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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
122/707

122 サマラ、調子に乗る

暇なら読んでみて下さい。


( ^-^)_旦~

 携行食と所持品の準備を終えたウォルトはサマラに声をかける。


「準備終わったよ」

「私もいつでも行けるよ♪」


 軽装に着替えリュックを背負ってご機嫌な様子。


「じゃあ、行こうか」


 外に出てドアを施錠してから確認した。


「目的地はちょっと遠いけど、どうやって移動しようか?」

「もちろん駆けて行くよ!」

「だよね。じゃあ駆けよう」

「うん!」


 先導するように駆けると、サマラは余裕で付いてくる。木々の間をすり抜け、木漏れ日の中を疾走するのは気持ちいい。


「ウォルト。まだ速く駆けれる?」

「いけるよ。遅い?」

「もうちょっと速いほうがいいな!」

「わかった」


 スピードを上げる。


「いい感じ!このまま行こう!」


 笑顔を浮かべてピタリとついてくるサマラに、苦笑いしかできない。


 ボクは獣人にしては線が細くて、筋肉量が少ないから一般的な獣人に比べて力がかなり劣る代わりに、持続力や俊敏性が優れてる。

 ほとんどの獣人はパワー系かスピード系のどちらかに振れる。どちらも優れている者は稀だ。ボクは能力が俊敏性に極端に偏っていて、駆けるスピードだけはちょっと自信がある。


 今は7割程度の力で駆けているけど、余裕でついてくるサマラはかなり速い。体型はボクと同じ細身に見えて、昨日の手合わせではマードック並みの力も見せた。

 断言はできないけど、マードックは短時間かつ短距離であればボクより速く動ける。あれだけの体躯でスピードを兼ね備える狼男は化け物と言っていい。

 サマラも同様の身体能力を備えていそう。並の獣人では太刀打ち出来ない。むしろ、天賦の才だけならマードックより上じゃないかとすら思う。

 昔から身体を動かすのが得意なのは知ってたけど、正直サマラがこれ程の獣人に成長しているとは思いもしなかった。


「ふ~んふん!ふんふふ~ん♪」


 鼻歌交じりに駆けるご機嫌なサマラは、ボクの心中など知る由もなく楽しそうに笑ってる。



 しばらく駆けて目的地に到着した。


 予定より早く到着して互いに平然としてる。そんなボクらの眼前には洞窟の入口。


「洞窟だ。ココに連れて来たかったの?」

「そうだよ。目的地は洞窟を抜けた先なんだけど、ここからはダンジョンなんだ。魔物が出るからボクに任せて」

「了解!とりあえず任せる!」


 即答されたのはちょっと意外だ。初めてダンジョンに入るらしいけど、サマラの表情からは不安なんて微塵も感じない。ダンジョンがどんな場所か知らないから、とりあえず大人しくしておくらしい。

 夜目が効くボクらは仄暗いダンジョンを順調に進む。炎、氷、水、風と魔法を駆使して、襲い来る魔物を退けるたびサマラは大興奮。


「うぉ~!すご~い♪」

「ひゃぁ~!そんな魔法も使えるの!?」

「私も使ってみたい!」

「よっ!!役者だね!」


 恥ずかしくなるくらい褒めまくる。照れてしまって魔法に集中出来ない。


「大袈裟…」

「じゃないよ!本当に凄いよ!」


 褒め殺しにあいながら油断しないようダンジョンを進むと、目的地に着く直前の階層で大型の魔物に遭遇した。

 

「こりゃまたでっかいねぇ~!」


 サマラは「ほぉぉ~!」と目の前の魔物を見上げる。世間ではゴーレムと呼ばれる魔物。

 様々な種類のゴーレムがいるけど、今回は土で体が形成された巨人のようなゴーレム。ダンジョンの天井に届きそうなほどの巨体。


「どうやって倒すの?」

「ゴーレムの体内には『核』になる部分があって、破壊すれば倒せるんだけど」

「外から見てわかる?」

「いや。探ってみないとわからない」


 暢気に会話するボクらにイラついたのか、ゴーレムが拳を振りかぶり力任せに思いきり叩きつけてきた。


「おっと!ほっ…!はっ…!」


 地響きが起こる強烈な打撃をサマラは軽やかに躱す。恐怖なんて微塵も感じてないな。むしろ遊んでるように見えるから凄い。


 隙を見てゴーレムの懐に入り込み、手を翳して詠唱する。


『破砕』


 胴の部分が円形に吹き飛んでくり抜いたような空洞ができた。空洞に浮かぶ拳大の透明な球体。中には黒いオーラのようなモノが蠢いている。


「すっごい威力の魔法!」

「アレが核だよ。一発で見つかるなんて運がよかった……って、えぇっ!?」


 サマラは説明も聞かずに疾走して、一目散に核に飛びかかっていた。跳躍力が半端じゃない。拳を握りしめて空中で大きく振りかぶる。


「うぉりゃぁぁ!どっせい!」


 気合一閃、『核』に拳を叩き込んだサマラは華麗に着地を決めた。


「痛ったぁ~!!めっちゃ硬いぃ~!!」

「だよね」


 核は相当硬くて、簡単に破壊できないから倒すのが困難だ…と伝えたかったんだけど。剣や魔法で攻撃しても中々破壊できないのに、素手はいくらなんでも無謀だ。

 ゴーレムの動きに注意しながら、素早くサマラに駆け寄って『治癒』をかける。見た目には無傷だけど、怪我させるタメに連れてきたんじゃない。

 それにしても、いきなりマードックと似たような行動をとるなんて予想もしなかった。狼の獣人の血がそうさせるのか?


