124 サマラ、冒険する
暇なら読んでみて下さい。
( ^-^)_旦~
修練場をあとにして、サマラに残された時間を考えながら今後の行動について模索する。
「そろそろ帰ろうか?」
「いや!まだ時間に余裕はある!…そうだ!遠くないなら行ってみたい場所があるんだけど、ウォルトなら知ってるかな?」
「ちなみに、どこ?」
「おぉ~!ここが噂の…。荘厳というか厳かというか重々しいというか威厳があるというか」
「ただのダンジョンなんだから、無理して褒めなくていいよ。全部同じような意味だし」
【厳】が多すぎる。
ボクらは【獣の楽園】の入口に立っている。カネルラの獣人なら誰もが知る超有名ダンジョン。サマラは昔から一度来てみたいと思っていたらしい。修練場からは近いので希望を聞いて連れてきた次第。
「気のせいかな…。入口から癒されるような不思議な気配がするんだけど」
「ボクもそう思う。でも、マードックが言うには禍々しくて嫌な気配を感じるらしい」
「えっ!?もしかして、マードックが言ってた一緒に行ったダンジョンってココ?」
「そうだよ。サマラにあげた魔道具の素材を採りにきたんだ」
「へぇ~。そうなんだね。じゃ、行こうか」
「わかった」
身を翻して歩き出そうとしたところで肩を叩かれる。振り返ると笑顔のサマラがダンジョンの入口を指差していた。
「違うよ。『住み家に』じゃなくて『中に』だよ。入らずに帰る選択肢はないでしょ♪」
「えぇっ!?時間とか…」
「夜までに帰ればいいし!そんな奥まで行くつもりもないから。行ってみたいの!お願いっ!」
お願いと言いながら、笑顔で手を合わせて『行かなきゃ帰らないよ♪』と目で訴えてくる。
はぁ…。サマラを1人で行かせるつもりはないから、とりあえず条件をつける。
「このダンジョンの魔物は凄く硬いんだ。素手はさすがに危ないからボクに任せてくれるならいいよ」
これだけは譲れない。さすがに素手での攻略は無理だ。あのマードックでも無理だと認めたくらいだから。
「ふっふっふっ!ちょっと待ってて!」
含みのある笑みを浮かべてリュックを下ろすと、なにやら取り出そうとしてる。
引き抜かれたサマラの右手には手甲が握られてる。駆けてるときから金属が擦れる音がすると思ってたけど、まさか手甲が入っているとは予想できなかった。なんとも用意周到。手際よく手甲を装備したサマラは拳を打ち鳴らしながら満面の笑み。
「持ってきて正解♪コレならいいんでしょ?」
「いいけど、無理はしないって約束してくれる?」
「了解であります!」
「じゃあ両手を貸して」
「はい!」
手甲に魔力を纏わせるため付与魔法をかける。魔法耐性に乏しい魔物に効果的。
「もういいよ」
「よ~し!気合い入れていこう!」
こうして、ボクとサマラのプチ冒険が始まった。
さすがと言うべきか、サマラは予想を上回る実力を見せつけて3階層まで難なく攻略する。スケさんの言うように冒険者なら上位の実力者じゃなかろうか。
小休止中のサマラは、突然『いいこと思いついた!』と言わんばかりに含みのある笑みを浮かべた。嫌な予感がする。
「ねぇ、ウォルト。試してみたいことがあるんだけど協力してくれない?」
とりあえず聞くだけ聞いてみるか。
「試したいことって?」
「あのね…」
サマラの言いたいことはわかった。でも、聞いたこともないし、やったこともない。腕を組んでしばらく考え込む。サマラは目を輝かせながらボクの返事を待ってる。
できればやりたくないのが本音だけど、実行したらどうなるか興味はある。おそらく理論上は問題ないけど、万が一の可能性もあって仮にそうなったら目も当てられない。
ただ、サマラの希望を叶えてやりたい気持ちはある。考えを巡らせた結果、出した結論は…。
「やってやるぞぉ~!」
サマラが笑顔で気合いを入れる。結局要望を聞き入れた。我ながらサマラに甘い。なんだかんだいって、ボク自身が結果に興味があるのも一因。やると決めたからには無事にやり終えるよう集中することに決めた。
目的を達成するタメに、一旦2階層に戻って打ち合わせをする。必要なことを伝えて念確認してみる。
「ホントにいいの?」
「大丈夫!いつでもいいよ!」
「じゃあ、さっき言った通りで」
寄り添って歩く。ある地点に差し掛かると地面に亀裂が入って大きく崩れた。
「うわっ!!」
「落とし穴だよ」
落下するサマラの身体を抱き寄せて詠唱する。
『無重力』
魔法で緩やかに落下する。下の階層の『魔物部屋』にストンと着地した。周囲には前回マードックと訪れたときと同様に多種多様な魔物の群れ。あっという間に囲まれてしまった。
『無重力』を解除するとすかさず準備する。サマラが前に立ってボクが直ぐ後ろに立つ。サマラの背中に掌を添えて合図を送った。
「いつでもいいよ」
「わかった!うぅ~!『火炎』」
両手を翳したサマラの手から特大の炎が発現して魔物達を灼き尽くしていく。前方の敵は跡形もなく燃え尽きた。
