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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
146/707

146 直感

 ギルドを出たリオンはマードックの住み家を目指す。



 時間はまだ昼過ぎ。アイツは冒険中かもしれんな。そうなると今すぐ会うのは難しいか。考えたところで腹が鳴る。

 露店に行こうと考えた矢先、道の向こう側から歩み寄る獣人の姿。遠目にも一目で危険な奴だとわかる風貌。傷だらけの鍛え抜かれた肉体。こんなに早く巡り会うとは思わなかった。互いに歩み寄り向かい合わせに立つ。


「よぉ、リオンさん。元気だったかよ?」

「ちゃんと鍛えてるようだな、マードック」


 互いに挨拶を交わしニヤリと笑った。


()りたくて帰ってきたんだろ?相手になるぜ」


 俺は鼻で笑う。変わりないようで安心した。

 

「お前は話が早い。だが腹が減った。先に昼飯にするぞ」

「ガハハハ!腹が減ってるのを負けた言い訳にされちゃかなわねぇからな。そうすっか」


 生意気な奴だ。だが懐かしい。


「俺にそんな口を叩くのはお前だけだ。ところで、あまり驚いてないな。帰ってきたのを知ってたのか?」

「路地裏で虎と犬の獣人をぶちのめしたろ?あの3人組は俺の知り合いだ。獅子のジジイにやられたって聞いてな。俺もアンタを探してたんだよ」

「お前の知り合い?あんな弱っちい獣人が?」

「獣人っつっても、皆がアンタみたいにはなれねぇんだよ。まっ、とりあえず飯にしようぜ」

「そうするか」


 とりあえず近場の食堂に入る。料理を注文して通された席に座った。


「しばらく帰ってこねぇでなにしてたんだ?」

「いろんな国を渡り歩いて傭兵みたいなことをやってた」

「アンタらしいな。…で、なんか新しい発見はあったか?」

「あぁ。面白かった。お前もカネルラを出て世界を巡るべきだ。見たこともない強者がいる」

「考えとくわ。エッゾにしてもアンタにしても…。いや、なんでもねぇ」


 エッゾ。懐かしい名だ。アイツも面白い獣人だった。


「エッゾはなにをしてる?」

「知らねぇ。強くなることしか考えてねぇから、修行っつっていつもどっか行ってやがる。街にはたまにしか帰ってこねぇし、冒険はほぼやってねぇ」

「あいつも強くなってるか。俺がフクーベで強くなりそうだと思った若い獣人は、お前とエッゾだけだった」


 コイツとエッゾはまだ若く荒削りだったが、強くなる可能性を感じさせた。負けん気と伸びる才能を感じた。いつか強くなったコイツらと冒険してみたいと思っていた頃もあったな。



 ★


  

 マードックは思う。

 

 このオッサンは変わってねぇな。リオンさんは、まだぺーぺーだった俺やエッゾに、「お前らは強くなる。俺が鍛えてやろう」って勝手に絡んできやがって手合わせみてぇなことをやらされた。

 ただ闘いたかっただけかもしれねぇが、俺にとっちゃ師匠みてぇな獣人。俺がさん付けすんのはこのオッサンだけだ。


 料理が運ばれてきた。


「今日は俺の奢りだ。たらふく食えよ」

「お前もAランクらしいな。金持ちにご馳走になるとするか」

「けっ!昔は食わせてもらってばかりだったからな!」


 目を細めたリオンさんは、なにも言わずに食い始めた。食うのもこのオッサンには負けられねぇ。


 半分くれぇ食ったら、いきなり予想しなかったことを言いやがった。


「マードック。お前と()ろうと思ってたが、やめだ」

「そうかよ…。はぁ!?」

「俺はお前には勝てない。それがわかった」


 負けず嫌いのくせにおかしなこと言いやがる…。


 ……まてよ。


「またアンタの『直感』か…?」

「そうだ。結果の見えてる勝負をしても面白くない。楽しみにしてたんだがな」

「マジかよ…」


 完璧に忘れてたぜ。しゃあねぇか…。


 獅子王リオンには変な能力がある。本人は『直感』っつってるけど、ちっとだけ先のことがわかるらしい。俺は外してるのを見たことがねぇ。

 先のこと以外にも、言われた奴が気付いてねぇことを当てるときもある。そん時はちっと気持ち悪ぃ。厄介なのは、自分じゃどうにもならねぇとこだ。閃くように感じるらしいがワケがわかんねぇ。


