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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
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137 銀狼の里を後にする

 ギレンさん達とともに、私達は遅い昼食をとる。


「美味しいよ」

「よかった」


 兄ちゃんが作ってくれた弁当は相変わらず抜群に美味しい。ギレンさん達は備蓄していた肉を食べてる。


「美味いな!」

「美味しいわ!」

「相変わらず美味い!さすがウォルトだ!」


 兄ちゃんは特製の香辛料を持参していて、ギレンさん達に断って軽く味付けてから魔法の炎で焼いた。ペニーに好評だったからかな。

 相手が銀狼であっても関係なく虜にする凄腕料理猫。とにかく美味しい料理を提供して皆を満足させる。


 食事を終えて兄ちゃんがペニーに訊く。


「ペニーは最近修行ばかりしてるんだって?」

「ウォルトに勝つために修行してる!だから会いに行けなかったんだ!強くなってから行こうと思ってた!」

「そっか。ボクも負けないよ」


 兄ちゃんは珍しくキメ顔を見せる。


「くそぉ~!カッコいいな、ウォルトぉ~!」

「そうかな?」


 しばらく兄ちゃんとペニーは遊んでいた。


「チャチャ。そろそろ帰らないと時間がないんじゃ?」

「そうだね。そろそろ帰ろうか」


 今から帰ればまだ余裕はあるはず。


「えぇ~!!もう帰るのか!泊まっていけばいいのに」

「そうしたいんだけどね」


 駄々をこねるペニーをギレンさんが諭す。


「我が儘を言ってはいかん。2人はお前に会うために遠路はるばる来てくれたんだ。ウォルト殿はさておき、チャチャはまだ若い女の子。明るい内に家族の元に無事に帰さねばな。会いに来てくれたことに感謝しろ」

「そうだけど…。せっかく会えたのに…」


 ギレンさんを見てると、銀狼は知能が高く森の守護者と呼ばれるのがよくわかる。人族となんら変わりない。しょんぼりしてるペニーに優しく語りかける。


「ペニー。私ももっと強くなる。次に会うときは、団結して兄ちゃんを倒そう!お互い腕を上げて強くなろうね!」

「…そうだな。チャチャと組んで次こそ打倒ウォルトだ。そのタメに頑張る!チャチャにも負けない!」


 しゃがんでペニーの身体を撫でまくる。モフモフして気持ちいいな。尻尾を振って笑顔。


「2人とも…寂しいこと言うなぁ…」


 兄ちゃんは仲間はずれにされたような寂しさを感じてる表情。でも、私達の目標はまずそこ。だって負けず嫌いだから。

 

「ウォルト殿。ペニーは歴代最強の銀狼を目指しています。親馬鹿かもしれませんが、私はなれると信じています」


 パースさんも続く。


「これからもこの子のことをよろしくお願いしますね」


 兄ちゃんはニャッ!と笑った。


「ペニーとチャチャは友達でライバルです。互いに負けないよう頑張ります」




 住み処を出た瞬間に声を掛けられる。


「ウォルト!チャチャ!ごめん!」


 声の主はシーダ。出てくるのをわざわざ待っててくれたのかな。


「シーダ、どうしたの?なにを謝ってるの?」


 兄ちゃんは首を傾げてる。私もそう思う。なぜ謝る必要があるの?


「父ちゃんが…ウォルト達のことを嘘つきとか雑魚とか悪く言ってボコボコにされたって聞いたから…」

「えっ?!サヴァンさんって、シーダのお父さんなのかい?」


 シーダはコクリと頷いて説明してくれた。剣歯虎の件も正直に伝えたけど、「そんなこと有り得ねぇ!」と断固として認めてくれなかったらしい。今は負けたショックで奥さんに慰められているんだとか…。


「命の恩人なのに…父ちゃんが獣人を馬鹿にしたりしてごめん!」


 項垂れるシーダをペニーがフォローしてくれる。


「ウォルト達はもう怒ってない!俺の友達だからな!」

「そうなのか…?」

「ボクは獣人だから祖先をバカにされるのは許せない。でも気が済んだ。許すもなにもシーダは悪くないよ。ボクこそ、シーダのお父さんを殴ってごめん」


 父親を殴った相手に謝るなんてシーダは優しい。内心は複雑なはず。冷静になった兄ちゃんも悪かった部分は認めてる。


「私も怒ってないよ。それに、シーダは友達だし許すも許さないもないよ」

「俺も…友達…?」

「チャチャの言うとおりで、ボクらはもう友達だ」


 ペニーが笑った。


「シーダも今度俺と一緒にウォルトの住み家に遊びに行こう!楽しいんだ!」

「いいのか?俺も…行ってみたいぞ!」

「いつでも歓迎するよ。美味しい肉を準備して待ってる。チャチャと一緒にね」

「「やった!」」


 ペニーとシーダは仲良く並んで尻尾を振る。さっきペニーに聞いた話だと、2人は歳も近くて仲がいいらしい。だからなのか反応が似てる。

 銀狼同士には友達という概念がなくて、全員が兄弟や家族に近い感覚みたい。だから、私達のように多種族の友達ができて嬉しいと言ってくれた。


「じゃあ、行こうか」

「ペニー、シーダ、またね。ギレンさん、パースさん。お世話になりました」

「元気でね。また会いましょう」

「またいつでも訪ねて下さい。あと…ウォルト殿、貴方は……」

「なんでしょう?」

「…いえ。なんでもありません。またお会いしましょう」

「はい。また」


 ギレンさんはなにか言いたそうだけど…と思ったところで、歩み寄ってくる銀狼達の姿。

 

「ウォルトさぁ~ん。もう帰るんですかぁ~?」


 話し掛けてきたのはおっとり話す銀狼。きっと雌かな。一緒にいる銀狼もそうっぽい。兄ちゃんなら直ぐに判別できるんだろうけど。


「そのつもりですけど、なにか用ですか?」

「よかったらウチに寄ってかないかと思ってぇ~。歓迎しますよぉ~」


 妙な色気を感じさせる銀狼が住み処に誘ってくる。散々騒いで大立ち回りを演じたばかりなのに、住み処に招くなんて罠みたいで怪しいけど、兄ちゃんは優しいと勘違いしてそう。


 なんか…口調がまるで男を誘ってるみたい…。まさか…付いていったりしないよね…?


