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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
153/705

153 ウイカの旅立ち

 クローセに現れる魔物をウォルト達が撃退した事件から数か月。


 アーネス宅では、支度を終えたウイカが家を出ようとしていた。ウイカは、今日フクーベに向けて出発する。


 魔力酔いが解消されてから毎日身体と魔法を鍛え、1人でなんでもできると両親からお墨付きをもらったことで、魔法を学ぶタメにウォルトの元を訪ねることになった。当面はフクーベでアニカやオーレンと暮らす予定。



「お父さん、お母さん。そろそろ行くね」

「あぁ。気を付けてな。皆によろしく言っておいてくれ」

「無理しないでよ。あと、アニカに「部屋をちゃんと片付けてから帰れ!バカ娘!」って言っといて」


 憤慨するお母さんの様子を目にして、いつもと変わらない光景に心が和む。


「言っておくよ。じゃあ、行ってきます!」

「あぁ」

「気をつけてよ!」


 見送られながら、村の出口に向かう途中で村長の家に寄る。


 フクーベに向かうことを告げるために。


 ほんの少し前まで、こんな自分の姿を想像すらできなかった。でも、堂々と言えるようになったことが素直に嬉しい。

 

「村長~!いる~?」


 ノックして声をかけると、「なんじゃい?」と顔を出した。村長は、私が物心着いた頃から風貌も性格もなに1つ変わってない。しばらく見納めかもしれないのが寂しくもある。


「フクーベに魔法の修行に行ってくるね。しばらく帰ってこないかもしれないから、挨拶にきたの」

「そうか。ウォルト君のところじゃろう?」

「そうだよ」


 ホッホッ!と髭を伸ばすように触りながら微笑む好々爺。


「儂がよろしく言っておったと伝えてくれるか?」

「伝えておくね」

「無理はいかんぞい。気をつけて行くんじゃぞ」

「うん。ありがとう」

「ウイカ。儂は同年代でお前が村に1人残されるんじゃないかと心配しとったよ」

「私も思ってた」

「じゃが、蓋を開ければ他の者より早く出ていく。先のことなど…誰にもわからんのぅ」

「だよね」

「今まで通りのウイカでいいんじゃ」

「村長もね」


 村長にはいつまでも変わらないでほしい。亡くなっても村の守り神的な感じで、木彫りの像でも奉ってみるのはどうだろう?偉大な村長テムズ…って墓を建てて。


 家の外まで見送ってくれた村長に手を振って振り向かずに歩き出す。



 ★



 ウイカの後ろ姿を眺めるテムズは、相好を崩して想いを馳せる。


 彼には本当に頭が上がらんぞい…。遊ぶこともままならなかったウイカをずっと見てきた。辛かったろうに、誰にも文句や恨み言を言ったりすることのない優しい子で、村の皆に愛されている。

 そんなウイカが、無理することもなくたった1人でフクーベの街に行くという。今では村の誰よりも動き回っとる。こんな日が来るとは夢にも思わんかった。 


 体調不良の原因を見抜いて改善してくれたのは、クローセ村の恩人でもあるウォルト君だとアーネスから聞いた。


 元気で頑張るんじゃぞ。それが、きっと彼への恩返しになる。



 ★



「ホーマおじさん。私、今日出発するね」


 次に畑仕事中の魔法の師匠ホーマおじさんを訪ねた。おじさんは、悪天候じゃない限りいつも畑仕事に精を出してる。働き者の魔法使い。


 作業の手を止めて汗を拭いながら笑ってくれた。


「そうか。気をつけてな。ウォルト君とオーレン達によろしく。あと…ウイカ」

「なに?」

「アニカにも言ったが、ウォルト君に教わったことは間違いなく一生の財産になる。しっかり学ぶんだぞ」

「わかってる。ホーマおじさん…」

「なんだ?」

「私に魔法を教えてくれてありがとう。しっかり勉強してくるね」


 笑顔で感謝の言葉を告げる。アニカのときもそうだったけど、ホーマおじさんは忙しい仕事の合間を縫って魔法を教えてくれた。

 だからすんなり覚えることができて、魔力酔いに悩まされることもなくなった。感謝してもしきれない。


「大したことは教えてない。これからが本番だぞ」


 その後、少しだけ会話して笑顔で別れた。



 ★



 去りゆくウイカの背中を見送りながら、ホーマは思う。


 今のウイカを見たら、ウォルト君も驚くかもしれないな…。魔法を教えていて、アニカに匹敵するかそれ以上に魔法の才能があると感じた。性格は違っても、才能はやはり姉妹なんだ。

