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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
126/706

126 サマラ、帰宅する

暇なら読んでみて下さい。


( ^-^)_旦~

 最初のナンパ以外は誰にも絡まれることなく帰宅することができた。食材も買えたしね。


「ただいま」


 玄関に入ると見慣れた女性モノの靴が目に入る。どうやら今日もバッハが来てくれてるみたい。廊下を抜けてまっすぐ居間へ向かう。


「おかえり、サマラ」


 予想通りバッハが笑顔で迎えてくれた。帰りが遅かったから料理もしてくれたみたいで感謝だ。


「おぅ。アイツはいたか?」


 マードックは、バッハが作った肴をつまみながら酒を飲んでいる。どことなく上機嫌。


 …はっは~ん。


「元気だった。伝言も伝えといた」

「なんか言ってたか?」

「言ってなかったけど、嫌な予感がするって顔してた」

「ククッ!勘がいいな…。ん?」


 マードックは左腕を見つめてくる。ウォルトにもらった腕輪に気づいた?


「お前…ソレをどこで手に入れた?」


 もらった腕輪を指差してくる。


「ウォルトに貰った。可愛いでしょ」

「可愛いね。橙色の腕輪なんて売ってないよ。光沢も綺麗で」

「色合いがいいよね~!」

「おい。お前が持ってても…」

「魔道具なんでしょ?知ってるよ。そんなことどうでもいい」

「ちっ…!とにかく外では着けんな!」

「なんでよ?私の勝手でしょ?」

「わかんねぇだろうが、とんでもなく高ぇモンだ。わかる奴はわかる」


 ふ~ん。ぶっきらぼうだけど、私のことを心配してるのはわかる。


「そんなこと一言も言ってなかったけど」

「アイツは……。お前ならわかるだろうが」

「なるほどね」


 会話を聞きながらバッハは思っていた。『私には全然わからない』と。



 幼馴染みである私達は知っている。


 ウォルトは無欲で、料理やモノづくりが大好きで、自己評価が異常に低いうえに基本的にお人好しであることを。

 魔道具の価値なんて気にも留めない。ただ作りたかったから作って「欲しい」と言われたからくれた。もちろん相手が私だからね!


「そういうこった。忠告はしたからな」

「不埒な輩は成敗するから問題ない。ウォルトから貰った大事なモノを奪おうとする奴は……ね」


 ジロリとマードックを見る。


「俺が盗むワケねぇだろ!頭イカレてんのか!?」

「ホントに…?」

「まぁまぁ。2人とも落ち着いて」


 バッハが優しく宥めてくれる。


「…ちっ!バッハ、酒よこせ!」

「はい。どうぞ」


 貰った腕輪を眺める。欲しいと言ったのは私だけど、そんなに高価なモノだと思わなかった。平然とくれたウォルトには困ったもんだね。


 バッハは家に泊まってくれるらしい。色々と話したかったから嬉しい。マードックは明日も冒険の予定がなくてまだ酒を飲むらしいけど、バッハは朝から仕事ということで「さっさと寝ろ!」と言われてしまった。


 寝間着に着替えて寝る準備は完了。さて……先に訊いてあげよう!


「よかったね。マードックと付き合うことになったんでしょ?」

「…やっぱりわかった?」


 バッハは照れ臭そうに頷いた。


「わかるよ。マードックもいつになく機嫌がよかったし空気が違うもんね!」

「サマラとウォルトさんのおかげだよ。ありがとう」

「それは違う。バッハが頑張ったからだよ。マードックに付き合って色々やってくれたから。ホント偏屈者だから!」

「でも…マードックさんは優しいよ。あの人を知るとどんどん好きになる」


 頬を染めるバッハを見てこっちまで気恥ずかしくなってきた。


「これからが大変だよ。冒険者はいつ死んでもおかしくないから。大袈裟じゃないよ。朝は元気に出ていったのに、夜には傷だらけで死にかけて帰ってくるからね」

「うん。気合い入れとく…」


 私もマードックが駆け出し冒険者だった頃は毎日心配してた。今はいつ死んでも仕方ないと思ってるけど、そう思えるまでしばらくかかった。


「でもさ…身内のことを褒めたくないけど、彼女には誠実で浮気もしない。そこだけは保証する。とにかく口が悪いしめっちゃムカつくけどね!」

「ふふっ。一言多いよ。でも、ありがと」

「あんなだけどモテるから油断しちゃだめだよ。浮気はしないと思うけど言い寄られるからね!あんなだけど!」

「ふふっ!褒めてるの?けなしてるの?」


 バッハは笑いを堪えきれないみたい。でも、そうとしか言えないんだなぁ。


「兄妹は複雑なんだよ」

「ところで、サマラの方は上手くいったの?」

「上手くいったかわからないけど楽しかったよ!最高の休日だった!」

「よかったねぇ」


 森での出来事を教える。信じてもらえないかもしれないけど、「絶対にここだけの話」と前置きしてウォルトは魔法が使えることも伝えた。

 バッハはもの凄く口が固くて信用できるし、ウォルトも実際に魔法を使った現場を見られているから「バッハさんなら構わないよ」と言ってくれた。


 一通り伝えたところで、バッハが意外なことを口にする。


「ウォルトさん、やっぱり魔法が使えるんだね」

「えっ!?知ってたの?!」

「知ってたというより半信半疑だった。前に森で蜂に襲われてるときに出会ったって言ったでしょ?」

「うん」

「その時、突然強い風が吹いて蜂が吹き飛ばされたんだけど、私は風を感じなかった。私の周りだけを狙って風が起きたみたいで不思議だったの。近くにいたウォルトさんに「貴方が?」って聞いたら「そうです」って答えてくれたんだけど」


