115 サマラ、建物探訪する
暇なら読んでみて下さい。
( ^-^)_旦~
連れ立って玄関に向かうと、まず目にしたのは幾何学模様の玄関ドア。
「なかなか斬新な模様だね!ウォルトが作ったの?」
こんな入り組んだ柄の木材とか売ってる?
「騎士と騎馬の友達がいるんだけど、一緒に作ったんだ。騎馬のカリーがドアを蹴破っちゃって」
「なかなか豪快な友達だね♪」
話しながらペタペタ触ると、私の行動をウォルトは優しい笑みで見つめてる。照れるね!
「おっと、こんなことしてる場合じゃない!入ってもいい?」
「どうぞ」
「お邪魔しまぁ~す!」
誰もいないのに元気よく挨拶する。ウォルトはニャッと笑った。
「なんで笑うの~?!」
「なんかおかしくて。ゴメン」
居間に通された私は椅子にかけて待つよう言われて、ウォルトは台所に向かった。早速もてなす気だね。昔から変わってない。
初めての訪問で、落ち着かずに周りを見てしまう。色々なモノに興味津々だ。そうこうしてると台所から花の香りが漂ってくる。とても落ち着く香り。
ウォルトがお茶を淹れてきてくれた。予想通り香りの元は花茶だ。最近フクーベでも流行っててたまに飲んでる。しっかり冷えていて美味しそう。
「どうぞ。口に合うといいけど」
「うん!いただきます♪」
差し出された花茶を口に含むと、爽やかでほどよい甘さ。いい香りが鼻に抜ける。これは…店で出されてもおかしくない代物だ!
「すっごく美味しい!」
「よかった」
「もう1杯!」を2回繰り返して満足した。
「美味しい花茶を淹れるなんて凄いね!こんなの、フクーベでも出せる店は限られるよ」
「ありがとう。ビスコさんならもっと美味しいモノを出せると思うけど」
「ビスコさんって、【注文の多い料理店】の料理長でしょ?知り合いなの?」
「何度かここに来てくれてる。料理を通じて知り合ったんだ」
知り合った経緯を簡単に説明してくれる。今でもたまに遊びに来て互いに料理を披露しあってるみたい。
「ビスコさんって、料理以外に興味ない変人って言われてるけどウォルトと仲がいいなんて意外」
「あの人は凄い料理人で、驚かされてばかりだよ。…そうだ。サマラも今日はお客さんだからボクが料理するから」
「お言葉に甘えようかな!」
昔から料理好きなのは知ってる。子供なのに作ってたもんね。会わない間にどのくらい腕を上げたのか気になる。今後のタメに知っておく必要があるから。
それと、先に聞いておかなきゃ。
「今日は泊まっていこうと思ってるけど、大丈夫だよね?」
「もちろん。ゆっくりしてくれると嬉しい。なにもないけどね」
よしっ!と気合いを入れる。断られるとは思ってなかったけど、ゆっくり話す時間を確保できてホッとした。
ふと思い出す。
「あ、そうだ!マードックが近い内に来るかもって。その時はよろしく頼むってさ!」
「マードックが?なんだろう?」
「あとバッハがよろしくって!ウォルトに貰った毛艶の薬のおかげで、マードックと仲よくなれたんだよ!」
「それはよかった。バッハさんには毛皮の薬でお世話になったから、役に立ったなら嬉しい」
「私の見立てでは2人は近いうちに付き合うかも♪」
ウォルトが柔らかく微笑んだところで次の行動に移る。
「あのさ!住み家を案内してくれない?普段なにしてるか気になるんだけど!」
「いいけど、面白くないと思うよ」
「やった!お願い!」
ウォルトはまず調合室に案内してくれた。部屋を開けると独特の匂いが鼻につく。でも、不思議と嫌な感じはしない。
「この部屋は薬を作ってる調合室。自分で使ったりモノを仕入れるときの対価にしてる」
「毛艶の薬もここで作ったの?」
「そうだよ。材料があるときだけね。気になるモノがあったら持っていっていいよ」
「ホントに?!ちょっと見せてもらう!」
部屋の中を歩きながらじっくり観察する。なんに使うのかわからない器具や、見たこともない素材が綺麗に陳列されてる。
「相変わらず綺麗好きだね~」
「片付いてないと落ち着かないんだ」
部屋の中を見て回る中で、綺麗な細工を施した立方体の小箱に目が留まる。微かにいい香りが漂う。
「コレなに?」
「練り香水だよ。蓋を開けてみて」
蓋を開けると花の香りが漂う。白桃色の糊みたいな?
