13 獣人の魔法使い
暇なら読んで見て下さい。
( ^-^)_旦~
森の住み家でウォルトはそわそわしていた。
今日は少し前に知り合った冒険者の友人が訪ねてくる日。森で助けたことが縁で、嬉しいことに今でも交流が続いている。
そろそろ来る頃かな?
玄関のドアがノックされた。ピン!と耳を立てて玄関に向かい、おもむろにドアを開けると笑顔のオーレンとアニカの姿。
「ウォルトさん、こんにちは!」
「またお邪魔しにきました」
元気よく挨拶してくれる。いつも気持ちがいい。
「いらっしゃい」
「今日はウ・サギを倒せました。コイツは食えますか?」
オーレンは耳が長い小さな魔物の耳を持ってぶら下げている。
「肉はクセがあるけど、調理次第で美味しく食べられるよ。晩ご飯で出そうか」
「やった!もう少し外で狩りをしてきていいですか?」
「あまり奥に行かないよう気を付けて」
2人と出会ってもう1ヶ月が過ぎた。すっかり元気になったオーレンとアニカは無事に冒険者を続けている。
聞いたところによると、オーレン達は住み家を離れたあと街に戻って直ぐに冒険者ギルドへ向かった。
帰らなかった事情を説明すると、その場にいた皆が無事に戻ったことを喜んでくれたみたいだ。クエストの途中で逃げたと思われていたらしい。新人冒険者にはよくあることだと。
その後、2人は新人冒険者らしくこつこつクエストを達成してギルドに貢献していると聞いた。作り方を教えた薬も冒険の役に立っているようでなにより。
別れて直ぐに訪ねてきた時は正直驚いた。過去、回復して森を去った冒険者や旅人の中に再びこの場所を訪ねてきた人はいなかったから。
命を落としかけた森に二度と近付きたくないという心情は理解できるし、出来る限りのことはしたつもりだけど、お礼がほしくて治療してない。
今日来てもらったのは、以前伝えられなかった魔法のことを伝えるためにボクから声をかけた。話はとりあえず後にして、夕食の準備を始めたらアニカだけが戻ってきた。
「私も準備手伝います♪」
アニカは元気一杯で隣に立つ。元気溌剌で弾ける笑顔。
「まだ狩りをしててよかったんだよ?」
「料理は魔物や動物を捌く勉強になります!邪魔じゃなければ手伝いたいです!」
屈託のない笑顔。遠慮なく手伝ってもらおう。夕食の準備を終えるとオーレンを呼びに行ってもらった。
「美味いっ!魔物なんて信じられない!」
「美味しい~!なにを作っても全部美味しいなんて…ウォルトさんって料理の天才なんじゃないですか!?」
「大袈裟だよ」
アニカは明らかにオーレンより食べてる。量、そして速さ。ともに数段上。オーレンの言葉通り食いしん坊なんだな。気にしてるみたいだから口には出さないでおこう。
「血抜きも上手くできてたし、料理も狩りも腕を上げてるね」
夕食を綺麗に食べきって後片付けを終えると、改めてテーブルに着いてもらう。
「冒険で忙しいのに呼んでしまってゴメン」
「ウォルトさんに呼ばれたら俺達はいつでも来ます」
「最優先事項です♪」
嬉しい限りだ。
「ありがとう。それで本題なんだけど…今日は2人に伝えたいことがあって」
「なんでしょうか?」
いざ伝えるとなると緊張するな…。空気が微かに張り詰める。
「実は……」
やっぱり口に出すのは勇気がいる。でも、わざわざ来てもらった。意を決して語り出す。
「ボクは……魔法が使えるんだ。君達の怪我を治すのも、実は回復薬じゃなくて『治癒』の魔法を使ってて」
アニカ達は驚愕の表情を浮かべる。
「獣人のウォルトさんが…」
「魔法を使える…?」
「知ってると思うけど、獣人は魔法を使えないって云われてる。今まで誰にも信じてもらえたことがないから、あの時は言えなかった。黙っててゴメン」
