118 サマラ、質問する
暇なら読んでみて下さい。
( ^-^)_旦~
またもや美味な夕食に舌鼓を打って、食べ過ぎてしまった私はぐったりしていた。
もはやウォルトの料理は私の身を削る凶器だ!どうせ狼の獣人として肉の魅力には抗えないし、美味しい料理はどうやっても美味しい。私が獲物を狩ったことでより充実した料理になったらしく、見事に還元されてしまった。否応なしに胃袋を掴まれてしまったけど、負けず嫌いにも火が着いたよ~。
後片付けを終えたウォルトは優雅にお茶をすすっている。相変わらず『やっぱり、お茶はうミャい!』とか言いそうな表情で。
やっとお腹が落ち着いてきて、花茶を飲みながら一番気になってることを確認する。
「ねぇ、ウォルト」
「ん?」
「私に会いに来てくれた時、マードックと勝負したんでしょ?」
「したよ。勝負というより賭けかな」
『負けたらサマラに会いに行く』という賭けに勝ったのに、ウォルトは会いに来てくれた。もの凄く嬉しかった…けど、ひとまずそれは置いといて…。
「マードックが、ウォルトは強かったって褒めてたの」
ホントは『負けた』とハッキリ言ってたけど、本人には聞かれたくないだろうからあえて伝えない。たまには兄に優しくしないとね。
「アイツに言われてもね」
困ったように笑ってる。お世辞だと思ってるのかな?でも、強さに関して口が裂けてもお世辞を言わないのがマードック。
「それでね、ウォルトがどうやって強くなれたのか知りたくて」
昔は弱かったと言ってるようなものだけど、私は知ってる事実だし見当がつかない。離れていた5年の間になにがあったのか?マードックはなぜ『俺より遥かに強ぇ』『フィガロのような獣人になるかもしれねぇ』と言っているのか?
ウォルトは首を傾げてる。
「どうやって…。う~ん…。あの時は『身体強化』でなんとかならないか頑張ったけど」
え…?
「結局アイツには通用しなくて…」
「ちょっと待った!!」
手を突き出してウォルトを制する。
「どうしたの?」
「聞き捨てならない単語が聞こえたけど…。『身体強化』…?私の聞き間違い?」
「合ってるよ。『身体強化』を使ってマードックと闘ったんだ」
「『身体強化』って……魔法だよね?」
冒険者の妹としてそのくらいは知ってる。ウォルトはなにを言ってるの…?
「そうだよ。ボクは魔法が使えるんだけど………もしかして知らなかった…?」
「嘘でしょ?!」
目を見開いて驚く。信じられない気持ちはあるけど、下らない嘘を吐かないのは知ってる。だから…本当なんだ。
「知らなかった…。マードックはそんなこと一言も…」
「てっきりマードックが教えてると思ってたよ」
「じゃあ、ウォルトは魔法を使ってマードックと闘ったの?」
「そうだよ。それでもアイツの頑丈な身体にボクの力は通用しなかった」
疑ってるワケじゃないけど、見せてもらった方が早いね。
「ウォルトの魔法を見せてもらってもいい?」
「いいよ」
ウォルトの指先に小さな火が灯って、変幻自在に大きさが変わる。
「すご…」
「獣人が魔法を使うなんて普通信じない。特に獣人は。ボクもそう思ってた」
前代未聞だと思う…。長い歴史の中で、そんな獣人は1人もいなかったって云われてるんだから。でも、世界の獣人全員に確認してないだろうし、記録に残されてないだけかもね!そういうことだ!