 聞いた通りだ。


「ウォルトならできると思う」

「でも、獣人が魔法なんて…と思ったし、ウォルトさんもそれ以上言わなかったから、さっきの台詞も勘違いかもと思って気にしなかったの」

「そっかぁ。人のタメに魔法を使ってるね。それでこそウォルトだけど!」


 この声が届いて赤面してくれないかなぁ。


「獣人なのに魔法を使えて、魔道具の腕輪まで作るなんて凄い。器用なんだね」

「昔からね。そうだ!こんなのもくれたんだよ!」


 リュックから硝子に閉じ込めた花を取り出して見せる。


「枯れないようにウォルトが加工してくれたの。どうやったのか想像もつかないけど」


 バッハは目を見開いて、信じられないモノを見るような顔してる。なんで?


「どうしたの?」

「それって、もしかして…山吹色の…。いや…違う…?近くで見ていい?」

「いいよ」


 バッハは穴が空きそうなくらい花を見つめてる。なにが気になるんだろ?


「この花の名前聞いた…?」

「聞いてないけど、なんで?」

「なんでもない…。綺麗な花だし珍しいんじゃないかと思って」

「そうかもね!けど、ありふれた花でもいいんだな!」


 花を鏡台に飾ってイチリンソウの練り香水をバッハに見せる。


「すごくいい香り…。毛艶の薬もそうだけど、この香水も売ったりしたら人気出るよ。固形の香水なんてどうやって作ってるんだろう?」

「ウォルトは商売に興味がないからね~。作り方は私が聞いても理解できないだろうね」


 その後もお互いの幸せ報告を続けた。



「まだ話したいけど、明日はお互い仕事だしそろそろ寝よう!」

「そうだね」


 寝る前に花を摘みに行こうと部屋を出る。すると、居間にはまだ灯りが。覗いてみると、まだマードックが酒を飲んでた。


「まだ起きてんのか?くっちゃべってねぇでさっさと寝ろや」

「こっちの台詞だよ」


 バッハと付き合うことになって浮かれて飲み過ぎてるくせに。そんな浮かれゴリラを見てふと思い出す。


「そういえば、言うの忘れてた」

「なんだ?さっさと言え」

「今日リリムさんに会った」

「そうかよ……リリム?はぁっ!?マジで言ってんのか?!」


 珍しく驚いてる。とりあえず伝えておこう。


「アンタに伝言。「気持ちは嬉しかったよ。ありがとう」ってさ。意味わかる?あと、パーティーメンバー全員に「急にいなくなってゴメンね」って」


 リリムさんは「言えばわかるはず」って言ってたけど。


「…あぁ。そうかよ…」

「伝えたからね。あとリリムさんは亡くなってた。じゃ、おやすみ」


 欠伸をしながらトイレに向かうと、マードックが鼻で笑ったのが聞こえた。



 ★



「…へっ!」


 リリムの奴…どこにいやがったんだ。まぁ、アイツのこったから、今頃いい母ちゃんでもやってんだろ。


「そうか…。もうアイツはこの世にいねぇのか……って、おいっ!ちょっと待て!おい!サマラ!」


 部屋に戻ろうとしてたサマラが面倒くさそうに戻ってきやがった。バッハも部屋から出てきた。


「夜中なんだから大きな声出さないでよ。早く寝ろって言ったのはそっちでしょ。明日仕事なんだけど」

「リリムが死んでただと?!どういうことだ!?」


 なにを見たっつうんだ。死んだ奴が喋れるワケねぇ。


「1人で動物の森に素材を採りに行った時に油断して魔物にやられたんだってさ。でも元気にしてた。コレで満足?」


 このバカ…。いいワケねぇだろ。


「意味がわかんねぇ。詳しく教えろ」

「教えろ…?それが人にモノを頼む態度?教える必要ないんだけど。頼まれたことは言ったし」


 露骨に不機嫌になりやがった。クソ面倒くせぇ!……が、今はコイツに訊くしか知る術がねぇ。


「…教えてくれ」

「リリムさんからもう1つ伝言がある。元気で骨やってるから心配しないでってさ」

「余計わかんねぇよ!なんだそりゃ?!」

「うるさいなぁ!もう言うことはない!はい終わり!バッハ、寝るよ!」

「う、うん…」


 背もたれに寄りかかって天井を見上げた。なんだってんだ…。全然わからねぇ…。けど、確かに本人が言ったんだろ。予想通りの…アイツらしい答えだ。


 フクーベに出てきて、初めて組んだパーティーのメンバーだったリリムに惚れた。別嬪ってんじゃねぇけど、アイツには愛嬌があった。ちっせぇくせに俺に対しても怯まず姉貴ぶりやがった。

 あの頃のパーティーの連中も多分リリムが好きだったろ。生まれて初めて告白っつうのをやった。

「返事は少し時間をもらっていい?」と言われてから二度と会ってねぇ。その日が最後だ。


 俺のせいでアイツが悩んだのかもしれねぇ…と思った。サマラの口振りからすると、そんなことなかったみてぇだな。それだけが救いか。…つうか、やっぱフラれたな。今もアイツが好きってワケじゃねぇけどスッキリしたぜ。


 酒を呷って苦笑する。


 しっかし…サマラの奴はなに言ってんだ?死んでんのに『骨』で元気?とんちか?ウォルトが知ってんだろ。アイツに訊いた方が早ぇな。


 最後の1杯をぐっと飲み干した。

読んで頂きありがとうございます。

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