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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
156/706

156 姉妹水入らず

 私達は仲良く晩ご飯を食べる。今日はオーレンが夕食を作ってくれた。


「ごちそうさま!」

「ごちそうさまでした。オーレンは料理上手だね。美味しかった」


 失礼かもしれないけど意外だった。


「そりゃよかった。褒められると作った甲斐がある。ウォルトさんの気持ちがわかるな」

「私は褒めないからね!厳しい目で判断しないとウォルトさんの領域にいけないから!」

「査定が厳しすぎるんだよ!ウォルトさんみたいになれっこないし、なろうとすら思わない!」


 料理を食べ終えてしばらく談笑していると、アニカが思いついたように口を開く。


「お姉ちゃん!久しぶりに一緒にお風呂に入ろうよ♪」

「うん。アニカ達が帰って来たときは入れなかったもんね」


 クローセで共に暮らしていた頃、姉妹で仲良く入浴するのが日課だった。小さな頃から、お風呂でゆっくり話をするのが好きで、成長しても変わらずアニカが家を出る日まで続いた。

 前回の帰省では村の警備をしてもらってたこともあって、時間が合わずに一緒に入ることはできなかった。


「ただねぇ~。気になるお邪魔虫がいるんだよね。ねぇ…のぞき魔さん?」


 アニカはチラリとオーレンに目をやる。


「誰がのぞき魔だ!俺はお前の風呂を覗いたことなんかないぞ!」


 オーレンは『心外だ!』とばかりに声を荒げる。


「そうでなきゃ一緒に住めないし!もしそんな現場を押さえようもんなら……7回はコロス…」

「7回もっ!?1回でいいだろ?!」

「不満なら8回にする」

「充分足りてまっす!」

「よろしい。…ただ、お姉ちゃん相手だとどうかなぁ~?オーレンはギルドで【エロォーレン】って異名がついてるくらいだから」

「嘘だっ!フクーベの若き獅子とか云われてるはず!」

「あつかましいわ!よし!とりあえず無視して行こう!あと、オーレン…」

「なんだよ…?」

「もし覗いたりしたら…どうなるかわかってるよね?」

「……」


 一睨みしたアニカは、私の手を取って歩き出す。もしオーレンが覗いたりしたら、私は失望しちゃうな~。




 言われてしまったオーレンは、居間に残って溜息を吐く。


 アイツはわかってない。男には…やらなきゃいけないときがあるんだよ…。



 ★



 オーレン達の住居のお風呂は一般的な家庭のお風呂で、広くないけど細身なら一緒に入れるくらいの大きさがある。


 お湯を沸かすのはアニカの魔法。ウォルトさんの住み家でお風呂に入ったとき気になって、沸かし方を教わってからずっと魔法で沸かしてるみたい。


「魔法でお風呂を沸かせるなんて凄いね」

「コツを掴めば結構簡単だよ!お姉ちゃんにも教えるね!」

「私にできるかなぁ?」

「できるよ!『水撃』を使えるウォルトさんは水張りも魔法だけど、難しいみたいでまだ教えてもらえてない!」

「魔法で水も出せるなんて凄い。どんな理屈なんだろう?」

「わかんない!でもね、沸かすだけでも魔力調整の修練になるから一石二鳥だよ!最初は悪戦苦闘したけど、最近ではスムーズに沸かせるようになった!」

「へぇ~」


 服を脱いで、一緒に浴室に入る。


「クローセを出てそんなに経ってないのに懐かしい感じがするね!」

「こうして一緒に入るのは1年ぶりくらいかな?」


 お互い体を洗い終えて、向かい合わせに座ってお湯に浸かる。ぼんやり柔らかなランプの光に照らされながら、揃ってリラックスする。


「お姉ちゃん、すごく健康的な体型になったね!」

「体調がよくなってからは食欲が止まらなくて、かなり太っちゃった」


 体調が悪かった頃は、食も細くてかなり細身だった。今は体重が増えて出るところが出てきたのは実感してる。前より健康的に見えるはず。


「今でも全然太ってないし、ちょうどいいよ!」

