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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
117/705

117 サマラ、狩りをする

暇なら読んでみて下さい。


( ^-^)_旦~

 ウォルトが台所で後片付けをしていると、サマラの声が聞こえてきた。


「ウォルト~!食べ過ぎてすぐに動けそうにないんだけど~!眠くなってきたぁ~!」

「それは仕方ないよ。かなりの量を食べてくれたから」

「美味しかったからね~!」


 このくらいの声量で聞こえるなんて相変わらず耳がいいな。


「寝てていいよ」

「私は寝ない!お茶を飲んどく!」



 洗い物を終えて居間に戻ったら、案の定サマラは座ったままテーブルに突っ伏して眠ってた。寝顔を見て微笑む。

 朝早くからフクーベを出て、森まで会いに来てくれた。貴重な休みを使ってまで。その気持ちが純粋に嬉しい。

 王都の帰りにフクーベに寄ったときは会うことができかったけど、サマラはすぐに帰ったことにも気付いていたはず。昔から言動を言い当てられることが多くて、その度に驚かされた。幼いながらサマラには敵わないと思った。


 ボクは、小さな頃から人の心の機微に疎い。人と付き合えなかったから仕方ない部分もあるけど、よかれと思ってやったことが「全然わかってない」と言われるのも日常茶飯事だった。そんなボクでもわかることがある。


「サマラ。ココで寝ちゃダメだよ。ベッドに行く?」


 優しく肩を揺すりながら声をかけると顔を上げて立ち上がった。


「寝てないしっ…!いや…ごめん…。起こしてくれてありがと!このまま寝てたら後悔してたよ!ふぁぁ~っ!」


 サマラの行動はある程度予想できる。このまま眠らせておいたら絶対に後で怒られた。「せっかく来たのに寝ちゃうなんて時間がもったいないでしょ!」と悔やんでいたはず。


 ボクにとって、家族以外で唯一行動を予測できるのがサマラだ。



 ★



 寝ぼけ眼でウォルトに訊く。


「元々なにかする予定があったの?」

「昼からは狩りに行こうと思ってた。狩れたら夕食のおかずにしようと思って」

「狩り!いいね!上手くなった?」

「昔よりは上達したと思う」

「じゃあ一緒に行こうよ!久しぶりに私も狩りたい!眠気覚ましと食後の運動にちょうどいいし♪」

「いいよ。ボクの弓しかないけど大丈夫?」

「問題なし!よ~し!気合入った!」


 目覚ましに両頬をペシペシ叩く。狩りは久しぶりだ!道具はウォルトが準備してくれた。


「じゃあ出発するよ。準備はいい?」

「いつでもいいよ!」


 いつも使ってる狩り場に連れて行ってくれるみたい。駆ければ10分くらいで到着するらしいからお願いした。

 弓を背負って互いに目で合図すると、示し合わせたように同時に駆け出す。木々の間をすり抜けながら並走する。普段は仕事が忙しくて身体を動かせてないけど、動かすのは大好きだ。


「気持ちいいね~!空気も美味しい!」


 久しぶりだけど駆けるのは気持ちいい!獣人の本能かもしれない。


「森を駆けると身体が喜んでるような気がするんだ」


 私の意見にウォルトも同意みたい。


「だよね!もっと速く行こう!」

「いいよ」


 一気に加速するとウォルトもスピードを上げた。



 ★

 


 狩り場に到着したボクとサマラは息を殺して森に潜む。近くにはカーシの姿。弓の射程距離まではあと少し。


 小声でサマラが提案してくる。

 

「ねぇ、ウォルト…。勝負しない…?」

「なんの…?」

「どっちが多く狩れるか…」

「いいよ…」


 交互に狩りをして、どちらが多く狩れるか勝負することに決まった。


「恨みっこなしだよ…!負けないからね…!」

「もちろん。ボクも負けるつもりはない」


 ボクが先攻。弓を構えてカーシに狙いを定める。引き絞った弦を離すと矢は一直線に…飛ばず、あっという間に逃走された。チャチャに教わってるけどなかなか上手くいかないなぁ…。


