158 ウイカの実力
「ごめんなさい…。突然泣き出したりして…」
「気にしないで下さい」
ウォルトさんは冷静にウイカが落ち着くのを待って、俺達を住み家に招き入れてくれた。感極まっていきなり泣き出してしまったのが恥ずかしいのか、ウイカは顔を赤らめたまま俯いてる。
「ちょっと待ってて」
ウォルトさんはいつものごとく台所へ向かう。
「お姉ちゃん!お茶を淹れるの手伝おう!ウォルトさんに魔法を習うならお茶を上手く淹れる技術は必須だからね♪」
「そうなの?!だったら教えてもらわなきゃ!」
姉妹でウォルトさんの後を追った。居間に取り残され、全力疾走して火照った身体を落ち着かせるように休めながら下らないことを考えていた。
ウォルトさんは大人だ…。ウイカに抱きつかれてもビクともしなかった。普通ウイカに抱きつかれたら男なら誰でもドギマギする。あの落ち着きように憧れるし、ウイカに抱きつかれたことが単純に羨ましい!
★
ウォルトの淹れた花茶を飲むウイカ。
「すっごく美味しいです!」
「だよね!ウォルトさんの花茶は、味も香りも絶品なんだよ!」
「褒めてくれてありがとう」
「美味しい!…サウビアだ。こんなお茶があるなんて…」
クローセの…落ち着く匂いと味。
「口に合ったならよかったです」
「美味しいよね!クローセの味って感じがして私は大好きなんだ!」
アニカも同じなんだね。
「教えてもらった通りに俺が作っても、この味にはならないんだよな。なんでだろう?」
「オーレンははセンスが皆無だから!」
「ざけんな!お前より俺の方が味覚には自信あるぞ!」
「なにを~!?」
しばらく談笑して、いいタイミングでウォルトさんにお願いしてみる。
「ウォルトさん。あとで私の魔法を見てもらっていいですか?…というか、見てほしいです!」
「ボクでよければ喜んで」
よかったぁ。
「見たらガッカリされるかもしれませんけど…」
「ボクは人の魔法にどうこう言えるような者じゃないので。修練した成果を見せてもらえるだけで嬉しいです」
「私も見たい!お茶を飲み終わったら見せて!」
「うん。緊張するなぁ…」
「クローセの大魔導師ホーマの弟子だから大丈夫だよ!」
アニカは笑顔で自分の胸をトン!と叩いた。気持ちが軽くなる。
「そうだね。ホーマさんに教わってるから自信を持っていいと思う」
「ウォルトさんもホーマおじさんを凄いと思いますか?」
オーレンの問いにウォルトさんはコクリと頷いた。
「もちろん。ホーマさんは独学で魔法を習得した凄い人だ。初めてホーマさんの魔法を見たとき本当に驚いた。正解は1つじゃなくて、他の発動方法もあることを教わったんだ。修練次第で自力で辿り着けることも。魔法の知識も豊富だし教えるのも上手いはず」
「そうなんです!私はホーマおじさんの名を世に広めたいです!」
「私もです。凄い魔法使いだって言いたいです」
ウォルトさんもわかってくれるの嬉しいな。ホーマおじさんは「彼は次元が違う魔導師だ」って苦笑いしてたけど、私からするとおじさんも凄い。
「ボクも協力するよ」
「ホントですか!ウォルトさんに広めてもらえたらきっとおじさんも喜びます!」
「そうかな?余計なことじゃなきゃいいけど」
「多分喜んでくれます。ホーマおじさんは照れ屋なので」
「俺はちょっと違う気がするぞ」
「剣ばっかり修練してたオーレンには凄さがわからないんだよ!」
「お前らがそんな感じだと、おじさんはいずれ大変な目に遭うことになるかもな。今度それとなく手紙で伝えとく」
「なんなの!?意味不明なことばっか言って!」
「はいはい」
オーレンはなにが言いたいんだろう?私にもわからない。
私の魔法を見てもらうタメに更地に集まる。
「うぅ~。上手くできるかな…」
緊張するなぁ…。上手く発動できるかなぁ…。
「お姉ちゃん!いつも通りで大丈夫!リラックスして頑張って!」
アニカの笑顔で気持ちが軽くなる。
「うん。じゃあ……いきます!」
『乾燥』
『発火』
『清潔』
ホーマおじさんに教わった生活魔法を順番に詠唱する。一通り詠唱したけど…どうかな…?
