14 常識外れ
暇なら読んでみて下さい。
( ^-^)_旦~
来客用の宿泊部屋に戻った私とオーレンは、並べられたベッドに向かい合って腰掛ける。
既に何度か泊まりにきていて、同じ部屋で寝泊まりしている。兄妹のように育ったので、違和感はないし色気もない。
先に私が口を開いた。
「さっきの魔法、見た?」
「あぁ。俺の知ってることと違ったぞ」
「簡単にやってたけど、もの凄く高度な技術だよ」
ウォルトさんが見せた『炎』の魔法は、通常であれば人の顔より大きい程度の炎が出現する。そこまでは普通だったけど、炎を指の先に灯るくらいの大きさまで変化させたことが凄い。
「魔法は誰が使ってもほぼ同じ効果が発現するのが常識。炎の大きさもそう。覚えたての頃なら炎が小さいのは当たり前なんだけど、さっきのウォルトさんみたいに変化させるには魔力の操作を繊細に行う必要がある」
「俺もそのくらいは知ってる」
昔、魔法の師匠である故郷の魔法使い、ホーマおじさんが教えてくれた。魔法を覚えて使うだけなら才能があれば可能だけど、魔法を変化させるのは難しい。魔力の調節や操作はそう簡単に修得できるものじゃないって。
可能になれば私の『火炎』も魔力量を制御できるかもしれない。でも、どうすればいいのかホーマおじさんには見当がつかないと言ってた。
「しかも詠唱してなかったよね?」
「あぁ…。いきなり炎が現れたからめっちゃビビった…」
無詠唱による魔法の発動は高等技術で、ベテラン魔導師しかできないって教わった。ウォルトさんは、息をするかのごとく自然に魔法を発現させた。信じられない魔法操作技術。
「あの感じだと、ウォルトさんは自分が普通だと思ってるよな?」
「間違いないよ。明日になればハッキリするけど、まさか命の恩人が凄い魔導師だったなんて…」
短い付き合いだけど、ウォルトさんが嘘を吐いてるとは思わない。絶対にそんな人じゃない。30種類の魔法を操る魔導師が世界に何人いるんだろう?
断言はできないけど、街のギルドで最高と言われている魔導師でも10~15種類程度じゃないのかな?高度な魔法になると、習得に1年以上かかるのも普通らしいから。
「とにかく、明日ウォルトさんの魔法を見せてもらおう!それ次第では…」
「次第では?」
「私は弟子にしてもらう!」
「有りだな。ウォルトさんは教えるの上手いし、俺達パーティーにとって絶対にいいことだよな」
「うん!全ては明日だ!」
「おう。じゃ、おやすみ」
ウォルトさんの魔法を楽しみにしながらゆっくり眠りについた。
翌朝。
絶品の朝食を食べ終えて後片付けを済ませると、早速「魔法を見せて下さい!」とせがんだ。
ウォルトさんは快く了承してくれて、魔法を見せてもらえることに。場所は家の前の少し拓けた更地で実演してくれるみたい。
「じゃあ、今から魔法を見せるけど、使ってほしい魔法がある?」
「『火炎』はできますか?」
まずは自分も使える魔法を見てみたい。ワクワクしてきたぁ!
「できるよ。『火炎』」
「えっ?!ちょっとまっ……!」
一瞬の出来事。止める間もなく翳した右手から特大の炎が放たれた。大きさは私の『火炎』の軽く倍以上ある。
少し離れた場所に鎮座する岩に向かって放たれた炎は、しばらく燃え続けて霧散した。隣で見ているオーレンは顎が外れそうなくらい口を開けてる。
そりゃそうだ。こんな魔法、見たことないもん…。
「コレでいいかな?」
「一体どうやって…?身体はなんともないんですか?」
「体調は特に問題ないよ」
「そうじゃなくて…魔力の残量的な?」
私が知る限り、魔法を発動するのに必要な条件の1つに【手順】がある。いわゆる【詠唱】と呼ばれる技法。手の形であったり呼吸法であったり、様々な手順が存在していて、『火炎』にも当然ある。
私がホーマおじさんから教わったのは、両手の親指と人差し指で菱形の空間を作る【印】というやり方。でも、『そんなの関係ない』とばかりに片手で放たれた『火炎』。威力も詠唱速度も私とは比べものにならない。そんな魔法を放ったのに魔力も全然余裕がありそう。
まったく理解できない。自分が学んだことが間違いのような気さえしてきた。1つだけ確かなのは、とにかく凄いということ。
「他にもある?」
「じゃあ…『氷結』はできますか?」
氷系の魔法で、私は名前しか知らない魔法。
「できるよ。『氷結』」