「すごい!次は『氷結』で!」
「了解」
向きを変えたサマラの手から猛吹雪が吹き荒れて魔物達を凍らせる。
「魔法って凄いね!」
笑顔の殺戮者が魔物達を次々に屠っていく。後ろで魔法を操りながら成功して一安心した。
サマラが頼んできたのは「私も魔法を体験したい」ということ。「詠唱できないのはわかってるけど、私の身体を通して魔法を発動できない?使ってる感覚だけでも体験してみたい。できるなら魔物を倒してみたい」と。
ボクは他人の体を経由して魔法を発動させたことはない。…というかそんな発想すらなかった。
今はサマラの体内に魔力を流して、翳した掌から魔法が発現するよう調整してる。同時に体内の異常も探ってるけど今のところ異常は見当たらない。
試して意外だったのは、他人の肉体を通しても自分のとまったく同じ感覚で魔法を発動できるということ。ただし、魔力が流れにくい体質だと難しいかもしれない。サマラは魔力が流れやすい体質みたいだ。
この手法はアニカやオーレンに魔法を教えるときに役立つ。発動する感覚や魔力の流れを体感してもらうだけでかなり覚えやすくなるはず。気付けたのはサマラのおかげ。
サマラといると退屈しない。そんなことを考えていると次々指示が飛ぶ。
「次は『破砕』でよろしく!」
「わかった」
「すっごぉ~!魔物が吹っ飛んだ!!」
その後も、指示通りに魔法を発動させて魔物を倒していく。
5分後。
魔物を殲滅したサマラは満足げな表情を浮かべてる。ボクも無事に終わったことに胸をなで下ろす。サマラが『魔力増幅の腕輪』を装着しているのもあって、ほとんど魔力は消費してない。
「ありがと♪いい経験ができた!」
「どこにも異常はない?」
「大丈夫だよ!ウォルトこそ大丈夫?」
「ボクは大丈夫だよ」
「じゃあ戻ろう!」
「もういいの?」
「大満足だよ!まだ先まで行けそうだけど、到達記録を抜いたりしたら悪いし時間もないしね!」
「だったら帰ろうか」
サマラはマードックと違う。軽快に魔物を倒しつつ来た道を引き返した。
ダンジョンを出て帰路につく前の小休止で訊いてみる。
「『獣の楽園』に行ってみてどうだった?」
「想像と違った。もっと胸が悪くなるような場所だと思ってたけど」
「歴史上、多くの獣人が命を落としてる場所だからね。ボクもそう思ってた」
正確な数字は計りようもないけど、このダンジョンで亡くなった獣人は1000人を下らないと云われてる。一説には5000人以上とも。
「そんな場所なのに懐かしさを感じる波動が出てるっていうか故郷みたい。不思議な場所だね!」
サマラも同意見みたいでホッとした。マードックと来たときは話が合わなかった。ただ、攻略経験者にはマードックと同じ意見の人が圧倒的に多いらしい。この謎はいずれ解明されるんだろうか?
「そろそろ帰ろうか!」
「そうしよう」
駆け出そうとするが、サマラから声がかかる。
「ちょっと待って」
「どうしたの?」
「最後に一勝負いってみない…?どっちが早く住み家に着けるか」
「いいよ。負けたらまた罰?」
「勝った方の言うことを1つだけ聞く!」
「それでいいよ。道はどこを通ってもいい?」
「もちろん!私もわかるからね!」
獣人は道を覚えるのが得意だ。別に意識して覚えているワケじゃなくて、誰もが備える本能。
サマラは『獣の楽園』に来たのは初めて。でも、次に来るときに迷うことはない。なぜなら獣人は一度通った道を忘れないから。動物でいう帰巣本能のような感覚。
ボクは頭の中の地図に目的地が点で浮かび上がる。森の中であっても、方角と距離がわかっていれば途中に障害がない限り辿り着ける。
「よかったら『身体強化』してみる?速いよ」
「いいの?!やってみたい!」
好奇心旺盛なサマラはそう言うと思った。自分とサマラに『身体強化』をかける。
「身体がめっちゃ軽い!嘘みたい!」
軽く跳んだり短くダッシュしたりしてる。ボクの身長くらい跳んでるな…。凄い身体能力だ。
「慣れるまでは力を抑えた方がいいよ。思った以上に動いて制御できないから」
「わかった!行こう!」
「ボクの話、聞いてる?」
「聞いてるよ!もう慣れた!」
絶対に聞いてないけど、早く駆けたくてうずうずしてるのが丸わかり。これ以上は言っても無駄だと判断してサマラの隣に並んだ。目配せをして駆け出す姿勢をとる。示し合わせたように同時に駆け出した。
その直後…。
「あっぶなぁぁ~い!」
駆け出して直ぐにサマラは木に激突しそうになる。抜群の反応で躱したけど、何度か同じことを繰り返す。ただ、直ぐに順応したみたいで軽やかに森を駆け始めた。
「気持ちいい~♪」
もう驚いたりしない。若干呆れながらもこうなるだろうと予想できた。ただし、駆けるのはボクの得意分野。サマラが相手でも負けられない。
気合いを入れ直して互いに森を疾走する。
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