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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
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10 夢と現実

暇なら読んでみて下さい。


( ^-^)_旦~

 薬の調合を学んだ次の日。オーレンの傷の回復具合を確認することになった。


 私と同様の説明を受けたオーレンは、「傷は冒険者の勲章ですから!男ですし気にしません!」なんて、格好つけて平静を装ってるけど……本音は違う。


「ウォルトさん…。オーレンは軟派だから傷痕で箔を付けようとしてるんです!女の子に「魔物と闘ったときの傷なんだぜ!凄いだろ!」とか偉そうにほざいてる姿が目に浮かびます!」

「そんなことのタメに傷付けるワケないだろ!ふざけんなよ!ウォルトさん!違いますからね!」


 私達にとっては日常茶飯事の下らないやりとりでウォルトさんは笑ってくれる。


「じゃあ包帯を外すよ」

「お願いします!」

 

 ゆっくり包帯が解かれていく。露わになっていく自分の肌を見たオーレンは驚きを隠せない表情。


「完全に治ってる!?」


 アホ面のオーレンを見ながらうんうんと頷く。気持ちはよくわかる。実は私も同じくらい驚いてるから。

 なぜなら、オーレンの方が傷も深くて重症だった。本当に不思議だ。おかしいと言っていいほどの回復具合。


「傷はもう大丈夫だね。アニカと同じで微かに傷痕が残ってしまったけど…」


 治療してくれて、傷痕まで気にしてくれる優しい猫人ウォルトさん。でも、気にしないでほしい。


「オーレンはもっと傷があるくらいで丁度いいです!むしろ治りすぎてるくらいです!」

「なんでお前が答えるんだよ!」

「うるさいなぁ…。男のくせに」

「男なのは関係ないだろ!」


 下らない言い争いができるくらい元気になった私達を見て、ウォルトさんはニャッ!と笑ってくれた。


 傷の回復具合を確認したあとは、薬の調合を練習する。内容は昨日と同様で真新しいことはない。基礎が大事だと聞いたから、まずはひたすらやる。

 繰り返し作ることでコツを掴んで自然と手際もよくなり、尋ねることなく作ることができるようになってきた。


「基礎はしっかり覚えてる。あとは、機会をみて自分達でとにかく作ること。作れば作るほど調合は上達するから」

「ありがとうございます!あとは自分達で勉強します。貴重な経験ができました」

「俺達はなんのお返しもできないのに、こんな技術を教えてもらってよかったんですか?」


 オーレンの言う通りで、薬の調合なんて普通教えてもらえない。素人の薬では商売できないけど、生業としている者からすれば売上が減って死活問題になるから。


「構わないよ。前にも言ったけど、ボクが考えたワケじゃないからね。あと、ボクはお人好しじゃないから教える相手は選ぶ。君達なら正しく知識を使ってくれると思ったんだ」


 ウォルトさんがその気になれば、薬師になって一儲けすることも可能じゃないかな。駆け出し冒険者の私達ですら理解できるくらい作る薬と調合技術は凄い。


 ウォルトさんに出会ってからずっと気になっていた疑問を口にする。


「なんで私達みたいな出会ったばかりの新人冒険者を信用してくれるんですか?」


 オーレンも同意見だったようで、隣で頷いてる。


「信用…とは少し違うかもしれないけど」


 そう告げたウォルトさんは、少しだけ思案したあと「ちょっと付いてきてくれるかい?」と席を立った。






 案内された場所は住み家の裏手。少し離れた森の中に幾つかの十字架が立てられているのが見えた。


「アレは…?」

「オーレンとアニカのように、ボクがこの森で出会った……冒険者達の墓なんだ」

「「冒険者の!?」」


 まさかの答えに驚いて固まる。一体どういうことなのか。


「彼らはボクが埋葬した」


 真剣な表情でウォルトさんが続ける。


「怪我を負っていて、治療したけど間に合わなかったり、発見したとき既に亡くなってた冒険者が眠ってる。名を挙げようと魔物に挑んだ者がほとんどだった。皆、君達のように若かったよ」

「この森であんなに…」


 十字架から目が離せない。オーレンも黙って見つめてる。


「ボクが埋葬したのは、森で倒れた冒険者や旅人の…ほんの一部だと思う。実際に亡くなってる人はもっと多いはず。獣や魔物に食われて人知れず土に還ってる冒険者もいるだろうね」


 私達は、決して自ら強大な魔物に挑んだワケじゃない。けれど、一歩間違えるとああなっていたのかと思ってゾッとする。


「冒険者はいつだって死と隣り合わせだよね?」

「はい」

「俺達は身に染みて感じました」


 2人揃って無事だったことや、美味しい料理を食べて元気を取り戻したことで恐怖が薄れてはいる。でも…魔物と対峙した恐怖の光景は鮮やかに脳裏に蘇る。


「彼らは、亡くなる直前まで後悔してたんだ」

「なにをですか?」

「冒険者になったことを」


 私とオーレンは固まってしまう。


「『冒険者になんてならなければよかった』『甘く考えてた』『まだ死にたくない』って後悔してた。最初は夢や希望に満ち溢れていたはずなのに」


 ウォルトさんはゆっくり遠くを見る。眼前に広がる空のように碧い瞳で。


「助かった冒険者もいるんだ。皆、冒険者をやめると言っていた。静かに暮らすと。後遺症が残った人もいたし当然だと思う。でも……君達は違った」


 私達に向き直って優しい眼差しを向けた。


「自分達より遥かに強い魔物に遭遇しても勇敢に闘って、命を落としかねないほど恐ろしい目に遭ったのに、夢だった冒険者に戻ると言ったね。ボクは君達のような若者に初めて会った。深い理由なんかなくて、ただ応援したくなったんだ」


 返す言葉が出ない。そんなことを思っていてくれたなんて…。


「この先、君達の冒険になにが待ち受けているかわからない。知識を少しでも役立ててくれたら嬉しいよ」

「…ありがとうございます」


 胸がいっぱいになって、それだけしか答えられなかった。

読んで頂きありがとうございます。

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