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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
125/705

125 サマラ、帰路につく

暇なら読んでみて下さい。


( ^-^)_旦~

 最後の勝負開始から30分後。あっけなく決着がついた。


 勝ったのはウォルト。私の負け!!


「くっそぉ~!悔しいぃ~!」

「仕方ないよ。動物の森はボクのほうが詳しいんだ」

「距離が短ければ……もっといい勝負できたのに!はぁっ…はぁっ…!」

「それは間違いないね」


 私は汗だくになって息を切らしているのに、ウォルトは爽快な表情。最初こそリードしたけど、途中からは余裕の走りでウォルトが先に駆け抜けた。


「森はボクにとって庭だし、駆けるのも得意だ。そもそも有利なんだよ」

「関係ないよ!勝つつもりだったからね!」


 だって負けず嫌いだから!


「かなり早く着いたしお風呂に入る?髪や毛皮もすぐ乾かすよ」

「そうだね。さすがにこのままじゃ帰れないかな」


 住み家に入って魔法で冷やした水を準備してくれる。手渡されてウォルトはお風呂の準備に向かった。


「水がうまぁ~い!!」


 喉を潤しながら息を整えていると、直ぐに「準備ができたよ」と呼びに来た。ホント仕事が早い。デキる白猫。

 ウォルトは近くの川で水を浴びてくるみたい。身体の熱が引かないときは、いつもそうしてるって。


「ついでに洗濯もしてくるよ」

「よろしく!」


 脱衣所で脱いだあとに全部持って行ってもらうようお願いしたけど、思いのほか困った顔をしたので服だけ洗濯をお願いした。

 裸も見られてしまったし今さら下着を見られるくらい構わないけど、ちょっとはしたなかったかもしれないと反省。そういえば、ウォルトは水に浸かれない体質だったけど克服したのかな?



「ふぅ~!!」


 温めに沸かしてくれたお風呂に浸かる。思わず唸り声が漏れてしまう気持ちよさ。これぞ極楽。

 なにもないと思って来たけど、この住み家には不便なとこが見当たらない。むしろフクーベより快適♪


 のぼせないように注意しつつしばらく味わえなくなるお風呂を堪能した。



 ★



 湯浴みを終えて、寝間着に着替えてゆったりしているとウォルトが帰ってきた。


 水浴びでさっぱりしたのかふわふわの白い毛並みが眩しい。洗濯された服を手渡されると綺麗に乾燥して直ぐにでも着れる状態。


「ありがと!凄く助かる!」

「どういたしまして」


 髪や毛皮を魔法で乾かしてくれたあと、「ちょっと早いけど晩ご飯はどうする?」と訊かれる。答えは1択!昼からずっと動き回って空腹なのだ。

 既に観念して、今後住み家に滞在する間は純粋にウォルトの料理を楽しむと心に決めたので期待しかない。


「もちろん食べるよ!」

「わかった。晩ご飯はちょっと趣向を変えた料理を出そうと思ってるから楽しみにしてて」


 目に見えてウキウキしながら台所へ向かった。本気で料理人になったほうがいいと思えて仕方ない。

 獣人が料理人になるのは難しい。でも、偏見のない人は食べてくれるはずだし、一度口にしたが最後病みつきになるような料理なんだから。



「できたよ」


 戻ってきたウォルトが差し出した料理は、麺料理のパッタ。穀物から作った麺と呼ばれる白く細長いモノに、様々な具材で味と彩りを添える料理なんだけど…。


「スープとパッタ!?珍しい組み合わせだね」


 盛り付けられた皿には麺の他に調理された野菜と肉。魔法で冷やしたのか冷たいスープに浸かってる。


「身体が火照って熱いから冷たい料理にしてみたんだ。さっぱりして美味しいと思うよ」

「いただきます!」


 信じないわけじゃないけど、初めて食べる料理は抵抗がある。ただ、匂いと見た目は食欲を大いに刺激する。我慢できずに口に運ぶと、目を見開いて思わず動きが止まる。


「う……まぁ~い!」


 食べ進める勢いにウォルトはご満悦の様子。


「多めに作ったからたくさん食べていいよ」

「全部食べて帰る!」


 

 夕食を終える頃には陽が暮れ始めていた。いよいよ帰らなければならない時間を迎える。


「あっという間だったなぁ…」


 昨日と今日を思い返してしんみりしてしまう。


「昔もこうだったね」


 ウォルトが微笑みながらそんなことを言う。小さな頃、2人で遊んでいると楽しくてあっという間に時間が過ぎてた。


「帰りたく…」


 無意識にそこまで口にして、慌てて口を噤んだ。口に出してしまうと帰れなくなってしまいそうで…。

 ウォルトに目を向けると、耳がいいはずなのに聞こえなかったふりをしてくれてる。胸が締め付けられた。

 

 場所を知ってまたいつでも来れるようになった。そのことを喜ぼう!立ち上がって声を上げる。


「そろそろ帰ろうかな!準備するね!」

「ボクも渡すモノを準備するよ」


 ウォルトも立ち上がって自分の部屋に向かった。さぁ帰り支度だ。


 あっという間に軽装に着替えて帰る準備を終えた。外に出てウォルトと向かい合う。


「ホントにいいの?」

「いい!こっそり付いてくるのもダメだからね!」


 ウォルトは森を抜けるまで送ってくれるつもりだったみたい。でも断った。

 

「泊めてくれてありがと!凄く楽しかったよ!」

「来てくれてありがとう。ボクも楽しかった」


 お互いに笑顔になる。


「ボクからサマラに」


 手渡されたのは、崖の上で鮮やかに咲いていた山吹色の綺麗な花。どうやったのか見当もつかないけど、硝子の中に綺麗に密閉されてる。きっと魔法だね。


「すごく綺麗!ありがとう!」

「枯れないように加工してる。立派なモノはあげられないけど」


 まったく…。ウォルトはニャに言ってんだか!