「そうかな?」

「お世辞じゃないよ。オーレンの鼻の下も昔より伸びてたし!」

「伸びてたっけ?」

「伸びまくり!ウォルトさんもきっと驚くよ!明日、会うの楽しみだね!」

「うん。やっと見せられるよ」

「なにを?」

「ウォルトさんのおかげで元気になって…ココまで魔法も使えるようになりましたって…」


 それを目標に頑張った。ウォルトさんに元気になった姿を見せたいと思った。


「めっちゃ喜んでくれるよ!けどね、多分こう言われる」

「「大袈裟だよ。ボクはなにもしてない」でしょ?」

「さすがお姉ちゃん!わかってるね!私の予想だと、「魔法はウイカさんが努力したからです。ホーマさんとの修練の成果ですね」ってとこかな♪」

「凄くピンポイントに正解してそう」


 あははと笑い合う。その後もしばし会話を楽しんで、いい感じに身体が火照ってきた。


「のぼせる前にそろそろ上がろうか」

「そうだね!あとはゆっくり休もう!明日は早いよ!」


 湯船から出て脱衣所で服を着る。着終わったところで気になったことを確かめよう。


「ねぇ、アニカ。洗濯とかどうしてるの?下着とか」


 幼馴染みとはいえ、オーレンに下着を見られたくない。


「服はオーレンのと一緒に洗ってる!下着は自分で洗って『乾燥』ですぐに乾かしてるよ!」

「なるほど。私もそうしようかな」

「お姉ちゃんも『乾燥』使える?」

「使えるよ。『乾燥』」


 濡れたタオルを『乾燥』で乾かした。ホーマおじさんから教えてもらって、初めて使えるようになった魔法。


「凄い!詠唱も速い!」

「そんなことないけど」

「まだ修練を始めて数か月なのに、かなりスムーズに使いこなしてる!私はそこまで習得が早くなかった!凄いよ!」

「ありがと。時間だけはあったから、暇さえあれば練習してたからね」


 アニカに褒められると嬉しいな。


「今後が楽しみだね!」

「なにが?」

「クローセみたいな田舎から魔導師が2人も誕生して、しかもそれが姉妹なんて大事件だよ!」

「アニカはともかく、私はまだまだ魔導師なんて言えないよ」


 その時、ギシッと廊下で軋む音がした。耳を澄まさないと聞こえないくらい微かに。アニカはふっ…!と鼻で笑ってボソリと呟く。


「どうやら…大きなネズミがいるみたいだね…」

「えっ!どこっ!?」


 見回すけど、どこにもいない。


「ネズミがいるのは……ここだよっ!!」


 アニカが一艘跳びで脱衣所の扉をバーン!と開けると、戸を開けようとするポーズのまましゃがみ込んでいるオーレンを発見した。ゴミを見るかのようにオーレンを見下ろすアニカ。


「…忠告はしたからね。この……ドスケベネズ公がっ!!」


 その言い方はネズミに失礼じゃないかな?ドスケベは正しいと思うけど。


「待てっ!!誤解だっ!たまたま通りがかって、モノを拾おうとしてたんだって!」

「へぇ…。ちなみに落としたモノはなんなの…?」


 オーレンが周りを見渡してもなにもない。手ぶらでなにも持ってない。


 八方塞がりだね。ちょっと苦しい言い訳。


「おっかしいなぁ~。いや、お菓子ぃなぁ?持ってたのがお菓子だから食べたらなくなったんだ……よ…」


 オーレン…。その対応は逆効果だよ。幼馴染みならわかりそうなものなのに、こういうところがオーレンらしい。ヘラヘラしながら苦し紛れの言い訳しても、当然事態は好転するワケもなく…。


 ボキボキボキボキッ…!


 アニカはニィッ!と嗤って、これでもかというくらいに拳の骨を鳴らした。


「アンタも健全な男だから気持ちはわからんでもない…。トール達も偉そうにほざいてたよ…。そういうもんらしいね…。ただ……ちょっとは我慢することも覚えろっ!」

「うわぁぁっ!」



 その後、顔が腫れあがるほど殴られたオーレンは、姉妹の信用を失った挙げ句痛みで一睡もできなかった。


 この一件を境に住居の風呂には内鍵が付けられることになった。

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