 厳しい視線を送ると、兄ちゃんはスンと鼻を鳴らす。私をチラ見して目が泳いだ。


「今日は時間がないので、また今度来ることがあればお邪魔します」

「えぇ~。ちょっとくらいいいじゃな~い!」


 鈍い兄ちゃんに心が通じた。でも銀狼達は引き下がらない。パースさんがため息を吐く。


「今日は諦めなさい。2人はもう帰らなきゃいけないのよ」

「はぁ~い。パース姉さんに言われちゃしょうがないかぁ~。ウォルトさん、またねぇ~」


 銀狼達は身を翻して住み処へ帰っていく。よかったけど、それにしても兄ちゃんは無防備すぎる。ちょっと訊いておこう。

 

「兄ちゃんはああいう女が好みなの?」

「えっ?どういう意味?」

「…なんでもない」


 私の言動の意味に気付いているのか、ギレンさんとパースさんが揃って苦笑い。銀狼は本当に賢いんだなぁ。




 私達は、魔法で飛び降りた崖を今度は逆に駆け上がる。


 ペニーは私を、シーダが兄ちゃんを背中に乗せてくれて、軽やかに岩を飛び移りながら崖を登る。凄い脚力だ。

 里で別れようとしたけど「崖の上まで送る!」と言ってくれたので甘えることにした。すっごく怖いけど、落ちたら兄ちゃんがなんとかしてくれるはず。


 誇り高い銀狼は背中に誰かを乗せるなんて有り得ないことらしい。ペニーとシーダ曰く「友達だからいいんだ!」とのこと。里まで会いに来てくれたお礼と、シーダを助けたお礼も兼ねているらしい。気にしなくていいのにね。


「もう着いた!速いだろ!」

「俺達だから早く登れたんだぞ!!」


 尻尾を振って褒めてほしそうな目を向けてくる。心が癒される光景に、兄ちゃんと私は目を細めてそれぞれ頭を撫でてあげた。


「ありがとう。さすが銀狼だ。凄いよ」

「私もありがとう。重かったんじゃない?ペニーもシーダも疲れてるのに」

「「大丈夫!友達だからな!」」


 ペニー達が口を揃えたのが可愛すぎて笑ってしまう。今度は森の住み家で再会することを約束して帰路についた。



 ★



「父さん!崖の上まで送ってきた!速いって褒められたんだ!」

「そうか」

「よぉ~し!もっと強くなってシーダと一緒に会いに行くぞ~!じゃ、晩飯までまた修行に行ってくる!」

「気を付けてな」


 本日、二度目の修行に向かったペニー。最近は食事のときと寝るときしか住み処にいない。その甲斐あってメキメキと実力を伸ばしている。

 まだ銀狼としては幼いものの、雷撃などの狼吼も自在に操るまでに至っている。同年代の銀狼でペニーに敵う銀狼はいないだろう。


「あの子は…いい友達に恵まれたわね」

「そうだな。俺達が獣人と親しい間柄になるとは思わなかった。ウォルト殿が銀狼の雌にも好かれるような珍しい獣人だからかな」

「私達は多種族に全く興味を示さない。ウォルトさんが強くて魅力的だからなんでしょうけど、今回はサヴァンのせいでもある」

「なぜだ?」

「サヴァンが誇り高き銀狼としてあまりにも下劣な言動を重ねて、今回はどう見てもウォルトさんの怒りが正しかった。共感していたところにあの強さを見せられちゃ仕方ないの」

「なるほどな。それにしても、彼はああいうことにすごく鈍感なんだな。正直意外だった」

「私もよ。これから先が思いやられるわね。いずれチャチャや他の女の子にポカッ!と殴られるんじゃないかしら?」

「そして、なぜなのかわからない表情を浮かべる…か。目に浮かぶな」


 ウォルト殿は不思議な獣人。知的で優しく、それでいて獣人の名に恥じぬ獣らしさも併せ持つ。


 ペニーとじゃれ合う姿を眺めながら思った。いくら修行したとしても、ウォルト殿に勝つのは至難の業。強大で堅固な魔法を操る獣人は、全力を出さずしてサヴァンを手玉にとるような手練だ。

 だが、ペニーは挑むという。そんな息子の成長を純粋に手助けしたいと思えた。彼を凌駕する最強の銀狼を育てたい。


「ところで、さっきウォルトさんに言いかけてやめたのはなんだったの?」


 気付いていたのか。


「訊きたいことがあってな。結局やめたが」

「なにを?」

「【原始の獣人(ハジマリ)】のことだ」


 パースの表情が曇る。


「ギレン…。あなた…」

「勘違いするな。深い意味はないが、彼を見ているといつか出会う気がする」

「…そうかもしれないわね」

「彼が原始の獣人に出会うことがあったら、その時は聞きたい。同じ獣人として…奴らのことをどう思ったのか」


 天井を見上げる俺の隣でパースは物憂げな表情を浮かべていた。

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