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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
100/690

100 見守る白猫 

暇なら読んでみて下さい。


( ^-^)_旦~

 ウォルトが魔物の注意を引いている間に、オーレンの治療は終わった。


 指を握り込んだり、腕を回したりしても異常はない。アニカの治癒魔法も上達してるのを実感する。


「よし!イケる!」

「ウォルトさんに加勢しよう!」

「…というか、さっきから見てると俺達を待ってるっぽくないか?」

「闘わせたいってこと?」

「きっとそうだ」


 治療中の闘いを見ていて気付いた。ウォルトさんは明らかに闘いを引き延ばしてる。魔物は疲れて衰弱してるように見えるけど、ウォルトさんは動きも軽快で汗すらかいていない。

 単なる勘だけど、俺達にも闘ってもらいたがってると思った。ウォルトさんは無意味な行動をとらない人だから、倒せる魔物との戦闘を引き延ばす理由がそのくらいしか思いつかない。そんなウォルトさんの元に駆けつけて声をかける。


「ウォルトさん!俺達も闘えます!」

「任せて下さい!」

「待ってたよ。この魔物と闘う機会は滅多にないからいい経験になると思うんだ。君達は初めて遭遇したんじゃないか」

「え!?コイツはムーンリングベアじゃないんですか?!」


 焦ってて気付かなかった。


 冷静になって目を凝らして見ると、確かに違う魔物。毛皮の色も違うし体躯が違いすぎる。ムーンリングベアより一回り大きい。


「この魔物はグリーズベア。簡単に言うとムーンリングベアの上位種なんだ」

「初めて聞きました。俺達でも闘えるでしょうか?」 


 正直不安しかない。さっきも一撃で吹き飛ばされたんだ。


「オーレンとアニカなら大丈夫。もし危なくなったらボクが必ず助ける。なにも心配いらない」

 

 ウォルトさんが信じてくれる。それだけで……燃えてきた。


「よ~し、やるよ!」

「あぁ、やるぞ!!」

「2人だけだと心配なら共闘するけど」

「「大丈夫です!」」


 俄然やる気になった俺達はリベンジに闘志を燃やす。今の内に…と、集中して愛剣に付与魔法を施す。横目でウォルトさんが見てる。


「もうそこまで付与魔法を使えるようになってるなんて…驚いたよ」

「効果は短いけど使えるようになりました」

「あとは…いや、話はあとにしよう。…来るよ」 


 ウォルトさんがスッと後ろに下がって、入れ替わるように俺達が前に出た。再び気合いを入れる。


「行くぞ!」

「行くよ!」


 一直線に駆け出して、渾身の袈裟斬りを繰り出す。


「オラァッ!!」

「グォォォォッ!!」


 強化した斬撃が魔物の胸の部分、硬い皮膚を切り裂いた。傷は浅いけど確実にダメージを与えてる。


「食らえ!『火炎』」


 すかさず、アニカが放った炎が魔物を襲う。動きが鈍っているからか避けきれず左半身に火がついた。


「グァァァォ!!グォォ!」


 毛皮の焼ける匂いが充満する。暴れて火を消すと予想した俺達は隙を狙って身構えた。


「ガァルァァッ!!」


 魔物は焼けることも構わないとばかりに、攻撃を仕掛けてくる。燃え盛る左前足を振り回してきた。


「ムーンリングベアみたいに火を消さないのか!?」

「魔法はあまり効いてないみたい!」

「皮膚が異様に硬いし、熱や氷に強いのかもしれない!」

「魔法耐性も高いかも!もうちょっと試さないとわからないけど!」



 会話を聞いているウォルトは2人の観察眼に感心していた。


 グリーズベアは皮膚が打撃と魔法の両方に耐えるほど硬くて、魔法でも深いダメージを与えるのは難しい。何度か闘った経験から知っていたけどあえて教えなかった。

 予想通り冷静に様々な可能性を探っている。学ぶことが彼らを強くして冒険者としてもっと成長するはず。



 その後、魔物が衰弱しているのか、動きに目が慣れてきたのか防御に余裕ができる。

 俺達の攻撃は、致命傷は与えなくても少しずつダメージを与えてる。一撃で倒せるなんて思ってない。蓄積させることは大事。


 絶えず動きを観察して気付いた。魔物は確実に弱ってるけど俺達にはトドメを刺す手段がない。このままでは持久戦でしか倒すことができそうにないけど、俺達の体力と魔力が先に限界を迎えるだろう。