またも右手から放たれた冷気で岩が凍りついた。何本も突き出た氷柱が威力を物語ってる。オーレンはいよいよアホ面で放心。気持ちがわかりすぎる。
「次は?」
ウォルトさんは笑顔で私のリクエストを待ってる。
「大丈夫です!ありがとうございました!」
「まだ全部見せてないけど、いいの?」
「もう充分です!」
「そう?」
ウォルトさんは首を傾げてるけど、そう言うしかなかった。これ以上魔法を見せてもらったら、あまりの衝撃に魔法使いとしての自信をなくしてしまいそうで。
恩人がとにかく凄い魔導師であることを目の当たりにして、ずっと気になっていた自分の魔法について尋ねてみることにした。
「ウォルトさん。私も『火炎』が使えるんですけど、なぜか一度きりしか使えなくて原因がわからないんです。よかったら診てもらえませんか?」
「1回しか使えない?気になるね。見せてもらってもいい?」
「はい」
集中して詠唱の準備に入ると、じっと観察してる。緊張するけど魔法に集中しよう。精神を集中していつも通り詠唱する。
『火炎』
手順を踏んで魔法を放った。身体から力が抜けて地面に座り込んでしまう。
「素晴らしい威力の『火炎』だった。アニカは凄い」
「ハァ…ハァ…。なにか…わかりましたか…?…ハァ…ハァ…」
「発動する時の魔力の流れが不自然だね」
「魔力の流れ…ですか…?」
「簡単に説明すると…」
ウォルトさんの説明によると、魔法使いの体内には魔法を発動するときに魔力が通る『魔力回路』があるらしい。通常、使う魔法に応じて適切な回路を無意識に選択して魔力量を調整するらしいけど、私が『火炎』を発動するときは無駄に大きな経路を通ってしまっているらしい。
魔法の威力に関わらず、全ての魔力を強制的に放出してしまうらしく、ウォルトさんの見立てでは、私の魔力量だと今の『火炎』を2回は使えるはずだと。
「そんなの…どうすれば…」
落ち込んでいるとウォルトさんが微笑む。
「矯正してみようか」
「え?」
「今からもう一度詠唱してみよう」
「でも…魔力が残ってないです…」
魔力を回復させるには、魔力回復薬を飲むか時間が経って自然に体内で生成されるのを待つしかない。私の魔力はすっからかんだ。
「大丈夫。ちょっと手を貸して」
言われた通りに両手を差し出すと、ウォルトさんは微笑んで自分の手を重ねた。掌が温かくて心地いい。しばらく待っていると、掌から温かいなにかが流れ込んでくる。
とても温かい…。コレはなに…?それから待つこと数秒。
「魔力はどう?」
魔力は空っぽなんです……けどっ!?
「魔力が回復してます!」
「もう一度使えるはずだよ」
どういうこと!?魔力を渡されたってこと…?そんなことができるのも初めて知った。
驚きながら『火炎』を発動するために精神集中を始めると、ウォルトさんの手が肩に触れた。
「あの…なにか…?」
「気にせずこのまま詠唱してくれないか」
ウォルトさんは目を閉じてなにか探ってるように見える。言われた通りにしてみよう。
『火炎』
詠唱した瞬間、体内でなにが変化した。上手く言えないけど、歯車が噛み合ったような…。身体の中心に一本芯が通ったような不思議な感覚。放った魔法はいつもと変わらぬ威力だったけど…。
「………魔力が残ってる!」
体内に魔力が残ってる感覚がある。体力と一緒でハッキリした残量は掴めないけど、まだ詠唱できそうだし、いつも襲ってくる脱力感がない。
ゆっくりウォルトさんに目を向けると、『よかったニャ』とか言いそうに優しく微笑んで説明してくれた。
「アニカが詠唱する瞬間に、魔力を操作して流れを整えてみたんだ。操る魔法に適した回路を通るよう修正できた。身体が覚えたはずだから今後は大丈夫だと思うよ」
「ありがとう…ございました」
「気にしなくていい。このくらいは魔法を使える人なら誰でもできるからね」
そんなことないと思うけど。ウォルトさんは謙虚な魔導師だ。
「ボクは、師匠から「お前のような魔法使いは世の中にゴマンといる」と言われてるんだ。その通りだと思う」
屈託のない笑顔を見て確信した。ウォルトさんは凄い魔導師。そして、自分の力に無自覚だ。平然と口にしてるけど、ホーマおじさんは「かなりのベテラン魔導師にしか原因はわからないだろう」って言ってた。なのに、いとも簡単にやってのけた。
私の心は決まった。弟子にしてもらうしかない!
読んで頂きありがとうございます。