自分でも耳とヒゲが垂れ下がったのがわかる。謝罪の言葉を聞いた2人は黙り込んでしまった。やっぱり信じてもらえないか…。
でも、本当のことを伝えることができた。それだけでボクの気持ちは晴れている。『話は終わりだよ』と、口を開こうとした瞬間…。
「すっげぇ~!!」
「凄いです!!」
同時に声を張り上げた。耳をパタンと閉じてのけ反る。
「魔法を使えるなんて凄いです!!」
アニカは満面の笑み。
「だよな!獣人で使える人は今まではいなかったかもしれないけど、ウォルトさんは使えるなんて凄い!」
オーレンも興奮してる。微塵も疑っている様子はない。
「ボク的には、ホントに…?って感じだと思ってたんだけど…信じてくれるの?」
「「当然です!」」
即答につい表情が綻ぶ。純粋に嬉しい。すんなり信じてもらえると思ってなかった。アニカが言ってくれた「色んな獣人がいるんですよね?」という台詞が脳裏をよぎる。
「でも、なんで謝ることになるんですか?」
「俺達が信じやすいように黙ってくれてたんですよね?」
「薬で治療したって言ってしまったから、どこかで嘘つき扱いされるかもしれないと思って。回復薬や傷薬で傷は治せても、消すことはできないから」
「へぇ~!勉強になりました!」
「俺も知らなかったです」
気に留める様子もない笑顔を目にして、ホッと胸をなで下ろす。
「ちなみに、ウォルトさんはどのくらい魔法が使えるんですか?」
興味津々な様子のアニカ。彼女も魔法を使えると言ってた。
「どのくらいって?」
「詠唱できる回数とか種類です!」
「回数は…わからないなぁ。種類は…数えたことないけど30くらいかな?」
「「え…?」」
「ん?」
「3種類じゃなくて…?」
「いや、30だよ」
「「……………」」
「………?」
どうしたんだろう?おかしなことを言ったかな?
「「えぇぇぇぇぇぇっ!!?」」
声に驚いて耳を閉じたけど、タイミングが遅れて耳がキィーン!となる。森の中じゃなかったら苦情が出るレベルの声量。
「そんなに驚くことかな?」
「驚きますよ!一応私も魔法を使えるんですけど、幾つ使えると思いますか!?」
う~ん…。生活魔法と戦闘魔法と他の魔法で……冒険者になろうというくらいだから……多分…。
「10種類くらいかな」
「違います!4つです!生活魔法を3つと戦闘魔法が1つです!結構驚かれるんですよ!」
「へぇ~」
知らなかったなぁ。魔法を教えてくれた師匠以外の魔法使いに会うのはアニカが初めてだから。
「ウォルトさんを信じてますけど…ちょっとだけ信じ難いです…」
「だよね」
ボクが魔法を使えないと思うのは当然。なぜなら獣人だから。…とはいえ、噓じゃないと証明するためにいい方法はないかな。
「じゃあ、今日はもう遅いから明日実際にボクの魔法を見せるよ」
「是非お願いします!」
「今でも、ちょっとなら見せられるけど」
「「え?」」
立てた人差し指の上に、人の頭ほどの炎を発現させた。コレは『炎』という魔法。指先に灯る程度まで小さく変化させて、そのままテーブルに置かれたランプに明かりを灯す。
魔法を操れるってことはわかってもらえるはず。今日はそれだけでいい。
「どうかな?」
「「…………」」
2人はなぜか固まって動かない。
「どうかした?変だった?」
「なんでもないです…。とりあえず、今日はもう休みます。オーレン、部屋に行くよ」
「あ、あぁ…」
アニカはオーレンの手を引くようにして来客用の部屋へと向かった。言動にちょっと違和感を感じたけど、気にするほどではなさそう。
いつものように机に向かって魔法の研究を始めた。
読んで頂きありがとうございます。