「触ってみていい?」
ウォルトが頷いてくれたので、小箱にそっと人さし指を差し込んで指先で掬ってみると、柔らかい石鹸のような感触。
「薄く伸ばして首元や手首に塗るといいよ」
言われた通りに薄く伸ばして塗ってみる。
「凄くいい香り!イチリンソウだよね!」
「サマラにあげたいと思って最近作ったんだ。昔イチリンソウが好きだって言ってたから」
『照れるニャ…』とか言いそうな顔してる。もの凄く可愛い。
「嬉しい!貰ってもいい?」
「もちろん。他のも見ていいよ」
「充分だよ!」
ウォルトが私のタメに作ってくれた。好きな花の香りを覚えていてくれた。充分すぎる。
「次の部屋に行こうか?」
「うん。その前に……1つ訊いていい?」
「いいよ」
「…馬みたいな匂いがする香水があるんだけど…。もしかして…馬の獣人の恋人ができたとか…?」
なんでこんなモノがあるの…?頼まれて作った可能性もあるけど人付き合いしてなさそうだし。
「違うよ。それは…」
ウォルトは、カリーとダナンについて説明してくれる。元カネルラ騎士の英霊の友人で今は王都にいること。カリーが霊体であることを獣人に気付かれないように作った香水であることを。
「なるほど~。そんなことを考え付くなんて凄いね!」
「大袈裟だよ。誰でも作れる」
そっちより亡霊と友達だってことが凄いんだよ!普通の人ならまず信じないだろうけど私は信じる!ウォルトを信用してるから。つまらない冗談はたまぁ~に言うけど、下らない嘘を吐いたりしない。
それに私はウォルトの噓を見抜ける。信じられないくらい嘘を吐くのが下手だから、直ぐにバレるけどね♪今は吐いてない。
「じゃあ、次の部屋に行ってみようか」
「うん」
ウォルトは、いつも研究や魔道具製作をしているという書斎兼作業部屋に案内してくれた。
佇まいは書斎風で落ち着いた雰囲気。壁一面の大きな本棚に小難しそうで分厚い本が並んでる。魔導書や研究資料らしい。あとは机と椅子が置かれているだけ。
小さな部屋だから、2人で入ると狭いね。
「本がたくさんある!買ったの?」
「家主のだよ」
「全部読んだの?」
「ある本は全部読んだ」
「私は苦手だから無理だなぁ~」
私に限らず獣人は字を読むのが苦手。手紙程度なら大丈夫でも、長時間読むのは苦痛でしかない。こんな難しそうな本を読んだら頭が爆発しちゃうよ!
「…あっ!なにか作ってる!」
本は興味ないけど、机に置かれた橙色の腕輪が目に入った。
「アクセサリーも作れるの!?可愛い!」
手に取って腕輪を見つめる。アニマーレでも売れそうな出来だ。
「それは魔道具だよ。製作基礎の本を手に入れたから試しに作ってみたんだ」
「魔道具?!そんなのも作れるの?!ウォルトが器用なのは昔からだけど、そこまでとは知らなかった」
知らない内に色々作れるようになってる。
「初めて作った魔道具だよ。気に入ってくれたならあげるよ」
「魔道具を私が持ってても宝の持ち腐れだよ。売ればいい値段になるんじゃない?」
よく知らないけど、魔道具っていうくらいだから魔法を使える人が使ったほうがいいでしょ。
「趣味で作ったから売る気もないし、素人だから売れないよ。アクセサリーとして使ってもらって全然問題ない。サマラに使ってもらえるなら嬉しい」
「じゃあ欲しい!」
「どうぞ」
ウォルトが左腕に着けてくれる。手を掲げると窓から差し込む陽の光で橙色の腕輪が綺麗に輝く。
「似合ってる?」
「よく似合ってるよ」
「エヘヘ…」
ウォルトが初めて作った腕輪を貰ってしまった。油断すると直ぐニヤけてしまう。短時間で宝物が増えたよ。
次に向かったのは客人用の部屋。
ドアを開けると、ベッドが2つ並べて置かれているのと衣類収納用に箪笥が置かれてる。
「この部屋を使っていいの?」
「自由に使っていいよ。寝るときも好きな方を使っていい」
「結構泊まる人いるの?」
「友達がたまに泊まるよ」
「ふ~ん。ちなみにどんな人?」
「最近ではフクーベにいる冒険者の友達が泊まりに来てくれる。幼馴染み2人の冒険者なんだ。さっき話した騎士と騎馬も泊まったり」
「へぇ~」
ウォルトの表情は嬉しそう。友人達には心から感謝したい。でも…アニカは泊まってるんだね!私も負けない!
不敵な笑みを浮かべて、ライバルへの闘志を燃やすのも忘れない。獣人は負けず嫌いだ。
「……マラ。サマラ?もう終わりだよ。他に訊きたいことある?」
ウォルトの呼びかけで我に返る。『どうかしたかニャ?』とか言いそうな顔で見つめられてた。
「ないよ!面白かった!ありがとね♪」
「じゃ、荷物を持ってくるよ」
「お願いします!」
「ちょっと待ってて」
部屋を出るウォルトを笑顔で見送って、気になる場所へと視線を移した。
読んで頂きありがとうございます。