103 意外な原因
暇なら読んでみて下さい。
( ^-^)_旦~
昼の巡回を終えたウォルトは、ウィーと約束した通りアーネス宅を訪問していた。
「召し上がって下さい」
ウィーさんには止められたけど、アニカの希望通り台所を借りて存分に腕を振るって料理を作った。やりきって満足。
「いただきます!…って、うましっ!」
ウィーさんは驚きの声を上げる。反応が面白い。
「食材もそんな上等じゃないのに…。ウォルトは店でも開いたほうがいいんじゃないか?」
「ありがとうございます」
逆にアーネスさんは静かに褒めてくれる。対照的だ。
「凄く美味しいです。アニカは、いつもこんな料理を食べてるんだね」
「美味しい!ウォルトさん、相変わらず凄いです!」
ウイカさんとアニカの姉妹も料理を口に運ぶ手が止まらない。全員の口に合ったみたいでよかった。ボクは淹れたての熱いお茶をすする。クローセのお茶は少し甘味があって美味しい。
「ウォルトさんは、作った料理を自分では食べないときもありますよね!?」
「味見で満足するんだ。そうでなくても、料理してるだけで満腹になるんだけどボクだけかな?」
「それはある!アタシも料理してるともうご飯いらないってなる!」
「そうなんです。なんなんでしょう?」
結果、後で食べるんだけど。
「そんなことあるんですね!私はなったことないです!むしろお腹が減ります!」
「アンタは食いしん坊だからね。昔からウイカの分もぶんどって食べてたもんね」
「なっ…?!そんなことしてないっ!」
焦るアニカをフォローするようにウイカさんが続ける。
「お母さん。アニカは私が食べれなかった分を食べてくれてたんだよ。食いしん坊って言っちゃ可哀想だよ」
「お姉ちゃんはわかってる!お母さんとは違うね!」
「なんだとぉ~」
「ウォルトさん。アニカは姉思いの妹で私の自慢なんです」
「わかります」
アニカは少し照れてるっぽいけど、食べる手は決して止まらない。
食事を終えると、皆にもお茶を淹れる。「ホントに凄い」と褒められたけどくすぐったい。
「ところで、君がアニカの魔法の師匠なんだって?じゃじゃ馬の世話を任せてすまないな」
「じゃじゃ馬じゃないよ!」
「アニカの師匠じゃないんです。ちょっと魔法を教えてるだけで。アニカはとてもいい娘ですしいずれ凄い魔導師になります」
きっと、将来アニカは大魔導師と呼ばれるようになる。ボクの目は節穴じゃないと思うんだ。
「そうか。冒険者になってよかったな。お前らは出会いに恵まれてる」
「うん!私達は運がよかった!」
「いいなぁ…。私にも魔法の才能とかあったらなぁ…。姉妹で魔導師とか格好いいよね」
「お姉ちゃんもウォルトさんに魔法の適性を診てもらえばいいよ!」
「えっ…?私は身体が弱いからきっとないよ…」
「身体の強さと魔法の適性はあまり関係ないと思います」
操るのに体力があるに越したことはないけど、なくても魔法の適正には関係ない。
「そう言われると…ちょっと気になるかも…。お願いしてもいいですか?」
「わかりました」
断りをいれて座っているウイカさんの手をとり、オーレンに施した方法で少し魔力を流してみる。
即座にあることに気付き確認してみる。
「ウイカさん。もしかして、酒に酔ったようになることがありますか?二日酔いのような」
「お酒は飲んだことないですけど、昔から頻繁に頭が痛くなったりふらふらします」
「身体が弱いというのは、それが原因ですか?」
「はい。激しく動いたりすると直ぐに症状が出るので。本当に調子が悪いときはなにもできないです」
「なるほど。では、コレならどうでしょう?」
目を閉じて軽く集中する。
「なんだか…とてもスッキリしたような…」
「終わりました。少し動いてみて下さい」
「はい…」
立ち上がったウイカさんが身体を動かす。腕をぐるぐる回したり上体を捻ったりしてる。
「なんで…?身体が軽いし…頭痛もない…。いつもなら少なからず痛みがあるのに…」
ボクの推測を告げる。
「体調を崩している原因は魔力酔いかもしれません。身体に少量の魔力を流して適性を確かめようとしたんですけど、体内に魔力が満ちていて流せなかったんです」
「私の体内に…魔力が?」
「身体に魔力が溜まりすぎると、人によっては毒になります。使い道のない魔力が身体を巡って異常をきたすんです。試しに余分な魔力を吸い取らせてもらいました」