「あの……私の魔法はどうですか…?」
ウォルトさんは表情を綻ばせて、柔らかな笑顔を見せてくれた。
「凄いです。魔法を覚えてまだ数か月なのに、そこまで扱えるなんて努力の賜物だと思います」
「ありがとうございます!嬉しいです!」
「お姉ちゃん!ホントに凄いよっ!」
「ただの生活魔法なのに大袈裟だよ」
教えてくれたホーマおじさんも「大した魔法じゃないけどな」って笑ってた。
「大袈裟じゃないよ!生活魔法をそこまでスムーズに扱うなんて、かなり練習しないと無理だよ!私も同じ魔法を覚えたからわかる。ウォルトさんもそう思いますよね!?」
賛成とばかりにウォルトさんが頷いた。
「アニカの言うとおりです。生活魔法でも戦闘魔法でも努力の度合いは変わりません。向き不向きはあっても、そこまで操るにはかなりの修練を重ねないと無理です」
オーレンも隣で深く頷いた。
「俺も付与魔法しか使えないけどわかる。詠唱速度や魔力操作を磨くのがどれだけ大変なのか…。ウイカ、凄いぞ」
すっごく嬉しい。純粋に私の魔法に驚いてくれてるのがわかる。お世辞じゃないのが伝わってくる。また泣き出しそうになったけど、私はまだ全部見せてない。
よし!と気合いを入れ直した。
「もう1つ見せたい魔法があるの」
精神集中して、両手を翳し詠唱する。
『火炎』
前方に炎が放たれた。アニカの『火炎』とは比べるまでもない小さな炎。
「ふぅ…。威力も全然ないんですけど、なんとか詠唱できるようになりま…」
言い終える前に、いつの間にか目の前にいたアニカに手を掴まれた。
「ビックリしたぁ。アニカ、どうしたの?」
「すっご~い!!お姉ちゃん凄すぎるよ!」
「マジか…。この短期間で『火炎』まで覚えたのか」
「本当に凄いです」
変じゃなかったのかな。
「お姉ちゃんはどうやって『火炎』を覚えたの!?」
アニカは大興奮で目が輝いている。
「どうって…ホーマおじさんに習っただけだよ。アニカもでしょ?」
「そうだけど、私は変な覚え方しちゃってちゃんと操れなかったんだよ!ウォルトさんに矯正してもらってから普通に使えるようになったけどね!だから凄い!」
「そうなの?ホーマおじさんも『火炎』を使えるようになったから、私は上手く覚えられたのかも!」
ホーマおじさん、ありがとう。やっぱりクローセの大魔導師だ。
★
「よかった、よかった!」と手を取り合ってはしゃぐ姉妹を見つめるウォルト。
「ウォルトさん…。ウイカも魔法の才能があるんじゃ…」
「間違いない。2人には驚かされっぱなしだよ。この中で一番魔法の才能がないのはボクだね」
「さすがにそれはないですよ」
「ホントだよ。アニカやウイカさんの足下にも及ばない。オーレンにもね」
羨ましいほどの才能を持って、努力も怠らない素晴らしさ。ウイカさんが駆け寄ってくる。
「ウォルトさん!」
「はい」
「私の使える魔法はこれだけです。これからも色々な魔法を覚えたいと思ってます!絶対悪用しないので私に魔法を教えて下さい!お願いします!!」
深く頭を下げる。
「ボクでよければいつでも。それに、貴女が魔法を悪用するなんて思っていません。ただ、あとで少しだけ話を聞かせて下さい」
「やったぁ!わかりました!」
「よかったね!お姉ちゃん!」
仲良し姉妹は、無邪気に手を取り合ってピョンピョン跳びはねてる。
彼女は、人より魔力を生成する能力が優れているゆえに苦しんできた。でも、これからは自分の魔力と上手く付き合ってさらに魔法の才能を開花させるんだろう。
彼女はアニカと同じで天才の部類だと思える。ほんの少しでも力になれるなら嬉しいこと。きっかけは魔力を消費するために覚えたのだとしても、本当に魔法が好きなんだと感じた。
姉妹がどこまで成長するのかボクには予想できないなぁ。