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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
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11 別れの時

暇なら読んでみて下さい。


( ^-^)_旦~

 ウォルトさんから、亡くなった冒険者の話を聞いた日の夜。


 私はオーレンの部屋にいる。夕食を終えたウォルトさんは、机に向かってなにか研究をしているようだった。


 ランプに火を灯して、ベッドに並んで腰掛けながらオーレンと一緒に窓から見える星を見てる。空気が澄んでいるのか、この住み家から見える星空は驚くほど綺麗だ。


「私達はウォルトさんに出会えて幸運だったよね」

「間違いない。命を救ってもらっただけじゃなくて、美味い料理を食べさせてもらって、色々なことを教えてもらった。本当に…ウォルトさんには感謝しかない」


 男の獣人といえば、粗暴で気性の荒い印象しかなかった。まさか、森で優しい獣人に命を助けられて、色々なことを教えてもらうなんて夢にも思わない。


「ココの生活はすごく楽しい。けど、そろそろ行かなきゃ…だよね…」


 こんなこと言いたくない。でも言わなきゃいけない。


「そうだな。クエストの依頼を受けたっきりギルドに戻ってないんだ。面倒くさがって逃げたか、魔物にやられて死んだと思われてるだろうな…」

「うん…。早く戻って事情を説明しないと」


 しばらく無言が続いたけど、ふぅ…と息を吐いてオーレンが口を開く。


「明日……街に帰るか…」

「うん…。そうしよう…」


 重い腰を上げた私達は、揃ってウォルトさんの元に向かうと、明日出発することを告げる。そウォルトさんは、いつもと変わらない優しい笑みを浮かべた。


「いつ頃、出て行くんだい?」

「朝の内には出て行こうと思います」

「じゃあ、最後に朝食を一緒に食べよう。大丈夫かい?」

「はい」

「じゃあ、ゆっくり休んで。街までの道は明日教えるよ。ちょっと遠いから体力を戻しておかないとね。早く寝れるといいけど」


 ウォルトさんはまた机に向かってなにか書き始めた。オーレンと私は、後ろ姿に揃って頭を下げる。



 ★



 次の日の朝。約束通り朝食を一緒に食べる。


 ウォルトさんが作ってくれた料理は全て美味しくて、この短期間ですっかり胃袋を掴まれた。私達が元気になった要因の半分以上は料理のおかげと言っても過言じゃない。


 食事をしながら、街への帰路を教えてもらう。どうやら歩いても1時間程度みたい。

 談笑しながら食べ終えると、ウォルトさんと一緒に後片付けを終えて出発の準備を始めた。


 まずは…。


「ちゃん隅々までやりなよ!」

「わかってるよ!お前こそちゃんとやれよ!」


 せめてものお礼に、一生懸命部屋やお風呂を綺麗に掃除して感謝の気持ちを残していく。数日しか滞在してないし、森の中に建ってるのに街で借りている住居よりも居心地がよかった。なに1つ困ることのない不思議な住み家。


「終わったね…」

「終わったな…」


 思ったより早く終わってしばらく立ち尽くす。


 掃除を終えて出発の準備を整えると、寂しさが襲ってくる。無理やり寂しさを押さえ込んで、ウォルトさんに最後の挨拶するタメに部屋へ向かった。やっと我が家に帰れるのに私達の足取りは重い。


 ウォルトさんは机に座って書き物をしていた。


「ウォルトさん。そろそろ出発しようと思います」

「本当にお世話になりました!」


 声を掛けると、こっちを向いたウォルトさんが微笑みかけてくれる。


「ちょっとだけ待っててくれないか?渡したいモノがあるんだ」

「私達に渡したいモノ…ですか?」


 物入れのようなところからウォルトさんが取り出した見覚えのあるモノに、私達は驚きを隠せない。


「2人に返しておくよ。君達の勇気と冒険の証だ。恐怖に立ち向かって勇気を振り絞った日を忘れないでほしい」


 受け取ったのは…私達が身に着けていた装備品。ムーンリングベアとの戦闘で安物の防具はボロボロになって、ベルトも千切れていたはずなのに、汚れは綺麗に落とされて傷は残っているものの見事に修復されてる。


「オーレンには、コレも」


 ウォルトさんの手にはオーレンの剣が握られてる。オーレンは震える手で受け取った。


 ギルドで冒険者登録して、晴れて冒険者になった日に2人で武器屋に買いに行った安物の剣。元々いい鋼じゃない。

 魔物との戦闘で刃こぼれして、途中から切れ味を失っていた剣は、刃が綺麗に研がれて一回り小さくなっているけど輝きを取り戻してる。


「リュックはあまりにボロボロで直せなかったよ。ゴメンね」


 苦笑するウォルトさんに、お礼を言いたいのに言葉が出ない。なんて感謝を伝えればいいのか言葉が見つからない。


 倒れているのを発見して助けてくれた。傷痕が残らないように綺麗に治療してくれた。魔物に立ち向かった勇気を褒めてくれた。回復薬の作り方を教えてくれた。美味しいご飯を食べさせてくれた。私達に…冒険者としての未来を与えてくれた。


 込み上げる想いに胸が熱くなって、涙を堪えるのが精一杯。見てないけど、きっとオーレンも同じ顔してる。

 俯いたまま黙って肩を震わせる私達の前に立ったウォルトさんは、何度も見せてくれた優しい笑みを浮かべた。


「オーレン。アニカ。ボクは君達の未来をずっと応援してるよ」


 優しく…そして少しだけ寂しそうに告げた。


 私達はウォルトさんに抱きついて赤子のように泣く。涙が止まらない。ありがとうございます…と声にならない声で感謝を述べる。


 ウォルトさんは私達の頭を陽だまりのような温かい掌で優しく撫でてくれた。「頑張れ」って言われている気がして、私達はまた泣く。

 驚いたウォルトさんは困った顔でオロオロして、オーレンと私は顔を見合わせて笑った。



 ★



「じゃあ行きます!お世話になりました!」

「うん。気を付けて」


 渡された装備を身に着けて、しっかりした足取りで歩き始める。ウォルトさんは住み家の側で見送ってくれている。


 少し歩いたところで振り向いて、私は大きな声を上げた。


「ウォルトさん!また会いに来てもいいですか!?」


 白猫の恩人は笑顔で応えてくれる。


「いつでもココで待ってるよ」


 笑顔で揃って頭を下げた。頭を上げると、ウォルトさんに背を向けて今度は振り返らず歩き出した。

読んで頂きありがとうございます。

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