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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
130/707

130 無類の寒がり

暇なら読んでみて下さい。


( ^-^)_旦~

 カネルラは、1年の内に3つの季節を迎える。


 ほどよい暖かさの【華季節(ハル)】、暑さが厳しい【那季節(ナツ)】、そして最も気温が下がる季節が【亜季節(アキ)】で、今はアキの真っ只中。

 温暖な気候であるカネルラでは、唯一といっていい肌寒さを感じる季節であり、暑さに弱い獣人に最も喜ばれる季節。…にもかかわらず、白猫の獣人ウォルトは困っていた。



「うぅ~!寒いぃ~!」


 ボクは獣人では稀な寒がり。物心ついた頃には寒がりだったから、生まれつきだと思う。この体質に関しては母さんが原因ではないはず。

 水恐怖症の件があるので、過去に冗談交じりで訊いたら「なんでもアタシのせいにするな!」と激怒していた。


 今年の亜季節は特に寒い。その中でも、今日は数年に一度と思われる気温の低さ。朝からガタガタ震えて毛布にくるまっている。年中ローブを着て過ごしてるけどローブだけでは耐えられない。

 カネルラは温暖な気候だから、家に暖をとるモノなどないのが普通で、当然この住み家にもない。

 焚き火をしようとも考えたけど、寒すぎて焚き火くらいでは温まらない。炎系の魔法を詠唱したくても集中できない寒さ。

 ちなみに、ローブはボクが作ったモノじゃない。師匠に『飯を食わせてないみたいだろ。やるから着とけ、貧相猫』と貰ったモノだ。ぶっきらぼうだったけど、体型を気にしていたボクへの優しさだったと思ってる。