「ありがと♪もう痛みは引いたよ!しかも、ほら」

「えっ…?」


 笑顔のサマラが視線をゴーレムに移す。驚くべきことに『核』にヒビが入って崩れ始めていた。


「嘘だ…」


 開いた口が塞がらない。核の崩壊に呼応するように、ゴーレムの巨体も徐々に崩れ始める。やがて弾けるように霧散すると、ゴーレムは崩れ去って土の塊と化した。


「なかなかの硬さだった!でも私の勝ちだね!」


 サマラはドヤッ!と胸を張る。なにがとは言わないけど大きく揺れるのが心臓に悪い。


「ゴーレムの核を素手で破壊するなんて信じられない」


 さっきの『破砕』もかなり魔力を込めたけど傷つかなかった。それを素手で破壊できるなんて…。


「私の出番だって身体が動いたんだよね!割れたのは運がよかっただけ!」


 ちゃんと理解してるのか。本能っぽいけど。


「上手くいったからよかったけど無理はダメだ。危ないと思ったらボクを頼ってくれ」

「時と場合によるね!後ろで守られるのも悪くないけど、私は横に並んで闘いたい!」


 満面の笑みを見せられるとなにも言えなくなってしまう。


「もう目的地が近いんでしょ?早く行こうよ!」

「そうだね。行こうか」


 


 ダンジョンを抜けた先には、うって変わって明るい花畑。花が咲き誇っている。


「すごく綺麗…。こんな崖の上に花畑があるんだ。眺めも最高だね♪」


 サマラは無邪気な笑顔を見せて、咲き誇る花を愛でている。


花畑(これ)を私に見せたかったの?」

「それもあるけど、あげたい花があって一緒に採りにきたかったんだ」


 花畑の一角で4色に咲き誇る花の一輪を丁寧に摘むと、持ってきた瓶を取り出して『保存』をかけて大事に保管する。


「帰るときに渡すよ」

「うん。ありがと」

「この場所に来たのは内緒にしてほしいんだけど、いい?」

「わかった!誰にも言わない!」

「ありがとう。そろそろ昼ご飯にしようか?」

「待ってました!昼ご飯はなに?」

「大した料理じゃないんだけど」


 包み紙から取り出したのは、米を円盤状に軽く焼き固めた2枚の間に、味付けて炒めた細切りの野菜と肉を薄切りで焼いて挟んだモノ。最近気に入って作っている携行食。


 齧りついたサマラの感想は「ウォルト!いい加減にしなさいよ!」だった。


 そんな理不尽な…。意味がわからない。






 昼食を終えて帰ろうとしたとき、サマラが「こっちの崖から下りれそうじゃない?」と言い出した。バレたら仕方ない…。


 安全策を選択してダンジョンを通ってきたけど、崖からも行けることがバレてしまった。気付くだろうと予想はしてたけど。

 サマラの性格上、来るときも「崖を登る!」と言い出すのが目に見えていたから気付かれないよう崖を迂回して直接ダンジョンの入口に来た。


「危ないよ」

「その反応…。さては、知ってたけど黙ってたね?」

「危ない目に会わせたくなかったんだ」

「気持ちは嬉しいけど、これは崖案件でしょ♪」


 崖案件ってなんだ…?聞いても理解できない可能性が大。「そこに崖があるなら下りるしかない」って言う気だろう。

 言いだしたら聞かないのは百も承知なので、とりあえず説得は諦める。無事に地上に下ろすことだけ考えよう。


 ボクの心配など気にも留めてないサマラは、崖っぷちに立って平然と地面を見下ろしてる。完全にわくわくしている顔だ。

 先に下りて万が一に備えようと思っていた矢先、サマラが口を開いた。


「もう行ってもいいかな!?いいよね?!」

「えっ?!ちょっとまっ…!」


 制止する前に「お先に!」と飛び降りた。


 急いで下を覗き込むと、出っ張っている岩を足場にして軽やかに跳び移りながら下りている。

 跳んだ後の足場が所々崩れてるけど、気にも留めていない。度胸と身体能力に呆れてしまう。


「よっと!」


 己の身長の20倍はあろうかという崖をあっという間に下りたサマラは、下から笑顔で手を振ってくる。


「おぉ~い!大丈夫だったよぉ~!」


 ひとまずホッとした。周囲がほぼ無風なことを確認してボクも飛び下りる。


「えぇ~!?」


 サマラの驚いた声が響く。ローブをはためかせながら落下して着地寸前で詠唱する。


『無重力』


 減速してフワリと着地した。


「すごいよ!なに今の魔法!?」


 大興奮のサマラに笑顔で近寄って…。


「こらっ!」


 頭に軽く手刀を落とした。


「いったぁ~い!いきなりなにすんの!?痛いじゃん!」

「どういうつもりなんだ?ボクは危ない目に会わせたくないって言ったぞ」

「うぐっ…!ごめん…」


 反省しているサマラの様子を見て苦笑する。


「なんでもできるのはよくわかった。でも、少しはボクの話も聞いてくれ」

「うん…」


 俯いてガックリと肩を落とすサマラに正面から近寄って、頭を優しく撫でる。


「サマラのことが大事なんだ」


 サマラは大切な幼馴染み。いかに凄い獣人でも下手をすれば命に関わる。無茶してほしくない。サマラは俯いて頬を染める。


「ありがと…」



 ちなみに「崖案件ってなに?」とサマラに訊いたところ「崖は下りたり昇るタメにある!」と笑顔で言われたのは余談。

読んで頂きありがとうございます。

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