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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
135/706

135 弱肉強食

 しばらく歩いたところで、シーダが立ち止まった。


「ココがペニーの住み処だぞ!いるといいな!」

「ありがとう。シーダがいなかったら辿り着けなかった」

「ホントにありがとうね」

「こっちこそありがとうな!お前らは命の恩人だから今回は特別だぞ!」


 すると、私達の声に誘われたのかペニーの住み処から銀狼が顔を出した。


「騒がしいわね…って、剣歯虎!ガルルルッ!」

「違うぞ!俺が背負ってるだけだ!」


 今までの銀狼と違っておっとりした話し方で表情も柔らかい。話し方と雰囲気からすると雌みたいだけど私には判別できない。

 兄ちゃんから「匂いでチャチャが女の子ってすぐわかった。獣人なら誰でもわかる」って言われたけど、私も含めて知ってる獣人にはそんな人いない。得意の勘違いだ。


「この2人はペニーの友達だぞ!ペニーに会いに来たんだ!」

「…その声はシーダね。あまり驚かせないで。ペニーの友達?」


 シーダに紹介されて挨拶する。


「初めまして。ボクは猫の獣人でウォルトと言います」

「私は猿の獣人のチャチャです」


 私達の名を聞いた銀狼は驚いてる表情。でも、直ぐに表情を崩して口を開いた。


「ペニーの母のパースよ。貴方達のことはペニーから聞いてる。こんな遠いところまで…」


 …と、また奥から銀狼が顔を出した。


「パース、誰だ?むっ…貴方は!」

「お久しぶりです。ギレンさん」


 兄ちゃんはペニーのお父さんとも知り合いなんだ。私には見分けがつかないけど、兄ちゃんは見た目じゃなくて匂いで嗅ぎ分けてる可能性が高い。


「ウォルト殿。お久しぶりです。そちらのお嬢さんは?」

「初めまして、私はチャチャといいます。ペニーの友達で会いに来ました」

「君がチャチャか。ペニーから聞いてる。私はギレン。ペニーの父親だ。あいにくペニーは修行中で今いない。少し待ってもらえないか?」

「待たせてもらいます」


 話し方がまるで人間みたいに丁寧だ。互いに挨拶したところで、ギレンさんは私達を住み処に招いてくれた。シーダは住み処に戻るみたいで、剣歯虎を背負ったまま元気に走り去った。