「昔よりは上手くなってるね。次は私の番だよ!ふっふっふ…!」


 射手交替。不敵な笑みを浮かべたサマラは、草むらに身を隠すと大きな瞳が狼の目に変化する。

 一点に視線を固定してピクリとも動かない。息づかいもボクが辛うじて聞き取れるくらいまで小さくなる。


 久しぶりに見たけど気配を消すのが上手い。狩りを教えてくれる時のチャチャも同様に気配を消してる。邪魔をしないよう息を殺す。

 微かに獣の匂いを捉えたけど、まだ姿は見えない。風上を警戒しているとサマラはゆっくり中腰になって弓を横向きに構える。


 まだ見えてないけど……まさか…。


 サマラは流れるような動作で矢を射た。矢が風を切る音だけが響き獣の鳴き声が上がる。


「ギャッ!」


 無表情のまま立ち上がったサマラ。


「見にいってみよう!」


 草をかき分けながら進むと、首を撃ち抜かれたカーシが倒れていた。見事に射貫いてる。


「やったね♪上手く当たってくれた!」 

「すごいな…。この距離で命中させたのか…」


 軽くボクの射程の倍はある。しかも、まだ姿を捉えきれてなかった。サマラには見えていたのか。

 サマラは昔から狩りが上手い。それこそマードックよりも。故郷の同世代の獣人では一番得意だったかもしれない。最近は狩りをしてない口振りなのに、腕が落ちていないどころか、むしろ上がっているように感じる。


「言ったでしょ?すごく集中したら、獲物までの『線』みたいなのが見えるって!その線に矢の軌道を乗せるだけ!」

「見えたら苦労しないよ…」

「ホントだよ?」


 サマラは理屈じゃなく感覚で狩りをするので、コツを教えてもらってもボクにはさっぱり理解できなかった。唯一教えてくれる友達が天才型だったら凡人に理解できっこない。サマラの言う線は他の人にも見えるのかな?チャチャの意見を訊いてみたい。


「次はウォルトの番だよ。頑張って♪」


 勝ち誇ったようにドヤッ!と笑う。その姿は小悪魔的。一瞬負けても仕方ないと思いそうになったけど、勝負するからには負けたくない。


「ボクも負けられない」

「その意気やよし!」


 


 狩りの勝負を終えて帰路につく。


「楽しかったねぇ~!久々よ狩りだったけど腕は鈍ってなかった♪」

「上手すぎるよ」


 足取りは対照的で、サマラは軽快ボクは鈍重。それもそのはず、勝負はサマラの圧勝に終わった。互いに3回ずつ狩りをして、ボクは惜しいときもあったけど、最終的に収穫はゼロ。対するサマラは全てを華麗に仕留めた。ぐうの音も出ない敗戦。


 日が暮れてきたので帰ることにした。負けた罰として、収穫した獲物はボクが担いで運ぶことに。カーシとウ・サギ、それとターキー鳥を仕留めたので晩ご飯は豪華な食卓になる。


 獲物を担いで歩きながら、しばし回想する。サマラは昔からなんでもそつなくこなす。狩りもそうだけど、身体能力も高くて勘も鋭い。サマラの能力を羨ましいと思ったのは一度や二度じゃない。妬み嫉みはないけれど、ただ羨ましかったことを覚えてる。

 なんでも出来るサマラとなに1つ上手くできない自分では、釣り合わないと思っていたことも。



「…ねぇ。…ねぇってば! ウォルト!」

「あ、うん。なに?」


 気付けば名を呼ばれていた。


「なにボーッとしてるの?もうすぐ住み家に着くよ」

「あれ?もうそんなに近く?」

「疲れてるんじゃないの?晩ご飯は私が作ろうか?」

「それはできない相談だ。サマラに手料理を食べてもらう機会なんてそうそうないから、ボクは気合が入ってる」


 満面の笑みで断る。


「サマラに料理を食べてもらえるのが嬉しいんだ」

「そうなの?」

「覚えてるかな?小さい頃、他の獣人と同じことができなかったボクにサマラが言った。「他の獣人には出来ないことをやればいいんだよ!」って。それから料理や勉強を楽しんでやるようになった」

「ごめん。覚えてない」


 昔から裏表がない。なにも考えず本音を言ってる証拠だ。


「何度かボクの料理を食べたとき「美味しい」って褒めてくれて、「まだまだ上手くなるはず!」って激励もしてくれた」

「まったく覚えてない」

「他の理由もあるけど、嬉しかったから今でも料理をしてるのかもしれない。サマラのおかげなんだ。だから、今回も褒めてもらえるように気合が入ってる」


 オーレン達に作るときも一切手は抜いてない。でも、サマラに作るとなるとさらに気合いが入る。


「楽しみだよ!私を唸らせる料理を作れるかなぁ~?」

「どうかな?そのつもりだけどね」

 

 会話していると住み家に到着した。


「ただいま!じゃあ、ウォルトの実力を見せてもらおう!」

「今日は肉もふんだんに使えて料理の幅が広がるなぁ。楽しみだ」


  

 ★



 住み家に帰って1時間後。


 狩りでは完全勝利を飾ったサマラだったが、夕食では完全敗北を喫して、満足げなウォルトの笑顔に少しだけイラッとすることになった。

読んで頂きありがとうございます。

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