 目をやるとウォルトさんは後方でいつでも動けるように身構えてくれてる。


「なぁ、アニカ」

「なに?」

「ウォルトさんは俺達が勝てると思って任せてくれたんだよな?」

「間違いない!なにも言わないけど、きっと私達が勝てると信じてくれてる!」


 やっぱりそうだよな。ウォルトさんに教わるときはいつも無駄がない。全てに意味があり意図があることを俺達は知ってる。今回もきっとそうだ。俺達はこの魔物を倒せる武器を持ってる。ただ気付いてないだけ。


 考えを巡らせた末、1つの結論に辿り着く。


「イケるかもしれない…。アニカ、悪いけどちょっとだけ頑張ってくれるか?」

「どんな作戦?」


 作戦を耳打ちされたアニカは頷いて魔物に向かい合う。『身体強化』を纏って、悠然と駆け出した。


「かかってこい!」


 アニカは魔法でなく近接戦闘で魔物に挑む。


 力で敵わないのは当然。打撃を当てては離れるを繰り返してスピードで魔物を翻弄してくれてる。


「グルルァ!グルァ!」

「あっぶない!このっ…!」


 かなり弱っているとはいえ、一撃でも食らえば致命的という重圧の中、アニカは息を切らしながら必死に攻撃を続ける。その隙にありったけの魔力を込めて再度剣に付与を施した。


「アニカ!もういいぞ!」

「あとは…頼んだ…!」

「任せろ!」


 アニカはフラつきながら跳んで魔物から距離をとった。そこへ俺が正面から突っ込む。魔物も多量の出血と長時間の戦闘でかなり衰弱してる。この一撃で…勝負を決めてやる!


「オラァァァァッ!!」


 疾走しながら間合いに入り、大きく上段に振りかぶって渾身の斬撃を繰り出した。魔物は残された左前足で受け止めようとする。


 …だよな。ここまでは予想通り。


 振り下ろした剣を前足に当たる直前でビタッ!と止めると、胸元で構え直す。


「コレで……どうだぁぁっ!!」


 構え直した剣をガラ空きの魔物の胸元……最初に斬った傷に深々と突き刺した。


「オラァァッ!!」

「ガァァァァァ!!」


 歯を食いしばり全身の力を使って剣を押し込むと、少しずつ深く刺さっていく。筋肉に阻まれているのかとにかく硬い。


 けど…負けねぇっ!!


 以前ムーンリングベアを倒した話をウォルトさんに伝えたとき、急所である心臓の位置を教えてくれた。この魔物も、同じ箇所にあるか知らないけど、全力で突き刺してみる価値はある。

 だから、付与魔法も剣先に集中して付与した。魔力が残り少なかったのもあるけど、突きに特化させるタメにあえてそうした。


「うぉぉらぁぁ~!とどけぇ~~!!」

「ガルァッ!!グルァッ!ガァァォ!」


 暴れるように苦しむ魔物と少しずつ突き刺さる剣。心臓まであと少しかもしれない。けど、もしかすると場所が違うかもしれない。


 とにかく…やってみる!ダメなら次だっ!


「くぅっ…!」


 そう思いながら、もう体力の限界が近い。心が折れそうになって諦めかけた時、背後から声が聞こえた。


「オーレン!男のくせにだらしないぞっ!!私の頑張りを無駄にする気?!」


 ふらふらのアニカが走って背後からぶつかってくる。そして、剣に手を添えると力を込めてグッと押し込む。


「1人でダメなら2人でいくよ!」

「……そうだな、オラァァ!」

「ガァッ!ガァァッ!!ガッ……」


 剣を押し込む手応えが軽くなると同時に魔物は口から血を吐いて仰向けに倒れた。しばらく警戒したけどピクリとも動かない。息を荒げながら、アニカと顔を見合わせて喜びを爆発させる。


「よっしゃあ~!!倒したぞぉぉっ!!」

「やったぁ~!!よかったぁ~!!」



 ★



 闘いを後ろで見守っていたウォルトは、目頭が熱くなって泣きそうになる。


 ボクを師匠だと言ってくれたこともあるけど、そんなこと思ったこともない。でも、2人の成長を見ていると胸が熱くなる。自分のこと以上に嬉しい。この気持ちはなんだ?


