120 サマラ、照れる
暇なら読んでみて下さい。
( ^-^)_旦~
住み家に戻って寛いでいると、ウォルトが冷たい水を淹れてくれた。喉を潤してる途中で気付く。
「もしかして、この水も魔法で冷やしてるの?」
「そうだよ。冷た過ぎた?」
「ちょうどよくて美味しい。魔法って便利だね」
「ボクもそう思う。だから使えない人にもお裾分けしたいと思うんだ。あと、お風呂を沸かそうと思ってるけど入る?」
「入りたい!汗かいたからベタついて気持ち悪かったの!」
「じゃ、準備してくるよ。直ぐに沸くから入る準備しておいて」
「りょ~かい!」
ウォルトはお風呂場へと向かった。言われた通り部屋に向かって、着替えを準備していると直ぐに呼びに来てくれた。
「お風呂沸いたよ。洗濯する服は脱衣所に置いといて。洗って魔法ですぐ乾かせるから帰る前には渡せる」
「わかった!…っていうか、よく考えたらこんな森の中でお風呂に入れるなんて贅沢だね!」
「ガッカリするかもしれないよ?」
苦笑しながらウォルトはお風呂へと案内してくれた。
「めっちゃ立派なお風呂じゃん!」
「家主が風呂好きなんだ。洗い場から浴槽に至るまで設計にこだわったらしい」
「へぇ~。2人で入れるくらいの広さがあるね!木でできてるのも凄い!」
「沸かすのは薪じゃなくて魔法だから、木製でも問題ないんだ。水は川で汲んできたり魔法で溜めてて、乾燥まで魔法でやるから腐りもしない」
「昼みたいに明るいし便利すぎ!」
「『発光』くらいはボクでも使えるからね。ごゆっくり」
「ありがと♪」
ふんわりした陽の匂いがするタオルを渡してウォルトは出て行く。「内鍵もかけられるから」と教えてくれたけど、ウォルトは覗きなんかしないから気にする必要ない。
ゆっくりお風呂に浸かった。
「気持ちいい~!」
湯船に浸かりながら天井を見上げて、今日の出来事を思い返す。
ウォルトの作った美味しい料理を食べて、一緒に狩りをして手合わせもした。空白を埋めるように会話して、凄い魔法も見せてもらって温かいお風呂で汗を流す。ここ何年かの中で最高に幸せな1日。
ずっと抱き続けてきた想い。それは『ウォルトの番になる』こと。その想いがさらに強くなった。ウォルトがフクーベからいなくなって、心が折れかけたこともあったけど、あの頃折れなかった自分の心を褒めてやりたい。
やっぱりウォルトは私にとって唯一無二の獣人。くれる言葉に心躍って、腹が立ってでも幸せで…。
フクーベと『動物の森』で離れて暮らした5年間も心までは引き離してなかったと思えたよ。身体も大きくなって凄い魔法を操るようになっても、昔と変わらず優しいままの幼馴染みはより魅力的で格好よくなった。
そんな色男は、本人も気付かぬ内に人間の可愛いライバルまでこさえてくれたけど!それも当然といえば当然。なぜなら、ウォルトはいい男だから!私は声を大にして言いたい!気付いてる者が少なすぎる!
そこら辺は、アニカに打ち明けてから意見を聞いてみたい。もう1つ予感があって、もっとライバルが増える気がする!
そうなっても問題なし。誰にも負けるつもりはないし、そもそも勝ち負けじゃないけどウォルトの隣に立つ権利は誰にも譲らない!
長々と考えを巡らせていると、頭がボ~ッとしてきた。
ちょっと……のぼせた…かも…。
★
一方、その頃。
ウォルトは暢気に居間でお茶をすすっていた。なにもしていないのに、サマラが入浴しているからか心が落ち着かない。アニカが入るときはオーレンもいるから気にならないけど…。
ゴトッ…と風呂場でなにかが倒れたような音が聞こえた。気になってお風呂の中にいるサマラに話しかける。
「サマラ。なにかあった?」
ドアの前で話しかけても返事がない。
「サマラ…?サマラ~?」
いくら呼びかけても返事がない。サマラは耳がいい。聞こえないはずないけど。さすがにおかしい。躊躇いながらもそっとドアを開ける。内鍵はかかっていない。
「ゴメン!入るよ!」
大きな声で断りを入れると、そっと中を覗いて目を見開いた。慌てて中に駆け込む。
「サマラ!」
サマラが裸のまま脱衣所の壁にもたれるようにして倒れ込んでいた。すぐ傍でタオル用の衣紋掛けが倒れてる。
「大丈夫かっ?!」
優しく抱き起こす。サマラの顔は赤く染まってのぼせてしまったであろうことが見てとれた。
「サマラ!サマラ!!大丈夫?!」
何度か声をかけると、少しだけ瞼を開いてくれた。
「……ウォルト?ごめんね…。のぼせちゃったみたい…」
「気にしなくていい。ちょっとだけ待ってくれ」
近くのタオルを手に取り、床に敷いてサマラを横たわらせる。ローブを脱いでそっとサマラの身体を隠すようにかけたあと詠唱する。
『氷結』
少しずつ周囲の空気を冷やしていく。これで熱が下がっていくはず。
「冷たくて…気持ちいい…」
「寒くない?」
