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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
119/706

119 サマラ、手合わせする

暇なら読んでみて下さい。


( ^-^)_旦~

 住み家の外に出て、ウォルトと更地で手合わせすることになった。


 陽も沈んであと半刻で日没といったとこかな。そよぐ風も冷たくなってきてる。張り切って屈伸したり肩を回したりと準備運動を始める。ウォルトも準備運動してるけど、やっぱり気分が乗らないっぽい。未だ半信半疑って感じだね。


「ホントに手合わせするの?」

「もちろん♪狼に二言はないよ!」

「手合わせにも色々あるけど、ボクらがやるのは…」

「闘うよね!闘っちゃうよね!」

「だよね…。わかってたけど…」


 長年の付き合いでウォルトの気持ちは読める。手合わせでなければ、私が楽しいと思うことをやってあげたい…って顔してる。昔から優しいもん。


 でも、私は手合わせをやりたいんだな。

 

「普通に手合わせするだけじゃつまらないから、狩りの時みたいに負けたら罰を受けるのはどう?」

「いいけど、どんな罰?」

「う~んとね、勝った方の言うことを1つだけ聞く!」

「わかった。それでいいよ」


 これだけは言っておこう。


「ウォルト」

「なに?」

「手は抜かないでね。わざと負けるのはなしだよ」

「ボクも負けるのは嫌だから手を抜くつもりはないけど」


 私は冒険者でもなければ獣人の男でもない。殴り合うのが不安ってとこか。「心配する必要はない」って言うより見てもらった方が早いね。


「もう準備はいい?」

「いいよ」


 向かい合ってるけどまだ距離は遠い。


 ちゃんと狼の目に変化してるかな?私が集中したり興奮したときの合図みたいで、自分ではわからない。でも、知ってるウォルトには本気具合が伝わるはず。  

 静かに息を吸って、止めると同時に間合いを一気に詰める。握りしめた右拳を顔面を目掛けて振り抜いた。


「てぇい!」

「くっ…!」


 身体を捻って躱された。すかさず跳んで離れるウォルト。


「惜しかった!」

「そうだね」


 当たったと思ったのにいい反応で躱された。ちょっと予想外。


「次いくよっ!」


 間髪入れずに間合いを詰めて、今度は目の前で跳ぶ。


「うりゃっ!」


 脚をしならせて空中で回し蹴りを繰り出すと、スッと後ろに上体を反らして躱された。やっぱり反応が凄い。


「甘いっ!てぇぃ!」


 空振った勢いそのままに、クルリと前方に回転して頭頂部めがけて踵を落とす。コレも両手を交差して受けられた。


「ぐぅぅっ…!!」


 構わず踵を押し込むとウォルトの膝が軽く折れたけど、これ以上は無駄かな。蹴った反動で後方に1回転して華麗に着地する。


「今のはマードックにも当たったことあるのに防ぐなんてやるね!」


 魔法とか関係なく強くなってる。魔法を使ってる感じじゃない。


「どうやってこんな技術を…?」

「技術?なんのこと?」

「今の蹴り技は?」

「マードックとケンカするときに、どうやったら当たるかだけ考えて適当にやってる!」


 マードックとケンカすると、そう簡単に攻撃が当たらない。あらゆる手を使って当てる必要があるから考えてる。


「よし!ウォルトに当てるなら、もっと速くってことだね!」


 さっきより素早く間合いを詰めると、ウォルトの身体がオーラみたいなモノを纏う。きっと魔法の『身体強化』だと思うけど…。


「遅いよっ!!」


 さらに速度を上げて懐に飛び込んで、拳を振りかぶった。


「しまっ…!」

「うりゃぁぁぁっ!!」

「くっ…!」


 私の右拳が鳩尾に突き刺さる寸前、掌で掴んで止められた。少しだけウォルトの腹に食い込んだけど、この程度じゃ大したダメージにならない。


「あまぁ~い!」


 懐から跳び上がって顔面に頭突きを繰り出すと、まともに顎にヒットしてウォルトの顔が跳ね上がる。