吸引したのはかなりの魔力量。出会ったときからウイカさんが魔力を保持していることには気付いてた。ただ、体質なのか表面化してない魔力量が尋常じゃない。まったく気付かなかった。
「そんなことがあるのか」
「初めて聞いたね」
「ウイカの症状は何人もの医者に診てもらった。それでも原因がわからなかったんだ」
「魔法に精通してない医者では気付けないと思います」
魔導師でもきちんと探らなければ気付かないだろう。隠蔽されているかのように魔力を蓄えていたから。
その後、仕切り直して適性を調べたらウイカさんにもアニカに匹敵する魔法の適性があった。保持してる魔力量から予測できたけどやはり魔法適性が高い。というワケで提案する。
「ウイカさんは魔力を生成する器官が優れているので、定期的に放出しないと同じことを繰り返します」
「どうすればいいんですか?」
「1つでも魔法を覚えたら普通の生活が送れるはずです。魔力を放出する手段は幾つかありますが、最も簡単かつ効果的に魔力を消費するのは魔法を使うことです。ただ、嫌々覚えるのは勧めません。そうであれば別の方法を教えます」
「私は…魔法を覚えてみたいです。でも、私に覚えられるでしょうか…?」
ボクが言う前にアニカが笑う。
「ウォルトさんが適性があるって言うなら間違いないよ!大丈夫!私が教えるから心配しないで!」
「アニカ。ありがと」
「魔法の習得には個人差があります。ゆっくりでいいんです。クローセには凄い魔法使いのホーマさんもいますし、生活魔法もいいと思います。生活が楽になるので一石二鳥ですよ」
「はい…。ありがとう…ございます…」
ウイカさんは涙ぐむ。アーネスさんとウィーさんも涙を浮かべてる。
「小さな頃から、ずっと我慢して生きてきたウイカが普通の生活を送れると言われて嬉しくないワケがない」
「そうだね。ウォルト君…ありがと」
「大袈裟です。ボクは診ただけで気付けたのはたまたまなんです」
少しでも力になれたのならよかった。
★
「…と、昼にそんなことがあったのよ。ウォルトさんは私だけじゃなくて一家にとっての恩人になった」
「そうか…。ウイカが…。よかったな」
夜の巡回に就きながらアニカと言葉を交わす。ウイカの身体のことは知っているので素直に嬉しい。
「ウォルトさんには頭が上がらないな」
「どれだけ恩返しすればいいんだか!」
「絶対「そんなのいらない」って言われるけどな。「大袈裟だよ」の一言で終わりだ」
「もう言われたよ!私は勝手に返すことに決めた!」
「そうだな。俺もそうしよう」
「…抜け駆けするつもり?」
ジト目で見てくる。
「違うわ!俺だってお前と同じくらい恩を感じてるんだよ。時間がかかっても俺のやり方で返していきたい」
「まさか!…オーレンもウォルトさんに惚れ…」
「…てないし!なんでそうなるんだよ!仮にそうだとしてもお前には勝てる気がしねぇ」
「あははっ!そりゃそうでしょ!」
アニカの笑いが癪に障るけど、いい気分にさせておこう。無視して話題を切り替える。
「ところで、ウォルトさんが言ってたやることってなんだと思う?」
「私も気になったんだよね。ダンジョンに行く為の準備なんだろうけど」
ウォルトさんは「ダンジョンに向かう前に、やっておきたことがある」と笑った。1人でやるからと手伝いは断られた。
「俺が想像もできないことのような気がする」
「そう!考えても無駄!それがウォルトさんなのだ!」
なぜか自慢気なアニカ。でも、その通りなのでなにも言えない。
「よし。俺達もせめてウォルトさんに迷惑だけはかけないようにしようぜ!」
「がってんだ!」
「おっさんかよ…」
「うるさい!」
★
次の日の朝から夕方にかけては、ウォルトが巡回当番。
村の巡回を行いながら今の内にやるべきことをやる。少しずつじっくり時間をかけながら確実に。気が付けば昼を過ぎていた。
テムズさんの昼食を作るのも任されているけど、朝の内に準備して『保存』してから家を出たので問題ない。
一旦帰宅して寺分も食事にしようかと思っていたところで少年が話しかけてきた。
「おい、獣人!俺と勝負しろ!」
木刀を片手にいきなり宣戦布告してきた少年は、見たところアニカやオーレンより年下でチャチャよりも下に見える。
活発で元気がありあまっているといった印象。勝負するのはやぶさかじゃないけど話を聞いてみよう。
「勝負するのは別に構わないけど、どうしてだい?」
