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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
152/705

152 昇級試験官の回想

 本日、フクーベの冒険者ギルドでは各ランクへの昇級試験が行われる。


 多数の冒険者が挑む予定で、開始までまだ時間はあるものの既に多くの冒険者が集合して準備を始めている。

 試験官を務める元Bランク冒険者のグレッグは、集合した冒険者達を眺めながら冒険者パーティーを探していた。

 


 さて…噂の若者はどこにいる?


 探しているのは、Dランクへの昇格を希望する【森の白猫】という名のパーティー。男女2人組の若者らしいが、冒険者になってまだ1年に満たないらしい。しかし、今回Dランク昇格試験を受験する。

 通常であればEランクになって1年から2年の内に受験資格を得るのが平均的だが、このパーティーはEランクに昇格してまだ半年しか経っていない。

 当然、「時期尚早すぎるのでは?」という意見もあったか、真面目で堅実な仕事ぶりや、誠実で裏表のない人柄はギルド職員もよく知るところ。

 なにより、共闘した多くの冒険者から実力に太鼓判を押されていることもあって、ギルドとしても受験資格を与えたらしい。

 本人達に伝えたところ、予想以上に早い試験に難色を示していたと聞く。そういったところでも慎重な冒険者であることを伺い知ることができてギルド側としては好印象。


 過去、気がはやって名を売ることばかりを考え、失敗した冒険者も多くいたが、彼等はそういったことと無縁のようだ。

 しばらくして「是非受験させて下さい!」と意思表示したらしい。その瞳には邪念など感じられず、ただ純粋に試験に挑みたいという意気込みが現れていたと聞く。


 話を聞いてからというもの、どんな若者なのか気になっていた。 様々な冒険者に実力を認められるような若者だ。およそ新人らしくない佇まいだろう。


 おそらく一目でわかるはずだが…と見渡しても、めぼしい冒険者を見つけられない。まぁ、始まればわかるか。気持ちを切り替えたところで、実技試験の開始時間を迎えた。

 試験は通常下位ランクから実施される。受験者が多いのもあるが、先に上位ランクの実力を見せられると萎縮してしまう者も多いという理由から。


 まずは前衛職の実技が行われる。幾人かの試験官が代わる代わる実戦形式で受験者の技量を確認する。


「それでは、只今より試験を開始する。各ランクごと実施するので、呼ばれた者から前に出よ」


 進行役の言葉が会場に響き、冒険者達に緊張が走る。そして、試験は始まった。




 昇級試験は滞りなく進行した。力を出し切れず悔しさを滲ませる者もいれば、確かな手応えを得て満面の笑みを浮かべる者もいる。


 そんな中、試験官が交代して俺の出番。最初に相手をすることになったのは、まだ少年といっていい年齢の冒険者。


「よろしくお願いします!」


 爽やかに一礼した少年は、試験用の木刀を構える。構えを目にして俺は警戒を強めた。


 この少年が噂の冒険者だな。構えを見て直ぐに理解した。雰囲気があるし、なによりいい目をしている。真っ直ぐな瞳に強い意志を宿しているな。


「君は【森の白猫】の剣士か?」

「はい!オーレンといいます!」

「そうか。いつでもいいぞ」

「いきます!」


 オーレンは駆け出した。しばらく剣を打ち合って、攻撃を捌きながらじっくり観察する。


 とても面白い剣だ。オーレンの剣は凄みがあるワケでも華麗なワケでもない。だが、型にはまらず剣筋に無駄がない。

 この若さで大したもの。一体、どんな修業をすればこの歳でこんな風に剣を扱えるようになるのか。確かにEランクの実力ではない。

 有名な剣士に師事してはいないだろう。剣士は少なからず修める流派の癖が出るのが普通だが、オーレンからは全く感じられない。完全な自己流に見える。


 打ち合いが落ち着いたところで確認する。


「君は独学で剣を学んでいるのか?」

「いえ。師匠はいます」

「そうか。君の剣は独創的だから気になってな。だが、いい剣筋だ」

「ありがとうございます。独創的なのは、師匠が剣士じゃないからだと思います」

「ほぉ。剣士でない者から剣を学んでいるのか」

「はい」


 その発想はなかったし、とても面白いと思った。剣士以外に剣を学んで実になると誰が思うだろうか。

 だが、この少年は結果を出している。これから先の成長はわからないが、固定観念を壊す一言。

 

