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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
151/705

151 戦士と魔導師

 リオンがウォルトと出会って1週間が経過した。


 久しぶりのフクーベを満喫して、そろそろ旅に出ようと思っていたところで、クウジが宿に押しかけるように会いに来た。部屋に招き入れる。


「こんなとこまでどうした?」

「リオン。お前、またどこかへ行く気か?」

「もう少し世界を見て回ろうと思ってな。それがどうかしたか?」

「そうか…。その前に1つ頼みたいことがある」

「なんだ?」


 少しの逡巡のあとクウジは意外なことを口にする。


「ウチのギルドに所属してる魔導師達が、戦士と闘いたがってる。その逆もだ」

「ほぅ…。詳しく教えろ」


 面白そうな話だ。クウジの話では、今年王都の武闘会で魔導師と騎士の交流戦が行われたらしい。

 以降冒険者も交えて定期的に交流戦が続いていて、フクーベでも『是非やってみたい!』という流れができていると。


「面白い。国王も粋なことをやるもんだ。異種交流は間違いなく互いを強くする。カネルラの将来のタメになるだろう!グワハハ!」


 冒険者にしても、対人戦闘の技術を学べば格段に腕が上がるはず。人に注目されることで張り切る者も多かろう。いい効果が期待できる。


「俺もそう思う…が、フクーベには王都のように実力が高い者が多くいるワケじゃない。魔導師と戦士が闘うにしても万全の態勢が整えられん」

「それもそうか。下手な闘いは本人達や観客の命に関わる」

「そうだ。だから異種交流戦とはこういうモノだと予め見せる必要がある」

「それが俺と関係あるか?」

「模擬戦闘の戦士役をお前に頼みたい。お前なら魔導師との闘いもお手のモノだろう?」

「別に構わんが魔導師役は誰だ?お前か?」


 クウジは元々魔導師。引退してしまったようだが、冒険者時代は冷静沈着かつ頭脳明晰で、強大な火力と多彩な魔法でパーティーを支える魔導師だった。長い冒険者人生で、クウジは俺の知る最高の魔導師の1人だった。


 アイツに会うまでは。


「ホライズンのマルソーに頼もうと思ってる。現状フクーベで最高の魔導師と云われてる」

「マルソーか。アイツも成長したか」


 俺の記憶には若い頃の印象しかない。そもそも若いか。どんな風に成長しているのか。


「知ってるなら話は早い。頼めるか?」

「面白そうで断る理由はない。マルソーは?」

「お前が先だ。マルソーに断られたらこの話はなしになる」

「そうか。そういうことなら、もうしばらくココに泊まる。また教えてくれ」

「恩に着る。悪いが俺はギルドに戻る」


 よほど忙しいのかクウジは足早に宿を去った。


 

 ★



 数日後、クウジから連絡がきた。


 マルソーも承諾したらしく、打ち合わのタメに揃ってギルドに呼び出された。正直面倒くさいが仕方あるまい。着くなりクウジの部屋に通される。先に到着していたマルソーの姿があった。


「久しぶりだな、マルソー」

「リオンさん。お久しぶりです」


 ふむ。少しは雰囲気が出ている。とりあえずの挨拶を交わし、クウジに促されて来客用のソファに座る。


「依頼を引き受けてくれて感謝する」

「クウジさんの頼みとあっては断れません。しかも、相手がリオンさんとなれば尚更です。お2人は駆け出しの頃からの憧れです」

「お世辞が上手くなったな。なにもやらんぞ。グワハハ!」

「お世辞じゃないです。貴方は、ウチのマードックも尊敬する獣人の戦士。俺達の世代にとっては雲の上の冒険者でした」


 直球で褒められてむず痒い。やりにくいな…と思ったところでクウジが説明を始めた。


「お前達にはそれぞれの役割で闘ってもらう。当然熱くなるのは禁物だ。特にリオン」

「わかってる。手を抜けってことだろ?」

「そうだ。今回は異種交流戦とはこういうモノだと教えるのが目的。お前が熱くなると目的を見失いかねないからな」


 バカにされてる気がするが、まぁ的外れなことは言ってないな。

 