「闘ってお前に負けるのは別に構わん。お前の方が強かったというだけだ。ただ、初めから勝敗のわかりきった勝負ほどつまらんモノはない」

「なんで発動させちまうんだよ」

「自分ではどうにもできん。俺が1番困ってる」


 その後は、無言で飯食って外に出る。


「これからどうすんだよ?」

「暇潰しにダンジョンで魔物でも狩るか。もしくは、エッゾに相手してもらうか」

「いつ帰ってくるかわからねぇぞ。強ぇ奴なら俺のパーティーメンバーを紹介するぜ」

「人間やドワーフもいいが、俺は強い獣人と闘いたくて帰ってきた。カネルラ以外には強い獣人が山ほどいたぞ」

「アンタが負けるほどか?」

「ほとんど勝った。だが…負けた奴もいる。ソイツは強かった」

「面白ぇ…。楽しそうじゃねぇか!」


 リオンさんは目を細めた。


「お前は早い内にカネルラを出るべきだ。そうすればもっと強くなる。…さて、これからどうするか迷うな」


 なんとかならねぇのか…。俺ら以外に獣人の強ぇ奴なんざ、フクーベには…。


 ……いたぜ。とんでもねぇ奴が…。


「なんだ?しかめっ面して。俺に言いたいことでもあるのか?」

「リオンさんよ…。フクーベで一番強い獣人は俺じゃねぇ、つったらどうする?」


 ピクッと眉をひそめる。


「なんだと?冗談……いや、強さに関してお前が言うわけないな」

「言いたくねぇが、俺はソイツに負けた。エッゾもだ」

「なにぃっ!?そんな奴がいるのか!?俺も知ってる獣人か?」

「知らねぇだろ。アンタがいた頃フクーベにはいたけどな」


 リオンさんがアイツのことを知ってるワケがねぇ。ただでさえ弱い奴に興味がねぇからな。


「俺の目は節穴だったか。お前達よりも強い奴が…。そうか…」

「ソイツは獣人のくせに闘うのが好きじゃねぇ。だからアンタは知らねぇはずだ。もし会ってみてぇっつうんなら会わせてやる」


 強ぇ奴がいねぇか考えたとき、直ぐにアイツの顔が出てきた。アイツが闘いを望んでねぇのは知ってる。初めの内はいろんな強ぇ奴を送り込んで成長させようと企んだ。

 けど、もうやる必要がねぇ。むしろ、アイツの周りを静かにしてやりてぇと思ってる。口には出さねぇけどな。

   

