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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
123/706

123 サマラ、紹介される

暇なら読んでみて下さい。


( ^-^)_旦~

「あとは帰るだけかな?!」

「いや!もう1箇所、行きたいところがあるんだけど、いいかな?!」

「いいよ!」


 互いに真っ赤な顔をした私達は、恥ずかしさを誤魔化すように自然と声が大きくなる。幼馴染みでも、照れくさいものは照れくさいのだ。


「大丈夫だよ!ここから近いの?!」

「近いよ!ちょっと駆けたら着く!」

「じゃあ、早速行こう!」

「そうしよう!」


 

 頭を冷やしつつ、20分ほど駆けたところで目的地に着いた。またもや眼前には洞窟の入口。


「ココもダンジョン?」

「ボクの魔法の修練場なんだ」

「へぇ~!面白そう!なにか魔法を見せてくれるの?」

「いや。サマラを紹介したい人達がいるんだ」

「ココに?」


 コクリと頷いたウォルトは、洞窟の奥へと歩き出して後に続く。魔法で奥まで明かりを灯した。


「すごい仕組み!ウォルトが考えたの?」

「考えたのは師匠だよ。ボクは使わせてもらってるだけ」


 会話しながら奥へと歩を進める。しばらくして広場に出た。


「広いねぇ~!ウォルトはここで修業してるのか~」

「たまにしか来てないけどね」

「ところで、紹介したい人達は?」


 見渡しても人影は見当たらない。


「今から呼ぶよ。みなさ~ん!」


 声に反応するように、あちこちの土がボコッ!と盛り上がる。


「な、なに?!」


 初めて見る光景に思わず身構えた。直ぐに大勢のスケルトンが地中から姿を現す。その中でも、一際大きなスケルトンがゆっくり近づいてくる。呆気にとられて言葉も出ない。


 でっかいね~。


『久しいなウォルト。今日も修練か?』

「スケさん、お久しぶりです。今日は皆さんに紹介したい人を連れてきました」


 スケルトン達が集合する。初めて見る不思議な光景。ウォルトは昔からそうだったけど、細かいことをさらに気にしなくなってるっぽい。


「詳しく説明するよ」


 ウォルトが説明してくれるみたい。


「皆は魔物に見えるけど、ボクの修練仲間で友人なんだ。生前は冒険者だった人達で古い付き合いなんだよ」


 うん。全然説明になってない♪でも、どうでもいい。スケルトンと友達ってことだけわかったからオッケー!


「私はサマラ!ウォルトの幼馴染みで狼なの!よろしく!」


 とりあえず笑顔で自己紹介する。


『こちらこそよろしく。ウォルト。お前の周りにいる女性は美人揃いだな。カッカッカ!』


 もしかしてアニカも来たことあるのかな?


『別嬪さんだ』

『ウォルトはいい奴だからな。こんな美人を連れてくるのもわかる』

『美男美女だ』


 褒められて悪い気はしないけど、ちょっと照れ臭いね。…と、1体のスケルトンが首を傾げてるのが目に入る。他のスケルトンより骨が細いけど女性かな?


