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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
121/714

121 サマラ、ドキドキする

暇なら読んでみて下さい。


( ^-^)_旦~

「お~い!ウォルト~?」 


 話し掛けても石化したようにピクリとも動かない。驚いてくれたみたいで気合いを入れた甲斐はあったけど、あまりにつまらない。


 ウォルトは私より頭1つ背が高い。寄り添って背伸びをすると、ピンと立った耳にふっ!と息を吹きかけた。


「わぁぁぁっ!!」


 我に帰って耳を押さえる。


「あははっ!大袈裟だよ♪ねぇ、ウォルト。この格好どう?」


 くるりと1回転して言葉を待つ。


「スゴク イイト オモウ」

「なんで片言?」


 受けた衝撃の後遺症が残っているのか、どうやらまだ完全に戻ってきてなさそうだね。好きそうな服を着てるだけなのに反応が大袈裟だなぁ。でもウォルトが女性慣れしてたら嫌だったから、コレはコレで嬉しい。


「ありがと。ところで、ウォルトは約束覚えてる?」

「ヤクソク?」

「手合わせで負けた方は勝った方の言うことを聞くって言ったよね?」

「イッタ」

「…というワケで今からお願いをします。今日は一緒に寝よう!」


 満面の笑みで告げると目がカッと見開かれた。どうやら意識が完全に戻ったみたい。


「さすがに無理だよ!」

「なんで?いいじゃん。同じ部屋で寝るだけだよ?小さい頃は寝てたよね?」

「そうだけど…」

「もしかして…嫌なの?」

「嫌じゃないよ…」

「だったらいいよね♪ウォルトも寝る準備してきなよ!」

「…もし断ったら?」

「そうだねぇ…。マードックに愛の告白するっていうのはどう?バッハ対ウォルトっていうのも見てみたいかも!」

「…汗を流してくるよ」


 ウォルトは肩を落としてとぼとぼ風呂場へ向か。


 やったね!一緒に寝るなんて何年ぶりだろう?軽く10年は経ってると思う。少なくともフクーベに来てからは記憶にない。

 さっきまで寝ていたベッドにうつ伏せに倒れ込む。魔法で乾いたベッドはフカフカで気持ちいい。


 …やっぱりドキドキする。一緒に寝たことがあるといっても幼い頃とは違う。私達はいい大人だ。いくらウォルトが優しくて奥手で真面目だとしても、やっぱり獣人の男。なにが起こるかなんてわからない。つい妄想してしまう。


『サマラ…』


 碧い瞳で見つめられて、優しく名前でも呼ばれようものなら抗える気がしない。だって……全然嫌じゃないのだ!


 うぅぅ~っ!!


 真っ赤に染まった顔をボフッと枕に埋めて、脚と尻尾をバタバタさせて悶える。妄想しながら恥ずか死んでしまう。


 ウォルト…。早く戻ってこないかな…。待ちきれなくてまた妄想に耽ってしまうよ。



 ★



 風呂で汗を流したウォルトは、身体を拭き終えるとサマラの髪と同様に魔法で毛皮を乾かす。いつものことで手慣れたもの。

 浴室や脱衣所も魔法で隅々まで乾燥させると、寝室に寝間着を取りに向かう。ボクの寝室は質素。ベッドが1つと衣装用の箪笥が1棹置いてあって他にはなにもない。

 寝間着の貫頭衣を取り出して頭から被る。ボクがローブを脱ぐのは、選択を除けばお風呂と寝るときだけ。


 寝る準備を整えて、サマラの待つ客人用の部屋に向かう。ホントに一緒に寝る気なのかな?

 昔からサマラは言い出したら聞かない。しかも、今回は手合わせに勝ってるからなおさらだろう。

 恋人でも番ってもないのに、同じ部屋で寝ていいのか?確かに小さい頃は一緒に昼寝したりもしたけど。


 そんなことを考えながらドアを開けて中に入ると、サマラがうつ伏せでベッドに横たわっているのが目に入った。


「サマラ…?」


 そっと近づいて横を向いている顔を覗き込んでみると、幸せそうな表情で眠りについている。笑みがこぼれた。


 連日仕事をして、本来なら身体を休めるべき日にわざわざ会いに来てくれた。疾走したり、狩りをしたり手合わせしたりでかなり疲れてるはず。さっきまで元気だったのが不思議なくらい。


 寝顔を眺めて思う。サマラは本当に綺麗になった。小さな頃から誰もが認める美少女だったけど、今のサマラは比べものにならないほど美しく成長してる。天真爛漫な性格とクールな容姿のギャップが魅力を一層引き立てる。


 起こさないようサマラの背中に毛布を掛けて囁いた。


「お疲れさま。おやすみ……?」


 身を翻して立ち去ろうとしたけれど、サマラの手が服を掴んでる。驚いて顔を覗いてもヘラヘラしたまま眠ってる。

 掴む指を解こうと試みたけど、ガッチリ握られていて離してくれそうにない。寝てても力が強いなぁ。


「えへへ…。うーちゃん…早く寝ようよ…」


 寝言で懐かしい名を呼ばれる。幼い頃は「さーちゃん」「うーちゃん」と呼び合っていた。


 昔の…あの頃の夢でも見ているのかな。



 ★



 翌朝。


 サマラは部屋に差し込む光と鳥の囀りで目を覚ます。


 う……ん……。…………えぇっ!?