「そんなの…考えればわかるだろ!!」
『ニャんだろう…?』と、自分の胸に聞いてみても心当たりがない。
「ごめん。理由が思い浮かばない。教えてくれないか?」
「……アニカ」
「え?」
「お前みたいな怪しい獣人がアニカに近づくな!」
なるほど。この少年はアニカが変な獣人にたぶらかされてると思ったのかもしれない。誤解は解かなきゃな。
「ボクとアニカは友達なんだ。だから別に怪しくないよ」
「問答無用!くらえっ!」
木剣で打ち込んできた。ひらりと躱して距離をとる。
「むっ!やるな!俺の剣を躱すなんて!てやぁ!」
連続攻撃を仕掛けてくるけど、相手にならない。でも、子供は将来村を守る戦力になる。オーレンのような冒険者になるかもしれない。
どんな相手であってもやられたらやり返すのが獣人の習性。とはいえ、子供の相手ばかりしていたからか楽しくなってきた。ギリギリで攻撃を躱して決して当てないように反撃する。
「うぉわぁっ!」「なんのっ!」「ひぇえぇっ!!」「ちぃっ…!」と百面相で動き回る少年を見てボクは内心ほっこりしていた。
この少年は、オーレンと同じで剣の筋がよさそうだ。それに、もう1つの素質がある。
「はぁ…。はぁ……やるじゃないか!」
「君こそやるな。ボクはウォルト。君の名前を教えてくれないか?」
「俺はカートだ。ウォルトをライバルと認めてやる!だが…俺は負けない!いくぞ!必殺…」
「こらっ!!」
駆け出そうとしたカートの頭に必殺の拳骨が落とされた。
「いってぇ~…!!誰だっ!?」
頭を押さえながら振り向くとホーマさんの姿があった。
「父ちゃん!宿命の対決を止めないでくれよ!」
「なにが宿命の対決だバカタレ。うちのバカ息子が迷惑をかけたね」
ホーマさんは、カートの頭を無理やり押し下げる。
「いえ。カートとボクはライバルですから。ね?」
「その通りだ!さすがウォルト!わかってるな!」
カートは胸を張る。
「君はお人好しすぎだよ。コイツは小さい頃アニカに可愛がってもらったから、君に対抗心を燃やしてるだけなんだ」
「ち、違わい!」
カートはアニカのことが好きなのかな。憧れのお姉さんなのかもしれない。
「…ん」
風に乗った魔物の匂いを捉える。どうやらフォレストウルフが襲撃してきたようだ。
「カート。今から魔物が来る。危ないから家に戻ってくれ」
風上へと素早く駆け出した。
★
「めちゃくちゃ速い!ウォルトはすげぇ!」
「速すぎる…!はぁ…はぁっ!」
家に戻れと言われたが、気になってウォルトの後を追うことにしたホーマとカート。魔物の姿なんて影も形も見えないが、嘘を吐いてるようには見えなかった。しかし、全力で追っても追いつけやしない。魔導師であってもさすがは獣人。
ウォルト君に追いつくと、柵の隙間から村に向かって駆けてくる数匹のフォレストウルフが見えた。
「父ちゃん、すげぇよ…。ホントに来た。まだ、あんなに遠いのに…」
「あぁ。凄いな…」
ウォルト君は柵の間から軽く覗いて素早く詠唱した。
『雷撃』
魔物の頭上に魔法陣が浮かび上がり激しい落雷が襲う。見事に命中して「ギャン!」と吠えたかと思うと、横たわったままピクリとも動かなくなった。光景を目の当たりにして呆然とする。
詠唱の速さ。遠距離での正確な照準。威力と範囲の広さ。簡単に見えるが、どれをとっても一級品で驚異的な魔法。やはりとんでもない魔導師。
「カート。さっきの続きをやるかい?」
憂いがなくなったウォルト君は、カートに笑顔で尋ねたけれど…。
「い、いや!また今度にする!逃げてないからな!」
答えたカートの顔は引き攣ってる。まぁ、そりゃそうだろう。あんなの誰だって食らいたくない。
「いつでも受けて立つよ。ライバルだからね」
屈託のない笑みを浮かべる白猫の獣人。カートの顔には、『とんでもない相手にケンカを売ってしまったのでは…?』と書いてある。誰彼構わず闘いたがる腕白小僧にはいい薬になったろう。
「そうだ。ホーマさんにお願いしたいことがありまして」
「俺に?」
ウォルト君にクローセでは俺にしかできないお願いをされる。
「その程度ならお安い御用だけど…本当に可能なのかい?」
「はい。よろしくお願いします」
説明を受けても到底そんなことができると思えない。けれど、笑顔を見せるウォルト君は凄い魔導師だ。おそらく可能なんだろう。
俺にできるのは信じて協力することだけだな。
読んで頂きありがとうございます。