「ちなみに、スケさん達の名付け親はボクの師匠なんだ」

『適当に付けられた感は否めないがな。誰も気に入ってないが、死者だから名前に拘りもないし考えるのも面倒くさいから放置してる』

「へぇ~」


 細いスケルトンが前に出た。


「スケ美さん、どうかしましたか?」

『ちょっと確認。サマラちゃんって、マードックの妹だよね?』

「そうだけど、私を知ってるの?」


 私にスケルトンの知り合いはいない。


『私が生きてた頃に会ってるけど、覚えてるかな?昔はリリムって名前だったんだけど』

「えっ!リリムさん?!何度か家に遊びに来てくれたよね?!他の冒険者と一緒に。レインさんとかボリスさんと」


 優しくて底抜けに明るいお姉さんのイメージが残ってる。


『そうだよ!懐かしいね~!』

「久しぶり~!会えて嬉しい!」

『私もだよ。綺麗になったねぇ』


 手と骨を取り合って再会を喜ぶ。リリムさんはフクーベの冒険者で、駆け出し冒険者だった頃のマードックのパーティーメンバーだった。

 マードックが冒険者に成り立ての頃は家にメンバーを呼ぶこともあって、その頃に知り合った。


「リリムさんがいなくなったのは聞いてたけど、亡くなってたんだ」

『1人で素材を採りに来たときに、油断で魔物にやられちゃってね。骨になるまで誰にも気づかれなかったの』

「そうなんだね。マードックも寂しがってたよ。レインさん達もしばらく落ち込んでた」

『そっかぁ…。皆に会ったらリリムが謝ってたって伝えてくれないかな?あと、死んじゃったけど今は元気で骨やってるよ!って』

「伝えとく!きっと驚くよ!」

『あとね、マードックに伝えてほしいんだけど』

「なに?」


 こっそり耳打ちされる。意味がわからないけどとりあえず覚えた!


『お願いね』

「任せて♪」



 ★



 スケ美がサマラの知人だったことに驚きながらも、スケさんは嬉しく感じていた。


 スケルトンになって思うが、知人や友人と再会できるのはかなりの幸運。こうして死んだ事実を誰かに伝えることも重要だと思える。

 俺達は誰にも発見されなかったから骨になってしまった。家族の中では未だに生きてることになってるんじゃなかろうか。伝えたら、新しい人生を送るきっかけになるかもしれない。


 2人の会話も終わろうかというところで、サマラの踵あたりの地面が音もなく盛り上がる。そこから骨の腕が伸びてサマラのお尻に触れた。


「きゃあっ!なにっ!?なにかいるっ!」


 飛び退いたサマラの悲鳴に驚く。サマラが立っていた位置、地中から骨が這い出てきた。


『ウォルトォ…。よく来たなぁこの野郎…。マブい女連れてんじゃねぇか。羨ましすぎてちょっと尻を触らせてもらったぜ…』


 スケ三郎が剣を片手にカラカラと笑いながら姿を現す。あちこち傷だらけでオーラを放っているのは、二度の『魔法による粉砕事件』でウォルトを逆恨みしてずっと修業を続けているからだ。


 そんなことより、コイツはなんてことをする…。


『スケ三郎…。やっていいことと悪いことがあるぞ…』


 怒りを露わにして歩み寄ろうとするが、ガシッと肩の骨を掴まれた。『誰だ?』と目をやれば、ウォルトが口角を上げて嗤っていた。

 表情を見た瞬間に骨の全身が凍りつく。本能が感じる恐怖なのか、止めようとしてもカタカタと顎が鳴り止まない。

 死んでいる身でありながら、まだ恐怖を感じることができるのか…。こんな顔をしたウォルトは初めて見る。まるで獰猛な獣のよう。


「スケさん…。ここはボクに…」

『………わかった』


 そう答えるのが精一杯だ。口調こそいつも通りだが、『邪魔をするならお前も…』と目が語っている。

 ウォルトは俺の横をすり抜け、ゆっくりスケ三郎に向かって歩を進める。他のスケルトン達も言葉が出ない。


 今のウォルトから感じるのは、いつもの優しく穏やかな雰囲気ではなく圧倒的な恐怖と威圧感。

 もう皆は気付いている。このサマラという娘はウォルトにとって大切な存在で、彼女を弄ぶようなことをしたスケ三郎は…散るという選択肢しかないのだと…。決して踏んではならない虎ならぬ猫の尾を踏んでしまった。