 目に飛び込んできたのは目と鼻の先にあるウォルトの寝顔。息がかかるほど近い。

 驚きながらも起こしちゃいけないと思って開いた口を慌てて噤む。頬にはフワリとした毛皮の感触。ウォルトは…まさかの腕枕してくれてる。


 空いた手を丸めて顔をこするウォルトは猫が顔を洗っているようで可愛い。コレは眼福っ!

 なぜこんな状況なのか理解できないけど、ウォルトは約束を守ってくれたんだ。それも添い寝というかなり予想の上を行く形で。記憶がないことを残念に思うけど、今の幸せをなんと表現したらいいだろう。最上で最高ってヤツだね!

 

 …とはいえ、あまり動くと起きちゃいそう。もうちょっとこのままでいたいなぁ…。頬を染めながらそんなことを考えていると、ウォルトが「うぅ~ん…」と身じろぐ。


 ダメっ!!まだ起きないでっ!!もうちょっと拝ませてっ!!


「…すぅ」


 一瞬起きるかと思ったけど、ウォルトは眠ったまま空いた手を私の背中に回して身体を抱き寄せてきた。


 ん~!!ん~~!!


 ウォルトの胸に顔が引き寄せられる。自分の心臓がうるさい。


「さ~ちゃん……綺麗になったね…」


 ボソッと呟いた寝言に、胸に顔を埋めたまま真っ赤になってしまう。


 こ、こんニャろ~っ!!この状況で昔の呼び名で呼んでくるなんて…。どれだけ人の顔を赤く染めれば気が済むんだ!天然ジゴロ猫!でもめちゃくちゃ嬉しい!


 心地よさそうに寝息を立てるウォルトの顔を、しばらく下から眺めて堪能した。



 


「約束守ってくれてありがとね♪」

「どういたしまして…」


 その後、目を覚ましたウォルトと朝食をとってる。朝からいいこと尽くめでご機嫌な私とは対照的に、ウォルトは神妙な面持ちで箸が進まない様子。

 

「どうしたの?あんまり食べてないね」

「ちょっと反省しててね…」

「もしかして添い寝のこと?反省する必要ないでしょ。私の希望を叶えてくれたんだから」

「あるよ…。いくらなんでも添い寝までする必要はなかった…」


 ウォルトは『やっちまったニャ…』とか言いそうで、しょんぼりしている。目を覚まして直ぐに「なんで添い寝してくれたの?」って訊いても、照れるばかりで理由は教えてくれなかった。


「私は嬉しかったよ。昔に戻ったみたいでさ♪」

「…ボクもだよ」

「それって…私と添い寝して嬉しかったってこと?」


 躊躇いがちに頷いてもの凄く恥ずかしそうにしてる。私も嬉しいから別にいいのに。


「だったらいいじゃん!ウォルトも懐かしかったでしょ?いい夢見れたんじゃない?小っちゃい頃の夢とかさ!」


 昔の呼び名で呼んでくれたから。


「そうだね…。いい夢は見れたよ…」

「大体ウォルトは気にしすぎ。頼んだ私が悪いんだから」


 また『やってしまった…』って顔してるね。上手く立ち回れない自分が嫌になったかな。


「気を使わせたって自分を責めてるね?でもお門違いだよ」

「…え?」

「私は気を使ってない。だから気にする必要なんかないしウォルトはそのままでいい」


 言うことだけ言ってまた美味しいご飯を食べ始める。噓は言ってないからウォルトには伝わるはず。苦笑したウォルトも、後を追うようにゆっくり食べ始めた。




「ご馳走さまでした!私も懲りないね…。また食べ過ぎた…」

「口に合ってよかったよ」


 お腹をさする動作もお馴染みになってしまった。でも美味しすぎるんだから仕方ない!


「まぁ、ウォルトの料理が美味しすぎるのがいけないんだけどね!料理が美味しすぎるのが!大事なので2回言いました!」

「ありがとう」

「それはそうと、今日は帰るまでなにしようかなぁ?」

「いつ頃、帰る予定?」

「食材とか買って帰らなきゃだから、夕方までかな?」

「だったら、サマラと一緒に行きたい場所があるんだけど」

「おっ!どこでもいいよ♪」


 ウォルトから提案してくれるなんて嬉しい。


「ちょっと遠いから疲れるかもしれない。それでもいい?」

「全然いいよ」

「わかった。昼ご飯とか準備するからまだゆっくりしてて」


 そう言って台所へ消えた。昼ご飯を準備するということは、遠出になるってことだね。どこへ行くのか知らないけど、ウォルトと一緒ならどこだっていいや!

読んで頂きありがとうございます。

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