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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
108/706

108 掃討完了

暇なら読んでみて下さい。


( ^-^)_旦~

 次の日。ウォルトはテムズに伝えた通り朝から森を徘徊する魔物の討伐に向かった。


 嗅覚を頼りに万遍なく森を進むと、結構な数の魔物と遭遇する。強かったり弱かったりと様々だけど、全ての魔物を順調に討伐していく。そして、改めてエッゾさんの強さに舌を巻いた。


「このレベルの魔物が恐れをなして逃げるなんて…。やっぱり魔物でもエッゾさんは怖いんだな…」


 思わずぼやいてしまう。エッゾさんの強さを身をもって知っているので、魔物達に若干同情しつつ森の中を隈なく調べる。その内にちょっと試してみようと魔法を詠唱した。


『周囲警戒』


 魔力の出力を上げて可能な限り探索範囲を広げてみると、森の中に広がる魔力は匂いで捉えきれない場所にいる魔物の位置を的確にあぶり出した。


 この手は使える。度々使用しては討伐を繰り返しながら、ダンジョンの入口に到着した。

 やはり周辺を調べてもエッゾさんの姿はなく野営したような痕跡もない。どこへ行ったんだろう?やっぱり村の皆に申し訳ない気持ちがあったのかな…。

 ダンジョン周辺の魔物は狩り尽くされたのか、魔法でも探知することができなかった。掃討できていると判断したけど、再び魔物を捜索しながらクローセに戻る。


 討ち漏らしていた数匹の魔物を討伐して、クローセに帰還すると、たちまち子供達に囲まれた。


「うぉると~!!」


 子供達は可愛いなぁ。どんなことをされても可愛く感じてしまう不思議。


「うぉると!しゃがんで」

「どうしたの?」


 言われるがままにしゃがむと首に花冠をかけられた。


「まもの、たおしてくれてありがとぉ~!!」


 子供達は満面の笑み。


「ありがとう…。凄く嬉しいよ」


 わざわざ作ってくれたのか…。嬉しすぎる。最高のお礼をもらってしまった。


 お礼の言葉を言い終えるや否や、よじ登ってくる子供達。瞬く間にしがみついた子供で埋め尽くされてしまった。


「わぁっ!?」


 1人が危うく落ちそうになる。


「慌てると危ないよ」


『風流』を詠唱して、風のクッションで受け止めてあげた。


「すごぉ~い!ふわふわ~!」

「ほんとだ~!」


 大喜びで我も我もの子供達。それからしばらく子供達と遊び尽くした。



 ー 1時間後 ー



 おやつの時間なのか子供達は家に戻った。めちゃくちゃ疲れたな…。


 元々獣人にしては痩せているのに、一段と細くなったような気がする。首にかけてもらった花冠はもう影も形もない。子供達の体力は凄まじく、魔物を倒していたときの何倍も疲れてしまって足取りもおぼつかない。