「なるほどね~。かなり驚いたけど納得!」
「なにが?」
「ウォルトなら魔法を使えるかもって思った。昔から頭もいいし、きっと魔法を覚えるのもウォルトだからできたんだよ!」
「大袈裟だよ。ボクは他にもいると思ってる」
「カネルラにはいないよ。獣人でそんな奴がいたら黙ってないもん」
「そうかな?いや…そうか」
「そうだよ」
獣人の男は自慢話が大好きだ。強さもそうだけど、人と違う特技を持っていたりするとすぐひけらかす。自分が他人より優れていると思ったら黙ってられない。逆に、人の自慢話を聞くときは本当につまらなそうな顔をする。それが獣人。
「獣人の男って『俺は強い』『酒も強い』『夜も強い』とか、強いしか言わないもん。他に言うことないんだよね、バカだから。そんな奴らが魔法を使えたら黙ってるワケない!そう思うでしょ?」
「まぁ、そうだね」
とにかく強さに拘る。強さが正義。それが獣人の性質。私に言わせるとアホらしい。
「魔法は自分で覚えたの?」
「師匠がいるんだ。この住み家の持ち主なんだけど」
「その人、今は?」
「出て行ったっきり帰って来ない。いわゆる行方不明だね」
「心配だね。大丈夫なの?」
「大丈夫だよ。そう簡単に死んだりする人じゃない」
「そっか。師匠が帰ってくるのをこの家で待ってるの?」
「それもあるけど好きで管理してる。むしろ帰ってきたら『さっさとどっか行け!バカ猫!』って言われるだろうね。あと、この森の空気がいいから住んでる」
「確かにね。フクーベと違って気持ちいいよ。ホントに……ね……」
急に言葉が上手く紡げなくなった…。
「どうしたの?」
「5年も会ってなかったから…こうして普通に会話して…その間のことを聞けるのが嬉しくて……」
本当は…ウォルトは街が嫌いでココにいるってことを思い出したのもある…。
「話せることはなんでも答えるよ」
「話せないようなことがあるの…?」
「師匠のことは話せないけど、それ以外はないかな」
「師匠のことって?」
「ボクの師匠はちょっと変わってて、名前とか素性を知られるのを嫌がるんだ。だから答えられない。ボクも詳しいことは知らないんだけど」
へぇ~。変わった人だなぁ。
「まるで犯罪者みたいだね。私はウォルトのことしか興味がないよ」
「だったらなんでも答えられる」
「魔法を覚えたきっかけってなに?」
「死ぬタメにこの森に来て、死にきれずに師匠に助けてもらった。一緒に暮らして師匠の魔法を見てる内に自分もやってみたいと思えて、教えてもらったんだ」
「へぇ~。じゃあ、魔法の師匠だけじゃなくて命の恩人でもあるんだ」
「師匠曰く『助けるつもりはなかった』らしいけどね」
「魔法を使えるようになって強くなったの?」
「強くなってないよ。身体は鍛えてるけど力が弱いのは昔と変わらないし、魔法も少し使えるだけだしね」
ウォルトの言葉は自己評価の低さから来てる。昔から変わってないはず。
「話は変わるけど、ウォルトの師匠っていつ頃からいないの?」
「いなくなってもう3年経ったよ」
「それからはずっと1人でココに?」
「そうだよ」
「寂しくなかった?」
「大丈夫だったね。けど…」
少し困ったような表情を見せたあと、ウォルトが俯く。
「けどなに?」
「サマラには…何度か会いたいと思った…」
顔を隠してるのに、ピョコっと立っている耳が真っ赤だ。顔隠して耳隠さず。でも、告白してもないのになんでそんなに照れてるの?!
実は顔が赤いのは私も同じ。むしろウォルトが俯いてくれてよかった。俯いたままでウォルトが続ける。
「ボクは…フクーベにいい思い出がない。でも、なにも言わずに街を出て行ってごめん…。それだけは謝りたかった」
絞り出すように呟いた。
「ウォルト……顔上げて?」
言われた通りにウォルトが顔を上げて…いきなりビンタしてやった。驚いて声が出てない。
「コレで許すよ!でも、また同じことをしたら絶対許さないからね!わかった!?」
笑顔なのに瞳からは涙が溢れた。
「ありがとう…。今度はいなくなる前にちゃんと伝える」
「いなくなるなって言ってるの!バカウォルト!」
ビンタの衝撃でズレたモノクルをかけ直してる。
「追い出されない限りいなくならないし、いなくなるときは必ず教える。それでどうかな?」
「まぁいいや。今はそれで妥協しとく」
納得してないけど、教えてくれるならいい。
「この5年間で恋人とかいなかったの?」
「いないよ。ここに来たのは商人か迷った冒険者やくらい。あとマードックか」
お茶をすすりながら『ニャに言ってんだか』とか言いそうな顔してる。だったらよし!
その後も互いの空白を埋めるように話をした。ウォルトはアニカ達のことやチャチャ、ペニーのことも教えてくれた。
「知り合いが増えてよかったね♪」
「正直嬉しい。いい友達ばかりなんだ」
友人の話を聞いていて1つ思いついた。きっとウォルトは予想できないはず!
「ねぇ、ウォルト。私とも闘ってよ」
「えっ!?なんで?」
ふふふっ!手合わせの申し入れをしてやった!
「話を聞く限りじゃ、友達は手合わせしてるよね?私はダメなの?」
「ダメじゃないけど…。サマラと手合わせか…」
「ウォルトの魔法も見たいし♪ウォルトが、どれくらい強いかの確認もね!」
「それっているかな?いらないんじゃ…」
「私にとっては重要なの!音沙汰なしだった罰として拒否権はなし!食後の運動を兼ねて、いいでしょ?」
「う~ん…。いいのかなぁ?」
ウォルトとケンカした記憶はないけど、小さな頃にふざけておもいっきりぶん投げたことはある。背中を打ってすごく痛そうにしてたっけ。それ以来かな?
「よ~し!そうと決まれば外に行くよ!」
「今から?!結構、暗くなってるよ?」
「お互い夜目も効くし、思い立ったがナントカって言うよね♪早く行くよ!」
「…わかった。やろうか」
軽快にスキップで出ていく私と、明らかに乗り気じゃないウォルト。
楽しみだなぁ~!
読んで頂きありがとうございます。