表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
モフモフの魔導師  作者: 鶴源
116/705

116 サマラ、驚愕する

暇なら読んでみて下さい。


( ^-^)_旦~

 直ぐにウォルトがリュックを運んできてくれた。


「ありがと!」

「ごゆっくり」


 笑顔を見せて部屋を出ていく。


 パタンとドアが閉まるのを確認してからシュタッと移動する。目の前には客人用の箪笥。なぜか無性に気になったんだよね。


 お客さん用の部屋なのに箪笥って…なんか違和感があるなぁ。普通いらないよね?ウォルトに訊けば直ぐに答えてくれるし話は早いんだけど、訊いてしまうと中を見ることはない。

『〇〇が入ってるよ』→『へぇ~。そうなんだ』という会話であっさり終わるのが目に見えてる。今回はあえて訊かずにこっそり確認してみよう。開けちゃダメなら事前に言われるはず。


 色々と考えを巡らせながら、引き出しにそっと指をかける。


 ドキドキする…。女性物の服とか下着が入ってたらどうしよう…?この先平常心じゃいられなくなるけど…。あり得ないと思うけど、ウォルトは嘘を吐くのが下手なのであって、訊かれなければ嘘を吐く必要も無い。

 

 実は悪気なく黙っているだけって可能性もなくは…………いや、ないね。


 よっしゃ!と勢いよく引き出しを開けた。


 うん…?綺麗に畳まれた衣服が収納されてる。見た感じは泊まり客用の部屋着や寝間着といったとこかな?特に変わったところは見当たらない。わかってはいたけど拍子抜けしてしまった。

 1段目、2段目と続けて確認してみたけど変わりない。そんな中で、ふと目に留まったのが何枚か重ねられている貫頭衣。


 手に取って広げてみると結構サイズが小さい。手に持ったまま上半身の前に合わせて確認してみると、私が着るには明らかに小さい。アニマーレで選んだアニカの服のサイズに近いね。


 貫頭衣は体格がよくて尻尾がある獣人にとっては簡単に着れる服で好まれる。涼しくてなおかつ動きやすい最適な部屋着。デザインされたオシャレな貫頭衣を普段着にしている獣人も多い。シンプル過ぎて人間には人気がない服なんだけど…。


 ウォルトをドキドキさせたいと言ってたアニカかコレを着るかな?それに、なんでこんなに枚数が多いの?当然、アニカが着ると決まったワケじゃないけど…。


 貫頭衣を片手にしばらく顎に手を当てて思案する。………閃いた!


 様々な可能性から推測して、私が導きだした結論は果たして正解なのか?ウォルトに訊いてみよう!

 


 ドアを開けて居間に向かう。ウォルトは椅子に座って『うみゃ~!』って顔でお茶を飲んでた。


「ねぇ、ウォルト。箪笥にあった貫頭衣を着たかったんだけど、全部私には小さくて。大きいサイズはない?」

「ボクのでよければあるけど…サマラには大きいと思うよ…」


 どことなく歯切れの悪い発言だね…。気になるので続けて訊く。


「この貫頭衣ってウォルトの部屋着を仕立て直したの?」

「そうだよ。人間の友達用に仕立て直したんだ」

「ウォルトは大きいもんね。人間には合わないか」

「その友達は女の子だからね。小さいんだ」


 やっぱりアニカ用なんだ。


「そっかぁ。なんで同じモノが何枚もあるの?」

「…ちょっと言いにくい理由なんだけど」


 ウォルトの苦笑いを目にして疑惑が確信に変わる。私の予想では、アニカはウォルトの部屋着を見て自分もお揃いを着てみたくなった。その後、ウォルトにお願いして仕立て直してもらったってとこかな。

『私は人間だけど、獣人の服装にも理解がある』というアピールになる。ウォルトも「若い女の子に頼まれて仕立てた」とは言いにくいはず。


 なかなかやるねぇ~!いい作戦!ただ、何枚もあるのは…それだけ泊まるつもりだったのかな?その辺の理由がわからないから、とりあえず話を聞こう。


「その子がどしゃ降りの雨の中、訪ねてきたんだ」


 ウォルトが話し始めた。答え合わせができそう。


「ずぶ濡れだったから、ボクの貫頭衣を貸してあげたんだけど」

「ふんふん」(ウォルトは優しいからね♪)

「そしたら、ボクの考えが足りなくて、見てられないような格好になっちゃって…」

「う…ん?」(見てられないような…?)

「今後はそうならないように、あり合わせの布で服を作ってあげたんだけど」

「ほう…」(さすが、優しい!)

「なぜか同じことが繰り返されちゃって」

「んん~?」(おかしな話だね…)

「だから、ボクが着る貫頭衣を除いてその子が着ても大丈夫なように、全部を仕立て直したんだよ」

「なるほど~」(全っ然、予想と違った…)


 見てられないような姿…ねぇ。目を閉じてウォルトの貫頭衣を着たアニカの姿を想像してみる。普段の仕事で慣れているのもあるけど、実際にアニカの服を見立てているから鮮明にイメージできた。

 

 …おぉぅ!!なかなか破廉恥な…。ただの想像なのに思わず軽く赤面してしまう。


 アニカは、顔つきは幼いけど中々のわがままボディーの持ち主なのは既に認知済み。ギャップも相まってかなりの破壊力を秘めていたことは容易に想像できる。

 ずぶ濡れになっていたということは、貫頭衣と下着しか着ていなかったはず。大きく空いた胸元と生足。照れ屋のウォルトにはかなりの衝撃だった。


 歯切れの悪い反応も頷ける。私が着て同じ状況になるのを阻止したいんだ。ウォルトらしい。


 アニカ…………恐ろしい()っ!!