「今回もかなり稽古をつけてもらいました。あとは…俺が結果を出すだけです!」

「いい心掛けだ」


 尊敬する師匠なのだろう。しばらく打ち合ったのち、試験は終了となった。


「ありがとうございました!」


 やりきった表情を浮かべ、頭を垂れて礼を述べた。


「おつかれさん。結果は試験を全て終えてから通知されるから待っていてくれ」

「はい!」


 しっかりした足取りで冒険者の輪に戻っていく。知り合いらしき冒険者達に笑顔で声をかけられて、笑顔を返している。


 きっと彼は不合格であっても後悔しないだろう。そう思えた。



 ★



 前衛職の試験が終わると、入れ替わるように魔法を操る後衛職の試験が始まる。


 試験官は、グレッグと同じく元Bランク冒険者の魔導師サラ。主に魔導師の試験を担当する。

 前衛に戦士や武闘家、盗賊などがいるように、後衛職にも治癒士や補助魔導師など細かい区別があるので、それぞれに適した試験官がいる。


 サラは、その中でも魔法使いや魔導師と呼ばれる者達の担当。長い黒髪に縁のない眼鏡がよく似合う知的な雰囲気の女性。


 さて…どの子が【森の白猫】の魔導師かしら?クイッ!と眼鏡を上げて、受験者達を見渡す。グレッグと同様に森の白猫が気になっている。噂の女性魔導師を是非見たい。


 女性魔導師は男性に比べて圧倒的に数が少ない。それは、魔導師は男尊女卑の傾向が強い業界で女性は軽く見られがちであることに起因している。

 そんな逆境に負けじと、魔導師として認められた冒険者。身を固めたことをきっかけに冒険者を引退したが、今でも後進の…特に女性魔導師に期待をかけて、皆が大魔導師と呼ばれる存在に育って欲しいと願っている。


 そんな彼女は、若くして頭角を現している女性魔導師がいると耳にして、会うのを楽しみにしていた。


 あの娘ね…。なるほど…。


 魔導師は、前衛職と違って相手の魔力を感じることができれば、ある程度の実力を把握できる。

 見渡したところ、明らかに他と違う魔力を備える若い娘が目についた。およそ魔導師とは思えぬ軽装に身を包む可愛らしい少女。

 とても活発そうで、むしろ盗賊などの前衛職に見えるけど、隠せない魔力が漏れ出している。魔力を上手く身体に収めきれないのだろう。上位の魔導師であれば、日常では他人に全く魔力を感じさせないよう隠蔽する術を持つ。


 確かにEランクの魔力じゃないわね。楽しみだわ。



 魔導師部門の昇格試験が始まった。

 

 試験では、魔法の威力や詠唱速度、命中率などの様々な要素を総合して判定する。


 やはり、こちらの試験でも受験者はそれぞれ泣いたり笑ったり。そんな中、遂に噂の魔導師の番を迎えた。


「よろしくお願いします!」


 笑顔で告げた少女は一瞬で冷静な表情に切り替えた。


「よろしくね。貴方が【森の白猫】の魔導師?」

「はい!アニカといいます!」

「まずは、なんでもいいから私に向かって攻撃魔法を放ってくれるかしら。いつでもいいわよ」

「わかりました!『火炎』」

「ちょっ…!」


 アニカの放った『火炎』を『魔法障壁』で防ぐ。


「いいわ…。その調子でどんどん放っていいわよ」

「了解です!」


 アニカは『氷結』『火炎』といった、持てる限りの魔法を放ち私は防ぎ続ける。


 魔力が切れたところで、試験は終了となった。


「ありがとうございました!もう魔力は残ってません!」


 清々しい表情を浮かべるアニカと対照的に私は険しい表情を浮かべたまま尋ねる。


「アニカって言ったわね…。ホントに冒険者になって1年経たないの?」

「はい!もうすぐで1年です!」

「貴方の…魔法の師匠はなんて名前の魔導師か、聞いてもいいかしら…?」

「えっと……それは言えません!あと、師匠は魔導師じゃないです!」


 それだけ告げると、ペコリと頭を下げて冒険者の輪に戻った。知り合いらしき冒険者達に笑顔で労われている。


「魔導師じゃない…?嘘でしょ…?」


 私の呟きは誰の耳にも届かなかった。



 ★



 試験が終了したあと、各試験官が集合し、合否判定について話し合いが行われた。


 話し合いが終了したあと、グレッグとサラが会話する。現役ではないけれど、冒険者時代に旧知の仲だ。



「グレッグ。【森の白猫】の男の子はどうだった?」

「面白い剣士だった。いい素質と素直な心を持ってるから剣士としてまだ伸びるだろう。それに、Dを飛び越してCランクに近い実力がある。直ぐに次の試験を推薦するつもりだ」

「そう…」

「サラは【森の白猫】の魔導師の女の子の試験を担当したんだろ?そっちはどうだったんだ?」

「アニカは…凄い逸材よ」

「へぇ。お前がそこまで言うなんて珍しい」

「このまま順調に成長すれば、カネルラ史上最高の女性魔導師になれる…かもしれない」

「それは凄いな。今までお前が見初めた魔導師は皆結果を出してる。今後が楽しみだな」

「あの子は…本人の努力や才能はもちろんだけど、おそらくいい師匠に恵まれてる。経験が1年に満たない冒険者が使える魔法じゃなかった。Cランクと言われても私は信じる。私も直ぐに推薦するつもりよ」

「それほどか。あの子達にはいい師匠がいるんだな。そういえば、気になることを言ってた」

「なんて?」

「オーレンは剣士だけど、師匠は剣士じゃないんだと。面白いだろ?」

「アニカも、あれだけの魔法を操るのに師匠は魔導師じゃないと言ってたわ。信じられないけど…」


 どういうことだ?と2人は頭を捻る。


 その後、ギルドでも『彼等の師匠は誰なのか?』と噂になったが、誰一人として知る者はいなかった。

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