「腕輪に香水、それに綺麗な花までもらって…宝物が増えすぎて私の狭い部屋にはもう置く場所がないよ!」


 嬉しすぎて困ったもんだ。全力で笑うことしかできない。ウォルトも笑ってくれた。


「それと、さっきの賭けのことなんだけど」

「賭け…?あぁ!さっきの競走で負けたヤツね!なにか思いついた?」

「ボクの言うことを1つ聞いてくれる?」

「もちろん!」


 お風呂と夕食で頭から完全に抜け落ちてたけど約束は守らなきゃ!欲のないウォルトの要求をわくわくしながら待つ。


「いつでもいいから…また遊びに来てくれないか…?」


『照れるニャ』って顔ではにかんでる。私はそっと目を閉じた。


 なんて欲のない男だっ!もっと他になにかあるだろ!だけどそんなウォルトが大好きなんだよね!


 目を開けてハッキリ答える。


「お断りだよ!」

「えぇぇっ!?」

「言われなくても来るから!来るなと言われても来るから!だから他のことにして♪」


 ふふん!と胸を張る。少しの間悩んでたウォルトは、意を決した顔で私に近寄って……正面から優しく抱きしめた。予想外の行動に腕の中で驚きを隠せない。


「抱きしめても…いいかな?」


 優しく響くその言葉を聞いて、ウォルトの背中に腕を回した。そっと瞼を閉じて微笑む。


「もう抱きしめてるじゃん!」

「断られたら立ち直れないから、訊く前にと思って…」

「ウォルトらしいけど、私がダメって言ったらどうするつもりだったの?痴漢だよ?」

「それは…」


 表情は見えないけど、きっと真っ赤な顔で『困ったニャ…』って表情をしてるはず!


「ねぇ、ウォルト」

「なに?」

「心臓がうるさい」


 私の耳はウォルトの心臓のすぐ近くにある。激しく脈打ってる。


「抱き合ってるから…しょうがないよ」

「ふふっ!開き直ったね!」


 この台詞は予想外だ。てっきり言葉に詰まって終わると思った。さっきまでは全てお見通しだと思ってたけど、ウォルトの行動予測に修正が必要だね!今後の楽しみが増えた!


 でも、負けた罰なのに抱きしめてくれるなんて思わなかった。嬉しいなぁ…。離れがたくなるでしょうが!


「あのさ、なんで抱きしめてくれてるの?」

「なんでかな…?こうしたくなった。急にゴメンね」

「別にいいよ。嫌じゃないし」

「ありがとう。来てくれて嬉しかった」

「どういたしまして!」



 ウォルトと笑顔で別れた私は、フクーベに向かって森を疾走する。


「サマラなら心配いらないと思うけど」と、ウォルトが『身体強化』をかけてくれた。おかげで汗もかかず軽やかに森を駆けている。

 しばらく会えないのは寂しいけど、アニカに言ったように次会うとき気持ちを上乗せすればいい。絶対また来る!


 幾つもの思い出を胸に振り返ることなくフクーベへの帰路を一目散に駆けた。



 ★



 フクーベに着いて喧騒の中を歩く。


 森とは違う様々な匂いに溢れた街。この街も私にとっては1つの故郷だ。澄んだ空気もいいけど、住み慣れた街の空気も落ち着く。


 しばらく歩いていると、見知らぬ獣人の男達が声をかけてきた。タテガミが印象的な馬の獣人が、なんと3人もいる。


「よぉ。お前可愛いじゃねぇか。俺らと遊ぼうぜ」

「残念!お断り!」


 下品な笑みを浮かべた男達に笑いかけたあと、無視して歩を進める。


「おい!無視すんじゃねぇ!ちょっと待て!」


 私の肩を掴もうとしてきたけど、触れる寸前に手首を掴んで力を込めた。


「私に触るな…」

「ぐあぁぁぁっ…!!なんだテメェ!女のくせに!」


 メキメキと音を立てる男の手首。掌はうっ血して紫に染まった。


「女のくせに…?お前……何様のつもりだ…?」


 まだウォルトが付与してくれた『身体強化』の効果が残ってる。軽くしか力を入れてないのに綿を握るみたいに柔らかい。


「望み通り遊んでやろうか」


 男の手首を掴んだまま持ち上げて、軽く地面に叩きつけてやった。


「がはぁっ…!!」


 背中から地面に叩きつけられて、白目をむいて泡を吹く馬の獣人。残りの2人は腰が引けてしまってる。ビビるくらいなら最初からケンカなんか売らなきゃいいのに。相手を舐めすぎでしょ。


 氷の微笑みを浮かべて男達に問う。


「まだ遊ぶ気?」

「い、いや…」


 気絶した男を抱えて逃げるように走り去る獣人達。馬の獣人だけあって逃げ足は速いね。掌に付いた馬の毛を払って、ため息を吐きながら歩き始める。

 こんな出来事は日常茶飯事だけど、今日だけは正直やめてほしい。というか、今日だけは絶対に許さない。

 ウォルトが抱きしめてくれたから。今は余韻に浸りたい。他の誰にも触らせない。そうでなくても触らせないけど。

 相手の気持ちを微塵も考えず、女を嘲笑して臭い息を撒き散らすだけの男は本当に嫌いだ。獣人に限らずほとんどの男が類に漏れない。ウォルトを見習ってほしい。


 我ながら男を見る目がある~♪


 自画自賛しながら、また絡まれては堪らないと家路を急いだ。

読んで頂きありがとうございます。

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