 だがよ、悪ぃが今回は言わせてもらうぜ。リオンさんは闘うことしかできねぇ不器用なオッサンだ。強ぇ奴と闘うことが生きがいで、技や心構えを教えてくれた獣人だ。

 そんな男の無念をなんとか晴らしてやりてぇ。エッゾなら喜ぶのはわかってっけど、あのバカはどこにいるかすらわかんねぇ。アイツに頼むしかねぇんだ。


「闘いが好きじゃないのに強い?そんな奴がいるか」

「会えばわかる。それしか言えねぇな。どうする?」


 リオンさんはニヤリと笑った。


「そんな面白そうな奴なら会うに決まってる!訊くだけ野暮ってもんだ!グワハハ!」

「なら、さっさと行こうぜ。この街にはいねぇからな」

「そうか。お前と闘うタメに帰ってきて、こんな楽しみが待ってるとはな。予想できなかった」


 生き生きしてきやがった。だがよ、それでこそ獅子王だろ。






 森を歩くリオンさんは気持ちよさそうに目を細める。


「森はいい。生き返るな」

「そうかよ」

「ところで、ソイツはどのくらい強いんだ?お前がギリギリ負けるくらいか?」

「わからねぇな」

「わからない?」


 アイツの強さをどう表現すりゃいいのか悩むぜ。見りゃ1発だがな。


「例えば、アンタなら100匹の【魔物部屋】を何分で全滅させられる?」

「100だと…20分くらいか」


 それでもかなり速ぇが…。


「ソイツなら1分かからねぇ」

「それはさすがに嘘だろう!?あり得ん!」

「残念ながら嘘じゃねぇ。この目で見たからな」

「そうなると素手じゃ無理だな。なにか武器を持ってないと…」


 ブツブツ呟いてやがる。もう頭ん中じゃ闘いが始まってんのか?


「当たってるぜ。ソイツはあんま力が強くねぇ。卑怯だと思うか?」

「バカ言うな。持って生まれた能力は平等じゃない。足りないと思えば別の手段を使って強くなればいい。当たり前だ」

「クックッ!アンタはそう言うと思った。そろそろ着くぜ」


 森を抜けて拓けた土地に建つ家。俺達はガンガン近寄っていく。そして、いっつも直ぐ顔を出す芸のねぇ白猫の獣人。


「アイツだ」

「ほぉ…」


 警戒を強めたな。もっと驚くと思ったのに予想と違ったぜ。歩み寄ってウォルトの前に立つ。


「よぉ。お前に頼みがあって来た」

「あぁ…。…見ればわかる」


 あん…?珍しく表情が固ぇ。いつもならへらへら笑ってるコイツが笑ってねぇ。なんだ…?


「リオンさん。お久しぶりです」


 久しぶり…だと?コイツ、リオンさんのこと知ってんのか?


「お前は俺を知ってるのか?」

「はい。フクーベに住んでいた頃に」

「そうか。俺は覚えてない」


 それは予想通りだ。けど、ウォルトの口振りは名前を知ってるだけじゃねぇな。


「当然です。もしかして、ボクと闘いに来たんですか?」

「そうだ。マードックからお前のことを聞いてな」

「…わかりました。仕合ならいいですが殺し合いはお断りします」

「それで構わん。話が早くて助かる」


 ちっと驚いたぜ…。マジで話が早すぎる。コイツがこんなに早く勝負を受けると思ってなかった。どうやって無理やりやらせるか考えてたってのに、いつもと様子が違う。まるで闘いたがってるみてぇな…。


「俺が連れてきて言うのもなんだけどよ、いいんか?」

「構わない。むしろ…お前に感謝してる」

「感謝だと?」


 まったく意味がわからねぇ。


「こっちの話だ。気にしないでくれ。あと、リオンさん」

「なんだ?」

「畑仕事をしてるので、少しだけ待ってもらえますか?」

「もちろんだ。仕事は大事だ」


 ウォルトは畑を耕して片付け始めた。並んで遠くから見つめる。


「マードック。感謝するぞ」

「なにがだよ?」

「アイツは強いな」

「わかるのか?」

「久しぶりに全身の毛が逆立つ感覚だ。見た目は貧弱なのにな。あんな奴がフクーベにいたとは」


 俺もエッゾも感じなかったアイツのヤバさに気付くか。さすがとしか言いようがねぇ。


 ウォルトが戻ってきた。


「お待たせしました」

「こっちこそ仕事中に急に来て悪かったな」

「構いません。では、場所はそこの更地でいいですか?」

「いいぞ」


 リオンさんとウォルトは、更地に移動して向かい合う。いまいちわかんねぇが、とりあえず見てやるぜ。

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