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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
110/705

110 もう村は大丈夫

暇なら読んでみて下さい。


( ^-^)_旦~

 ウォルトさんがクローセから去って3日経った。


 魔物が村に姿を現すこともなく、平穏な日々が戻っていた。村人とも話し合って、もう問題ないと判断した俺とアニカは、行商の馬車を待たずに明日フクーベに帰ることに決めた。

 それぞれの家族と村長に伝えると、村の皆で見送りをしてくれるという。今は村長の家で適温のお茶をすすりながら会話してる。


「私達は大したことしてないのに、必要ないよね。故郷だから守るのが当たり前だし。また会えるしさ!」

「そうだな。ほとんどウォルトさんがやってくれたからな」

「そんなことないぞい。ウォルト君には世話になったが、お前達の闘いぶりを見て村人達がどれだけ心安らいだかしれん。立派じゃった。本当に助かったんじゃ」

「やけに素直だね。もしかして…遺言なの…?村長…遂に死んじゃうの…?」


 涙ぐむアニカ。


「違うわ!戻ったらウォルト君に感謝を伝えてくれ。儂らはいつでも君を歓迎すると」

「わかった。伝えておくよ」

「頼んだぞい」


 今日の内に村の皆に挨拶しておこうと、見回りを兼ねて挨拶回りに出ることにした。




 村長の家を離れて、まずは魔法の修練をしているウイカの元へ向かう。


 ウォルトさんが魔力酔いだと診断してくれた日からウイカは毎日村の外れで黙々と修練に励んでる。まだ疲れやすいみたいだけど、身体を動かすのが楽しくて仕方ないらしい。


 訪ねると休憩中だったみたいで木陰で水を飲んでた。


「そっかぁ。寂しくなるね」


 帰ることを伝えるとウイカは呟く。


「ごめんね、お姉ちゃん。まだ魔法を覚えきれてないのに」

「気にしなくていいよ。ホーマおじさんもいるし、自分で勉強した方が身になるから。基本を教えてくれただけで充分だよ」

「困ったら手紙でもなんでもいいから教えてね!駆けつけるから!」

「私かそフクーベを訪ねるよ。その時まで元気でね」

「待ってるよ!一緒にウォルトさんの所に行こうね♪オーレンは置いていこう!」

「なんでだよ!俺も行くわ!」

「オーレンも行くと泣くことになるかもよ?それでもいいの?」

「ワケわかんねぇ」


 俯いたウイカの表情は俺の目に入らなかった。


 次にホーマおじさんの元へ向かう。畑仕事をしているホーマおじさんにアニカが足早に駆け寄る。


「ホーマおじさん、お疲れさま!明日帰ることにした!」

「そうか。気を付けてな。ウォルト君にもよろしく」

「伝えておくよ!」

「それと、アニカ」

「なに?」

「お前の師匠は凄い魔導師だ。間違いなくカネルラでも稀有な存在だぞ。この出会いを大切にな」


 昔と変わらない朗らかな笑顔。


「それは私が一番よくわかってる」


 アニカは真剣な顔で頷いた。


「彼に教えてもらったことは一生の財産になる。俺も彼のおかげでこんなことができるようになった」


 集中したホーマおじさんが『火炎』を詠唱すると、小さい炎が発現した。


「凄いじゃん!おじさんも使えるようになったんだね!」

「あと20才若ければ間違いなく彼に弟子入りを志願してた。尊敬できる魔導師だ」

「まさか!?ホーマおじさんもウォルトさんのことを好きに…」

「んなワケないだろ。いい加減にしろ」


 思わずツッコむ。ホーマおじさんも苦笑い。


「だよね。…でもさ、おじさん」

「なんだ?」

「おじさんはずっと私の魔法の師匠だよ!おじさんがいたから私は魔法を使えるようになった!私にとって2人は同じくらい尊敬する師匠なの!」


 ニシシ!と笑う。ホーマおじさんがいてくれたから、アニカは魔法使いになれた。それは間違いない。ホーマおじさんは苦笑いとも照れ笑いとも言えない微妙な笑みを浮かべた。


「オーレン。アニカのことを頼む」

「えぇ~。無理だと思う。俺の言うことはまったく聞かない狂犬だから」

「なにを~!」


 アニカは俺に向かって『火炎』を詠唱する構えをみせる。顔がマジだ!


