1 若き冒険者
暇なら読んでみて下さい。
( ^-^)_旦~
薄暗い森の中を、男女二人の冒険者が肩を組むようにして歩いている。
足取りは重く、歩いているというより、足を引きずりながら進んでいると言ったほうが正しいかもしれない。
装備している武器と防具は、使い物にならないほどボロボロに傷んで、身体中が土に塗れている。
赤く染まった包帯が巻かれたさまは痛々しく、まさに満身創痍といった様子。
早く…。 なんとか街に戻らないと…。
傷付いた若い男性冒険者オーレンは回想する。
★
オーレンと、幼馴染みである少女アニカは駆け出しの冒険者。
幼い頃から冒険者に憧れ、数ヶ月前にアニカが15歳を迎え、成人の儀を終えたのを期に、田舎の村を離れて街に移り住んだばかり。オーレンはアニカより1つ年上の16歳。今年で17になる。
今日は所属したてのギルドで、パーティーを組んでから初めてのクエストを受注し、意気揚々とクエストに挑んでいた。
冒険者の最下級であるFランクの二人が受注したクエストの内容は、『規定量の薬草採取』で、危険度も低く冒険者であれば誰しも一度は通る道。
時間をかけて根気よく取り組みさえすれば、難なく達成できるクエスト…のはずだった。
「オーレン。そっちはどう?沢山生えてる?」
「う~ん…。あんまり生えてないな。もっと奥の方に行ってみるか?」
「ダメだよ!あまり森の奥に入り込むと危ないってギルドで言われたでしょ!」
「そうだな。ゆっくりでいいからココで確実に採ろう」
「そうしよう!」
元来、真面目な気質の俺達は、ギルドの受付で確認した注意事項を忠実に守って、手渡された地図に記されている森の中でも比較的安全かつ視界の開けたエリアで薬草を採取している。
ギルドの説明によると、この森は奥に行くほど強力な魔物が棲息しているらしく、万が一遭遇してしまった場合、新人冒険者の自分達では対処できないことを充分理解しているからだ。
エリアに点在する薬草を黙々と採取し続けて、多少時間がかかったもののノルマの達成量を確保できた。
「よし。こんなもんで足りるか」
「やっと終わったぁ~!疲れたぁ~!」
「記念すべき初めてのクエスト達成だな」
「甘い!ギルドに持ち込むまでがクエストだよ!油断は禁物!」
疲れも見せず、元気溌剌なアニカに咎められる。俺達はいつもこんな調子だ。
アニカは年下だけど、幼い頃から行動力と勢いだけは俺より上。周りからは、活発でいつも元気な妹と振り回されつつバランスを取る兄といった組み合わせに見えるらしい。
ちょっと生意気だけど、長く付き合っていると気にならないし、基本的には素直な妹分。
「確かにな。アニカに言われると、微妙に納得できないけど」
「どういう意味よ…?」
笑い合って他愛ない会話をする。そんな中、アニカが確認してくる。
「そういえば、お腹空いてない?」
「言われてみればそうだな。採取に熱中して、すっかり忘れてた。飯はここで食って帰ろう」
クエストに熱中し過ぎて食事を後回しにしていたことを思い出した。街に戻る前に休憩を兼ねて軽く食事しようと、少しだけ奥に入り込んだ木陰へと移動した。今日は天気がよくて陽射しが強い。ちょっとでも涼しい場所で食べよう。
食事と言ってもクエストを受けたあとに露店で買っておいたパン。駆け出し冒険者にはパンでも上等だ。
「もうカッチカチだね!」
「露店のパンなんてそんなもんだろ。味はいいかもしれないけどな」
「確かにね!今日は肉もあるから豪勢!」
アニカの言う通り、クエスト中に偶然近くに生息しているのを見かけたので、あわよくばと括り罠を仕掛けてみたら、運良く獲れたのはターキー鳥。この鳥は焼いてよし、煮てよしの憎いやつ。どう調理しても美味しい。
「今日はどう調理するか…」
「串焼きでいいよ!早くできるし!」
「相変わらず食いしん坊だな。けど、腹減ったしそうするか」
「一言多いんだよ!」
今日は串焼きで食べることにした。田舎育ちなので捌いたりするのにも抵抗はない。
ナイフを使って鳥を捌くと、幾つかの部位に切り分け、拾った木の枝を削って作った串に刺していく。
下拵えを終えたら集めた枯れ木に火を起こして焼き始める。肉の焼ける匂いは俺達の食欲を大いに刺激した。
「あぁ~!早く食べたい!まだかなぁ~!」
アニカは待ちきれないといった様子で、ウロウロしてる。身体は小さいくせに、昔から食べることに貪欲で、油断すると俺の分も食べられてしまうほど。
「まだ焼けてない。薬草は沢山採れたけど、食いしん坊の腹痛には使いたくないし、もう少し待ってろ」
「わかってるよ!言ってみただけじゃん!食いしん坊じゃないし!」
全力で否定してるけど、長い付き合いなのに知らないワケがない。まぁ、年頃だからな…と苦笑しながら焦げないよう肉を移動させる。
アニカは納得いかないようで、まだ頬を膨らませて否定していた。面倒くさい妹分だ。とりあえず謝っとくか。
そう思ってアニカに視線を向けると、視線の先に動く何かを捉えた。なにか大きな塊のような…。目を細めてそれがなんなのか確認する。
あれはなんだ…?動物…?いや、違う!!
「アニカ!後ろだっ!!逃げろっ!!」
正体に気付いて叫ぶと同時に、腰に差していた剣を抜いてアニカの方へと駆け出した。
声に驚いたアニカが振り向くと、大型の熊のような風体の魔物が息を荒くして突進してくる。
「あ……あ…」
突然の出来事に頭の処理が追いつかないのかアニカは動かない。俺は全速力で疾走した。
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