 思わず白目になる。私が想像した通りの姿だとしたら、相手が普通の獣人だった場合、貞操の危機すらあり得る。

 それをやってのけるなんてまさに豪胆と言わざるをえない。まぁ、相手がウォルトだからできたんだろうけど。


 しかも、繰り返されたところが重要。最初はウォルトが失敗だったと認めているから、想定外のハプニングだった可能性が高い。 

 でも、わざわざ用意した服があるにもかかわらず2回目が起きてしまったということは、アニカによる意図的な破廉恥行為。


 きっとアニカは、貴重なウォルトの照れた表情を見て味をしめたに違いない。正直……気持ちがわかりすぎてツラい!!


「サマラ…?顔が赤いけど大丈夫?」


 ウォルトの声で我に返る。頭を振って脳内のアニカの残像を消した。


「大丈夫だよ!ちょっと暑いかも!」

「ならいいけど。自家製だけど、薬も出せるから辛かったらいつでも言ってくれ」

「ありがと!」


 まさか、あられもないアニカの姿を想像していたとは言えず適当に誤魔化す。このままウォルトの頭の中に映像を移せたら面白いのに。


「暑いなら貫頭衣を着たいよね」

「大丈夫だよ。でも、次に来たときには着れるように私の貫頭衣も仕立ててくれると嬉しいな!」

「いいよ。ありあわせの布になってもいい?」

「もちろん♪楽しみにしとく」



 その後、住み家の外にある畑を観察したりウォルトが埋葬したという冒険者の墓標に祈りを捧げたりしながら、ゆったりとした時間を過ごす。

 

「そろそろ昼ご飯にしようか」

「お腹空いた!」


 住み家に入ると私は居間で待機してウォルトは台所に向かう。早速、調理を開始したみたいで軽快な包丁の音が響く。


 私はテーブルに両肘をついて、顎を載せるように両手を組み真剣な顔で思案する。


 ウォルトの料理を食べるの…ちょっと怖い。花茶を飲んだときに思ったけど、ウォルトはかなり料理の腕を上げてる。

 昔は私の方が料理は上手かったんだけど、台所から聞こえてくる音で、かなり調理が上手いってわかる。

 今でも料理は好きで毎日するけど、ウォルトはあの『料理の鉄人』『フクーベ1の料理バカ』の異名を持つビスコさんと友達で、料理を披露しあうって言ってた。あの店の料理はどれも美味しくて、レシピを知りたいと思うくらいだし実際に真似て作ったりもしてる。

 さすがにビスコさんレベルじゃないと思うけど、今後『番になるための修行』に関わってくるので、驚かせるなら程々にしてもらいたいんだよね…。



 いい匂いを漂わせて料理が運ばれてきた。ウォルトは満面の笑みを浮かべてる。相変わらずもてなすのが大好きってこと。

 運ばれてきたのは、野菜と肉をふんだんに使ったスープ料理。見たこともない料理だけど、彩り鮮やかに大きく切られた具が入ってる。使われている香辛料の香りと相まって、食欲をそそるなぁ。凄く美味しそう。


「どうぞ。召し上がれ」

「いただきます!」


 食材とウォルトに感謝して掬ったスープを口に運ぶと、ゆっくり味わってコクリと飲み込んだ。

 ふぅ…と小さく息を吐いて、そっとスプーンを置く。ウォルトに優しく微笑みかけるながら心の中で叫ぶ。



 ウォルトのバカ~!アホ~!


 信じらんないっ!!なにコレっ!?これより美味しい料理を作るなんて無理なんですけどぉ~!?誰かぁ~!!たすけてぇ~!



 心の中で絶叫しながらも華麗に微笑んだままピクリとも動かない。いや、動けない。

 私は悲痛な叫びを微塵も感じさせない微笑みを湛えているはず!今の私にはこれしかできない!


 ウォルトは『口に合わなかったのかニャ?』とか言いそうな顔。


「ちょっと待った!凄く美味しいから!心配ないよ!!」


 手で制する。そして、つい睨んでしまう。


「そ、そう?よかったよ。沢山あるから遠慮せずに食べて」

「ほう…。ウォルトは私に美味死(おいし)ねと…?」

「ちょっとなに言ってるかわからない」


 私は覚悟を決めた。食べ始めると匙が止められず勢いで3皿を一気に平らげる。


「ごちそうさま。凄く美味しかった♪大満足!」

「晩ご飯も腕によりをかけるよ」


 食器を下げながら、笑顔でそんなことを言う。ご機嫌な様子で台所へと向かう背中を見送って、お腹をさすりながらそっと目を閉じた。


 晩ご飯…ね…。こんなの何度も食べたら心が折れるって……。折れるってばぁ~!!


 家に帰ったらとにかく料理の腕を上げる決意をした。

読んで頂きありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