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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
131/706

131 猫、寝込む

暇なら読んでみて下さい。


( ^-^)_旦~

 カネルラを何年ぶりかの大寒波?が襲って、通過したのちウォルトは寝込んでいた。



 チャチャから貰った服でどうにか凌いだつもりだったけど、身体を冷やしすぎたのか熱が出てしまった。

 怪我や疲労なら魔法の出番。ただ、病気に魔法の出番はない。せいぜい額に載せてる濡らした手拭いを『氷結』で冷却するくらい。

 気合いで調合した熱冷ましの薬と回復薬を飲み、寝室のベッドで横になっている。


「ゴホッ!ゴホッ!…」


 喉が痛いから食事するのも辛い。それでも朝はカーユを作って胃に流し込んだ。鼻も詰まっているので匂いも味もよくわからない。頭がボーッとして思考もままならないけど、天井を見上げたまま思い返す。


 久しぶりに体調崩したなぁ…。師匠がいなくなってもう4年近い。1人暮らしでも今日まで体調を崩すことはなかった。怪我は数えきれないほどしたけれど。

 記憶を探ってみても覚えがない。ということは…久しぶりというより物心ついてから体調を崩してないのか。殴られて寝込んだことは多かったから混同してただけ。


 弱ってるときは昔のことを思い出すっていうけど本当だな…。


 考えている間に眠りについた。



 ★



 目を覚ましたとき、窓から見える外の光景は既に夕方で日が暮れ始めていた。


 ぐっすり眠れたけど体調は戻ってない。ぬるくなってしまった手拭いを魔法で冷やすと心地いい。


 なにか…食べないと…。


 体力を回復させるには食事が不可欠。言うことを聞かない身体に鞭を打って、なんとか上体を起こす。物音に耳が反応した。


 誰かいるのか…?台所からだと思うけど、誰かの足音が聞こえる。鼻が効かないので匂いはまったくわからない。オーレン達かな…?

 玄関の鍵はちゃんと掛けていたはず。…となると、合鍵を使って入ってる。合鍵を渡しているのはオーレン達とチャチャとサマラ。


 タッタッと部屋に近づいてくる足音。ドアの前で音が止まると、ノブが回ってドアがゆっくり開いた。


 料理の入った器を手に現れたのは……。


「起きてたの?大丈夫?」

「久しぶりだね…」


 前に会ったときと変わらない姿の母さん(ミーナ)だった。


「母さん…。またなにかあった…?」


 当然の疑問をぶつけてみた。


「アンタの様子を見に来たんだよ。ここ何日か凄く寒かったから、体調崩してないかってね。昔から寒がりだったでしょ?来てみたら案の定寝込んでるし」


 そう言って微笑む母さんは、母親の表情をしてる。


「ありがとう…」


 掠れた声で呟く。気持ちは嬉しいし助かる。


「お礼とかいらないから!親子なのに水くさい!それより、カーユを作ったから食べて!なにも食べてないでしょ?」


 カーユを作ったと言うけど、母さんが作れる料理は『秘伝のスープ』しかないはず。ボクの不安げな表情で察したのか、自信ありげに告げる。


「今回はストレイに作り方を習って材料と調理法も紙に書いてもらったからね!間違いないはず!」

「……」


 胸を張ってるけど不安が拭えない…。でも、今は気にしてられないし余裕もない。


「はい。召し上がれ♪」

「ありがとう…」


 受け取った料理を見つめる。確かに見た目はカーユだ…。カーユを作るのは難しくない。子供でも作れる料理でボクが初めて作った料理でもある。

 匂いは……全く嗅ぎ取れない。でも、両親が協力して作ってくれた料理。きっと大丈夫だ…と匙で掬って口に含む。


「美味しいよ…」

「でしょ~!」

「さすが父さんだ…」

「アタシはっ?!作ったのはアタシなんだけどっ!!納得いかないんですけどぉ~っ?!」


 ショックを受けたような顔して身振り手振りで抗議してくる。変な踊りを踊ってる獣人にしか見えない。いい歳した獣人がコミカルに動き回る姿は可笑しいけれど、残念ながら今は笑う余裕がない。


 もちろん感謝してる。目を瞑って父さんに想いを馳せた。


 父さんは…料理オンチの母さんに何度も根気強く作り方を教えたはず。全くと言っていいほど喋らない父さんが、全く人の話を聞かない母さんを相手に丁寧かつ辛抱強く説明したに違いない。

