腹八分目にはなってますし、ちょうどいいです」
「そう?遠慮しないでいいからね。お茶淹れてくるよ」
「「私達もいきます!」」
姉妹も手伝うために台所へ向かった。
揃ってお腹がポッコリ出ている姉妹を見て、まるで妊婦だと苦笑した。