「ガァッ…!!」


 今がチャンス!…と思いながら動けない。


「おおおぉっ…!」


 めちゃくちゃ頭が痛いっ!思った以上に顎が硬かった!!両手で頭を抑えて悶絶していると、ウォルトが話しかけてきた。


「サマラ……大丈夫か?」


 首をグルグル回してる。結構効いたみたいだね。


「大丈夫…。相当痛かったけどどうにかね…」

「無茶するからだよ」

「身体が勝手に動くんだもん!しょうがないでしょ!」

「たんこぶにならなきゃいいけど」

「ウォルト。なんで攻撃してこないの?まさか手を抜いて…」

「ない。サマラの力に驚いてるだけで、そんな余裕はない」

「ならいい!私はまだまだいけるよ!」

「楽しそうだね。昔からやんちゃだったけど、こんなに好戦的だと思ってなかった」

「楽しいよ!だって羨ましかったから」

「羨ましい?」

「私の知らないところでいろんな人と力比べしててさ。話を聞いてたら凄く楽しそうだと思ったの!なんで私はいなかったんだろう?って。だから楽しいの!」


 好戦的なワケじゃない。別にウォルト以外と闘いたくないし。ただ他の皆と同じことをしてみたかっただけ。


「ボクも遠慮しちゃダメだね」

「あぁ~!やっぱり手を抜いてたんじゃん!嘘つきぃ~!」

「手は抜いてない。ボクはサマラを殴れないだけで…。だから…」

「だから?」

「殴らない代わりに違うモノを見せるよ」


 地面を蹴ったウォルトが急接近してくる。


「はやっ…!」


 懐に潜り込んで手を翳した。


『破砕』

「うわっ!!」


 派手に吹き飛んだけど、両足でしっかり着地して前を向く。


「今の…魔法の衝撃波だよねっ?!初めて見たっ!」


 初めて受けた魔法に驚きしかない!びっくりした!


「わざと後ろに跳んだのか…」

「そうだよ。かなり手加減してくれたんでしょ?」

「そうだけど、よく躱せたね」

「オーラみたいなのが掌に集まるのが見えたからね!多分魔力だろうと思って、とりあえず後ろに跳んどいた!」


 ドヤ顔を見せると、ウォルトはちょっと呆れた顔をした。


「ほんの一瞬で魔力の流れを察知して、なんとなくで後ろに跳ぶ。誰にでもできることじゃない」

「そう?」

「危機回避能力というか、戦闘のセンスが桁違いだ。サマラの強さには驚かされっぱなしだよ」

「そうかなぁ!」


 褒められて悪い気はしないね!


「偉そうに言えないけど、ボクは理論的に闘う。考えを巡らせて最適解を選んで実行する。賭けになる戦法も最もいい案を採用しているだけ。でも、サマラは本能で闘うタイプじゃないかな。能力の高さと戦闘のセンスがずば抜けてて、それだけで強さを発揮できる」


 なに言ってるのかよくわからないけど、褒めてくれてるっぽい。


「よ~し!魔法も見せてもらったし、私もウォルトに見せようかな♪」

「見せるって、なにを?」

「ふっふっふ…!ゴリラ獣人もどきを何度も気絶させた私の技を見るがいい!!」

「マードックを何度も気絶させた?!」


 驚いてるね。この技は…想像力が重要…。あの時の記憶を呼び覚ます…。


 …よぉし!思い出した!私はだらしなく笑う。


「なっ…!?」


 一瞬でウォルトに懐に飛び込んで、死角からアッパーを繰り出す。


「おりゃぁっ!!」

「ガッ…!!」


 躱さなかったウォルトの身体が宙に浮いて、ゆっくり仰向けに倒れた。



 ★



「う、う…ん…」

「気が付いた?大丈夫?」


 声に反応してゆっくり瞼を開いたウォルトと目が合う。


「ご、ごめん!すぐ起きるからっ!」


 直ぐに膝枕をされていることに気付いたウォルトは、急いで起き上がろうとする。そうはさせない。胸を押さえつける。


「ぐふっ…!ちょっ…サマラ?!」

「顎を殴られたんだからもう少し寝てて♪殴った本人が言うことじゃないけどね!」


 簡単には起き上がらせない。体勢も私が有利で、そう易々とはねのけられないよ。

 しばらく抵抗してたけど、諦めたのかウォルトは力を抜いて身体を預けてくれる。ちょっと恥ずかしいけど嫌がってはいないよね?


