112 悩む男
暇なら読んでみて下さい。
( ^-^)_旦~
フクーベの酒場で静かに酒を飲んでいる獣人がいる。
Aランク冒険者のマードックは、今日もクエストを達成してさっきまでパーティーメンバーと飲んでいたが、引き続き居残りで飲んでいる。
以前ウォルトと採りに行った素材を使って魔道具を作り、装備したパーティーの魔導師マルソーは格段に実力をアップさせた。
そんな効果もあってホライズンは今日も高難度クエストをこなし打ち上げを終えたばかり。
魔道具を装備したマルソーは、今やフクーベ最高の魔導師との呼び声も高い。パーティーメンバーも戦力強化を素直に喜び、このままいけばフクーベに存在しないSランクパーティーに昇格できるかとしれない…と期待を膨らませている。
順調に冒険を重ねていく中で、マードックは1つの悩みを抱えていた。
めんどくせぇ…。
『獣の楽園』に居た鳥公の羽根を渡したあと、マルソーがちょいちょい「素材をくれた魔導師に会わせろ」と言ってきやがる。
「お礼を言いたい」とか「その魔導師の魔法を見てみたい」「名前だけでも教えてくれ」と頼んでくる。
うるせぇから、「ソイツはとんでもない変人で知らない奴には会いたがらねぇ」と、あながち嘘じゃねぇ理由で誤魔化しても諦めねぇ。
さっきまで反省会っつうことでアイツらと飲んで、またマルソーが「会わせろ」と言いだしやがった。下戸だから酔わせて誤魔化せねぇ。タチが悪ぃ。
どうにかはぐらかしたと思えば、遂にシュラとハルトの奴まで「なんとかならないのか?」と言い出しやがった。
俺が悪いのはわかってる。魔導師ってのは、頭が固くてクソ細けぇ奴ばっかだ。納得するまでバカみてぇにしつけぇのを忘れてた。マルソーの勢いはアイツに会うまで止まりそうにねぇ。
黙っててくれって言われてっからな。どうすっか。
ジョッキに入った麦酒を一気飲みして息を吐いた。とりあえず、はうめぇ。そこでちっと匂った。
この匂いはエッゾか。店の入口に相変わらずバカみてぇに派手な服着た狐がいた。こっちに向かってきやがる。
「よぉ。久しぶりだな」
「あぁ」
対面の椅子に座って店員に酒を頼む。
「一番強い酒をくれ。つまみも適当に頼む」
コイツ…。機嫌がいいみてぇだな。
「いいことでもあったんか?ご機嫌じゃねぇか」
「そう見えるか?まぁその通りだ。ククッ!」
コイツの機嫌が良くなる理由なんぞ、強ぇ奴と闘ったとか女と遊んだとかそんなとこだ。別に興味はねぇ。
運ばれてきた酒を手にとって、とりあえず乾杯してやる。一気に酒を飲み干して満足そうに息を吐いた。
「ふぅ…。美味い」
いつもの機嫌がいいときと違ぇな。違和感がありやがる。気になってきたぜ。
「なにがあった?」
「なんのことだ?」
「とぼけんな。よっぽどいいことあったんだろうが。いつもと違うぜ」
「そうか。お前のおかげだ」
なに言ってんだコイツ?意味がわからねぇ。
「何日か前にウォルトと会ってな。お前の言った通りだった。思い出すと笑いが止まらん!」
酒をかっくらって変態みてぇに笑いやがる。
「ダンジョンに行ったんか?」
「たまたまダンジョンで会った。アイツは若い冒険者と来てた。オーレンとアニカってEランクだ」
「Eランク?なにやってんだ、アイツ」
「話せば長くなる。簡単に言うと人助けだ。その最中に、俺は…視たぞ」
「アイツの魔法を…か?」
「そうだ。ククッ!」
コイツは魔法が見えねぇ。だから『視た』っつうより『感じた』んだろ。
「今、俺は魔法が視えないと思ったか」
隠すこともねぇ。「あぁ」と答えとく。
「アイツには言わなかったが…俺にも視えたんだよ…。微かに特大の炎がな。生まれて初めて魔法を視た!それも『可視化』もなしで。興奮したぞ!ククッ!」
「マジかよ」
魔法を視認するだけなら『可視化』でイケるる。ただ、コイツは付与魔法もかかりにくくて試しても視えなかったはずだ。
「爽快だったぞ。『魔物部屋』の魔物を一瞬だ。アイツは…俺の予想の斜め上をいってる!」
エッゾは酒を煽る。嬉しそうだがちっとうるせぇな。
「あんなものを食らったら即死だ!お前の言う通り対人戦じゃ見れない。俺は内心震えが止まらなかった!」
息もつかず捲したてやがる。耳が痛ぇ。
「結局、俺に視えたのはその魔法だけ。多分他のは威力を抑えてたんだろうが、あれだけで充分だ。アイツは面白すぎる。お前の勘は正しい。アイツがいれば獣人だけでの高難度ダンジョンの攻略も夢じゃない」
生まれて初めての経験で興奮してんのか。まぁ、俺の予想通りだったってこった。アイツがなにしたか知らねぇけど、そもそも底が見えてねぇんだから考えてもわかるワケねぇ。
そんなこたぁどうでもいい。目の前で強ぇ酒をグイグイ飲んでいる戦闘狂に伝えるべきかちっと迷うが、コイツなら妙なことを言ってまわることはねぇだろ。
