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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
12/705

12 モフモフの魔導師

暇なら読んでみて下さい。


( ^-^)_旦~

 白猫の獣人ウォルトは、オーレンとアニカを見送ったあと不穏な気配を感じた。


 鼻と耳がピクリと反応する。


「やっぱりこうなるのか…」


 溜息を吐いて気配のする方角へと全力で駆け出す。人間を遥かに凌駕する速度で、木の間を縫うように森を駆ける。



 気配を感じた場所へと辿り着くと、匂いの主に語りかけた。


「引き下がってくれないか?」


 オーレン達が戦ったと覚しきムーンリングベアが眼前で低く唸りを上げている。

 毛皮と皮膚は焼け爛れて、右腕には刀傷。話に聞いた通りでほぼ間違いない。火傷や傷が化膿して酷い匂いだ。だからこそ距離があっても風に乗った匂いに気付けたけれど。


 2人がムーンリングベアと戦ったと聞いたとき、こうなる可能性に気付いていた。この魔物は狙いを定めた獲物をとことん追い詰める習性がある。鋭い嗅覚と記憶力で獲物を狩るまで逃がさない。そんなしつこさを持つ魔物。


「彼らは大切な友人なんだ。その傷はボクが代わりに治す。だから大人しく住処に戻ってくれないか?」


 ボクら獣人は、獣型の魔物や森の動物とある程度の意思疎通ができる。でも、意思疎通の度合は人それぞれ。自分で言うのもなんだけどできる方だと思ってる。


 魔物と対峙したまま右手を翳して詠唱した。


治癒(クラウル)

「グルルル……ガァッ…?」


 ムーンリングベアを淡い光が包み込み、焼け爛れた皮膚と傷付いた前足が綺麗に回復した。

 魔物は、突然その身を包んだ魔法に驚いた様子だったけど、痛みが引いたことに気付いた次の瞬間に怒りを露わにする。


「グ…ル…ガァァァッ!!」


 魔物は凄まじい咆哮とともに駆け出す。進行方向はオーレン達の帰路と同じ方角。


「ダメか。怒りで我を忘れてるな」


 先回りするために後を追う。疾走するスピードはボクの方が速い。余裕で回り込み再び魔物と対峙する。


「グァァォォ!」


『邪魔をするな!』とばかりに前足を振り回して攻撃してきた。冷静に身を躱して距離をとる。


「もう一度だけ言う。住処に帰ってくれないか?」

「グルァァ!キシャァ!」


 興奮が収まらない、といった様子の魔物は、爪と牙で猛攻を仕掛けてきた。攻撃を捌きながら、魔物の血走った目や剥き出しの牙に止まる意志はないと判断して、説得を諦め覚悟を決めた。


 コイツを回復させたのはボクだ。だから責任をとらなきゃならない。


「これ以上進ませるワケにはいかないんだ」


 魔物から距離をとって魔力を纏う。ほぼ同時に跳びかかろうと魔物が立ち上がった。


疾風(トゥール)


 翳した掌から風の刃を放つと、絶え間なく唸り声を上げていた魔物の動きがピタリと止まった。直後、頭部がズルリと滑り落ちる。

 切断された首からは血が溢れ、程なくして巨体は崩れ落ち完全に動きを止めた。動かなくなった魔物を見下ろしながらオーレンとアニカに想いを馳せる。


 ボクがしてあげられるのはここまでだ。元気で。あの2人にはまた冒険してもらいたい。心からそう願った。




 生まれつき身体が小さくて痩せっぽちなボクは、獣人の特徴である頑強さや屈強な力を持たない。いくら鍛えても能力は伸びなくて、いつまで経っても力は獣人の中では底辺。

 そのことが原因で、幼い頃から『お前みたいな奴は獣人じゃねぇ』と他の獣人から揶揄され蔑まれてきた。

 だから…小さな頃から『自分は獣人らしくないんだ…』と、自虐的になにも誇ることなくひっそり生きてきたんだ。


 でも…アニカが言ってくれた。人間と同じで色んな獣人がいると。ボクは優しくて立派な獣人に見えると。その言葉が嬉しくて、おかしいのは自分の考え方なんだと思えた。


 心を救われた気がしたんだ。



 

「う~ん…。どうしよう?」 


 横たわるムーンリングベアの亡骸をどうするか思案する。魔物とはいえ、死体をこのまま放置するのは忍びない。食べるにしてもこの量は1人では食べきれない。となると…。


「森に還そう」


 目を閉じて詠唱する。


昇天(センシオン)


 横たわったムーンリングベアの周囲に生えている植物がグングン伸びて横たわる巨体を包み込む。やがて、肉体は地面に吸収されるように消滅して跡には短時間で驚くほど成長した草木が凛と立つ。


「よし。帰ろう」


 そういえば、アニカは魔法を使えると言ってた。また会うことがあったら魔法の話をしてみたいな。


 黙っていたけど、実際は回復薬ではなく『治癒』の魔法を使ってオーレン達を治療した。倒れている2人を発見したとき、酷い出血と傷の深さから薬だけで治療できる状態じゃなかった。直ぐに『治癒』で回復しなければ命を落としていたかもしれない。


 そんな事実を伝えず魔法を使えることを黙っていたのには一応理由がある。それは、【獣人は魔法を使えない】のが世界の常識だということ。

 歴史上、魔法を使える獣人は存在しなかったと云われてる。だから信じてはもらえないだろうと回復薬だけで治療したことにした。

『獣人が魔法を使える』と『回復薬で綺麗に傷がなくなった』のどちらを信じるかと聞かれたら、十中八九後者だとボク自身も思う。


 もし正直に伝えていれば信じてくれたかもしれない。でも、今まで助けた冒険者や旅人に信じてくれた者はいなかった。中には「嘘つきが」と罵る者さえいた。

「魔法を見せてくれ」とすら言われず、「頭のおかしい獣人の戯れ言」と呆れたような表情を浮かべられる。あんな表情は見るのはもうたくさんだ。


 そんな理由もあって、いつしか魔法を使えることを他人に隠すようになった。緊急の場合を除けば人前で魔法を詠唱することもないし、口に出すこともしない。誰にも話さなければ疑われることも自分が傷付くこともない。「魔法を使えない」という嘘を吐きたくないから言わずに黙っているだけ。

 

 けれど…なぜだろう。不思議とオーレンとアニカには伝えてもいいと思えた。きっと2人は信じてくれる。そんな気がした。


「いつかまた会えたら、噓を吐いて黙ってたことを謝らなきゃいけないな」


 在るかもわからない未来を楽しみにしながら、1人になってしまった住み家への帰路につく。




 そして、別れから3日後。


 オーレンとアニカが街で買った手土産持参で現れてボクは驚くことになる。

読んで頂きありがとうございます。

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