「ボクは気を失ってたのか…。顎に食らった直後から記憶がないんだ」

「でも10分くらいだよ」

「最後の拳はまったく見えなかった。悔しいけど完敗だよ。マードックを気絶させるだけのことはある」

「私を殴れないウォルトには負けられないよ!さっきのがマードックを何度も床に沈めた秘技『兄殺し』ね!」

「兄殺しって…。名前が物騒すぎる」

「簡単に言うとタダのアッパーだけど!」

「だよね」

「ノリが悪いなぁ!」


 ウォルトが私に会いに来てくれた時を思い出すと、嬉しくて自分でもよくわからない力を発揮できる。マードックとケンカになってもほぼ確実に倒せる必殺技。


 ウォルトはスンと鼻を鳴らす。


「ごめん。起きるよ」

「まだダメだよ。言ったばかりでしょ」

「魔物が近づいてる。サマラの嫌いな奴だ」

「えっ!?」


 起き上がったウォルトが暗くなった周囲を見渡すと、ズルッ…ズルッ…となにかを引きずるような音が聞こえる。


 ウォルトの視線の先から姿を現したのは、大蛇のような魔物。


「き、気持ち悪いぃぃ~!!なにアレ!?」


 小さな頃から蛇が大の苦手で、全身の毛が逆立つ。


「バジリスクっていう魔物だ。強力な牙と毒を持ってて、巨大な口で人をひと呑みにする。基本的にダンジョンや洞窟に住み着いていて、森で出遭うのは珍しい」


 体長は軽く私の倍はある。胴回りも大木のよう。


「ボクに任せて」

「お願いっ!!」


 サッとウォルトの後ろに隠れる。


「ははっ」

「なにがおかしいの?」

「ごめん。懐かしいと思って。蛇嫌いは変わってないね」

「だって、めっちゃ気持ち悪いじゃん!」

「見ないようにしてて。すぐに倒すから」


 そんなこと言われても、怖いもの見たさで覗いてしまう。

 シュルルル…と舌を鳴らしながら間合いを詰めてくる魔物に対して、ウォルトは構えすらとらない。


「だ、大丈夫?」

「大丈夫だよ」


 魔物の射程距離に入ったところで右手を翳した。


「シャァァァァ!!」

細斬(スライ)』 


 ウォルトが呟くと光の壁が出現して魔物に向かって飛ぶ。巨大な身体をすり抜けて、塵となって霧散し魔物の動きがピタリと止まった。


「どうなるの…?」

「終わりだよ」

「終わり…?」


 直ぐに魔物の肉が崩れ始めた。細かく賽の目に切り刻まれて地面に落ちる。なにコレ…。


「バジリスクは、血肉も毒を含んでいるから魔法で燃やして煙を吸っても危険だ。返り血を浴びるのも危ない。だから魔法で細切れにした」

「そ、そうなんだ…」


 人だったらひとたまりもないよね…。


「匂いが獣や魔物を呼び寄せて、毒が地面を汚染するから亡骸は魔法で天に帰すよ」


 ウォルトが魔物に近付いて手を翳すと、死体は跡形もなく消え失せて草が生えてきた。


「よし。終わったよ」

「魔法って凄いんだね…」

「このくらいは魔法使いなら誰でもできるんだ」

「そう…かな…?マードックの言ってた意味が少し理解できた…」


 息をするように魔法を操って、何事もなかったように闘いを終わらせた。魔法に詳しくないけど多分普通じゃない。

 しかもウォルトの魔法のほんの一部。そんな気がする。よくわからないけど、見てるだけで凄い魔法使いだと感じる不思議。


「アイツがなにか言ってた?」

「なんでもないよ」

「そっか。そろそろ家に戻ろう」

「う、うん…」

「蛇っぽい魔物を見て気分が悪くなったろう?お茶でも飲んでゆっくりしよう」

「そうだね」


 考えても無駄だね。これからちょっとずつ見せてもらって知るしかない。


 今日のところは私の勝ち。それだけでいいかな!

読んで頂きありがとうございます。

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