「ウォルトさん!なんとか勝てました!ありがとうございました」


 気付けば、2人が目の前に立っていた。息を切らし、血で汚れて土にまみれたまま最高の笑顔を見せている。自分達で突破口を切り開いて、勇気を持って格上の魔物を倒しきった。本当に凄い冒険者。


「ボクはなにもしてないよ…」

「なに言ってるんですか!回復してもらって弱らせてもらったから倒せたことがわからないほど私達はバカじゃないです!」

「今日はなんとか倒せました。けど、殺されかけたんだから威張れることはないです!助けてくれて本当にありがとうございました!」


 汗だくで満面の笑み。笑顔を見ていると、また泣きそうになって思わず後ろを向いてしまった。


「どうしたんですか?」

「ウォルトさん?」


 正面に回り込もうとする2人に顔を見られないようクルクル回って完璧にブロックした。



 気持ちが落ち着いてからアニカに謝罪する。


「この間、ボクを探してくれたんだね。なにも言わずにフクーベを出て行ったから。ゴメンね」

「いえ!こうして会えたのでまったく問題ないです♪」


 優しく見下ろすウォルトと、乙女のような熱っぽい視線で見上げるアニカ。そんな光景にオーレンは胸焼けのような感覚を覚えたとか…。



 家の中から見守ってくれてた村人達が外に出て集まってくる。見たこともない巨大な魔物の亡骸に感嘆の声が漏れた。


「まもの、おっきぃ~!」

「こんな魔物見たこともねぇ…。バケモンだ」

「こんな魔物を倒しちまうんだから、冒険者ってのは大したもんだ!」

「今夜は熊鍋だな」


 村人達はアニカ達を労うように声をかけた。


「お前らはホントに冒険者なんだな。格好よすぎて痺れたぞ」

「危うく村がなくなるとこだった。ありがとうな」


 和気藹々とした様子を離れたところで眺めていると、1人の女性が近付いてきた。


「獣人さん。初めまして」

「初めまして。ウォルトといいます」

「ウォルト君だね。覚えた。アタシはアニカの母親のウィーだよ」

「ウィーさんですね。ボクも覚えました」


 人間の顔の造形はボクには見分け辛い。でも、ウィーさんの容姿はアニカに似てる。それに…言うと気味悪がられるから口には出さないけど匂いも似てる。


「アニカを助けてくれてありがとね。全員無事でよかった」

「一応彼女の友人なので、当たり前のことをしただけです」


 ウィーさんは、プッ!と吹き出す。


「友人に一応もクソもないよ!とにかく、ありがと。あと、暇なとき家に来てよ!もてなすから!」

「わかりました。お邪魔します」


 テテテッ!とアニカが走ってきた。


「お母さん!ウォルトさんとなに話してたの?」

「アンタを助けてもらったお礼と、暇なときに家に寄ってもらおうと思ってさ」

「えっ!ウォルトさん、家に来てくれるんですか?!」

「お邪魔しようと思ってるよ」

「やったぁ!じゃあ、お母さんは料理しないでね!ウォルトさんにお願いしたいから!」

「アンタはなにを寝ぼけたこと言ってんの…?」


 嬉しいし、頑張ったアニカの希望に応えてあげたいな。


「よければ料理はボクが作りましょうか?」

「へ?」

「いいんですか!?お願いしまっす!」

「おい…我が娘よ…。アンタは正気か?恩人のお客さんに料理させるバカがどこにいるのよ」

「お母さんの言いたいことはよぉ~くわかる!けど、騙されたと思って料理はしないで!お願い!」


 両手を合わせてお願いされたウィーさんは、アニカに呆れたような表情。


「意味がわからん…。まぁ、ウォルト君がいいならいいけど」

「ありがとうございます」


 楽しみだなぁ。まさか見知らぬ土地で料理を作って食べてもらえるなんて。

 読んで頂きありがとうございます。


 元々、暇なときに『小説家になろう』を読んで楽しんでいた自分が、同じように『他の方の暇つぶしになれば』と、書き始めた話も細々と100話まで到達することができました。


 小説と呼べるモノか解りませんが、暇つぶしに少しでも楽しんでいただけると幸いです。


( ^-^)_旦~

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