「もうちょっと冷たい方がいいかも…」
「わかった」
少しだけ強く冷却する。
「気持ちいい…。いい感じ…」
「少しだけ待ってて。すぐ戻るから」
脱衣所を出て水差しを持って戻ってきた。冷やした水をゆっくり飲ませる。
「……おいしい」
「飲めるだけ飲むんだ」
「もう大丈夫」と言うまで飲ませてサマラを抱え上げる。そのまま客人用の部屋まで運ぶとベッドに寝かせた。『氷結』の効果は発動させたまま運んできた。
「落ち着くまでしばらく安静にして」
「うん……。ウォルト……手…握っていい…?」
「いいよ」
ベッドに腰掛けると、ローブの下から出てきたサマラの手を握る。
「…空気は冷たいのに…ウォルトの手はあったかいね…」
「そうかな?」
「そうだよ…。変わってない…」
ー 30分後 ー
「ぷは~っ!生き返ったぁ~!」
「ホッとしたよ」
とりあえず貫頭衣に着替えたサマラは、コップ1杯の水を一気に飲み干した。順調に回復したようで今やすっかり元通り。
「ベッドも濡らしちゃってゴメンね」
「気にしなくていいよ。すぐ乾くし」
『速乾』
翳した手から風が吹いたかと思うと、ベッドは何事もなかったように乾いた。
「凄いね。便利すぎる」
「こんなこともできるよ」
サマラを促して椅子に座ってもらう。
「ちょっと髪に触れていいかい?」
「いいよ」
まだ濡れたままの髪を少しだけ手に取る。
「はい。触ってみて」
「…嘘でしょ?乾いているだけじゃなくて、艶々でサラサラなんだけど…。凄く滑らか…」
「最近習得したんだ。髪や毛皮の水分は閉じ込めたままで、表面の水分だけ素早く魔法で飛ばすと綺麗に仕上がる」
「お金とれる技術だよ」
「大袈裟だよ。自分の毛皮に使うだけだし」
「このまま乾かしてくれる?」
「いいよ」
髪と毛皮の見えてる部分を乾かしてあげた。サラサラで艶のある仕上がりに自己満足。手触りを確認したサマラが呟く。
「ウォルトの魔法は…人を笑顔にするね」
「ありがとう。そう言ってもらえると嬉しい」
★
ニャッ!と優しく笑うウォルト。
こういうところが好きなんだよなぁ。そして…ウォルトが大好きだからこそ確認しておこう。
「ねぇ、ウォルト」
「なに?」
「さっき……私の裸……見たよね?」
助けてくれたウォルトを責める気持ちはない。ただ確認しておかなきゃ。
黙ったまま目を泳がせたウォルトは、観念したようにコクリと頷いた。そして、顔を上げずに赤く染まった耳を私に向けたまま呟く。
「ゴメン……。見た……」
「謝らなくていいよ。のぼせた私が悪いんだし」
ウォルトは真面目だから気にすると思った。不可抗力なのにきっと見てしまったことを申し訳なく思っているだろうと。
「責めてるワケじゃないの。私はウォルトに裸を見られても嫌じゃない。それだけ言っておきたくて」
ウォルトはもの凄く鈍いから、言葉で伝えないとわかってくれない。
気分がよくなって急に恥ずかしさがこみ上げてきたけど、決して嫌じゃないことだけ伝えておきたい。見られたのがウォルト以外だったら記憶がなくなるまで殴ってるけど。
蚊の鳴くような声で「ありがとう…」と答えたウォルトは、どんどん顔が赤くなる。もはや白猫じゃなくて赤猫で、間違いなく見られた私より照れている。
「いくらなんでもちょっと照れすぎじゃない?」
こっちまで恥ずかしくなって思わず赤面してしまう。互いに言葉が出ないまま、しばらく微妙な空気に包まれた。
「ちょっと外で頭を冷やしてくるよ」
ウォルトはそっと部屋を出ていく。私は火照った顔を両手で扇ぎながら、背負ってきたリュックが目に入った。
そういえば…持ってきてたのすっかり忘れてた!時間的にも丁度いいし、ウォルトはしばらく戻ってこないだろうからこの隙に準備しよう!
遅いなぁ。まだかなぁ~。
家から持ってきたウォルト好みの寝間着に着替えて、以前バッハに渡された毛艶がよくなる薬で最高の毛並みに整えて待ってる。
薬を作ったのはウォルトだから恩返しみたいなもの。しっかり見て評価してもらおうかな!
ウキウキしながら待っていると、ウォルトが戻ってきた。
「この服、どうかな?」
目が合うなり笑顔で尋ねてみたけど、なぜかウォルトは答えない。ジッと私を見つめたまま固まってる。
「ウォルト…?どうしたの?」
話しかけても答えてくれない。
「おぉ~い!ウォルト~?」
目の前で手を振ってみるものの一点を見つめたまま意識が遠くへ旅立ってしまってる。なんでこうなった?
幼馴染みとして推理してみよう。多分だけど、私の裸を思い出したウォルトは夜風に当たって一旦冷静さを取り戻したところに、また刺激的な姿を見た衝撃が加わって、心が持ちこたえることができなかった…ってとこかな!当たらずとも遠からずとみた!
素直に嬉しいし、驚かせたからとりあえずよしとするけれども、またしばらく待つのは暇だぁ~。
読んで頂きありがとうございます。