 並大抵の指導じゃ母さんはカーユを作れない。赤ん坊に料理をさせるより難しいんじゃなかろうか。奮闘する父さんの姿を想像して心が温かくなった。


 ありがとう。


「……ルト!ウォルト!聞いてるのっ?!」


 母さんの声で我に返る。


「母さん…落ち着いて…。頭に響くから…もうちょっと声を小さく…」

「なによっ!人を子供みたいにっ!」

「いい歳って言ったら怒るだろう?」

「そういうことを言ってるんじゃないのよ!それに、失礼なこと考えてなかった?!」

「……」


 誤魔化すワケじゃないけど、ちゃんと伝えておこう。


「カーユを作ってくれてありがとう。さすが母さんだ。正直こんなに美味しい料理を作れるなんて思わなかったよ」


 褒められた母さんは、抗議をやめて満面の笑みを浮かべる。


「でしょ~!アタシに感謝しなさい!もっと褒めていいよ♪」


 よく聞けば失礼なことを言われているのに、褒められたところしか聞こえてないみたいだ。さっき「お礼はいらない」って言ってたような気がするけど、もう忘れたんだな…。


 言いたいことはあるけど、母さんが褒められて伸びる獣人だと知ってる。褒めてすかして、褒めてすかして、褒めて褒めてさらに褒めるのが母さんを扱うコツだ。この『技能』は幼い頃に父さんから学んだ。


「明日の朝も懐かしい味の美味しいカーユを食べたい…。お願いしてもいいかな…?」

「もちろん!お袋の味なんて…嬉しいこと言ってくれるじゃない!」


 母さんは、へヘッ!と鼻をこする。そんなこと一言も言ってないし、母さんの作ったカーユは生まれて初めて食べたんだから、お袋の味なワケがない。今日が紛れもなく初代。


 とはいえ、機嫌がよさそうなので黙っておくことにした。今はツッコむ元気もない。


「じゃあ…また寝てもいいかな…」

「どうぞ!添い寝は?いる?いらない?」


 いるワケないだろ…。


「……父さんに悪いからやめておくよ」

「だよねぇ~!私はストレイ一筋(ひとすじ)だからね!息子だからってヤキモチ焼いちゃダメだよ♪」

「うん…。おやすみ…」


 これ以上は付き合いきれない。自然に眠りについた。



 ★



 次の日。


 目を覚まして、ゆっくり身体を起こしてみる。昨日に比べるとかなり楽になっていて、多少は動けそうだ。

 とりあえず部屋を出て居間に向かうと、母さんの姿はない。台所からも人の気配はしないから来客用の寝室で寝てるんだな。


 移動してそっとドアを開けると、ベッドで寝息を立てる母さんの姿があった。アニカ用に作った貫頭衣に着替えてぐっすり眠ってる。獣人の女性にしては身体が小さいから、サイズがほとんど同じだ。

 いくら元気溌剌でも、実家から住み家まではそこそこ距離があるし、口に出すと怒られるけどもういい歳だ。


 起こさないよう音を立てずに部屋を出て、台所に足を踏み入れて目の前に広がる光景に『激しいな…』と苦笑した。

 カーユを作っただけなのに、嵐が吹き荒れた後のように散らかってる。奮闘してくれた証拠だから責められない。


 流し台を片付けながら同時に朝食の準備を始める。


 そうこうしていると、匂いに誘われるように寝ぼけまなこをこすりながら母さんが起きてきた。


「おはよぉ~。もう動いて大丈夫なの?」

「おはよう。少しなら大丈夫だと思う。朝食はボクに任せて。まだゆっくりしてていいよ」

「アタシのカーユは?お袋の味、食べなくていいの?」


 実際は親父の味。断じてお袋の味じゃない。


「食べるよ。ボクが作ってるのは母さんの分で、パンに肉と野菜を挟む料理だけどいらなかった?」

「いるぅ!食べるぅ!」


 喜ぶ姿は母親というよりクローセの子供達のよう。


「一緒に朝ご飯作ろうよ!初めての共同作業だね♪」

「…昔も作ったよね。母さんは横で見てるだけだったけど」

「ノリが悪いぞ!息子なのに!」


 なんだかんだ一緒に朝食を作る。まだダルいけど、寝ているだけより少しでも動きながら回復を待つ方が楽に感じられた。

 


 その後、一緒に朝食をとる。お互いの作った料理を食べて満足した。


 昨日と違って味がわかる状態まで回復してるから、カーユは懐かしい味がして美味しかった。食後に花茶を淹れてあげると、口に合ったのか母さんは感動してる。


「美味しい!アンタの料理の才能は誰に似たんだろう?」

「父さんだね」


 訊くまでもない。


「じゃあ生真面目なところは?」

「父さんだろうね」


 当然だ。2択ですらない。


「落ち着いてて器用なところは?」

「父さんだよ」


 訊くだけ野暮。


「………アタシは?」

「え?」

「アタシはウォルトのどこに似てるの!?」

「逆だけどね」


 急に超難問をぶつけられてしまった。母さんは不満げだけど、正直ボクは似てると思ったことがない。容姿から性格までまったく似てないと思う。

 花茶をすすりながら『どこかニャ~?』とか言いそうな顔をして、母さんに似てると思うころを探ってみる。


 しばらく思案して、1つの結論に辿り着いた。


「猫の獣人ってとこかな」

 

 ボクの脳天に光速で拳骨が落とされた。

読んで頂きありがとうございます。

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