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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
15/705

15 器用な獣人

暇なら読んでみて下さい。


( ^-^)_旦~

「やったぁ~!!」


 オーレンは喜びを爆発させてはしゃぐアニカを見つめている。


 魔法を見せてもらって、更に魔力の矯正までしてもらったアニカの行動は早かった。「弟子にして下さい!」と頭を下げて懇願した。

 突然の弟子入り志願に驚いた顔をしたウォルトさんは、「ボクは魔法を教える知識も技量もないから魔導師に教えてもらったほうがいい」と断ったけど、アニカは諦めない。


「住み込みで掃除洗濯から食材の調達までなんでもやります!」


「毛皮のブラシも毎日かけます!」


「気に入らなければいつでも叩き出してもらっていいです!」


 弟子がやりそうなことを並べ立てて本気で訴える。最終的にアニカの熱意に負けたのか、「師匠と弟子は無理だけど、冒険の合間にボクの魔法でよければ教える」とウォルトさんは約束してくれた。


「オーレンはいいの?冒険に行く時間が減るかもしれないよ」


 アニカの軽い暴走で蚊帳の外になっていると心配してくれたんだろうな。優しい人だ。


「もちろん冒険はしたいですけど、アニカの魔法の幅が広がればやれることも増えるんで、全然有りだと思います」


 気にしていないことをちゃんと伝える。


「こっちこそすみません。アニカは昔から言い出したら聞かないところがあって。魔法を教えるなんて迷惑じゃないですか?断りづらかったら俺から言っておきます」

「迷惑じゃないよ。ただ、ボクは魔法が使えるただの獣人で、人に教えられるような獣人じゃないんだ。アニカの方が技量は上かもしれない」


 絶対そんなことはない。魔法を使えない俺でもさっきの魔法を見て理解した。ウォルトさんは絶対に凄い魔導師だって。


「アニカは冒険者になったばかりだし、いろんな人の魔法を見たくて頼んだのかもしれないけど、がっかりされるのが目に見えてる。それが心苦しくて」

「ウォルトさんが教えられることだけでいいんです。教えることがなくなったら終わりでいいので、気にしないで下さい」


 俺達の冒険にアニカの魔法は不可欠。修練して上達してもらいたいけど、いい魔法の師匠に巡り会えるかなんてわからない。


 アニカにとって、最初の魔法の師匠であるホーマおじさんが言うには、魔導師はいい師匠に巡り会えるかが重要らしい。

『この人しかいない!』と思っても、師事してみたら指導力や性格に問題があることも多いらしくて、「いい師匠に巡り会えるかは運だ」と笑って「決めるのは焦らない方がいい」とアドバイスしてくれた。

 ウォルトさんは人柄もよくて教えるのも上手い。確かに魔法も凄いけど、なにより人として尊敬できる。俺がアニカでもウォルトさんにお願いしたい。

 