「バカ!やめろって!」

「燃え尽きるがいい!灰になれっ!」


 逃げる俺に、照準を合わせ続けるアニカ。俺達のおかしな掛け合いにホーマおじさんは腹を抱えて笑った。



 

 その日の夜。


 出発を明日に控え、俺もアニカもそれぞれ我が家でのんびり過ごしていた。家族での夕食を終え明日に備えて日課である装備の手入れをしていたときのこと。


「オーレン。ちょっと話がある」


 突然父さんが話しかけてきた。


「なに?」

「お前にコレを渡そうと思ってな」


 それは父さんが愛用している剣。自警団として、村を守るときに使ってる。俺の愛剣よりいい鋼を使った逸品で、幼い頃の俺がとにかく欲しがったモノでもある。


「お前が持ってる方がいいように思えてな。少しは冒険の役に立つだろう」

「ありがとう。けど、気持ちだけもらっておくよ」

「なぜだ?いらないのか?」

「その剣は父さんとアンディで使ってくれ。俺はこの剣がいいんだ」


 ウォルトさんとの出会いについて語る。初めての冒険のとき、アニカと共に森で魔物に殺されかけて助けてもらったこと。そして、傷が癒えて旅立つ日までにウォルトさんが装備を直してくれたことを。


「この剣と防具は一度ボロボロになった。それを俺達の幸せを祈りながらウォルトさんが修復してくれたんだ。だから、初心と恩を忘れないタメにもイケるとこまでコイツと冒険すると決めてる。壊れても手放すつもりもないんだ」

「そうか。野暮な申し出だったな」

「認めてくれて嬉しいよ。昔の俺なら貰ってた。いや、そもそも貰えてないか」


 父さんは目を細めた。


「ウォルトはいい師匠だな」

「凄い人だよ。ただ強いだけじゃない。人として尊敬してる。俺とアニカは幸運だった。あの人に出会ってなかったら2回死んでる」

「そうか。帰ったらよろしく伝えておいてくれ」

「わかった」



 ★



 ほぼ同時刻。アーネス一家は食卓を囲んでいた。母親のウィーは食事中のアニカの様子がおかしなことに疑問を抱いている。


 明日帰るって言うから家族揃って夕食をとってるのに元気がない。食事中に元気がないアニカなんて滅多に見れない。変なモノを食べて食中毒になった直後くらい。

 実は街に帰りたくない?それとも、ウォルト君が急に帰ってしまったことでまだ落ち込んでる?勘繰ってもわからないから、ハッキリ訊いてみることにしよう。


「アニカ。元気ないけどどうしたの?」

「………べたい」

「なに?聞こえない」

「ウォルトさんの料理が食べたい…」


 はぁ~…と溜息をつく。


「アンタって子は……完全に餌付けされちゃってるね。まぁ気持ちはわからなくもないけど。あれだけ料理の上手い獣人はそういないさ。けどね…」

「なに?」

「親の作ったご飯を食べてるときに言うことかっ!お袋の味を噛み締めて、黙ってフクーベに帰れ!このバカ娘!!」


 アニカは呆れたように告げる。


「お母さん。見苦しいよ。自分の腕を棚に上げてさ」

「にゃにおぅ!ケンカ売ってんのかっ!?」


 アーネスとウイカは同時に溜息をついた。アタシとアニカは、昔からちょっとしたことでケンカになる。アーネスとウイカは昔からケンカの仲裁役。

 