 この状況でも「カカカカ!」と不敵に笑うスケ三郎。豪胆なのか、はたまたバカなのか。後者であることは皆わかっている。俺達にできることはウォルトの慈悲を願うだけ。


 ウォルトの踏みしめる一歩は、スケ三郎の昇天へのカウントダウン。誰もがスケ三郎の昇天を覚悟したとき、ウォルトの前にサマラが立ちはだかる。


「ウォルト!ダメだよ!」

「…どいてくれないか?」


 口調こそ優しいが、浮かべる表情は獰猛。そのギャップがより恐怖を引き立たせる。


「私のタメに怒ってくれたんでしょ?気にしてないから大丈夫!それに、あのスケルトンを倒しても絶対後悔するよ!友達なんでしょ?」

「…怒りが収まらないんだ」


 サマラの制止も聞かずウォルトは歩を進める。


「だめだって!止まってってば!」


 両手を広げて『通さないぞ!』とガードするがウォルトは止まらない。そんな中、スケ三郎が挑発する。


『おい、色猫男!御託並べてないで早くかかってこい!お前をぶっ倒してその姉ちゃんは俺が可愛がってやるからよ。よぉ、獣人の姉ちゃん。そんなクソ弱ぇ白猫野郎といるより俺といたほうが楽しめるぜ!』


 スケ三郎の台詞に、ウォルトの体毛は総毛立ち目が血走る。


「塵も残さず……昇天させてやる」


 眼前のサマラを振り払う気なのか、『身体強化』しようとウォルトが魔力を解放した瞬間だった。

 突然サマラの姿が消えて、無表情でスケ三郎の前に立って拳を振りかぶっていた。


『なっ…!なんだぁっ!?』


 動きが見えなかった…。なんというスピードだ。


「誰がクソ白猫だって…?もう一度言ってみろっ!!うらぁぁぁぁっ!!」


 スケ三郎に対して目にも留まらぬ連打を繰り出す。あまりの速さに反撃も防御もできない。連日鍛えているはずの自慢の骨は、直ぐにヒビ割れて崩れ始めた。


『ぐうぅっ…!くそったれ!!なんなんだ、お前っ!』

「ウォルトのことを揶揄いやがって…。砕けろっ!!」


 トドメとばかりに、フラつくスケ三郎の顎を目掛けてアッパーを繰り出した。ボゴォ!!と鈍い音が響き渡る。


『ぐえぇぇぇっ!ゴファッ…!』


 吹き飛んだスケ三郎は天井に頭蓋骨が埋まる形で止まった。力なくブラリと垂れる手足。握っていた剣だけ落下して地面に突き刺さる。


 眼球がないのに食い入るように見ていた俺達は、あまりの驚きに口がカクカク音を立てるだけ。


 ふぅ…と息を吐いたサマラは、ウォルトの前に移動するといつもの目に戻る。


「ゴメンね。私が止めたのに自分は殴っちゃって。でも、気が晴れた!」


 ウォルトの表情は、いつの間にか穏やかな表情に戻っていた。


「助かったよ。あのままだったらサマラの言う通り後悔するところだった。止めてくれてありがとう」

「どういたしまして!」


 やはり優しい表情が似合う男だ。


『サマラは強いな!何ランクだ?!』

『そんだけ美人なのに冒険者なのか!?』

『アイツも今はかなり強いんだぜ。それを一方的に。恐れ入った』

『サマラちゃんて強いんだね~』


 サマラは皆に囲まれて談笑している。様子を優しく見守るウォルトの横に並んだ。


『あの娘はとんでもないな』

「はい。昨日手合わせしてボクも負けました」

『そうか。お前達が2人で冒険すれば面白そうだ』

「サマラもボクも冒険する理由がないですよ」

『あの娘は冒険者じゃないのか?』

「フクーベの服屋で働いてるただの獣人の女の子です」

『信じられん…。冒険者でも上位ランクはありそうなパワーとスピードだ』

「誰にもなにも教わってないのにあの強さなんです」

『天才という奴か。いるもんだな』

「ところで、スケ三郎さんはどうしましょう?とりあえず地面に下ろしますか?」


 天井にぶら下がるスケ三郎に目をやる。


『そのままにしておいてくれ。あのままでしばらく反省させる。殺風景だから飾りにちょうどいい。風鈴みたいなものだ。カカカ!』


 その後、しばらく会話を楽しんで互いに手を振りながら別れた。



 スケ三郎はというと、数日後に地上に下ろされ、サマラに負けた後遺症からか女性冒険者に絡むことがなくなった。

読んで頂きありがとうございます。

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