「どういった感じで闘えばいいんですか?」

「まずは……」


 クウジが考えた筋書きを教えてもらう。聞きながらよく考えるものだと感心した。面倒くさいことこのうえない。


「なるほど。上手くいきそうですね」

「俺は覚えられん。お前が流れを覚えてくれ」

「わかりました」


 簡単に言うとよくできた芝居だ。だが、俺は複雑なことを覚えられないし覚える気も毛頭ない。細かいことはマルソーに丸投げしたほうが上手くいくだろう。



 ー 数日後 ー



 異種交流模擬戦の日を迎えた。


 場所はギルドの所有する訓練施設。冒険者の昇級試験や鍛練に使う場所だ。観客は交流戦を希望する者達。フクーベでも名の知れた2人の闘いとあって見学者も多い。


 注目される中でマルソーと対峙する。マルソーは観客には聞こえない程度に囁いた。獣人の俺にはハッキリ聞こえる。


「…では、予定通りにいきます」

「頼んだ」


 模擬戦闘が始まった。マルソーが遠距離から魔法で攻撃すれば、俺は躱して間合いを詰め反撃する。これを基本に立ち回る。

 低ランクの冒険者には真剣に闘っているようにしか見えまい。見学の冒険者達は興奮と驚きで唸りを上げた。


 マルソーは…腕を上げてるな。見違えるほど素晴らしい魔導師に成長している。魔法の威力も記憶にあるものとは段違い。確かにフクーベで最高の魔導師と呼ばれてもおかしくないだろう。


 着けている腕輪は魔道具だな…。それでも大したものだ。


 腕に装着されている腕輪が、魔道具であるのは一目で見抜いた。だが、武器や道具を使ってでも強さを求めるのは当たり前。なんら卑怯なことではない。


 その後もマルソーの主導で闘いは進む。いよいよ闘いも終盤というところで、冒険者達には聞こえないよう囁いた。


「おい、マルソー。頼みがある」

「なんですか?」

「お前の攻撃魔法で最高威力のヤツを俺に浴びせろ」

「…正気ですか?」

「『破砕』みたいな魔法がいい。派手な魔法(やつ)を見物してる奴らに見せてやれ」

「食らってどうするんです?」

「耐える。お前の魔法と俺の耐久力、どっちも見せられる。俺が吹き飛んだらお前の勝ちで終わりだ」

「なるほど…。俺は…手加減しませんよ?」

 

 小生意気なことを言う。嫌いじゃないが、過信しすぎるのも魔導師の特徴。よく知っているぞ。


「クウジに付き合った。最後くらい遊んでもいいだろう?」

「…いきますよ」


 自分の魔法を遊びと言われてカチンときたのか、無言のまま集中力を高める。俺は棒立ちで様子を眺めた。


 ……そうだったな。コレが普通の魔導師だ。



 魔力を練り上げたマルソーは、目を開いて詠唱した。


『破砕』


 俺に向けて全力で魔法を放つと、衝撃波が場の空気を震わせる。見学者からは「おぉ!」っと大きな声が上がった。


「ぬぅん!」


 腕を顔の前で交差させ、そのまま踏ん張って『破砕』を受け止める。中々の威力だ。そして、宣言通り吹き飛ばされることなく耐えきった。


「………」

「グワハハハ!」


 直ぐにクウジが声を上げる。


「そこまでだ!交流戦は終了とする!ご苦労だった!」


 見学者から拍手と歓声が上がった。皆が闘いに興奮している様子。だが、マルソーは対照的な表情。悔しさを隠そうとしない。いいことだ。


「まだ修練が足りてないな」

「…相変わらず化け物ですね」

「こっちが煽ったのに吹き飛んだら格好悪いだろう?グワハハ!」

「リオンさんの言う通りです。修行が足りない。精進します」


 マルソーは、ギリッ!と歯を食いしばって背を向ける。応援していた魔導師達に声をかけられ、気怠そうに手を挙げて応えながら去って行く。


「おい、リオン。最後のはなんだ?」


 呆れたようにクウジが問う。


「観客に最後くらい派手なのを見せてやろうと思ってな。マルソーに協力してもらった」

「まぁいい。とりあえず、依頼をこなしてくれて感謝する。それにしても、相変わらず身体が強いな。あの『破砕』を生身で受けて倒れないのはフクーベじゃお前かマードックくらいだろう」