「2人ともケンカはやめようよ。またしばらく集まれないんだから。今日は仲良くしよう?」

「ウイカの言う通りだし今回はアニカが悪いぞ。だいたい、ウォルトは自分の料理がケンカの火種になるのを喜ぶのか?違うだろ?」

「うっ!それは……ごめんなさい…」


 アーネスの言葉に反論できないアニカは言葉に詰まって謝罪してきた。


「ふぅ…。アタシも大人げなかった。ウォルト君の料理はまた食べたいと思う」

「さすがお母さん!私に似てよくわかってるね!」

「逆だろ!アンタが似てるんだ!」

「えぇ~?!私はどちらかといえばお父さん似だと…」

「「それはない」」


 ウイカとアーネスに即否定された。


「アンタはアタシに似てるんだよ!バカだね~!」


 残念ながら疑う余地はない。間違いなくアーネスよりアタシに似てる。

 

「そうかな?お母さんほどガサツじゃないと思うけど」

「はぁ~?!」

「私の方が美人だし!やっぱりお父さん似だよ!」

「にゃにおぅ!?アンタとは拳で語らないとわからないみたいだな!」

「「やめなさい!」」


 その後も騒ぎながら我が家の夜は更けていった。

 


 ★



 いよいよ俺達がフクーベに帰る時間を迎えた。聞いていた通り、村の皆は仕事を中断して総出で見送りに来てくれた。村長が前に出て話し始める。


「今回は本当に助かったぞい」


 皆も後ろでうんうん頷いてる。


「昨日も言ったけど、クローセは俺達の故郷だ。なにかあったら呼んでくれたらいつでも駆けつける」

「そうだよ!その時は私だけでも来るから!」

「なんでだよ!」

「オーレンは悪い女に捕まって骨抜きにされてるかもしれないから!期待しないで!」


 村人一同からどっと笑いが起こる。ホッホッ!と髭を触りながら村長が続けた。


「コレは儂からじゃ。大したもんじゃないがの」


 手渡されたのは俺達もよく知るモノ。


「コレって…」


 クローセで稀に採掘される紫水晶の欠片だ。紫水晶はカネルラではクローセ付近でしか発掘されない素材で、稀少価値もそこそこ高く、村の貴重な資金源。

 見つけたときは皆に分配されていて、飢饉とか不測の事態に見舞われたときの備蓄財産になってる。

 普段まったく贅沢をしない村人達は、大事にしまってあるだけで特に気にしてない。久しぶりに見たなといった反応。


「嬉しいけどさ、貰っていいのか?」

「なにか勘違いしとりゃせんか?ウォルト君に渡してくれ」


 …そうか。さすが村長だ。


「そういうことか。ありがとう。渡しておく!」

「頼んだぞい。儂の、彼に対するせめてもの感謝の気持ちじゃ」


 紫水晶はクローセの村人が売らない限り市場に出回ることはない。そして、売ることがまずないから持っているのはクローセの住人だけ。

 村長は、感謝とともにウォルトさんもクローセの一員であると伝えたいんだ。その証として受け取ってほしいと。


 しんみりした空気が流れたところでアニカが呟く。


「村長は……何十年かに一度、胸を打つようなことをするんだよね…。ズルムケのくせに…」

「そうだな…。何十年も頭は不毛地帯なのに…心は豊かなんだよな…」

「やかましいわっ!お前達は何十年も生きとらんだろうが!さっさと帰れ!このバカタレども!」

 

 憤慨する村長を見て、また大きな笑いが起こる。


 今回の騒動で、村人は誰一人欠けることがなかった。そして皆が笑顔。俺達にとって最高の成果で何物にも代え難い報酬だ。


「よし、行こうか!みんな元気でね!」

「またな!」


 門を潜った俺達は、振り返りながら手を振って少しずつ進む。互いに見えなくなるまで手を振り合ってそれぞれの生活へと戻っていく。

読んで頂きありがとうございます。

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