「それならいいんだけど」

「俺も、その間に稽古をつけてくれる師匠がいればいいんですけど…って、ウォルトさんは獣人だから力も強いんじゃ?」


 冒険者の前衛には獣人も多い。魔法を使えない代わりにとにかく身体能力が桁外れだからだ。


「鍛えてない人間よりは強いと思う。獣人の中に入ると底辺だけどね」

「もしよければなんですけど、俺の剣の稽古に付き合ってもらえませんか?」


 駄目元でお願いしてみた。


「構わないよ。剣は素人だから役に立てるといいけど」

「やった!お願いします!」


 というわけで、魔法の実演をした更地で軽く稽古してみることにした。ウォルトさんが即席で作ってくれた木刀を持って対峙する。アニカは離れたところで見学。


「ウォルトさぁ~ん!頑張って下さぁ~い♪オーレンに負けないでぇ~!」

「俺の応援もしろよ!薄情者!!」


 ウォルトさんは微笑みながら木刀を構えた。


「打ち込んでいきます。準備はいいですか?」

「いつでもいいよ」


 剣は素人だって聞いたけど、獣人だから身体能力は高いはず。ウォルトさんは優しい人だけど、油断は禁物。


「いきます…。ハァァァ!」

「2人とも頑張れぇ~!!」


 お願いした以上は先制攻撃。ウォルトさんに向かって駆け出した。




 ー 10分後 ー



 俺は焦っている。


 それはもう、どうしていいのかわからないくらい焦っている。最初は通用すると思っていたけど、稽古が始まるとその余裕は一蹴された。


「くぅぅ…!おらぁっ!!このっ…!!」


 息を切らして連続攻撃を仕掛ける。


「鋭い斬撃だね。凄いよ」


 対するウォルトさんは、余裕の表情で軽やかに躱したり受け止める。焦りなんて微塵も感じない。


「もっと速く動かなきゃウォルトさんには当たらないぞ!倍速で動けっ!!」

「無茶言うな!コレが限界だ!」


 アニカの言うとおり、まず攻撃が当たらない。当たらなすぎて直ぐに全力を出したけど、それでも掠りもしない。

 剣は素人というだけあって、構えも剣筋もまったく洗練されてないのに、独特の動きで予想しづらく逆に軽く攻撃を当てられてしまって防ぐことすらできない。


 ウォルトさんの強さを肌で感じて、ふと思った。この人……もしかしてムーンリングベアより強いんじゃ…。


 ムーンリングベアとの戦闘では、致命傷は与えられなかったけど、攻撃を当てることはできた。けど、ウォルトさんには全く当たる気がしない。

 それどころか、涼しい顔をして心配してくれてる。まだ本気を出していないのが一目瞭然。この人が本当に獣人の底辺だとしたら、頂点に君臨する獣人の強さはどれ程か見当もつかない。


「大丈夫かい?少し休んだほうがいいと思うけど」


 休憩を勧めてくれるけど、稽古してほしいと言い出したのは俺だ。中途半端は失礼になる。やれるだけやらなきゃ。


「大丈夫です!まだいけます!!ハァァ!」

「受けて立つよ」

「オーレン!ふがいないぞっ!」


 アニカは、笑顔で闘いを見守っていた。




 さらに10分後。


 俺は、疲れ切って芝生で大の字になり空を見上げていた。肩で息をしているとアニカが覗き込んでくる。


「オーレン。眠いの?」

「違うわ!疲れて立てないんだよ!」

「知ってる♪」

「性格悪い奴だ!」


 負けた…。完膚なきまでにやられた。


 そもそも勝負してないけど、ぐうの音も出ないほど力の差を見せつけられた。力だけじゃなくスピードでも圧倒された。

 ウォルトさんが剣を持ってるところを見たこともなかったし、力が弱いって聞いたから能力が魔法に特化していると完全に勘違いしてた。まさか、こんなに強いなんて…。

 魔法まで使われたら俺に勝ち目なんかない。獣人が凄いのかウォルトさんが凄いのかわからないけど。


「オーレン、お疲れさま。ちょっといいかい?」


 寝転んでいると声をかけられた。そういえば、手合わせのお礼を言ってない。素早く起き上がった。


「手合わせありがとうございました。なんでしょうか?」

「助言ってワケじゃないけど、気になったことがあるんだ」

「教えてもらえると嬉しいです!」

「剣のことは知らないから合ってる自信はないけど、力の使い方と構えを改良して剣を振ればよっとよくなると思う」

「構え…ですか?」

「ちょっと、構えをとってみて」


 いつも通り剣を構えてみる。


「こうですか?」

「ちょっとそのままで」


 頭から足先まで構えを細かく微修正してくれた。それに加えて、剣を振るときの姿勢とポイントも教えてもらう。窮屈に感じるけど、俺より強いウォルトさんのアドバイスは素直に受け入れる。


「うん。いい感じだと思うよ」


 修正を終えると打ち込んでくるよう言われた。


「力は可能な限り抜いて、剣をギリギリ握れるくらいの力で振ってみてほしい。目標に当たる直前にぐっと握り込む感じで」

「力を抜いて、ギリギリ持てるくらい…。こんな感じですか?」


 言われたとおりに剣を振る。すると、今までで一番の斬撃がウォルトさんを襲った。ひらりと躱されたけど、さっきまでの斬撃とは雲泥の差だ。自分でもわかる。


「今の斬撃はよかったと思う。力が無駄に逃げてなかったように見えた。手応えはどう?」

「窮屈な姿勢なのに威力が上がりました。力の使い方に気をつけるだけで、こうも変わるなんて…」 


 1人の修練では絶対気付けなかったこと。


「ボクが勝手にいいと判断した姿勢だから正解じゃないはず。剣士に師事すれば、もっと力を上手く使えるようになるんじゃないかな」



 その後、弟子入り志願者が増えたのは言うまでもない。

読んで頂きありがとうございます。

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