恩返しにやってきた鶴が変な物を織っているんだが
むかしむかし、ある男が山へと向かうと、罠に鶴が掛かっておりました。
「おお、可哀想に。今助けてやるからな」
男は罠を外し、鶴を助けてやりました。鶴はあっという間に飛び立ち、遠い空の向こうへと行ってしまいました。
それからしばらくして、男の家に若い女が訪ねて来ました。
「親が死に、働き口を探しております。どうかココで働かせて下さいませんか?」
必死に申し出る女に、男は断り切れず、僅かな給金しか払えぬにもかかわらず、女は鶴子と名乗り、働けることをたいそう喜びました。
「それでは……」
鶴子が隣の部屋へと入り、何やら始めました。
──バタン
──バタン
何やら機を織る音が鳴り、襖が開くとそこには裸にエプロンを着けた鶴子がおりました。
「あなた、お帰りなさい♪ ご飯にする? お風呂にします? そ・れ・と・も……♡」
鶴子が腰を少し曲げ、上目遣いで男を見ると、男はたまらず笑いながら目を背けました。
「なんだいそれは?」
「だって人間界ではそうやって働くと、おっかあから生前教わりました故……」
「そうか。しかしいいんだ。寒いから服を着ると良い……」
男は、鶴子の母にもいたたまれぬ事情があったに違いないと、深く考えない事にしました。鶴子は服を着ると、お風呂の支度を始めました。
「お風呂が沸きました」
「そうか。ありがとう」
筵を編んでいた手を止め、男は風呂場へと向かいました。
「うむ、いい加減だ」
男は湯を浴びて幸せを感じました。しかし風呂の外では機を織る音が何度か聞こえました。
──ガラッ
「お背中御流し致します……」
「──!?」
男が振り返ると、そこには大きなバスタオルを体に巻いた鶴子がおりました。
「ま、待て待てマテラテ!」
「如何なされましたか?」
「そこまでしなくても良いぞ自分で出来る!」
「しかし、人間界ではこうすると、おっかあから生前聞きました故……」
「そ、そうか……」
男はそれを聞いて、なにやら止ん事無き事情があったに違いないと、深く考えない事にしました。
お風呂から上がると、鶴子が食事を作ってくれました。
「山で採れた野菜の煮物になります」
久々に誰かの手料理を食べた男は、とても幸せな気持ちになりました。
「よし、寝ようか」
「少しお待ちを。直ぐに支度致します」
そう言って鶴子は奥の部屋へと入っていきました。
──バタンバタン
──バタンバタン
中から機を織る音が鳴りました。
「お待たせ致しました」
「──!?」
敷かれた布団を見て男は驚きました。それはなんとハートマークの怪しいピンク色をした布団だったのです!
「な、なんだこれは!?」
「えっ? 人間界ではこのような夜具を使うと、おっかあから生前教わりました故……」
「…………」
男が言葉を失っていると、鶴子は部屋の隅で何やら着替えをし始めました。そしてナース服で男の前に現れたのです!
「な、なんだその奇妙な出で立ちは!?」
「殿方と夜を共にする時はこの服を着よと、おっかあから生前教わりました故……」
「…………」
男の頭の中に否応なくパレードが鳴り響きます。ここまで来れば男も引くに引けず、つばを飲み、覚悟を決めました。
「では……」
鶴子が先に怪しいピンク色の布団へと入りました。男がこっそりマムシドリンクを飲み、そーっと布団の中へと潜り込みます。
「Zzz……Zzz……」
しかし鶴子は布団の中で丸まって寝ておりました。
「そこは教えてないんかーーーーい!!!!」
男の叫びが辺り一面に響き渡りましたとさ。