「ウォルトさん。大丈夫ですか?」


 巡回中に通りがかったオーレンが気にかけて声をかけてくれた。


「大丈夫なんだけど、ちょっと疲れたよ」

「ウォルトさんに懐いてるから遊べて嬉しいんでしょうね」

「そうだと嬉しい。勝手な意見かもしれないけど子供は可愛いね」

「ウォルトさんはいい父親になりそうですね」


 ボクはいい親になる要素なんてない。でも、それ以前の話のような気がする。


「ボクにそんな時が来るかなぁ?」

「来ると思いますよ。なんでですか?」

「番ってもいい…と言ってくれる人がいないと思うよ」


 森に住むまではサマラと番になりたい、なれたら嬉しい…と淡い希望を抱いてた。でも、過去の経験から自分では釣り合わないのが身に刻まれてる。今は想像すらしない。

 再会したときサマラに「好きだ」と伝えたけど、あの頃の『好き』とは全く違う。恋人や番になれる自信や希望なんて微塵もない。

 サマラも好きだと言ってくれたけど、きっと同じだと思う。幼馴染みに対する慕情のような気持ちだろう。勘違いしないように注意しなくちゃな。


「そんなことより、森の魔物はほぼ倒せたと思う。かなり奥まで行ったけど発見できなかった。夜にもう一度行ってみるつもりだけど」

「お願いします。俺は…気付かなかったけどウォルトさんが言った通り疲れてるみたいで、少しボ~ッとしてます。休んで正解でした」

「1日休めばかなり違うはずだよ。夜もゆっくり休んで」

「はい。ありがとうございます」


 その後も軽く言葉を交わしてオーレンは巡回に戻った。ボクは一旦テムズさんの家に帰ることにする。



 ★ 



 オーレンが村を見回っていると、ふと動きが止まる。


 視線の先にはウイカの姿。傍にはアニカの姿も見える。ウイカは動きやすい服装で魔法の修練をしているみたいだ。


「ホントに…動けるようになったんだな…」


 笑顔で身体を動かしているのを初めて見たかもしれない。ウイカは小さな頃から外に出ることすら困難なときもあった。

 いつも顔色を悪くして、調子がいいときでも短時間しか動けず苦しそうにしてた。今の表情は実に晴れやかで、汗を拭いながら優しい笑みを浮かべてる。姉妹だから当然だけど笑顔がアニカとそっくりだ。


 話しかけようと2人に近づく。向こうも俺に気付いたみたいで目が合った。歩みを速めるとウイカが笑顔で声をかけてきた。


「オーレン。久しぶりだね」

「久しぶり。元気そうだな」

「ウォルトさんのおかげでね。身体を動かすのって気持ちいい」


 そうか…。そうか……。


「オーレン?どうしたの?」

「いや……なんていうか…。…よかっ……たな…」


 俯いたまま声を殺して泣いた。元気になったウイカを目にして、胸に熱いものがこみ上げてきた。俺は…ずっとこんなウイカを見たかったのかもしれない。


「オーレン……。ありがとう……」


 ウイカも涙声。村の幼馴染み達は、「普通の生活が送れるようになった」とウイカから聞いて全員喜んでた。皆の気持ちが嬉しくてウイカも思わず泣いてしまったらしい。俺だって同じ気持ちだ。


 そんなシリアスな場面にアニカが水を差す。


「お姉ちゃん!騙されちゃダメだよ!」

「…騙す?どういうこと?」

「オーレンは…お姉ちゃんが元気になったからまた告白するつもりなんだよ!計画的な前振りだから!」


 鼻息荒くアニカが訴える。


「なに言ってんだ!俺は純粋にだな…」


 反論しようとしたところで、平然とウイカが告げた。


「大丈夫だよ。オーレンはそんなつもりないだろうし」


 さすがウイカと頷く。…告白についてはちょっとだけ考えてたけどな…。


「それに、私はオーレンのことこれっぽっちも好きじゃないからね」


 ウイカは笑顔で、右手の親指と人差し指をくっつけるような仕草を見せた。これっぽっちと言いながら、よく見ると指の隙間はまったく空いてない。悪気がなくて、まったく空気を読まないところが姉妹だな…。結構ショックだけど、まだ可能性がなくはないという淡い希望を胸になんとか持ちこたえた。

 

「だよね~!ならいいや!」


 小悪魔的な笑みを浮かべるアニカ。そして予想外の一言が投下される。


「大体お姉ちゃんは好きな人がいるもんね!」

「ちょ、ちょっと、アニカ!」


 ウイカは頬を染めて慌てふためく。反応からアニカの発言が嘘ではないことを確信して、ぐらりと崩れそうになる。


 いつの間に…。昔から身体が弱いことを気にしていたウイカは、それを理由に村中の男達の告白を断ってた。同世代の男達はもれなく『撃沈兄弟』のはず…。


 一体誰だ…?隣村の男か…?


「ふふっ。知りたい?」


 アニカが小悪魔的な笑みを浮かべて顔を覗き込んでくる。


「………知りたい」

「えぇ~?そっかぁ~……教えないけどっ♪」


 なんてムカつく奴だっ!!よくこんな性悪とパーティーを組めたと自分で自分を褒めてやりたい!


