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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
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102 人気者

暇なら読んでみて下さい。


( ^-^)_旦~

 ウォルトが魔法を披露して、村人から賞賛を浴びていた頃にオーレンは目を覚ました。


 熟睡したからか激闘の興奮も治まってる。のんびり遅い朝食を食べていると、当初の目的がふと頭をよぎる。


「そうだった!ウォルトさんに付与魔法について訊くつもりだったんだ!」


 昼の巡回をやってくれると言ってた。探しに行こうと着替えて愛剣を手に取る。かなり酷使したからしっかり手入れをして眠ったけど大丈夫だろうか?


 家を出て辺りを見渡すと、子供達の楽しそうな声が聞こえてきた。声のする方へ歩を進めると、子供達と遊ぶウォルトさんの姿……いや、ウォルトさんかどうか判別できないほど子供にもみくちゃにされている者がいる。

 芝生に座っている人物は、子供達によじ登られて顔も見えない。獣人かどうかすら判別できない。

 けど、いつものローブが見えているのと、近くでアニカが悔しそうに服の裾を噛んでいるから間違いない。


「息ができないから、顔からはどいてくれないかな?」


 子供用の遊具と化しているウォルトさんはお願いしてる。


「やっ!モフモフきもちいいのっ!」

「うぉるとは、ちからもちだからだいじょうぶ!」

「うぉると、すき!」

「ありがとう。でも参ったなぁ…」


 顔の真正面からもしがみつかれて、ふがふが喋ってる。視界もゼロだろう。


「こらっ!お前ら!あんまりウォルトさんを困らせると親にいいつけるぞ!」

「うわぁ~!おーれんがきた!にげろ~!!」


 蜘蛛の子を散らすように走り去る子供達。


「人を化け物みたいに……。…まて。もしかして嫌われてる…のか?」

「オーレン。助かったよ。子供は可愛いけど勢いと体力が凄いね」


 立ち竦んでいると感謝の言葉をかけられた。


「ウォルトさん。昨日はありがとうございました」

「昨日?なんのこと?」

「昨日はちゃんとお礼言えなかったんで。貴重な経験をさせてもらいました」


 離れて悔しがってたアニカも近づいてくる。


「私なんか今回も命を救ってもらって…感謝しかないです。ありがとうございました!」

「大袈裟だよ。それより、グリーズベアは強かったろう?」


 揃って頷く。


「あんな強い魔物、この村に現れたことなかったんですけど」

「ムーンリングベアすら出たことなかったよね」

「ボクもグリーズベアを地上で見たのは初めてだよ」

「「どういうことですか?」」


 ウォルトさん曰く「ダンジョンの下層でしか遭遇したことはない」らしい。


「なるほど…。確かにあんな奴が上層で出現したら、初級冒険者にとっては死神に遭遇したのと同じです」

「致死率激高だね!」

「だから、この近辺のダンジョンで異変が起きてるんじゃないかと思う。理由はわからないけど」

「やっぱり、村長が言ってた場所が怪しいな…。行ってみるしかない」

「そうだね!体力が戻ったら行ってみよう!」

「ボクも一緒に行ってもいいかな?」

「「いいんですか?!」」


 ウォルトさんは耳をパタンと閉じた。声が大きすぎたか。


「ボクは2人を手伝いたくて来たから、できれば一緒に行きたいんだ」

「ウォルトさんが来てくれるなら俺達はすごく助かります!」

「よろしくお願いします!」

「うん。じゃあ予定を考えようか」


 話し合った結果、2日後の朝に出発することに決めた。そうなると、ダンジョンに向かう前にやっておくことがある。


「あっ、そうだ!俺の付与魔法について訊こうと思ってたんです」

「付与魔法?昨日見たけどかなり上達してたね」

「私も『夜目』が使えるようになりました!」


 ハイ!ハイ!と挙手してアピールしてくる。ウザいな…。


「そうなんだね。アニカは凄い」

「えへへ…」


 見たこともないだらしない顔。


「張り合うなよ。話が進まないだろ。なかなか効果が持続しなくて。修練が足りないんでしょうか?それとも才能の問題なのか…」

「付与魔法を見せてもらっていいかな?」


 剣に魔法を付与する。全力でも効果は保って数十秒。


「毎日修練してるんですけど、効果が延びなくて悩んでます」

「ゴメン…。ボクのせいだ」

「どういうことですか?」

「オーレンに教えた付与魔法では、基本的にその時間が限界なんだ。こんなに早く習得するとわかってたら次の段階の魔法も教えてたのに」

「ウォルトさんの予想を上回れるなんて嬉しいです。頑張ってよかった」

「オーレンは凄いよ」


 褒められた俺の隣でアニカは服の裾を噛んで悔しがる。

 

 …と、ウォルトさんから提案が。


「じゃあ、次の付与魔法を教えようか。時間も延びるし剣もより強化される。今からは…ちょっとキツいかな?」

「いえ!今からで大丈夫です!お願いします!」


 アニカにドヤ顔を見せつけてやった。夜通しポコポコ殴られたんだ。少々の嫌みで罰は当たらないだろう。空耳のようにアニカの歯ぎしりが聞こえた気がした。


 でも、ウォルトさんの話にはまだ続きがあった。


「アニカにも魔法を教えたいんだけど、どうかな?」

「えっ!いいんですか?!」

「昨日の闘いを見て必要かもしれないと思った魔法があるんだ。『捕縛』か『拘束』がいいと思うんだけど」

「どんな魔法ですか?」

「相手を動けなくして自由を奪う魔法だよ。逃げる時間を稼いだり、その隙に剣に付与したりもできる」

「どっちも覚えたいです!」


 アニカは俺を見て黒い笑顔を見せた。悪寒が走り嫌な汗をかく。


 コイツ…。俺に使うつもりなんじゃ…。そうはさせるか!