 そうかもしれんが自慢にもならん。


「おい、クウジ」

「なんだ?」

「お前の目から見て、マルソーの魔法は凄いか?」

「当然だ。魔道具の効果はあれど、あれだけの威力の魔法を撃てる奴はそういない。王都にもいるか怪しいくらいだ。なにか気になったのか?」

「確かにマルソーはいい魔導師だ。…が、正直物足りん。俺は今の『破砕』を10発食らっても倒れんぞ。詠唱も遅い。あれじゃ詠唱する前に殴られて終わりだ」

「そんなことを言うのはお前だけだ。お前を相手にすると、魔導師は自信を無くす」


 クウジは苦笑する。ほんの少し前の俺なら、マルソーの成長に太鼓判を押して豪快に笑っていただろう。だが、ウォルトの魔法を知ってしまった。


「俺はもっと実戦向きの魔法使いを知っている。詠唱速度もマルソーとは比べものにならない。ちなみに、ソイツの『破砕』は魔道具なしで今の魔法以上の威力だった」

「バカなっ!?そんな魔導師がいるはずがないっ!」


 興奮して否定するクウジに冷静に告げる。


「別に信じなくていい。俺はどちらの魔法も直に食らったからわかるだけで、こんな話を信じろというのが土台無理な話だ」


 言ったところで信用すまい。だが、紛れもない事実。


「ソイツはどこの魔導師だ!?カネルラにいるのか?!」


 いつになく口調が荒くなっているな。認めたくないのか。


「口止めされてるから教えられん。それに、ソイツは魔導師じゃない。本人も言ってたが俺もそう思う」

「魔導師じゃない…だと?あり得ないことばかり言って、どういうつもりだ!?」


 古い付き合いで信用できるクウジには、少しなら教えていいと思っただけ。目を背けて信じないのなら一向に構わん。コイツはその程度の器ということ。


「信じなくていい。1つだけ言えることは…この歳になってできた俺の最高の娯楽だ!グワハハ!」

 


 クウジには、嬉しそうに笑う目の前の獣人が、なにを言っているのかさっぱり理解できない。揶揄っている風ではない。下らない嘘を吐くような男でないことを知っているし、そんな嘘を吐く理由がない。


 真実だというのか…。今の『破砕』の威力を魔道具を装備せずに…?詠唱速度も比べものにならない…?しかも魔導師ではない…?そんなこと有り得ない。仮に本当だとしたら…魔導師業界を揺るがす存在だ。



 考え込むクウジを無視して歩きだし、見学していた若者の前に立った。


 見下ろす目の前の小さな若者は、1人だけ模擬戦闘に驚く素振りを見せなかった。妙に目について気になっていた。


「お前は今の闘いを見てどう思った?」

「凄かったです!あの魔法を生身で受けきれるなんて思いませんでした!」

「そうか。魔導師のほうは?」

「凄い威力の『破砕』でした!」

「見たこともない魔法だったか?」


 さっきの模擬戦闘では、マルソーの魔法に皆が驚いていた。俺が見せた耐久力じゃない。だが、この若者は驚いていなかった。魔導師に見えるのに…だ。なぜなのか気になる。単に新人という可能性もあるが。


 質問の意図を捉えあぐねているのか、若者は迷っている風。やがて躊躇いながら答えた。


「見たことはあります…。私の師匠なら…同じような『破砕』を放てると思います…」


 若者の言葉に眉がピクリと反応する。


「だから驚いてなかったのか。お前の師匠は誰だ?」

「それは…」


 しばらく迷っていた様子の若者は、思い付いたように笑う。


「名前は言えません!ただ、私のパーティーは【森の白猫】といいます!」


 …ククッ!そういうことか…。なるほどな。


「グワハハハ!」


 普通なら意味不明な回答だが、この若者なりに言える範囲で精一杯の答え。真面目な娘だ。


「あ、あの……なにかおかしかったですか?」

「納得だ。森の白猫ならばな」

「え…?もしかして……師匠をご存じなんですか?」

「あぁ。片眼鏡だろう?」

「そうです!」

「弟子がいたとは意外だが。ときに若者よ…」


 たった今、この娘がウォルトに惚れていることに『直感』で気付いた。ならば訊かねばなるまい。


「なんでしょうか?」

「お前はアイツの番になるつもりはあるのか?」

「めちゃくちゃありまっす!!」

「グワハハハ!」


 悔い気味な即答にまた高笑いした。獣人の未来は明るいぞ!

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