「もうっ!アニカ!そんなことより早く魔法の練習するよっ!」


 照れているのかウイカは顔が真っ赤だ。マジだな…。


「ごめんね、お姉ちゃん。つい♪」


 テヘッ!と舌を出しておどける。

 

 なにが「つい♪」だっ!俺を貶めるタメだけに言ったに違いない…!


 その後、真面目に魔法の修練を始めたウイカを見て内心気になりながらも村の見回りを再開した。



 ★



 テムズは我が家で心静かにウォルトを待っている。



 夜の帳が降りて静寂と月明かりが村を包むと、ウォルト君は森へと向かった。そして2時間ほどで無事に帰ってきた。


「森を彷徨っていた魔物を掃討してきました。もう魔物が襲ってくることはないと思います」

「おつかれさん。無事に戻ってなによりじゃ」


 しわがれたジジイには労いの言葉をかけることくらいしかできん。


「魔物の中には夜に動きが活発になる夜行性の魔物も存在します。昼間とは違う魔物が森を闊歩していました。丁寧に討ち漏らさないよう討伐したので心配いらないかと」

「そうか。本当に助かったぞい。なにか礼をしたいんじゃが」

「好きで手伝いにきたのでお礼はいりません。逆に家に泊めてもらって感謝してます」

「君は…謙虚じゃのぅ」


 こんな獣人を知らん。儂が知る獣人の男は、横柄で粗暴。彼は高い教育を受けた人間のように謙虚な性格をしとる。


「後はオーレン達に様子を見てもらって下さい。念のため数日は」

「ん…?君はどうするんじゃ?」

「日が昇る前にクローセを離れて、動物の森に帰ろうかと思ってます」


 意外な返答に驚いて声を上げる。


「いかんぞい!村の者達も君を見送りたいと思っとるはず!もう少し延ばせんのか?」


 余りに突然すぎる。なぜじゃ?


「テムズさんの気持ちだけで充分です。皆に会うと別れが辛くなるので…。我が儘を言ってすみません」


 困ったように笑うウォルト君の瞳は、寂しそうに少しだけ揺らいでいる。彼の心の内をほんの少し覗き見たような気がした。

 獣人であるのに信じられないほど優しい男の苦悩を…。彼は…儂には理解できんような苦労をしてきたんじゃろう。そんな気がしてならん。


「差し支えなければ教えてくれんか?もしや…儂らは知らぬ間に君を傷付けてしまったのか?」

「ボクは…クローセの皆ほど優しい人達に会ったことがないです。傷付けられてなんかいません。ボクの気持ちの問題で、皆は関係ないんです」


 なんと…。儂らは至って普通に接しておるだけ。彼にとっては優しいと言うのか…。一体どんな過去が…。

 これ以上は彼が自ら話すときまで訊くまい。昨日今日会ったばかりの爺が、追い込むような行為をすべきではないな。


「君の気持ちはわかったぞい。皆には儂から伝えておこう。じゃが、1つだけいいかの」

「なんでしょう?」

「君は動物の森に住んでいると言ったな。もし困ったことがあったら、いつでもクローセを訪ねてくるんじゃ。できる限り力になると約束する」

「その時はお願いします」


 ウォルト君は笑顔を見せてくれた。


「ほっほっほっ!茶飲み仲間がいなくなって寂しくなるからのう」

「テムズさんにお土産があるんです。偶然森で見つけたんですけど…」

「なんじゃ?」


 森の土産?


「ちょっと待ってて下さい」


 ウォルト君は布袋を手に台所に向かった。


「どうぞ。よければ飲んでみてください」


 台所から戻ったウォルト君は、熱々の湯飲みを2つ持って戻ってきた。


「な、なんじゃこれはっ!!う、美味いぃぃ!こんなの初めてじゃあぁぁ!!」

「大袈裟ですよ」


 いつも好んで飲んでいるという茶の葉を討伐中に森で発見したらしく、わざわざ採ってきて淹れてくれた。

 あまりに美味すぎる茶を飲んだ儂の絶叫は静かな村中にこだましたような気がする。

読んで頂きありがとうございます。

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