「俺もお前に1つ教えてやる」
「なんだ?」
「『獣の楽園』、知ってるな?」
「当然だ。カネルラの獣人で知らない奴はいないだろ」
「お前は何階層までいった?」
「俺は2階層だ。それ以上は帰ってこないつもりなら行けるかもな。なんだ急に?」
「だよな。俺は…5階層だぜ」
「なんだと…?」
コイツも過去の最高到達地点は知ってるはずだ。獣人で知らねぇ奴を探す方が難しいだろ。
「こないだ5階層までいった。…で、必要な素材を採って帰ってきた。ココまで言えばわかるか?」
「ウォルトと一緒に行ったんだな」
「あぁ」
「お前がそこまで到達して先に進まず黙って帰るはずがない。いや、帰れる獣人などいない。普通なら死にかけていても先に進む」
「だろうな」
「単独ではどう足掻いても3階層が限界だろう。ならば誰かと一緒に攻略したはず。可能性があるのはウォルト以外考えられない」
「当たりだ。アイツに頼んで魔法で援護してもらった。魔力が切れたってことで素材を採って帰ってきた。けど真っ赤な嘘だぜ」
「まさか…記録を塗り替えないようにか?」
「多分な。どこまでいけたかわからねぇが、記録超えは間違いなかった。5階層の魔物はぶっ殺してたかんな。あと、このことは誰にも言うな。アイツに釘刺されてる」
「いいだろう。ところで、なぜ面白そうなことをやるとき俺を誘わない」
真顔でふざけたこと言いやがる。呆れちまうぜ。
「お前はほとんどフクーベにいねぇだろうが。いつ帰ってくるかわからねぇ奴を連れていけっかよ」
「ぐっ…!それはそうだが…そんな面白そうなこと……くそっ!」
愉快そうに笑ってたのに、今度は悔しそうにしてやがる。面倒くせぇけど俺がコイツと同じ立場なら…そう思うか。
「そんだけ言うなら次は誘ってやる。ただし、いつになるかわかんねぇぞ」
「構わん。いなければその時は置いていけ。…で、お前は『獣の楽園』でなにを採ってきたんだ?」
「魔道具の材料だ。でけぇ鳥の羽根だ」
「ほう。詳しく教えろ」
魔力を増幅する道具を作るってことでマルソーに渡したことを教えてやる。
「なるほどな。それでマルソーがウォルトに会いたがってる…か。ククッ!」
マルソーがウォルトに会いたがってることも教えてやった。エッゾもマルソーは知ってる。魔導師としての力もだ。
「こっちは笑いごっちゃねぇんだよ」
「話を聞く限りお前が悪い。責任とってウォルトに会わせてやれ」
「人の話聞いてんのか?アイツに口止めされてんだよ」
「関係ない。適当な言い訳して会わせてやれ」
「関係ねぇだと?」
エッゾはニヤリと笑う。
「マルソーが魔道具でどのくらい能力が伸びるか知らんが、それでもアイツに届かないんだろう?だから会わせたくない。違うか?」
「…ちっ!」
図星だ。コイツの言う通り魔道具を装備してもアイツに遠く及ばねぇ。会わせたとしても実力差にショックを受けちまう可能性が高ぇ。
魔導師っつうのは面倒くせぇ奴ばっかだ。屁理屈ばっかで根性もねぇ。マルソーが折れるとパーティーが立ち行かなくなっちまう。解散するつもりはねぇし、火種になるのも勘弁だ。
「ウォルトに会わせてマルソーがどう思うかなんぞ知らん。ただ、魔導師ならアイツに会って損はない。会って潰れるようなら所詮その程度ってことだ。上には行けん。魔導師を辞めさせろ」
平然と言いやがる。あとはお前が考えろってか。
「ちっ!」
「ちなみに、さっき言った若い冒険者は必死にアイツを追いかけてた。いずれ俺達やマルソーを超えるかもな。ククッ!」
珍しく表情が柔けぇな。気持ち悪ぃ。機嫌がいいのはソイツらを気に入ったからか。まぁ、このひねくれ獣人が素直に答えるとは思えねぇ。聞かなかったことにすっか。
「お前…。失礼なこと考えてるな?」
無視だ、無視。面倒くせぇ。
だが…コイツの言う通り魔導師ならアイツに会って損はねぇだろ。会いに行って勝負するってんならそれでもいい。マルソーもいい大人だ。どうなってもテメェの責任か。
「お前の言う通りにしてみっか。なるようになるだろ」
「そうこなくちゃな。また1つ楽しみが増えた。結果だけ教えろ。マルソーとウォルトがぶつかったらどうなるか…。タダではすまんだろう。ククッ!」
「闘うと決まってねぇだろ。悪趣味な奴だぜ」
エッゾはしばらく笑って急に動きが止まる。
「お前はわかってるだろうが、ウォルトは獣人で化け物だ。忘れるな」
「言われなくてもわかってるっつうんだよ」
闘ったり共闘した俺が一番わかってる。もし闘うとなったら、どうしてもアイツの獣人としての一面が顔を出す。
普段は信じられねぇくらいボケてっけど、根は負けず嫌いで戦闘好きだ。人間と闘うとどうなるか。
予想しづれぇが、マルソーがまたしつこく言ってきたらとりあえず会わせてやるか。
読んで頂きありがとうございます。