 この短期間で教えた魔法を全て習得して、俺より上手く使いこなしてる。師匠の立場がないほどの驚くべき吸収力と魔法操作。

 才能はもとより、姉妹揃って素直な努力家。あっという間に技量は追い抜かれてしまったけれど、意見やアドバイスには真摯に耳を傾けてくれる。


 彼女達の伸びしろがどれほどなのか、俺には判断できない。予測できるのは、ウォルト君のように並外れた魔導師だけだろう。

 そして…ウイカは魔法を覚えた今だからこそ、ウォルト君の凄さを肌で感じることになるんだ。


 魔法の素人である村の皆ですら『凄い』とわかる魔導師だが、彼の真の凄さは魔法を操る者にしか理解できない。大魔導師にすらできないことを、彼は平然とまるで呼吸するかのようにこなす。とにかく底が知れない。

 彼に師事できたなら、ウイカは魔導師としてより高みに昇れる。次に会うときが楽しみで仕方ない。


 しかし…才能ってのはつくづく平等じゃないな。苦笑いしか出ないが、ウイカやアニカのことを嫉んだりしない。むしろ、もっと大きく羽ばたいてそしいと思う。

 あの子達はそうなれる器だと信じているし、そうなるよう心から願っている。

 

 俺も負けずに修練だ。笑みを浮かべて畑仕事を再開した。



 ★



 定期的に村を訪れている行商の馬車に同乗してフクーベに行くつもりだけど、出発まではもう少し時間がある。


 生まれて18年過ごした村を離れると思うと、やっぱり寂しいな…。


 私にとっての世界は、クローセが全てだったから。ずっとこの村で生きていくつもりだった。


 名残惜しむように村を散策していると、子供達が集まってきた。


「ねぇ、ういか!まちにいくの?」


 無邪気な子供達の問いにしゃがんで答える。


「うん。しばらく魔法の勉強してくるからね。みんないい子にしててね」

「うぉるとのいえにいくの?」

「そうだよ。ウォルトさんに言っておくことある?」


 子供達は、テテッと少し離れたあと、輪になってヒソヒソ話し合ってる。


 膝を抱えてジッと待っていると、話し合いが終わった皆が近づいてきて笑顔で口を揃えた。


「「「「ういかがうぉるととけっこんしてもいいからね!」」」」

「えぇぇっ!?ど、どういうこと?」


 子供達に理由を聞くと、笑って答えてくれた。


「あにかにもたのんだ!」

「でも、あにかだけじゃふあん!」

「うぉるとはつよいしかっこいい!きっともてる!」

「ういかのちからがひつよう!」


 騒ぎ立てる子供達。予想外の要望に驚きながら訊いてみる。


「要するに、私かアニカがウォルトさんと結婚してクローセに来てほしいってこと?」


 子供達はニカッ!と笑って頷いた。皆の頭を優しく撫でてあげる。


「そうだよね…。ウォルトさんは優しくていい人だもんね。そうなるかわからないけど、私も頑張ってみようかな♪」


 子供達は「やった~!」「ういかもがんばるって~!」と大はしゃぎで走り回る。


「これであんしん!」

「うぉるとはほねぬき!」

「おいしいりょうりがたべれる!」

「まほうもみれる!」


 テンションMAXの子供達を見て、『軽々しく請け負わない方がよかったかも…』とちょっぴり後悔した。



 


 行商も終わりを迎えて、そろそろフクーベに戻る時間になったみたい。


「準備できたから乗っていいよ」

「よろしくお願いします」


 従者に促されて荷を下ろして広くなった荷台に乗り込む。


 馬車なんていつぶりだろう?村を出るのは街の医者に診てもらった時以来。しかも、かなり小さかったのでほとんど記憶にない。


 期待なのか、はたまた不安なのか。心が落ち着かない。そんな時、馬車に駆け寄って声をかけてきたのは同年代の幼馴染みだった。


「黙って行こうなんて甘いわよ、まったく!ウイカらしいけどね!」

「魔法の修行、頑張れよ!お前ならやれるさ!」

「身体に気をつけて。無理はダメだよ!行ってらっしゃい」

「元気でな!早く帰ってこいよ!」

「みんな…」


 今生の別れではないけれど、別れが辛くなるから出発する日を告げられないでいた。申し訳ないと思いながら、ウォルトさんのようにこっそり村を出ることに決めたんだ。本当に優しい友達ばかりだから…。


 どこで聞きつけたのか見送りに来てくれた。告げなかったことを責めることもなく笑顔でいてくれる…。嬉しくて泣きそうになるのを堪えて笑顔で声を上げる。


「みんなありがとう!行ってきます!」

「がんばれよ~!」



 馬車はゆっくり動き出す。私達は互いに見えなくなるまで手を振り合った。

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