 何年も着てるけど、洗っても汚しても全く劣化する様子がない。ほつれたり破れたりもしない。駆けたりしない限り同じ体感温度を保つ優れモノで、ボクが生活する上で必需品。

 予想では、『保存』か似た効果を持つ『堅牢』だと思うけど、師匠の付与魔法はボクには理解できない。考えるだけ無駄なので気にしないようにしてる。


 だけど、師匠もこれほどの寒さは想定してなかったみたいで、及ばないことがあるのかと少しだけホッとした。

 そんなことを考えながら、身体に毛布。巻き付けて寒さを凌いでいると玄関がノックされた。


 ミノムシ状態のまま重い足取りで玄関へと向かう。ドアを開けると布袋を持ったチャチャが立っていた。狩りで仕留めた獲物も背負ってる。


「こんにちは……って、大丈夫?」


 いきなり心配される。そりゃ、こんな格好で出てきたらそう思うよね。


「大丈夫だよ…。寒いから早く中に入ってくれないか…?」

「そう?お邪魔します」


 チャチャを招き入れて素早くドアを閉め、連れ立って居間へと向かう。


「兄ちゃんは座ってて。私がお茶を淹れてくるから」

「そんな、悪いよ…」

「いいから。今にも凍え死にそうじゃん」


 台所へ向かうチャチャは、よく一緒に料理するので住み家の台所を熟知してる。居間で待っていると温かい花茶を淹れてきてくれた。熱々で美味しそうな香りが漂う。


「ありがとう。助かるよ」


 お茶をすすりながら鼻もすする。コップの熱で手が温まる。異常に熱く感じるけど、このくらいで丁度いい。


「温かい…。生き返るなぁ…」

「そんなに寒いならお風呂に入ればいいのに。兄ちゃんは魔法で沸かせるんでしょ?」

「もう3回入ったよ…。入ってるときは極楽なんだけど、脱衣所が地獄なんだ…。ずっと入ってるワケにもいかないし…」


 クシュン!とくしゃみをしてまた鼻をすする。



 ★



 チャチャはウォルトが寒がりなのを知っていた。前に聞いたことがあったから。


 たはだ、兄ちゃんは天変地異が起こったかのように話すけど、私にしてみればとても大袈裟に聞こえる。

 今日は確かに寒い。でも、動けば汗もかくし着る服を珍しく半袖から長袖に替えたくらいで特に厚着もしてない。

 兄ちゃんを見てるとこの世の終わりかのような雰囲気だ。カネルラは寒冷の国だったっけ?と錯覚してしまうほど。


「部屋を温める魔法はないの?」

「あるけど…必要ないと思って覚えてないんだ。今は覚える余裕もやい。今日を生き延びたら明日は絶対覚えるけど…。それまで保つかな…」


 絶望したような表情を浮かべて、いつになく弱気になっている兄ちゃんに、持参した布袋から取り出してあるモノを手渡す。


「よかったら着てくれない?」

「コレは…」


 手渡したのは厚手の服。脚に履く用も。軽い上に肌触りがよくてふわふわした素材で作った。


「羊毛じゃないか?」

「兄ちゃんが寒がりって言ってたから、作ってみたの。いつもお世話になってるから。裁縫は上手くないから恥ずかしいんだけど…」


 器用な兄ちゃんの反応が怖い。


「ありがとう…。凄く嬉しいよ。着てみていいかな?」

「いいよ」


 ミノムシ状態のまま部屋に向かう兄ちゃん。そんなに寒いなら冷たくなるモノクルも外せばいいのに。

 1人でお茶しながらしばらく待っていると、「うぅぅ~!」と唸る声がして、いつものローブを着て部屋から出てきた。


「チャチャ!この服すごくあったかい!動ける!ありがとう!」


 満面の笑みを見せてくれる。嬉しそうであげてよかった~。


「大きさは大丈夫だった?」

「ぴったりだよ。チャチャは命の恩人だ。この服のおかげで今日という地獄を越せる」

「大袈裟だって」


 ローブの前を開けて着ている服を見せてくれた。確かにピッタリだ。苦笑いしちゃうけど、喜んでくれたうみたいで素直に嬉しい。

 多少の不安はあった。家で編んでいるとき「獣人にあげる」と言ったら全員から『正気か?』という目で見られた。

 皆の気持ちもわかる。こんなに分厚い服を着ている獣人なんて、この国で見たことがない。


 でも、兄ちゃんが色々と規格外なことを見越してやり過ぎなくらい厚手にした。寒がりだと聞いてたけど、それも規格外に違いないという予想が今回は功を奏した。


「動けるようになったらお腹が減ってきたよ。ご飯にしないか?」

「食べたい。一緒に作ろうよ」


 微笑み合って一緒に台所へ向かった。



 ★



 チャチャの狩った獲物の肉を使って並んで料理をする。チャチャは本当に料理が上手くなった。調理も味付けも文句なし。

 猿の獣人は、なにをするにも器用だと聞いたことがあるけど、チャチャを見ていると納得。逆に特化したモノがないので、器用貧乏という一面もあるらしい。それでも、なんでもできることのほうが凄いと思う。

 出会った頃に比べて格段に女性らしくなった。髪も伸ばしてどう見ても男に見えない。モンタと名乗って男のふりをしていたのが嘘のよう。


「どうしたの、ボ~ッとして。もうできるよ」

「チャチャと出会った頃を思い出してたんだ」

「忘れてよ。恥ずかしいんだから」

「いい思い出だから、忘れるのは無理かな」


 そんなことを話しながら作った料理を運んで食べる。今日はもちろん熱々の料理。煮え滾るスープを飲んで身体の芯から温まろう。




 食事と後片付けを終えて、お茶しながらチャチャが訊いてきた。


「最近ペニーは来てる?」

「来てないよ。忙しいんじゃないかな」

「そっか…。来たら教えてね」

「もちろん。ペニーもチャチャに会いたいだろうし」


 2人は友達になった。気持ちはわかるけど、ペニーは森の奥深くに住んでいると言っていたからなかなか来れないはず。


「そういえば…。チャチャに聞きたいことがあるんだけど」

「なに?」

「狩りをするとき、ココを狙えばいいっていう獲物までの線みたいなのが見えたりする?」


 サマラが言っていた。ボクは見えたことがないけど、チャチャならと思った。


「見えるよ。兄ちゃんも見えるの?」

「ボクは見えたことないけど、この間一緒に狩りに行った幼なじみが言ってたんだ」

「ふぅん。その幼なじみって男?女?」


 最近チャチャがよくする質問。


「女の子だよ。フクーベに住んでる」

「そうなんだ…」


 不機嫌になった匂いがする。


「その線に矢を乗せれば当てるのは簡単って言われたんだ。狩りの師匠のチャチャにも聞いてみたいと思って」

「…その人、狩り上手いの?」

「ボクよりは遙かに上手い。もしかしたらチャチャと同じくらいかも」

「へぇ…」


 チャチャの不機嫌そうな匂いが強まった。やっぱり気のせいじゃない…。この話を続けるのはよくない気がする。話題を変えよう。


「そうだ。チャチャは好きな花の香りとかある?」

「好きな花の香り?カラムかな」

「ちょっと待ってて」


 立ち上がって調合室に向かう。


「こんなモノで悪いけど、今日の服のお礼に貰ってくれないかな」


 手渡した小箱をチャチャが開けると、カラムのいい香りが漂う。


「香水?」

「乾かないように練った香水なんだけど、どうかな?」

「凄くいい香り。ありがとう」


 使い方を教えるといい感じに香る。チャチャも今年で14歳になる。カネルラでは15になれば成人。香水を付けても全然おかしくない年齢だ。


「ところで、今日は手合わせできる?」


 答えは1択。


「今日は無理かな。そんなことしたらカネルラ初の凍死した獣人になるかもしれない」


 本でしか見たことがないけど、寒冷地では『凍死』といって寒さで凍えた人が亡くなるらしい。そんな人達の気持ちがわかりすぎて辛い。


「動けばそんなことないと思うけど…。まぁいいや」

「その代わり、チャチャの希望を1つ聞くからそれで許してくれないか?」

「いいの?!なんでも?」

「ボクにできることならなんでもいいよ」


 チャチャはしばらく考え込んでいたけど、笑顔で提案する。


「じゃあさ、一緒にペニーの住み家に行ってくれない?遊びに行ってみたい」

「ボクはいいけど、結構遠いって言ってたから日帰りできるかわからないよ?」

「一緒に泊まったとき大体の場所を教えてもらった。朝早くに出れば日帰りでいけると思う」

「それなら大丈夫かな。ボクはいつでもいい。その時のご飯はボクが準備する」

「やった!約束だよ!行ける日が決まったら教える!」

「わかった」


 チャチャは機嫌を直してくれたようで一安心。そしてペニーに想いを馳せる。いつも遠くから会いに来てくれる最近顔を見せない友達に、こちらから会いに行ったら喜んでくれるだろうか。

 思えば、ボクはいつも誰かを待ってばかりだ。たまには出不精な自分に喝を入れよう。今日だって、来てくれたチャチャのおかげでどれだけ助かったか。命を救ってもらった。

 もしかしたら、ペニーも苦労してるかもしれない。そう思えば早く会いに行きたいと思った。

読んで頂きありがとうございます。

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