「ウォルトさん!俺達にそんな魔法はまだ早いです!まずは相手がどんな魔物でも対応できるように自分の腕を磨かないとダメなんです!」


 訴えを聞いたウォルトさんは感動したような表情を浮かべた。


「オーレンは向上心の塊だね…。じゃあ、魔法を教えるのはまたの機会に…」

「私はそうは思いません!どんな魔法でも覚えておいて損はないんです。そのうえで使わなければいい。万が一のことを考えると習得しておくべきです!」


 対抗するようにまくしたてたアニカの言葉にも納得の表情を浮かべる。


「確かにその通りだね…。万が一のとき使えるのとそうでないのでは命に関わる。しかも、使えるのに制限して普段は使わないなんて…。アニカも凄い」


 うんうんと頷く白猫師匠。だが、退くワケにはいかない!


「いや!俺達はまだEランク冒険者だ!便利な魔法を覚えると直ぐに甘えが出てしまう。極限まで自分を律しないと上は目指せない!」


 力説を聞いても、余裕の笑みを浮かべたアニカが反論する。


「冒険は命あっての物種!私達は誰より知ってる!オーレンが言ってるのは精神論だよ!まだ未熟な冒険者だからこそ生き残るためには様々な技能が必須!」

「「ぐぬぬぬぬぬぬ!」」 


 近距離で睨み合う。なんて面倒くさい奴だ…!


『2人とも熱いニャ~』とか言いそうに、のほほんとしていたウォルトさんが結論を出す。


「意見は違ってもお互いのことを考えてるんだね。じゃあ、とりあえず『捕縛』だけ教えておくから使うかは2人で決めたらいいよ」

「そんなっ…!!」


 力が抜けて膝から崩れ落ちる。なんてこった…。地面に手をついて絶望していると、アニカは勝ち誇ったような表情。


「ちなみに、『捕縛』はオーレンの付与魔法の修練にも使えると思う。魔力を帯びた剣で斬れるから」

「ありがとうございます!!本当に助かります!!」


 シュタッと立ち上がりウォルトさんの手をギュッと握りしめて感謝を伝えた。命の恩人だ!


「じゃあ、早速修練してみようか」



 ★



 さすがというべきか、アニカは数時間の修練で微かに発現させるに至った。あとはいつものように繰り返し修練するだけ。

 オーレンも魔法に関してはまだ荒削りながら新たな付与魔法のコツをつかんだみたいで心配いらなそう。


「こんなに早く覚えるなんてさすがだね。あとは修練あるのみだよ」

「「はい!ありがとうございました!」」


 2人は本当に魔法の才能に恵まれてる。正直羨ましい。


「夜まで時間があるからゆっくり休んで。ボクはまだ巡回を続けるから」

「私も一緒に巡回していいですか?」

「いいけど、休まなくて大丈夫?」

「大丈夫です!ウォルトさんも夜になにか起こったら動くつもりなんですよね?」

「それはそうだけど、アニカ達は昨日の闘いで疲れてるよね?」

「ウォルトさんの『治癒』で、バッチリ回復してます!あとは気合いと若さでなんとかなります!」


 アニカは溌剌と動き回って元気一杯だとアピールしてくる。王都で出会ったテラさんの動きを思い出して、思わず笑みがこぼれた。


「わかった。じゃあ一緒に見回ろうか」

「はい!」


 その後、オーレンは家に戻りアニカと2人で村の中を見回っていると、どこに行っても村人が声をかけてくれる。


「ウォルト。あとでうちに寄っていけ。お茶くらい出すから」

「アンタの魔法は楽しくて見事だったよ。また見せておくれ」

「子供と遊んでくれてありがとよ。忙しいから助かるぜ」


 村の皆に丁寧に笑顔と言葉を返しながら、見回りを続ける。


「ウォルトさんは市民権…。いや、クローセの村民権を得ましたね!」

「大袈裟だよ。でも、クローセの人は優しくて、気のいい人ばかりだ。ボクのこともすんなり受け入れてくれて」

「そうなんです!ウォルトさんに来てほしかったんです!」

「来ることができてよかったよ。……人間は優しい…」

「なにか?」

「なんでもないよ」


 思わず心の声が漏れてしまった。アニカに気を使わせちゃいけない。


 晴れた空を見上げる。王都に行ったときも思った。人間は親切で基本的に優しい。獣人社会で蔑まれてきたボクには、それが嬉しくもあり……悲しくもある。


 ただ、少しでもこの村の力になりたいと思うんだ。当たり前のことをしているだけかもしれないけど、見ず知らずの変わった獣人を受け入れてくれた優しい村民達の力に。

読んで頂きありがとうございます。

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