 住み処の洞穴は私達でも立ったままで通れる高さがある。中は不思議と湿っぽさはなくてひんやりして外よりも涼しい。


 ギレンさんとパースさんの後を私達は歩く。暗闇でも見えるよう兄ちゃんに魔法をかけてもらった。私はあまり夜目は利かない。

 しばらく進むと拓けた場所に出た。どうやら生活空間のようで、藁のようなモノを敷いた寝床が3つ点在してる。


「なにもありませんが、ゆっくりして下さい」


 パースさんに促されて私達は藁敷きに座った。


「チャチャ。こんな場所に我々の里があるとは思わなかっただろう?」

「驚きました。シーダがいなかったら辿り着けませんでした」


 私は「川の近くでいいところなんだ!」とだけ聞いていた。


「でも、ペニーから聞いたとおり静かで綺麗な場所です」

「銀狼の里は遙か昔からこの場所に在り続けている。何者にも浸食されず変わらない美しさがある」


 カネルラの伝説で、銀狼は『森の守護者』と呼ばれてる。遙か昔から動物の森を見守ってきたと。


「その代わり、里を守るために昔より排他的になってしまっているが。…もしや、さっき外が騒がしかったのは…」

「銀狼の皆に囲まれてしまいました」

「やはり。客人に里の者が迷惑をかけてしまった」

「いえ」

「ところで、さっきシーダが背負っていた巨大な剣歯虎は一体?」

「シーダが剣歯虎と闘って倒れていたところに遭遇して、兄ちゃんが倒してくれました。肉をもらうとシーダが言ってくれたので」

「そうか。剣歯虎は銀狼の天敵。滅多に遭遇しないが、過去に何頭もの銀狼が闘って命を落としている。遭遇した場合、1対1で勝てる確率は力量にもよるが五分五分」

「そうなんですね」


 でも納得できる。剣歯虎と銀狼では体躯が違いすぎる。さっき見た剣歯虎はかなりの巨体だった。そんな魔物を倒した兄ちゃんは凄い。


「ペニーは最近修行にのめり込んでるとシーダが言ってました」

「ウォルト殿とチャチャのおかげだ」

「ボクはなにもしてませんが」

「私も心当たりはないです」


 ペニーになにか言ったりもしてない。


「ウォルト殿は、チャチャとペニーを相手に手合わせしたのでしょう?帰ってきてしばらくは「負けた!」と悔しがっていました。次は勝つために燃えているようです」


 ギレンさんは私を優しく見つめる。銀狼なのに優しい瞳。


「ペニーは「チャチャにも負けられない!きっと修行してるはずだ!」と息巻いてるのだ」

「…私も頑張ります!」


 ペニーの気持ちが嬉しくて負けていられないと気合いが入る。


「そろそろ飯の時間で、帰ってくると思うんだが…」

「ウォォォォォン!」


 ギレンさんの言葉を遮るように、住み処に突然咆哮が響き渡る。住み処中に反響して思わず耳を塞いだ。


「なんだ!?」


 ギレンさんが駆け出して私達も追従する。入口に到達した私達が目にしたのは、今まで出会った銀狼の中でも一際大きな体躯をした銀狼。背後に数頭の銀狼を引き連れている。


「サヴァン…。今の咆哮はお前の仕業か?」

「ギレン!テメェの処に獣人が来てるらしいな!里に余所者を入れるなんざ…どういうつもりだ!?」


 興奮している様子の銀狼にギレンさんは冷静に答える。


「この2人は我が家の客人。口出し無用だ」

「なんだと…?」


 咆哮した大きな銀狼はサヴァンというらしい。口振りからすると、私達が里に入ってきたのが気に入らないみたいだ。


「信用できる者達だ。現にシーダも命を救われている」

「眉唾だろうが!」

「なんだと…?」

「シーダの話じゃ自分が倒れている間に剣歯虎は倒されてたんだとよ!そこの弱っちそうな獣人どもが誰かの手柄を横取りしたに決まってんだろうが!」

「サヴァン…。言っていいことと悪いことがあるぞ…」


 ギレンさんの身体からオーラのようなものが立ち昇る。


「なんだぁ?俺とやろうってぇのか?面白ぇ!」


 空気がヒリつく。そこに平然と割り込んだのは…。


「2人とも、やめてください」


 暢気な表情の兄ちゃんだった。


「サヴァンさん。ボクらが銀狼の里に入るには誰かの許しが必要だったんですか?掟があるのなら謝ります」

「そんなものはねぇ!だが、この里に余所者はいらねぇんだよ!特に獣人はな!さっさと出ていけ!」


 牙を剥き出しにして威嚇してくる。後ろに控える銀狼達も同様だ。


「友達のペニーに会いに来たんです。会ったら直ぐに帰ります。せめて戻ってくるまで待たせてもらえませんか?」

「しつけぇぞ!テメェらはなにするかわからねぇ!今すぐ消えろ!今なら許してやる!」


 過去に余所者となにかあったのかな?疑問が浮かんだけど今はそれどころじゃない。


「お前という奴は…。人の客人に対してなんて言い草だ…」


 ギレンさんは怒りを隠そうともせず、サヴァンに歩み寄ろうとする。突然訪ねてきたのに私達に気を使ってくれて…。でも、もういい。


「ギレンさん。私達はもう帰ります。ペニーには今度また会えばいいから」

「チャチャ…」


 これ以上は迷惑をかけてしまう。


「兄ちゃんもいい?」

「ボクは構わないけど…いいの?」

「会うのを楽しみにしてた。だけど、里で暮らすギレンさん達の立場が悪くなる。私達の我が儘でそうなってほしくない。兄ちゃんの住み家で会おう」

「わかった。そうしようか」


 ギレンさんとパースさんに伝えておこう。


「お騒がせしてすみません。また兄ちゃんの住み家で待ってる。元気でね…と伝えてもらえますか?」


 ギレンさん達は申し訳なさげな表情を浮かべる。もう、気持ちは充分受け取った。


「ウォルト殿。チャチャ。すまない…」

「帰りは気を付けてね」

「はい」

「ありがとうございました」


 言葉を交わして帰ろうと歩き出す。私達が少し離れたところで、嘲笑うサヴァンの声が聞こえた。


「けっ!尻尾巻いて逃げんのか?やっぱ剣歯虎を倒したっつうのは嘘だな!貧弱そうなコイツらに倒せるワケがねぇ!獣人ってのは汚ぇ!所詮クソ弱ぇ猫や猿の血統だ!俺らとは違う!」

「まったくだ!」


 嘲笑する銀狼達。祖先をバカにされて怒りが込み上げる。唇を噛みながらも振り返らない。一刻も早く里を後にしようと歩を進める。


 けど…急に並んで歩く兄ちゃんの歩みが止まった。ゆっくり振り返ってサヴァンに問う。


「どういう意味ですか…?もしかして、猫と猿を……侮辱してるんですか?」


 兄ちゃんの問いにサヴァンが答える。


「あぁん?なにかおかしなこと言ったか?猫も猿も森では俺らに狩られるだけのちっぽけな存在だ。血統らしいテメェらも生まれながらの弱者だろうが!」


 クックッ!と笑うサヴァンと銀狼達。そんな銀狼達に向けて兄ちゃんは歩き出した。突然の行動に戸惑いを隠せないけど、後に付いていく。


 兄ちゃんはサヴァンの目の前に立ってもう一度訊いた。


「猫と猿が…なんですか?」


 顔は見えないけど……雰囲気が…。


「猫のくせに耳が悪ぃのか!?何度でも言ってやるよ!猫や猿はただ食われるために生まれてきた雑魚だ!お前らもクソ弱いだけの貧弱な存在。剣歯虎を狩った?嘘なんぞ吐いて恥ずかしくねぇのか?テメェらは無駄に悪知恵だけは働く姑息な種族だ!俺らの餌になる以外に生きる意味なんかねぇんだから、なんなら今すぐお前らを狩ってやろうか!フハハハ!」


 無表情で聞いていた兄ちゃんが呟く。


「逆だ…。今から……お前らを狩ってやる…」


 サヴァンが顔を顰める。


「んだと…?俺らを狩るって聞こえたが、気のせいか?あぁん?」

「そう言った。ボクが……猫がお前らを狩ってやる…。森の奥で驕った……下劣な田舎狼を…」


 兄ちゃんの言葉に銀狼達が総毛立つ。


「田舎狼だとっ!?嚙み殺してやるっ!!」


 激昂した銀狼が跳躍して襲いかかってきた。


「兄ちゃん!危ない!」


 首に噛みつこうと牙を剥き出しにして跳び付いた攻撃を、軽やかに躱して兄ちゃんは詠唱した。


『破砕』

「ガアァォッ!」


 衝撃波で吹き飛ぶ銀狼。川の畔まで吹き飛ばされてピクリとも動かない。一瞬の出来事に他の銀狼は動揺してる。ギレンさん達も。


 兄ちゃんは冷めた瞳で銀狼を一瞥すると、サヴァンに向き直って……凶悪に嗤った。


「猫と狼…。どちらが狩られるか楽しみだな…」

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